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第4話 《帝国騎士団副団長》

カーテンの隙間から眩しい陽射しが刺さる。


「ん…」


ノアは静かに瞳を開いた。眩しい光が眠気を吹き飛ばすかのように、ノアを起こす。


「ふわぁ〜あ…えっと…」


これからどうしよう…。新しい生活の始まりはどうするか。色々と寝起きで回転の遅い思考を巡らせている…その時。


「ノアさんご飯ですよー!」


あの金髪の女の子…もとい、受け付けの子供が勢いよくドアを開き叫ぶ。


「おはようございます…」


「おはよー! 下の食堂に用意してるからちゃんと食べてねー!」


そう言い、少女は部屋から出て行く。


「…そう言えば、名前まだ聞いてなかった…」


あとで時間がありそうだったら聞こう…そう思い、ノアも下の階に降りて、食堂を目指す。



食堂には色んな人がたくさん居た。冒険者や探検家、一般の人までその幅はたくさん。

そして、何と言ってもすごいのは…食べ物の種類である。サンドイッチ、玉子焼きに目玉焼き、色鮮やかなサラダ、バーガー、スープ、ウィンナー、どれも朝食向きのご飯である。

その中で、受け付けの少女はドヤ顔をしながら食堂の真ん中で立っていた。


「もしかして、この料理を全部…?」


「うん、そーだよー? すごい?」


…料理の出来ないノアにとっては、そのスキルが何よりも羨ましい。強い魔法を習得するのと同じくらいにそのスキルは羨ましかった。


「全部、死んじゃったお母さんの受け売りなんだけどねー」


「…そうなんだね…」


「まぁまぁ、食べてってよ! きっと美味しいからさ!」


「うん! その前に…お名前聞いてなかったなぁ…って思って…」


「あっ、ウチはシーナって言うんだ! よろしくねノアさん!」


「こちらこそよろしくね、シーナちゃん!」


そう言い、ノアは適当な食べ物をトレイに乗せて、テーブルについて朝食を食べた。



「お腹いっぱーい…これからどうしよっかな…」


自分の部屋に戻り、ベットの上で座って考える。やる事はかなりあるが、正直どれから手を付けていいかわからない。

しかし、目標はしっかりと固まっていた…。


「アリアさんに、ちゃんとお礼とか言わなきゃなぁ…でも、どこにいるかわかんないし…」


どこにいるかわからない。これが致命的であった。


「ここから帝国ってとこに行くにしても、あたしのレベルじゃ多分アウトだよねー…」


ですよねー…と自分でも叫びたくなる。何せレベル1の新米のペーペーなのだから。挙句、職業は見習いの魔法使い。どうしたものか…。


「…んっ?」


自室の机に何か本のような物が置いてある。


「本なんて、ここに置いてあったっけ…?」


ベットから立ち上がり、その本を手に取り再びベットに座る。その本の表紙には…


「新米冒険者のマニュアル?」


きっとシーナが置いてくれた物なのだろう。料理も出来て、気遣いも出来る素晴らしい子。


「それなら、今日はこれを読んで少しでも冒険についての知識をつけることにしよ!」


勉強は苦手なノア。しかし、今の現状ではそうも言ってられない。このネムレスワールドの世界で少しでも常識について学習しなければどうにもならないのだから。


「お勉強は苦手だけど…ここは我慢しよう!」


そう言い、本のページをめくるノア。最初にめくったページはこのネムレスワールドに存在する帝と三つの武器を極めた英雄達について。


『この世界には代々伝わる6人の帝と3人の英雄が存在する。』


『炎を司る。消せない炎を作り出し、その万物を抹消する炎の帝』

『氷を司る。溶けない氷を創造し、あらゆる物を凍結、停止させる氷の帝』

『雷を司る。紫電の雷を操り、世界の音すらを置き去りにする雷の帝』

『風を司る。世界の風を操作し、鋭い刃で世界を切り裂く風の帝』

『闇を司る。死と暗黒を超越し、深い闇で全てを呑み込む闇の帝』

『光を司る。生と安息を愛し、罪深き者には天の裁きを下す光の帝』


『超時空の剣聖。この世界の時と空間を管理する権限を与えられた者。有名な話では、表大陸との戦争を起こそうとした地獄大陸の精鋭達で集められた連合軍を一人で滅ぼしたという伝説がある。』


