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思わぬ遭遇と銀花の魔導術師

「は? ジーク、なんで爆発するのよ」

「いや……、俺らじゃないやつの仕業っぽいな……」



 そう口にしたジークは、後ろの車両に目を向ける。

 すると、魔導銃を持った大柄の男と数人の者たちが、子供を人質をとっていた。

 数発天井に魔弾を打ち込み、威嚇をして乗客を黙らせた。



「おら、さっさと金を出せ! この餓鬼がどうなってもいいのか?」

「た、助けて……。お母さん……ひっぐ」



 大粒の涙を流しながら、子供は助けを呼ぶ。

 乗客は銃口を向けられ、まったく手出しができない状態。先ほどの爆発で、魔法キャンセラーの効果が完全に切れている状況になっているため、乗客はどうすることもできない。下手に動けば、死ぬ。

 乗客たちは自分たちの持っている金を取り出し、袋を持って座席を回る者に入れていく。そうしなければ、自分たちの命も危ない。



「さて、どうするの……ジーク」

「正直、子供を盾にしているのはいただけないね……。アヴィス、俺ってそういうのが好きじゃないって知ってるよね?」

「知ってるし、私も嫌いなの知ってるでしょ?」

「ははは、じゃあ、やることは1つだね」



 そう2人が会話を終わらせたとき、目の前に金を回収する者が近づいてきた。

 完全に有利な状況と思い、かなり態度がでかい。



「ほら、お前らも突っ立ってないで金をこの中に入れろ。餓鬼がどうなってもいいのか?」



 ガン飛ばしながら、ヘラヘラと笑う。

 そんな男に、アヴィスがにっこりと笑顔を見せてから、みぞおちに手の平を添える。

 いきなり触れられたことで、その男は動揺した瞬間、



「えぐれ、陽炎」

「ッッッッッッッッッ!?」



 その男のみぞおちにアヴィスは衝撃波を叩き込む。紅蓮の炎の紋章がアヴィスの手の平に浮かんでいた。

 男は、息ができないのかヒューヒューと音を立て、持っていた袋を地面に落とした。そして、前のめりになって倒れてくる。



「おっと、汚い体でアヴィスに触れないでくれるかな?」



 がっちりとジークの手で頭を掴まれた男は、目を白黒させる。

 ジークはその男を力のみでぶん投げた。エリュシィー族の怪力は伊達ではない。

 その男は宙を舞い、まっすぐ奥にいる仲間たちへと突っ込む。他の者たちも、いきなり人間が飛んでくるとは誰も思わなかったのだろう。

 放物線を描いたその男は、人質をとっていた者たちとぶつかり、盛大にドミノ倒しになる。その拍子に拘束が解けた子供は、乗客から救出される。

 それを確認したジークは、



「さて、仕上げかな」



 そう言葉を吐き、ジークの腕に風がまとわりつく。

 だが次の瞬間、背後から背筋の凍るような感覚に包まれる。



「犯罪者の制圧、感謝します」



 透き通る声と冷気が通り抜け、倒れている者たちの目の前にいきなり顕現する女性。真っ白な髪の毛に軍服を着ている。この世のものとは思えない登場の仕方に、車内にいる者は息を呑んだ。

 魔導銃を持った主犯格は、軍人の登場に焦って銃口を向けて引き金を引いた。

 銃口から火花がちり、乗客はその軍人が撃たれて崩れ落ちる様を想像していたが、その想像とはかけ離れた光景が目の前に広がる。

 撃たれた軍人の女性の体は、氷に変わって銃弾を止めていたのだ。

 体からは雪の結晶が細かく舞う。この体を氷に変える魔法を扱えるのは、レジデンス連合国の中で2人しかいない。

 その光景に、乗客の1人がぽつりと呟く。



「銀花の……魔導術士。エリス・ヴェルディ」



 そのぽつりと呟かれた言葉に、犯罪者たちは絶句する。

 このレジデンス連合国で、その名を知らぬ者はいない。5年前のレジデンス連合国での大事件で活躍した1人なのだから。体からおびただしい魔力が冷気として放たれる姿に、主犯格の男は降参とばかりに両手を上げた。

 これ以上の抵抗は、死を意味する。死ぬより、捕まったほうがいいと思ったからだ。

 それに、エリュシィーの弱点と言われる魔力の少なさなどまったく感じさせないエリスのその姿は、エリュシィーの最高傑作といってもいいだろう。

 主犯格の男は、まさか同じ列車に乗っているなど夢にも思わなかったという表情をする。



「くそぉ……話が違うじゃなねぇかよ……あのやろう」



 主犯格の男がそう呟いた。

 その言葉に、違和感を持つエリスは咄嗟に主犯格の胸ぐらを掴んで問いただす。



「話が違うとは、どういうことでしょうか? あなたがた以外に……誰か首謀者がいるのですか?」

「……」



 無言のまま目をそらし、何も口にすることはない。

 どうしたものかとエリスは思っていると、グレゴリーがこちらの車両へと慌てて入ってきた。



「エリス中佐! 大変です。すぐに戻ってきてください!」



 いつもの冷静沈着なグレゴリーが、このように焦っていることから、ただならぬ状況なのだとエリスはすぐに理解する。

 それに、軍服が爆発にでも巻き込まれたかのような状態。

 もしかすると、こちらは囮でククルやサラがターゲットだったかと。

 エリスは嫌な予感を振り払って、主犯格の男とその仲間たちの手足を凍らせた。 

 拘束具として締め上げた後、2両目へグレゴリーと急いだ。


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