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セカンダリ・ロール  作者: アイオイ アクト
第三話 生徒自治委員会
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生徒自治委員会-1

 寒い。


 まだ肌寒さの残る四月だというのに、何故ジャージ登校の際は上に何も着てはいけないという校則があるんだ。

 学校名が見えなくなるからだよね。知ってた。 


 寒さは容赦なく体力を奪う。

 自転車で校門を通った頃には多少体は暖まっていたが、手は真冬のようにかじかんでいる上に、足はもげそうなくらい悲鳴を上げていた。


 背後のイケメンはもう何か大切な物がもげていた。

 今にも『白く燃え尽きちまったぜ』みたいなことを言い出しそうなくらい。けろっとしているのは嗣乃だけだ。


「安佐手君達も生徒会入るの?」

「え?」


 集合場所には意外な奴がいた。

 女子なんだか男子なんだか分からない見た目だが、一応男ではある。

 声はもうほぼ女子だし、俺よりも若干身長が低かった。しっかりとした肩の形が、辛うじて男子を主張していた。


「まずは『おはよう』だろ。あと生徒会じゃねぇよ」

「ふふ、おはよう! 瀞井君も汀さんも!」


 白馬有充(しらま なりみつ)は今日も元気で爽やかで腹立たしい。

 この寒い中でジャージ一枚なのに元気な笑顔を浮かべやがって。


「なっちゃんおはよー! イエア!」


 何故か嗣乃が白馬とハイタッチした。テンションに付いていけない。


「有充……おはよー……」

「ぐでんぐでんだね瀞井くん」


 白馬有充は本来俺達と仲良くなるようなキャラではなかった。

 中学二年の頃は陸上部に所属してたが、股関節に深刻なダメージを負って引退せざるを得なかったのだ。

 その後陰キャの掃き溜めと化していた保健委員会の組み込まれ、俺達と出会ってしまった。

 そんな悲劇のヒロイン白馬を立ち直らせたのは陽太郎と嗣乃、そして白馬のことが大好物な女のお陰だ。

『大好き』ではなく、『大好物』だ。


 しかし、当の白馬は俺が一番救ってくれたと言うから不思議だ。

 何かをしてやった覚えはないんだけど。


「みんな早いね。まだ六時二十分なのに」


 時計はまだ六時半にもなっていなかった。

 俺は陽太郎共々四時半くらいに嗣乃の襲撃を受け、風呂に放り込まれた。

 陽太郎にたくさんシャンプーさせない方がいいと思うんだけど。お父さん毛量やばいし。


 そして我が家の食卓で三人揃って嗣乃作の朝食をかき込み、五時半には出発していたのだ。

 こんなに早く来た理由は一つ、嗣乃が優雅にロードバイクで登場するフロンクロスの姿を見たいというからだ。当然俺も見たかったので頑張った。

 しかし、寒すぎる。


「うぅ……さみぃ」


 高校のジャージは男女共通で緑に何本か白い線が入っている有名メーカーのパクりのようなデザインだ。

 下は同じデザインの十分丈と膝丈。なんとも味気ない。

 昔の女子は本当にブルマを履いていたんだろうか。まぁ、都市伝説みたいなものだろうな。


「んあ?」


 突然、嗣乃に肩を掴まれた。


「……時にお主、どちらに賭けるかね? クリスティーーナはロング! オア! ハーフ!?」


 嗣乃がいやらしい笑顔を浮かべていた。

 本気で人の心を読めるのかこいつ?


