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リハビリ短編

神様の玩具が世界に蔓延しました!

作者: 白色野菜

リハビリ作品その2


誤字脱字など御座いましたらご報告お願い致します。

感想は作者のご飯です。

ダンジョン。

空想の世界にしかなかったそれが、世界に表れたきっかけは一つの玩具だった。


作成者不明、流通経路不明、解析不可のその玩具がこっそりとセールワゴンに、コンビニの棚に、中古品に混ざり始めたそのきっかけを明確に記憶している人間はいない。

いつの間にか、都市伝説のような噂話としてインターネットのあちらこちらにその玩具は発見報告がされるようになった。

『ダンジョンボックス』

最初は回収にやっきになった政府や宗教家が諦めるのにかかった期間はたった半年。

回収が諦められ資格が作られ一息ついてから30年後。

この玩具はすっかり世界になじみこんだ。






「どうもー。探検屋です、派遣されてきましたー。」

「………。」

『あぁ、はい。お待ちしてました。少しお待ちください。』

ブツリ、とノイズが切れる。

冷たい風が頬を撫でるのを感じながら、足元の排水溝に生えた苔をじっと見つめる。


「おまえな、もう少し愛想よく出来んのか。」

「無理。」

即答すると、頭上から舌打ちが返ってきた。

めったに着ないスーツのせいで喉元が苦しいのか、相方は苛立たしげにネクタイを緩めては締めなおしている。

神経質そうな眉の皺さえなければ、コスプレみたいで中々似合ってるとボクは思う。


「見ろよこの、高級住宅街にそびえる豪邸だぞ。C級の俺らじゃめったに回ってこない、上客だぞ上客。ここで愛想売って良いコネを掴むのが出来る探索者ってもんだろ。」

「問題児の俺ら、でしょ?」

「お前と一緒にすんな、お前と。」

かちゃりと、鍵が回る。

すると一瞬で貼り付けたような笑みが相方の顔に浮かぶ。

こういうところは、伊達に年食ってないと素直に思う。


「ぁ……こんにちは。」

そろりと顔をのぞかせたのはボクと同い年くらいの女の子だった。

学校帰りなのか、制服姿の高校生。たぶん、結構かわいい。

隣の男の鼻息が荒くなる。


「はじめまして、えっと依頼を受けてきたのだけれど。お家の人は居ます?」

ボロが早い。

対応がしっちゃかめっちゃかになっている相方をまっすぐ見つめて、女子高生は言った。


「あっ、依頼したのは私です。ここ、おじいちゃんの家で今はみんな出かけて、ます。」

「どうりで。」

家が立派な割りに、報酬額がしょっぱいのはだからか。

固まって役に立たなくなった、相方を家の中に蹴り入れながら扉をくぐる。

さ、お仕事しようか。








いつ見ても、不思議な光景だと思う。

分厚いカーテンで日光を遮られた部屋の中。

分厚い絨毯の上、淡く光る白い箱を中心に、魔方陣を描くようにケーブルとガラクタが地を這う。

箱の輝きに呼応するように、ケーブルもまた淡く光る。


「今は、何をされているんですか?」

客室のテーブルでPCを弄り始めた相方に、お茶を出し終わった依頼主がこっそりとボクに聞く。

まぁ、自分のおじいちゃんの部屋でいきなり黒魔術じみた事が始まったら聞くよね。


「箱の中身を見てるんだ。あれでも、相方は腕の良いシーカーだから。」

「しーかー……。」

依頼主が単語を口の中でつぶやく。

その様子をじっと見ていると、少し顔赤くして彼女は弁解する。

「そ、その。おじいちゃんが。ダンジョンボックス嫌いで。興味はあるんですけど、こう禁止されていて。」

「……ご老人には結構多いよ。そういう人。」

説明も、業務の一部なのかな?なんて思いながら説明を口にする。

「ダンジョンボックスって基本的に中に入らないと、何にもわからないんだ。難易度も大きさもルールもジャンルもお宝の種類も。命の危険の有無もね。」

「それは……すごく危ないですね。」

「うん、危ない。だから、本来は手に入れられない情報をどうにかこうにか手段を選ばず手に入れようと試行錯誤した結果が探索者シーカー……悪口言うときは、占い師フォーチュンテラーなんて呼ばれるけど。」

