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セカンダリ・ロール  作者: アイオイ アクト
第二十話 脱走少年と過保護少女
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脱走少年と過保護少女-6

 覚悟していた嗣乃の説教は、俺の顔色の悪さを心配されるだけで終わってしまった。


 疲れた体に、嗣乃の名作カラスガレイの煮付けは震えるほど美味しかった。

 それこそ、煮汁をすすってしまうくらい。


「高血圧で死にたいの?」


 嗣乃は本当にオカンっぽくなってきたな。


「嗣乃の美味い料理で死ねたら本望だろ。よーもそう思うだろ?」

「え!? あ、そ、そうだね」

「な、何よ急に!」


 けしかけているんだよ。分かれ。


「で、あんたはこんな時間まで何してたのよ?」

「どうでもいいだろ。それより今日の交流会はどうだったんだよ?」


 我ながら下手な話題逸らしだ。


「それなら言われたとおりちゃんと決めたよ! 向井が考えた提案が通ったんだよ。満場一致で。ちゃんと褒めてあげたの?」


 俺が桐花といたことを知っているのか?


「そ、それは、まぁ……えぇと」

「素直じゃない奴」


 嗣乃はいちいちうるさいな。


「今日は本当にうまくいったんだから。桐花はちょっと問題あったけど、よーがちゃんと進めてくれたからね」

「嗣乃もね」


 珍しくお互い褒め合っているな。

 でも、今後の交流会の進行が心配になってきた。


 今回はすんなりとまとまったが、次回はきっとモメにモメる可能性がある。

 なんせ生徒会選挙のない学校の一年坊主が会議を乗っ取ってまとめ上げてしまったんだ。

 軋轢が生まれる恐れは十分ある。


 どのクラスにも一人はいる自称優秀な連中は対処に困る。

 そういう連中は、自分より格下と思い込んだ人間に対して容赦がない。

 格下認定した相手の意見など聞こうともしない。

 そして、自分より優秀かもしれないという危機感を感じさせるような相手とは勝負を避ける。


 交流会がまとまらない理由は、自分の優秀さを見せつけたい奴らが混ぜっ返すからだろう。

 そういう連中は自分の方が優秀だと見せつけられるようになるまで議論を空転させることも厭わない。

 次の会議は今日みたいにすんなりとはいかないだろう。


「何考え込んでんのよ?」


  うおっと。

 思考の海に沈んでいた。


「いや、もし今後滞るなら、俺が混ぜっ返してもいいかなって」


 憎まれ役なんて結構格好良いと思う。

 若干辛いけど。


「そんなこと絶対させない」


 やべ、思いつきで余計なことを言ってしまった。

 陽太郎さんがお怒りだ。


「どっちかといえばつっきが俺に悪者になれって命令する立場……いや、なんでもない」

「何がなんでもないだ! ラノベっぽいこと言いやがって!」

「茶化さないでよ」


 茶化さずにいられるかこのクソイケメンが!


「そろそろ向井とどんな話したかちゃんと聞かせてよ」

「駄目に決まってんだろ! あ、いや、そんなに話してないっての……あれ?」


 陽太郎と嗣乃が顔を見合わせ、こちらへ向き直った。

 落ちた。俺、語るに落ちた。


「……ど、どうしたの……? 向井ちゃんのこと……?」


 ちょうどいいところで、ソファで寝ていた杜太が目を覚ましてくれた。


「硬くねーよ。交流会の話をしてただけだし。それよりもお前はどうなんだよ? 少しは進んだか?」


 案の定、陽太郎も嗣乃も目を逸らしてくれた。

 ふん。これで桐花については追求できまい。

 自分自身を腫れ物にして話しかけづらくする究極技だ。

 ほぼ自爆呪文(メガンテ)だが。


「い、急ぐなって言ったの月人なのにぃ?」

「そんなこと言ったっけ?」


 多分言ったんだろうな。

 杜太が忘れるはずないし。


「うーん……クラスのみんなにもモタモタするなって言われるしぃ……」


 そりゃ良いことじゃないか。

 俺が得られなかった公認ってやつだぞ。

 二人で歩いている姿見られただけで、多江をどう脅してるんだだのよく言われたよなぁ。


「つ、月人は、向井ちゃんのこと、その、あれじゃないのー?」


 ぐぬぬ、桐花に話題が戻ってしまった。


「そ、そういうつもりはねぇよ」


 そういうつもりはない。

 だけど、誰にも言えない秘密を知ってしまった。

 本当は皆に知ってもらって味方についてもらった方が良いのは分かっている。

 だけど、言わないと約束してしまった。


 咄嗟のことでも、約束は約束だ。

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