139、酒とたばこ 1993年夏 大学2年生
お待たせいたしました。
1993年夏、親戚一同が僕の家に集まって夕食会をしている。
僕は無事20歳を迎えて飲酒や喫煙の出来る年齢になった。
この頃はまだタバコを吸うのは恰好良い。逆に吸えないと遅れていると言う時代だった事を思いだされた。
僕が黙食していたら、親戚の一人が寄ってきて、
「三花ちゃん、静かに食べてないで少しは話の輪に入ろうよ。どうだい、もう20歳になっただろう?
酒でも飲まないかい?」
「確かに飲酒出来る年齢になりましたが、遠慮させて頂きます。素面で食事の味を楽しみたいので。」
「つれないね~。じゃあお酌してくれないかい?三花ちゃんから注いでもらえるなんて大変光栄だと思ってるんだ。」
かなり酔いが回っている風に見える親戚に酒を手渡され、お酌を要求された。
「私はコンパニオンや給仕係ではないのですが・・・」
「そう固い事言わないの。三花ちゃんにお酌してもらう事が大事なんだよ。」
「おやおや、三花ちゃんにお酌してもらえるならおじさんも頼もうかな?」
隣で聞いていた親戚の1人がコップを僕の前に差し出してきた。
「俺が先に言い出したんだぞ。俺を先に頼む。」
最初に言い出した親戚が大声で言ったものだから、それぞれ話をしていた方々も僕がお酌をしてくれるらしいと勘違いして僕の方へやってきた。
「三花ちゃんおばさん嬉しいよ。あんなに小さかったのにこんなに大きくなったなんて。色々な意味でね。」
「おば様、かなり酔っていませんか?」
僕が心配して声をかけると、
「酔ってない。酔ってない。おばさん平気だよ。」
と、酔った人の特徴の一つである自分はまだ大丈夫と言うアピールをしてきた。
ちなみに僕は今はお茶を飲んでいて、アルコール類は一滴も飲んでいなかった。
たちまち僕の前にコップを持ってお酌を期待する親戚達が集まってきた。
皆出来上がっている様で、僕がお酌しない事にはらちが明かない状態になったので、
言い出しっぺのおじさんを筆頭に順番にお酌をした。
しばらくすると、タバコを何人も吸い出して辺りに煙が充満してきた。
この頃は分煙と言う考え方は無く、副流煙が充満してきて僕は慌てて、『しまったな~』と言う感情の元、換気扇を回したり、窓を開けた。
幸い今日は天候に恵まれていて雨模様ではなかったので良かった。
「三花ちゃん、どうしたんだい?そんなに慌てて窓を開けたり換気扇を回したりして。」
親戚の方が不思議な光景だと言わんばかりに質問してきた。
『どう答えたら良いかな・・・?まだこの時代は受動喫煙の危険性と言うのは認知されていなかったはず。』
僕は考えた。
「私が困るのです。仕事柄同業者の方々の喫煙が多いのですが煙を吸い込むと気分が悪くなり身体の調子が優れなくなるのです。」
僕はなんとかこの時代の人達に分かり易い様に語った。
「こんなにタバコが美味しいのにかい?」
「はい、吸った本人は美味しくても周りが煙たく思います。それにお洋服に匂いが染みついてしまいますからね。」
「それは悪かったね。」
何とか理解してもらえた様で僕はひとまず安心した。
それから夕食会が終わるまで何事も無く時が進んだ。