「占い師?」

「結果を聞けばわかるよ。」


ターンと、エンターキーの音が静かになった部屋に響く。

「よし、出たぞ!!」

画面に表示された文字列を相方が読み上げる。


「タイプは、探索。エデットで作られてるな。階層は1~5階。天候は晴れ、洞窟タイプ。ボスはドラゴン。」

「それぞれ確立は?」

「80、60、30、80、80、40。エデットならヒントくらいありそうなもんだが、相変わらずの鉄壁っぷりだな。」

「確立……?」

「シーカーはね。おおよその値でおおむねこんなもんだって言う予想しかたてらんないんだよ。当たるも当たらぬも八卦ってやつ。それぞれ技術だのデータを抱え込むから当たる人はすごい当たるけど、外れる人はめちゃくちゃ外すんだよね。売れるのもあっという間で、落ちぶれるのもあっという間ってこと。」

あぁ、ちなみにC級の中でもかなりの落ちぶれっぷりだよ、ボクの相方。

なんて、軽口を叩くとぺちんっと頭に衝撃がくる。


「おまえなぁ?!」

「貧弱め……そんじゃ、行ってくるね。」

「ナビは?」

「つけた、つけた。」

「詳細データは、送っとくからな。」

ソファーから立ち上がって、白い箱を拾い上げる。

真っ白なルービックキューブみたいな見た目のそれを手の中で弄びながら、一言つぶやく。


「ダンジョンボックス、オープン。」

カチリ、と鍵が開く音

もう、慣れた白い光が視界を覆う。






「え?」

自分の口から気が抜けた声が響く。

それを追うように、支え手の無くなったダンジョンボックスが絨毯に転がった。

右を見ても、左を見ても、何処にも飛鳥君は居ない。


「あー、もしかして見たこと無い?」

「あの、あの?!消えちゃって、飛鳥君消えて?!!」

「ダンジョンに移動しただけだから。」

「あ?え?そうなんですか?」

慣れた様子のシーカーの榊原さんの様子に、安心と驚きが頭の中をぐちゃぐちゃにしていく。

結構ぬるくなったお茶とソファーを勧められて、ようやく息を吐く。


『ねぇ、聞こえてる。』

PCから飛鳥君の声が、響く。

「あーうん。良好良好、おい、カメラついてないぞ。」

『あれ?スイッチどこだっけ。』

「右太ももあたり。」

『これ、か。』

映像が、空中に開かれる。

飛鳥君の手が画面の隅に写っては消える。


「うんうん、受信感度も良好。これなら追加解析も捗るな。」

「……この映像が、ダンジョンの中なんですか?」

『うん。一体どこが洞窟タイプなんだか。このへっぽこテーラーめ。』

「おじいちゃん家?」

思わず窓の外を見ても、飛鳥君の姿は無い。

玄関に立ってるなら見えないわけないし……じゃぁ、やっぱりこれがダンジョン?


