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セカンダリ・ロール  作者: アイオイ アクト
第十八話 少年の諦観(ただし、やや前向きな)
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少年の諦観(ただし、やや前向きな)-6

「ねぇ、ほんとにどうしたの?」


 何度も同じ質問を繰り返す嗣乃のせいで、夕飯の味も分からなかった。

 顔色が変だと指摘されても、自覚がないから答えようがなかった。


「……どうもしねえよ。野菜抱えてきて腕がもげそうなんだよ」

「さっきから何度目よその受け答え」


 同じ質問をするから同じ答えを返すことしかできないんだってのに気付け。

 絡まれる前にさっさと部屋に籠もるべきだった。


「じゃぁ、あの二人どうだったの?」

「質問をもうちょいまとめろよ。爆発しろとしかいえねぇぞ」

「あー……それで充分だわ」


 女子が鼻をほじるな。気持ちは分からんでもないが。


「ま、お前もとりあえずよーに抱きついてみればいいだろ。同じ気分を味わえるぞ」


 ふん!

 嗣乃のわりと本気の手刀が脳天にめり込んだが、その程度で音を上げる俺様ではない。

 あれ?

 せっかく焚き付けたのに陽太郎はどこ行ったんだ畜生! 風呂か! 忘れてた! チョップ喰らい損!


 ふざけている場合じゃなかった。


「……嗣乃」

「何よ? こっち向いて話してよ」


 瀬野川に散々焚き付けられたお陰で、嗣乃のことをまっすぐ見辛かった。


「ええと、その」


 陽太郎はいつまでも待ってくれないぞ。

 そう言いたいのに、口が動かなくなってしまった。


「あ、あの、議事録見せてくれ」

「え!? 仕事すんの?」


 誤魔化し目的で言ったが、気になるのも確かだ。

 他校との折衝は知っておきたかった。


 嗣乃にノートを渡されたが、状況がいまいち見えなかった。

 陽太郎はノートのまとめ方が下手だ。

 事細かに不必要なこと書きやがる。

 要点をしっかり押さえる桐花を見習って欲しいな。

 まぁ、質問できるコミュ力がないから身についた能力なんだろうけど。


「あ、そうだ。MDデッキ余ってないかって聞かれたんだけどあるっけ?」


 嗣乃が横にべったり座り込んでくる。俺が座っているのは二人がけのソファだが、くっつかないと座れないことはない。


「あ、暑いからくっつくなよ」

「ノート見えないし」

「じゃぁ後ろ回れよ」


 嗣乃が俺の後ろに回り、首に腕を巻き付けてきた。


「だから暑いっての!」

「だから見えねーし!」


 嗣乃はいつまで経っても嗣乃だ。

 この子供っぽさはマイナスポイントだ。


「耳くっさ!」

「嗅ぐからだろ! MDプレーヤーなら廃棄の山の中にあったからそのままあげちゃっていいんじゃねえの? アイワだかいう見慣れないメーカーのだけど」


 嗣乃に絡まれるのはいつものことなのに、今は違和感に勝てなかった。


「ねぇ、何に疲れてるの? それくらい教えてよ」

「うーんそうだなぁ。二年分の焦燥が精算できたってのかなぁ」

「……難しい言葉使っちゃって」


 嗣乃の腕に力が入った。


「瀬野川は多江の相手、俺が良かったんだってさ」


 嗣乃の相手も、とは流石に言えたもんじゃない。


「そう。多江もね、すごく悩んでて……でも、あたしと仁那の言葉はすごく響くから、ちょっと相談し辛いって言われちゃってさ」


 いじめられていた頃の多江は、他人にやたら従順だった。

 心ない言葉も全部受け止め、言葉を発した相手の思った通りの反応を示していた。

 信頼している嗣乃と瀬野川の言葉なら、尚更強く受け止めてしまうのかもしれない。


「多江はさ、気がつけばいつもつっきに頼っちゃうって悩んでたの、知ってる?」


 知らないよ。

 頼りにされたこともないし。


「いつもつっきに頼るのはやめにしなきゃって思ってんだってさ。ずっとつっきにお任せで良かったのに」


 嗣乃の頬が俺の頬に押し付けられる。

 俺も頼られた実感はないけれど、同意見だ。


「ごめんね。あたしも頼りっぱなしで」

「頼ってるのは俺だろ」


 くっつかれる違和感が薄れて、どんどん力が抜けていく。


「……楽になったなぁ」


 変な感想が漏れてしまった。


「どういう意味よ?」

「もう、誰かに好かれようとか遠ざけようとか、肩肘張らなくてていいんだよな?」

「はーあ」


 露骨にため息をつかれると腹立たしいな。


「元からそんな必要ないのに」

「痛えよ」


 耳が臭いからって頬を噛むなよ。


「噛み癖治せよ」

「減るもんじゃなし」


 言い終わってまた噛むなよ。

 のしかかる重量が増えた。

 一際ひょろ長く成長した陽太郎が俺と嗣乃の上にのしかかり、最弱のゲッターロボが完成していた。


「よー暑い!」

「風呂上りだから仕方ないでしょ。つっきには自分で絡みにいってるのに」


 暑さが増した。

 でも、そのままでいて欲しかった。


「よー、なんだよこの議事録。なんで桐花に取らせねーんだよ」

「言われると思った。今は役目を一回ごとに変えてるんだよ」

「なんでもいいから直しとけよ。あと保留案件多すぎんぞ。この合同企画ってなんだ? 次回ぜってー決めて来い。遅れ過ぎだぞ」


 校外組の方がずっとたくさんの苦労があるってのに、俺は何を偉そうに言ってんだろうね。


「あぁ、それはもう少しかかるかも。他の学校の生徒会使えねーし。もうほぼみなっちゃんとよーが意見出してるだけだもん」

「嗣乃、言い訳しない。次で必ず決めきるから期待してて。だから元気出しなよ?」


 相変わらず格好良いなぁ、陽太郎は。


「はーあ。こんな風に慰めてもらえるのはいつまでかねぇ」


 嗣乃が俺の頬に線を作る水分を指で拭ってくれるが、すぐに次から次へと流れ出てきてしまう。おかしいな。


「……痛えよ。血吸う気か?」


 嗣乃が肩口に噛みついていた。


「闘魂注入」

「それはビンタだろ」


 ごめんな、二人とも。

 俺がいつまでも三人の輪を壊せないからこの状態なんだよな。

 情けないよ。本当に情けない。

 いつまでもこの状態が続くなら、県外の大学を視野に入れようかな。


「……どこにも行かないでよ?」


 え? 嗣乃さんはエスパーなの?


「うん、どこにも行かないで」


 陽太郎まで何だ?

 俺以外みんなエスパー?


「お、俺程度の実行力で失踪できると思ったか?」


 本当に離れたら、寂しくて死ぬ自信があるよ。


 俺はいつまでこの二人の障害として、立ちはだかり続けなければならないんだろう。

 本当に、いつまでなんだろう。

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