『無軌道の銃神。この世界の重力そのものを管理する権限を与えられた者。有名な話では、世界を破壊しようと企む独裁者の大帝国を一瞬で壊滅させたという伝説がある。』


『暴風雨の槍武。この世界の天候を管理する権限を与えられた者。有名な話では、世界を支配しようと企む呪われた民族が巣食う幽霊大陸を天変地異で海の底に沈めたという伝説がある。』


「えっと…あたし、この世界で生きていけるかな…」


いきなり鼻を折られる感覚だった。もはやスケールの大きさについて行けそうにないノアは、額の熱を確認するかのように額に手を当てる。それはほのかに熱かった。


ノアにとってのとりあえずの目標は、現実世界に戻ること。突然訳のわからない世界に飛ばされて、訳のわからない生活なんて物は恐怖でしかない。

想像してみて欲しい。今自分がいる世界が、急に氷河期の時代になったり、ジュラ期の時代になったりしても冷静でいられるか。

そう思うと、やはりノアも焦らずにはいられない。だが幸いにも言葉は通じる。それだけが取り柄であり、同時に少しだけ安心した。


「後ろ向きに考えてもダメだよね…。よし…」


そう言い、ノアは額に抑えていた手を机に叩きつけ、勢いよく立ち上がり…


「まずは情報収集から始めよう!」


そう言い、宿を後にした。



「うわぁ…」


宿を出て通りの突き当たりを右に曲がった所に、繁華街があった。

籠に多種の果物を積んだ果物屋。

剣や鎧、盾などを飾ってある鍛冶屋。

杖や衣装、靴などを置いてある魔導屋。

薬の看板が大きなアイテム屋。

冒険に役立ちそうな物が並んでる雑貨屋。

少し賑やかな店内の居酒屋。


「すごい…何でもある…」


その凄味に圧倒され、どこのお店に行けばいいか悩む。色々な物に目移りしそうになっては、首を横に振る。


「あのリンゴ美味しそう…じゃなくて! 情報を集めなきゃいけないのに…」


その考えで、まずは自分の所持金を確かめる。アリアからもらった8000万ネムを宿屋に半永久的に住めたとしても、まだ100万ネム以上の余裕はある。

この100万ネム。その金額はこの世界での物価とかを考慮して考えても、高いか安いかはわからない。何故ならこの世界の相場がわからないからだ。


「まずは…やっぱり情報集めるのには居酒屋だよね!」


その考えは間違ってはいなかった。居酒屋に入った瞬間に、多くの会話から情報交換の話が出てきていたからだ。


「へい嬢ちゃん! 一体こんなとこになんのようだい?」


横から、大柄でハゲ頭のヒゲオヤジに声をかけられる。見た目はかなりイカつい。


「えっ…と、少しお聞きしたい事がありまして…」


オドオドしながらも、ノアは情報を貰おうと話し始める。オヤジは椅子に座れと指差し、ノアはそこに座った。

その横に並ぶかのように、オヤジも座り始める。


「『距離近いし…お酒臭いし…』」


心の中でそう唱えるノアだが、オヤジはそれを何とも思わずに擦り寄る。


「でえ? 何が聞きたい?」


「あ、あの…現実世界に帰る方法を知りたいんですが…」


ノアがそういうと、周りは会話を止めてノアを見た。勿論、隣にいるオヤジも目を丸めてノアを見ていた。

刹那…その静けさをぶち壊すように全員が全員笑い始めた。


「現実の世界だってよぉ!」

「現実ワラワラ」

「お嬢ちゃんの頭が異世界ですよお!?」

「きもぉーい、構ってちゃんなのー?」


嘲笑。嘲り、笑い、罵声を浴びせる。

期待を裏切るかのような反応。思っていた現実とは違った。


「はは、いいぜお嬢ちゃん! 俺が現実を教えてやるからこっち来な!」


