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別の意図で動く者の存在

 ククル視点。


 少し時間は遡る。


 大きな揺れを感知した私は、魔法キャンセラーの解除されたことに気がつき、咄嗟に周囲の探知魔法を執行していた。

 検査が長く続き、暇で仕方なかったためだ。誰にも気づかれないくらいの微力なまでに改良した探知魔法。病院から半径1キロメートルまでマッピングして遊んでいたことで、いろいろと痒いところに手が届くレベルとなっていた。

 そのため、3両目の客室車両で異変があることがすぐにわかった。

 3両目の一番後ろの座席の5人が子供を人質にとっている。

 車両ごとにマッピングされる探知魔法に引っかかっている5人は、そこまで強い者ではない。だが、魔道具を使われると厄介だ。

 となりで不安そうにしているサラの手を握って『大丈夫だよ』とボードに書いて落ち着かせるが、その瞬間発砲音が数発聞こえた。

 最悪のタイミングだ……。

 サラはその音にビクンと体が跳ねる。

 そして、客室車両内からは悲鳴が上がった。

 乗客たちはざわざわとし、座席から首を出しては3両目のほうを覗いたりしていた。客室の空気は不安や恐怖が支配していく。

 しかし、そんな空気をバッサリと切るようにエリスが立ち上がる。



「すいません、ちょっと見てきますね」



 そう言って、エリスは魔法が使える違和感に小さく溜め息を漏らしていた。

 手の平には綺麗な魔法式と印が浮かばせて。



「皆さん、落ち着いてください。私はレジデンス連合国軍所属、エリス・ヴェルディです。これから鎮圧してまいりますので、パニックなどを起こさず座席でお待ちください」



 そう告げると、皆一瞬で安心したような表情を浮かべていた。時折、「銀花の魔導術師だ」「助かった」などの声が聴こえる。

 エリスの表情は、いつもの優しい顔つきから軍人の表情になっていた。

 それを見たティナとグレゴリーもすぐに姿勢を正して、エリスの命令を待っている。



「あなたたちは、2人の護衛をそのまま継続で……。何かあってはいけないから」

「「了解しました」」



 2人はそう言って、私たちの方を見る。

 心配ないよと優しい笑顔を向けるのだ。しかし、妙な感覚が私の探知に引っかかる。それは、私と同じ車両と2両目と3両目の間に、一般人ではないだろうと思える力量を持つ者たちがいるのだ。私は何かあってはならないと、そっとサラに魔鉱石がないかを尋ねる。

 すると、サラは申し訳なさそうにバッグから劣化しきった魔鉱石を、1つだけ私の手の平にちょこんと置いた。

 あれ? これだけ?



「ご、ごめんなさい、他の魔鉱石はエリスさんたちの調査で渡しちゃったの」

『これで大丈夫』



 どうしようといった表情をしたサラに『足りない』とは言えず、私は残り少ない魔鉱石を見つめる。

 光魔法の初級なら打ち込められるが、それではさすがに一か八か過ぎる。ただ、このままだとあと2時間もしない内に、ただの石ころになるだろう。この魔鉱石の正しい使いみちはなさそうだ。そう思った私は、ポケットにその魔鉱石をしまう。

 そして、探知をかけたまま、状況を見守った。

 2両目と3両目にいた者たちは、あの5人とは関係ないことがわかった。

 その2人組に近づいた者が、綺麗な放物線を描きながら奥の4人をなぎ倒されるのを表示したからだ。

 心配事は、あと1人となる。私の座席の4つ前の人物。

 すると、その人物が立ち上がった。

 黒のスーツを着たガタイのよい男。顔は見えないが、ただならぬ気配を感じる。

 殆どの者が後ろの車両が気になって、前の座席に目を向けていない。そのままその男は2両目から1両目へと姿を消した。

 すると、サラが私の腕をギュッと掴んできた。

 何かに怯えるようなそんな感じだ。



『大丈夫?』

「だ、大丈夫……、ちょっと怖いけど……大丈夫。私の見間違いだよ……」



 サラはそう言ってはいるが、大丈夫なように見えない。

 額から異常な汗が流れているのだから。

 私は、もう一度探知の魔法を使うと、1両目の通路にいる生体反応が消えるのを目撃する。それは1人また1人と私の探知からマークが消えていく。

 これはただ事ではない。

 私は、急いでグレゴリーとティナにボードを見せる。

 ぶんぶん振ったことで、ティナが気づいてグレゴリーへと繋いでくれた。



『1両目で事件!』

「「え?」」



 ティナとグレゴリーはなんの冗談だといった表情だが、私とサラの表情から嘘ではないのかもしれない考え、グレゴリーはティナを護衛として残して、1両目のドアまでいき、窓になっている部分から様子を伺った。

