144、コンサート全国ツアー最終日の後 1993年 大学2年生
コンサートが終わりマネージャーと共に東京ドーム1階の関係者出入口から外に出る。
「きゃあ~みかんちゃんよ~。」
「みかんちゃん~。」
「愛してるよ~。」
来場者の僕の出待ちの方々から一斉に声をかけられる。
前世の一般人としてならこの様な行いは有名人に出待ちしていたら逢えるかもしれない。
あわよくばサインを貰いたい。等思っていた様な気がする。
現に歌手とは違うが、プロ野球観戦した時に選手を乗せた送迎バスを見る事が出来た時は嬉しかった記憶がある。
だが、現世ではコンサートも終わりくたくたで、なおかつプライベートな時間を潰されたくないと思う様になった。
それでも笑顔を忘れない。僕はファンの方々に手を振り応えていた。
今はいいけど、将来は芸能界で生き残っているかわからない。
少しでもファンを繋ぎ止める為に笑顔を振りまいて送迎の車に乗り込んだ。
「ふ~、疲れた~。」
「今日もお疲れ様。」
「はい、ありがとうございます。」
僕は送迎の車内でくつろいでいた。
『ステージ上をあちこち行ったり来たりして歌唱して踊り疲れた・・・。もっと体力を付けなければいけないな・・・。』
今日は全国ツアーの最終日でいつもより張り切りすぎた。
結果として観客の方々には好評だったが、もっと頑張らなければいけない。
そう考えながら明日以降のスケジュールをマネージャーに聞いて帰宅の途についた。
「では三花ちゃん、おやすみなさい。」
「お疲れ様でした。おやすみなさい。」
自宅前で送迎車から降りてマネージャーと言葉を交わして家に入った。
≪雄蔵さん、大丈夫?≫
≪え?何がだい?≫
≪何か今日はいつもと違う様に感じるわよ?≫
≪え?そうかな?そういえば今日はいつもより余計に疲れた気がするよ。≫
≪体調がすぐれないなら先ほどにマネージャーに相談すれば良かったのに。≫
≪いや、単に運動不足かな?と思ったんだ。≫
≪でも倦怠感があるのでしょう?≫
≪うん、何か熱っぽい気がするな・・・。≫
≪それは大変。早く体温計で熱を測りましょう。≫
≪うん、さっきまではなんとか元気な気がしていたけど、今はふらつき始めてきたよ。≫
≪それは大変。早く自室まで戻りましょう。≫
≪それは分かっているけど・・・、何か今日は自室までが長く感じるな・・・。≫
≪もうちょっとよ。頑張って。≫
なんとか自室のドアを開けて部屋に入り、荷物を置く。
そしてパジャマに着替える暇も無く僕はベッドに横たわった。
・
・
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チュン。チュン。チュン。
外で鳥の鳴く声が聴こえる。
僕は着替える間もなくベッドに横たわった記憶があるが、気が付くとパジャマに着替えられてベッドの布団の中で寝ていたらしい。
≪おはよう、雄蔵さん。目が覚めた?調子はどう?≫
≪おはよう・・・三花ちゃん。確か僕は着替えず仕舞いだった様な・・・・?≫
≪ええ、そうよ。夜中に私が何とかパジャマに着替えて布団に入って寝たのよ。≫
≪そうなんだ・・・。ありがとう。≫
≪どういたしまして。確かに体調がすぐれなかったわね。少しは良くなった様だったけど着替えるのがとても大変だったわよ。≫
≪気分は大丈夫だよ。流石20歳の身体、一晩寝たら治ったみたいだね。でも油断は出来ないけどね。≫
≪まだまだこれからと言う時期なのにな・・・。過労とストレスかな・・・?≫
≪そうかもしれないわね。雄蔵さんの前世の21世紀の頃と違い今の時代ではなまけと判断されるでしょうね。≫
≪まだまだ根性論の考え方の時代だった様な気がするね。≫
≪私達は芸能界デビューして15年程が経過したまだまだ中堅よ。休んだりしてはあっという間にテレビへの露出が減るわ。最悪芸能界引退のおそれも有るわね。≫
≪休みたくても休めないと言う社会、なんとか改めて行きたいね。≫
≪そうね。でも正論でも今はまだまだ時代に合わない考え方だから悪い印象を与えるでしょうね。≫
≪そうなんだよね。困ったもんだよね。≫
≪雄蔵さん、何とか元気そうね。良かったわ。≫
≪ありがとう、三花ちゃん。≫
≪この身体は貴方一人の物じゃないのよ。私も含まれているからね。≫
≪それは重々承知してるよ。≫
≪うん、わかればよろしい。≫
≪おおせのままに。≫
≪ふふふふ。≫
≪はははは。≫
≪雄蔵さん、もうすっかり元気の様ね。≫
≪三花ちゃん、心配かけてごめんね。≫
≪ううん、いいのよ。では今日も一日頑張ろうね。≫
≪うん、そうだね。頑張ろう!≫
『今日も一日頑張ろう!』
その想いを胸に秘めてベッドから起き上がり、洗面所に向かい顔を洗って寝起きの歯磨きをして自室に戻りパジャマから普段着に着替え朝食を食べにダイニングへと向かった。
の、前に朝シャンする事も忘れない。