「ハーフに……100ペリカ。正しくはクリスティニアな」


 俺も眼光を鋭くして対応する。


「瀞井君……お身内方がまた妙なことを言い始めたよ?」

「放っておくのも一つの手段だよ」


 呆れたような白馬の声と諦めたような陽太郎の声が聴こえるが、俺達はめげない。


「同じくハーフに……100ペリカ」

「うわお!」


 陽太郎が驚くのも無理はない。すぐ背後に小さな女子が立っていたのだ。

 その背が小さいショートショートボブの少女こそ、酒匂多江だった。


「よーちん……戦場で背後を取られるとは甘いのぅ。朝の挨拶に変えて忠告しておこう」

「お、おはよう。それ、挨拶になるの……?」


 白馬も背後を取られていた。


「アタシもハーフに100ペリカ。おはよ、なっち」

「え!? うわっ!」


 今度は白馬が声を上げる番だった。

 かばっと白馬に後ろから抱きついたのは瀬野川仁那(せのかわにな)というややキラキラネームに足を突っ込んだような名前の女だ。

 女子としては背が高く、レイヤーボブだかいう髪型にギャル寄りのメイクで威圧感が半端ない。今日のところは化粧気が少ないが。

 嗣乃の友人の中では一番の陽キャだ。まぁ、表向きはだが。


「おい一晩おじさんとどうや? 小遣い弾むでぇ」


 その瀬野川仁那が、白馬の耳たぶを噛みながらパパ活オヤジのようなことを言う。


「ウチの売りもんに何さらしとんじゃコラ!?」


 嗣乃が白馬の腕をを引っ張り返す。

 面白いので放っておこう。


「あ、安佐手君助けてよ!」

「断る」


 女っ気がある奴を救い出すほど慈善家じゃねぇ。


 しかし、寒い。

 多江も瀬野川もちゃっかり暖かそうなパーカを羽織っていた。どうして馬鹿正直に校則を守ってしまったんだ。


 多江と瀬野川は同じバスに乗ってきたらしい。

 校門前のバス停に到着する便は6時から15分おきだ。部活動の生徒が利用するので、この時間でもバスの本数は異常なほど多い。

 校庭は既にサッカー部やら野球部やらが集まり、隊列を組んでランニングを始めていた。


「野球部とかサッカー部ってさぁ、一組くらいカップルいてもいいのにね」


 多江も相変わらずぶれない。


「ところ構わず腐るなよ」


 思わず嗜めると、瀬野川が呆れたような眼で俺を見ていた。


「それつっきーが言う? そろそろ自分が周囲を腐敗させてんのに気付けよ」

「は、はいぃ?」


 一体何の話だ。


「だからぁ、つっきーとよーがカップルで、横恋慕入れるつぐとなっち、更に割って入ろうとする杜太……もう見ててマジ堪んねーの! 分かる?」


 瀬野川が興奮気味に馬鹿なことを言っているのは分かった。

 ちなみに杜太は陽太郎と嗣乃ほど長くはないが、幼馴染みの一人だ。


「あははー。にーは二次元の常識を三次元に持ち込むダメな子だから勘弁してあげてよ」


 多江のあははーという間の抜けた笑いは癒やしだ。

 数秒前にサッカー部がどうの言ってたじゃねぇかと突っ込みたかったが、胸にしまっておこう。


「はぁ? あたしそこに加担しないし。従兄弟同士堀り合ってれば? あたしにはクリスティーナちゃんがいるから」


 嗣乃がそろそろ怒るかと思いきや、わりとノリノリで会話に加わっていた。


「さすがにつっきは無理かなぁ……毎日怒られっぱなしになりそうだし」

「うーん僕だったら安佐手君かなぁ?」

「「ウホッ!」」


 案の定腐女子どもが人間を捨てたような声で大喜びしてるじゃないかよ。

 性的嗜好は女性なのに男にしかモテないって最悪だな。


「な、なんで瀬野川が来てるんだよ?」


 もう少しまともな話のそらし方を考え付かないものかと、我ながら思ってしまう。


「フン、女ってのは(つる)みたがる生き物なんだよつっきー」


 身も蓋もない理論だ。

 何かしらの本心があったとしても、わざわざそこを追求しても仕方ないか。


 ちなみにつっきーというのは瀬野川が考えたアダ名だ。突然そう呼ばれて以来、皆俺のことをつっきーまたはつっきと呼ぶ。『つきびと』よりはマシだけど。

 

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