彼女さえも俺の希望を踏みにじる
青春の二文字が頭に粘着しやがっている。
別に俺は他人と仲良くしなくたっていいと思っている。なぜなら、自分自身を見失う可能性があるからだ。他者の考えに頷き生き方を変えるということは自分のこれまでを全否定……全否定というのはいきすぎかもしれないが“否定”にはなるわけで。
そう、ただの臆病者……自分が変わってしまうことが怖い、変えてしまうことが怖い……俺はこんなことを思っているわけであるがどうだろう――。
と、毎日のように部室で二人っきりな数少ない話し相手の女子生徒に聞いてみたところ……。
「あなた流石に背を向け過ぎじゃないかしら」
「いやいや、人は嫌なことから目を反らすっていうだろ? それと一緒じゃないか?」
「目を反らすを越してるわ。自分の築いた自分しかあなたは知らない」
「まぁそれがいいと思っているからな」
「その認識を改めるべきね。みんながみんなあなたのことを平等に嫌っているわけではないということを知りなさい。その中に私はいるつもりだけれど」
これはこの女が俺に優しく語ってくれているだけで、実際『現実を見ろ』と言いたいわけだろう。
「考えてみろよ。他人と関わってどうなるっていうんだ? 時間の無駄とか思わないのか? 俺は思う」
「時間が無駄と言っているけれど、その時間何をしているの? 息を吸ってはいている? それの時間に他者との関わりを持ってくれば無駄ではないでしょう」
それを言われると耳が痛い。他人との関わり……それ自体が面倒だと思っている俺は、どんなこじ付けでも今は『理由』として挙げることが可能。言ってしまえば言い訳だけが今の話し合いで重要だということ。
「あなた友達作ろうとしたことも無いわけ? 私もないけど」
お前もないのかよ……。
「と、友達なんてぇ? べ、べっつにぃ~? いたって邪魔だしぃ~。なぜ自分の空間に他人が入り込んでこなければならないのか……友達がいる奴の気が知れないな」
「でも今現在、あなたの空間に私が入り込んでいるけどどう?」
「どう……とは?」
「ほら、こんなに可愛く美しく輝かしい美女が目の前にいるのよ。ドキドキとかしないの? しないにしても『俺ラッキー』だとか思わないわけ?」
「お前……さすがの俺でもひくぞ。そんな自信に満ち溢れてたんだな。尊敬してやるよ」
「あなたの目には私がどう見えているのかしら。とても気になるところだけど……私は表に関しては自信を持っている。あなたはそこまでって感じするけど」
確かに自分の容姿がイケメンだとか、いい角度の猫背だとか、にやけ方が絶妙だとか……俺は自信を持っちゃいない。内面のことに関してなら自信が持てる。悪口言ったり、可愛い子をキモい目で追ったり、汚い嘘付いたり……『俺すげぇ』……なんて思おっちゃうくらいだからな。
「まぁ確かに」
「そのへんを変えれば周りも変わってくるわ。受け取り手が変われば、あなたの環境も並行して変わっていくわ」
「そうでない場合もあるだろ」
「言ったでしょ。あなたは判断できないの。相手が判断するのよ。並行して環境が変わっていくのは必然で偶然なんかではないわ」
「どうだかな」
俺は認めない……俺がこれまで否定し続けたことが、こんなにあっさりと。
眉間にシワを寄せた俺に彼女が終止符を打ってきた。
「そうすればとても可愛い女の子が寄ってくるかもしれないわね」
ゴクリ……。
「俺、頑張りますッ!!」
可愛い女の子には男の本能のほうが強かったらしい――。
翌日の昼休憩くらいまでだろうか。本気で可愛い子が寄ってくると信じて雰囲気も努力して変えてみたが逆効果だったらしい……教室の角っこからヒソヒソ聞こえてくるのだ。
俺への誹謗中傷が――。
カップルが一つの飲み物を『一緒に飲もうか』って一緒に飲んでいるのが妬ましく腹立たしい。
お読みいただきありがとうございます。