『屋根なんかが微妙に荒い感じ。これ、自動作成じゃないね。』

「自動作成で自宅を引く確立なんてどんだけ低いと思ってんだ。」

『無くは無いって。無くは……進入するよ。』

「おうよ、動体反応は無し。探索タイプは当たりか。」

『それなら、ドラゴンタイプは大外れだね。』

「それはまだ分からんだろ。」

ぽんぽんとやり取りをしながら、飛鳥君はダンジョンの中に入っていきました。


「いつも、こんな感じなんですか?」

「こんな感じって?」

「いえ、もっと緊張感とか、緊迫感とか…………。」

「それは、ダンジョンのタイプによるさ。今回のはまぁ、身内向けっぽいからな。死ぬ確率は低いし。」

「身内向け??」

「……まぁ、まぁ。たからもの見りゃわかるだろ」

言葉が詰まって、私が何も言わないでいると榊原さんが、お茶を飲みながら続けます。


「そもそも、佐倉ちゃんはたからものが何なのか知ってるのか?」

「…………いいえ。あの箱はおじいちゃんの荷物を整理してたら、出てきて。」

「…………失礼かもしれないが、あー、もしかして、お祖父様はご在命でしょうか?」

「あっ、生きてます生きてます!ちょっと、腰をやったみたいで折角なので検査入院することになって……着替えを纏めた時に見つけたんです!」

慌てて言うと、榊原さんがほっと息をつく。


「それなら、勝手にダンジョンボックスを開けようとしたら怒られるんじゃないか?……一応、所有者の許可がいると依頼の同意書に書いてあったと思うんだが。」

「それは大丈夫だと思います。このダンジョンボックスは、元々私の7才の誕生日プレゼントみたいですし。」

榊原さんが、なにか言いかけるように口を開いて。

声が空気を震わせる前に、PCがスピーカーを震わせる。


『……ねぇ、進めなくなったんだけど。』

「キーアイテムの見逃しか、暗号が解けてないのか?しゃーねーなぁ。俺のヒントの出番か?」

『一応見てみて。』

「………………あ?キーアイテムのデータが無いな。フラグ管理を見ても、設定されて無い、のか?いや、設定されてないと挑戦も出来ない筈だしな。」

カタカタと、キーボードが叩く音が響く。


「……………………あー。ダメだな、データにロックかかってる。こりゃ、一度作成したあと、壁の中にでも落としたか?まぁ、本人に設定し直してもらって……。」

『じゃぁ、壊すよ。』

「おい、ま………………やりやがったな。」

いきなり映像がブチりと、切れた。

榊原さんが重い溜め息を吐いて、PCの電源を落とす。


「あ、飛鳥君は大丈夫なんですか?」

「あー、へいきへいき。死んでも死なないから。……結局、ぐだぐだじゃないか。JKの前でくらいビシッと決めさせろよ。」

ぶつぶつと文句を言いながら、あっという間にトランクの中に広げていた機材を仕舞いきります。

「てことで、佐倉ちゃん。お金は要らないから、箱もらうわ。聞かれても適当に依頼は失敗したって答えといて。」

「え?」

「詳しく説明するとややこしいことになるから、誰が来てなんか聞かれても正直に知らないって言っといて。」

聞き返しても、榊原さんは眉間に皺を寄せたまま話をせずに誤魔化しています。


「え?いったい、何が……。」

ぶわり、と。

熱気が頬を撫でました。

焚き火の熱のように肌をぴりつかせる、熱気。

熱の中心は、ダンジョンボックスです。

淡く光っていたその箱は点滅を激しく繰り返し、ついにパリンっとガラスが割れるような音と共にその光を消しました。


「……ラスボスにドラゴン出てきた。」

「~~っ!話は後でだ!!」

「あ、これ。中身。」

いったい、いつの間に居たんだろう?襟首を掴まれた飛鳥君が私にラッピングされた箱を差し出します。

思わず受けとると、親指をぐっとあげられました。


「箱は?!」

「持った!」

「バグは?!」

「まだ、出てきてない……あ、揺れた。」

「~~~~っ!!死ね!タヒねじゃなくて、死ね!!」

「あははは。」

「棒読みで笑ってるんじゃねーよ!!」

ぎゃいぎゃいわいわい、と。

来た時とは真逆の台風のような騒がしさであっという間に彼らは去っていきました。


私の手の中には、『たからもの』として渡されたプレゼント箱が一つだけ。






「と、言うことがあったの。ごめんなさい、おじいちゃんの箱は無くなっちゃった。」

「………………。」

病院でお見舞いに行った先、おじいちゃんに正直に話をしたけれど、途中からおじいちゃんはポカンと口を半開きにしたまま私の手の中にあるプレゼント箱を見ています。


「…………怒ってる?」

「いや……いや。そうじゃない。そうじゃないんじゃが。」

おじいちゃんは、何か言いかけて言い淀んで脱力するように背中をベットに預けました。


「……その二人が去った後、誰か家を訪ねてきたりはしたかい?」

「ギルドの人が依頼の達成確認に来たくらい……かな?あっ、二人にお願いされた通りに失敗したって言っておいたよ。」

「…………破壊屋、まさか実在したとは。」

「破壊屋?」

「興味があるなら、調べてみると良い。もうお前も高校生だ。ダンジョンボックスについても、自分で責任が持てる年だろう。……あぁ、残念だ。どうせなら、儂もその二人を見てみたかったんじゃが。」

ぶつぶつと他にも色々と呟きながらおじいちゃんは、悔しそうな表情を浮かべました。


それから、プレゼントは私にくれました。

なんでも、私が小さい頃に亡くなったおばあちゃんが作ったぬいぐるみとのことでした。

針仕事が壊滅的に苦手なのに、頑張ったというそれは、パッチワークみたいに継ぎ接ぎのウサギのぬいぐるみでした。


歪で表情がかなり怖いですが、よくよく見ると愛嬌があるような気もしなくもないです。


ウサギは、机の上に飾りました。

見張られているみたいで、背筋がピンッと伸びて勉強が捗りそうです、が。

先に、調べものです。

検索ワードは


『ダンジョンボックス とは?』


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