 すると次の瞬間、魔素が急激に圧縮したのが私はわかった。そのあと、音もない爆風でグレゴリーが2両目の一番後ろまでふっ飛ばされた。

 私は、咄嗟にサラを抱きしめ前かがみになる。辺りのガラスはすべて破れて、乗客たちが悲鳴を上げるが、その声は広がりを見せることなく何かに吸い込まれるようにして無へと消えた。

 間接照明の明かりも消えて、乗客は何がなんだかわからずに、呆然と座席に座っている状況。

 そんなとき、トンネルからちょうど魔列車が抜けた。そして、ようやく先ほどの爆発でどのようなことが起きたかを目の当たりにする。

 目の前には1両目と2両目の仕切りがなくなり、1両目の客室だったであろう上部が何もなくなっていた。魔列車の先頭車両がここからでもはっきりと見える。

 私は、そのまま目を凝らすと魔列車の魔法術式に異変があるのがわかった。術式が書かれてある部分がえぐり取られ、そこで魔力がぱちぱちと行き場をなくしているからだ。

 なんてことをしてくれたんだ……。

 時速150キロメートルで走る魔列車が走行中のトラブルとは……、下手すれば全員乗客が死にかねない。

 グレゴリーは、この緊急事態をエリスに知らせるために、急いで体を起こしてから3両目へと向かった。

 ティナは体勢を低くして飛ばされないようにしつつ、なんとか乗客を落ち着かせようとするが、皆パニック状態となりどうすることもできないようだ。我が先と言わんばかりに後ろの車両へとなだれ込んでいく乗客に巻き込まれて、後ろの車両へと消えていった。

 私はそれを見たあと、ここでどうにかできるのは私だけだと這いつくばってあの場所まで行こうとするが、サラが止めに入る。



「ク、ククルちゃん、何考えてるの!?」



 ごもっともな言葉に、私は首にかかっているボードに文字を書いてから見せる。



『あそこにある魔法式を直す』

「ククルちゃん、それ、ほとんど不可能だよ! まず、あそこまで行けないからね! ククルちゃんがポーンって突風で飛ばされちゃうよ!」



 その言葉に、私は渋い顔になる。

 その通りだし、返す言葉もない。今の私の体では、あそこに辿り着くことすらできない。だが、それでもやらなければとサラの拘束を解こうとしていると、後ろの方から男たちの声がする。



「緊急事態だ……。ちょっと通してもらうぞ。乗客は後ろの車両へ避難しろ。手のあいてる奴らは手伝え」



 そのように車内に大きく響く。

 私は、首だけをその声のほうへと向けると、魔列車の技師たちの姿が目に入る。



「おいおい、子供がこんなところにまだ残ってたらいけねぇだろ」

「さっさと避難知れくれ、ここは俺らに任せてな」



 そう言われて、私とサラは軽々と持ち上げられて荷物のように後ろの車両へと技師たちの手でバケツリレーされる。

 私は、この者たちでどうにかなるのかと不安に思いつつも、抵抗できずにエリスたちのところまで運ばれた。



「よかった。ティナがこちらの車両へと流されたから、心配していたのよ」

「ごめんなさい、エリスさん。もう、ククルちゃん、絶対に危ないことはしないで……」



 サラはエリスに誤った後、こっぴどく叱られる私は、どんどん小さくなっていく。

 親鳥の怒りを買ったようだ。心が痛いが、あの削られた魔法術式が心配でならない。

 到着まで、残り1時間。

 それまでにどうにかできなければ、この魔列車は駅に突っ込んでバッドエンドが待っている。私は、なにもできない悔しさに唇を噛むのであった。

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