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セカンダリ・ロール  作者: アイオイ アクト
第十八話 少年の諦観(ただし、やや前向きな)
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少年の諦観(ただし、やや前向きな)-3

 視界が一瞬真っ暗になったが、すぐに回復した。

 頭の中が整理できなかった。


「嗣乃と俺?」


 ひどすぎる消去法だ。

 誰が誰といい関係になれば良いなんて滅茶苦茶な妄想された上に、現実に持ち込まれたら敵わんぞ。

 どうして巨大なブーメランが俺の額に炸裂しているんだ。


「や、やめてくれよ」

「やめねーし」


 分かってはいるけど、やめて欲しい。

 俺から俺の嗣乃を奪わないでくれ。

 奪われる訳ではないんだが。なんだ、この気分は。


「いやぁ最初はさ、アンタとよたろーとなっちを脳内でくんずほぐれつさせたりするのがすっげー楽しかったんだけどさ。そこに完全受けの杜太を投入したらもう興奮したなぁ」


 え? 何の話? なんでドヤ顔?

 高ぶっていた神経が一気に冷静さを取り戻してしまった。


「仁那ちゃん……僕にそういうの求めないよね?」

「お願いしていいの!?」


 白馬の両手が瀬野川の顔を左右をぐいっと挟んだ。


「よく聞こえなかったんだけど、もう一度言ってくれるかな?」

「なんれもないれふ」


 流石白馬さん。怖い。


「妄想はチラシの裏だけにしようね?」

「「……はい」」


 思わず俺も返事してしまった。


「……ふう。とにかく、全員の関係については色々考えてんのよ。特にアタシの大事なつぐに一番いい相手って誰だかって、分析を重ねてんのよ」


 何を言っているんだ瀬野川は。


「白馬、この女おかしいぞ?」

「あはは、この程度を咎めるなんて修行が足りないよ」


 白馬さんパネェっす……。


「うっさい! とにかく、つぐが本当に心を開いてる相手ってどう考えてもよたろーじゃなくてつっきーでしょ!」


 さっさと否定したかったが、何も言えなくなってしまった。

 瀬野川が急に重苦しい空気を放ち始めたからだ。


「アンタ達三人の家の事情は分からなくはねーよ。よたろーとつぐの仲は家族親戚に期待はされてんでしょ?」


 手に取るように分かってやがるな、我が家の事情を。


「まぁ、ほぼ合ってるけど」

「ウチは親戚付き合い結構複雑だからさ、中学くらいから他の家の男と面通しさせられんのよ」


 中学生で軽く見合いのようなことをさせられるってことか。

 豪農の一人娘は大変だな。


「ま、だから中学の前半は思いっきりグレてやったのよ。アタシは自分で結婚相手を決める自由すらないのかって。まぁ、ぶっちゃけ性に合わなかったけど」


 こんな冷徹な思考でギャルをやっていたとは。


「なんだか、つぐがアタシと同じに見えてさ。よたろーはいい奴だし、きっと添い遂げたって幸せになれると思う。でも、つぐは本当に周りに流されるままでいいのかって」


 陽太郎と嗣乃の意思なら、確認したことは何度かある。二人とも、思いは変わっていない。

 でも、嗣乃の陽太郎に対する想いは多少歯切れが悪いのも確かだった。


「……それにさ、よたろーはつぐにばっかり負担かけやがって! たまたま生まれてこの方一緒だからってだけであんな超絶美少女ゲットなんてエロゲ過ぎると思うだろ!? 思えよ!」


 思うよ。

 早口でまくしたてられなくても、同意見だよ。


「よたろーってろくに家電も扱えねーし服もたためねーしほんっとむかつくんだよ! アタシなら全然できるのに! なんでアタシは親の腹にチ〇コ忘れてきたんだよって自分のこと呪ってたもん! なっちに会うまでは!」


 頭を白馬の胸に押し付けるのがうざったい。


「に、仁那ちゃん、やめてよ」


 白馬もさすがに恥ずかしそうだ。


「ま、よたろーもよたろーなりに必死なんだよね。だからまぁ、なんつーか、ごめん」


 今度はなんだ。話が滅茶苦茶だ。


「何の謝罪だよ?」


 瀬野川の顔から一切の表情が消えた。


「アンタが、多江に相談されたこと」


 もう慣れたもんだが、瀬野川は気持ちの波が激しい。大人と子供が激しく入れ替わるようなものだ。


「中二に上がってしばらくしてからかな。パパがお前に相応しい子を選んでやるなんて言い始めてさ。そしたら色んな親戚が自分の家の馬鹿息子を家に連れてきまくって、家の中に居場所がなくなってさ」


 え? 本当に見合いじゃねぇか。

 瀬野川家は戦国時代が続いてるのか?


「だから、咄嗟に嘘ついちゃったんだよ……瀞井陽太郎と付き合ってるって。婿入りに同意してくれてるって。男の友達なんてよーとつっきーしかいなかったし。つっきーはアタシを怖がってたから、よたろーしか選択肢がなかったし」


 馬鹿か阿呆かと言いたかったが、何も言えなかった。


「そしたらパパは黙ったし、親戚も出入りしなくなって。もうこの話は終わったって、そんな嘘をついたのもすっかり忘れててさ」


 瀬野川は白馬から離れ、ベッドに座り直した。


「でも高校上がる寸前になってさ、クズ先輩と一瞬付き合ってたのバレちゃった。多分家の関係者の誰かがバラしたんだと思うけど。バカだったなぁ、アタシ」


 瀬野川も脇が甘い。でも、責めたって仕方ないだろう。


「そしたらパパにアバズレ呼ばわりされて。パパは瀞井陽太郎の名前を覚えてたの。お前のような奴はどうせ別れるから、その日を待っていたって。ほんと、バカだったよ」

「それで、よーとのことを事実にするしかないって思ったのか?」

「……うん」


 なんて親だ。

 勝手に許嫁を作ろうとして、しかもちょっと付き合って別れたらアバズレ呼ばわりだと?


「でもさ、多江によたろーが気になってること匂わせた瞬間にさ、分かっちゃった。やっぱり、よたろーを全然好きになれない。アタシに正面からぶち当たってくれるなっちのことが、やっぱり大好きで……ほんとに、ごめんなさい」


 瀬野川の『ごめんなさい』という言葉が俺の額にぶつかった。

 本当に質量のある物と化して、ぶつかった気がした。


「そ、その謝罪、受け入れるから」


 そう返事するのが精一杯だった。

 俺が受けた被害なんて、被害の内には入らない。

 多江だって、きっと分かってはくれる。


 尊敬するよ瀬野川。

 自分の恥をすべてさらけ出して、顛末を語ってくれた。

 そして自分の中に分け入って本音を引きずり出して、今は本当に一緒にいたい相手と一緒にいる。


「あり……がとう」

「仁那ちゃん、よく頑張りました」


 大粒の涙を流す瀬野川を、白馬が強く抱きしめた。

 きっと、瀬野川の父親は娘の決意なんてまだ知らないだろう。


 これからが二人の正念場だ。

 俺が力になれるのなら、なんでも協力したかった。

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