ハゲオヤジがノアの腕を強引に引っ張る。


「痛っ!」


苦痛で歪むノアの顔を見ながら、オヤジは舌で自身の分厚い唇を舐め回す。

周りのギャラリーは止めるどころか、盛り上げ役だったり、加勢しようとしたりで、ノアにとっての仲間はいない。


「はなしてっ!」


「ひひひっ、そうはいかねえなあ!」


そのまま、店の路地裏に連れて行かれる。ノアの頭がそう思った瞬間…


「そこまでだ」


居酒屋の出入り口からする、鋭い一声。

その声は、盛り上がりで熱気な空間を裂くような。鋭く、切れ味のある声だった。


「お、お前は…!」


ハゲオヤジが驚く。いや、ハゲオヤジだけではなく周りの連中も驚く。

その表情を気にすることなく、その声の持ち主…黒髪の男性は居酒屋の中心まで歩いてくる。


「なるべく穏便に済ませたい。それでも歯向かう輩には容赦しない。どうする?」


その問いに、我先にと反応したのがハゲオヤジだった。


「おいおいおい! クソガキがぁ…肩書きと名誉だけに溺れた騎士さんがよぉ…俺たちの世界に出しゃばって来んじゃねえよ!」


オヤジの背中に背負ってた斧が、黒髪の男性に向けられて、縦に振り下ろされる。


「きゃぁっ!?」


ノアは驚く。当然だ。現実世界でのその行為は殺人。つまりノアの世界ではそれは最悪の罪になるからだ。

それが、簡単にこの世界では殺意による暴行が許容されてしまう。

驚き、ノアは目を瞑るが…


「ぐあぁぁぁあっ!!」


聞こえたのは、ハゲオヤジの悲鳴だった。


「次はどいつ?」


トリックとしては、説明するだけなら簡単だった。

単純に、男の斧を片手白刃どりで掴み、そのまま捻った。ただそれだけ。

だが、たったそれだけでもそのハゲオヤジの腕はグニャリと一回転している。


「えっ…えっ!?」


何が起こったのか全くわからないノア。目を閉じたのはほんの少し。その間に何があったのかと探してるうちに、異変にすぐ気付いた。ハゲオヤジが片手を抑えながら前のめりに倒れているのを見たからだ。

抑えている手首はもう機能していない。戦意も完全に手首同様折られている。

その顔は、目からは液体が流れ、口からは胃液が垂れ、それだけでも苦痛を訴えているのがわかる。


「こうなりたくないなら。大人しくしていてくれ。俺も好きでこんな事をしてる訳じゃない」


そう言い、ノア以外の周囲の人間に対して鋭い目付きをぶつける。

それだけで睨まれた者達は、蛇に睨まれた蛙のように動く事を否定される。

動く。即ちそれは、あのハゲオヤジと同じ末路をたどることになるのだと。

そして全員の動きを止めた後に、ノアの方に足を向ける。


「大丈夫? 危なかったね。この居酒屋は最近治安が悪いんだ。何よりも《グライド》という名の人間が出入りしては、女性を攫うらしい。キミも注意する事だ」


「グライド…?」


「ああ。闇ギルド《ダークレボリューション》のトップ。姑息な手を使い、女性を攫い、食い物にする卑劣な男だよ。窃盗から殺人まで、やりたい放題さ」


「……」


ノアは言葉が出なかった。

それもそのはず。今までは、そんな事件の被害者になったことすらなかったからだ。

同時に…たった今さっき、自分は命を狙われた事に戸惑いを隠せないでいる。


「とりあえず、ここに居ては危険だ。どこかゆっくり話せる場所に行こう。俺は《ハルト・ノーヴァ》。《帝国騎士団》の副団長だ。よろしく頼むよ」


そう言い、呆然とするノアの肩に手を置き、二人は居酒屋を後にした。

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