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セカンダリ・ロール  作者: アイオイ アクト
第十七話 少年に恋は理解できずとも
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少年に恋は理解できずとも-7

「はぁここまで来るだけで疲れた! サンダル買おっかな」

「あんな花魁(おいらん)みたいなやつよく履けるな」


 瀬野川の視線の先の『サンダル』はどでかいヒールが付いていた。

 正しくはウェッジソールという物らしい。


「慣れよ慣れ。でも最近ペタンコしか履いてないからきついかもなぁ」


 なるほど。

 最近瀬野川の威圧感が少ないのはそのせいか。


「仁那、サイズは今の靴と一緒でいいの?」

「え? 選んでくれるの? 任せちゃおっかな!」


 珍しく桐花が積極的だ。

 スタスタと店の奥へと行ってしまった。


「お、これ可愛い! よーしおじさんサンダル買っちゃうぞー!」


 瀬野川が即決とは珍しい。

 だが、瀬野川が裸足でサンダルをレジに持って行く前に桐花が戻ってきた。

 しかも、俺の説得をすべて無にしてしまう靴を持って。


「え? ランニングシューズ……? まぁ、見ようによっては可愛いな……うわ! 何これ!?」

「ベアフットっていう、ソールがすごく薄いランニングシューズで」


 わーすごーい。桐花さん詳しいねー。

 俺の身を削った説得をぶち壊してくれてありがとう。グスン。


「ぷっくく……! 元気出せよ。つっきーの説得はアタシの心にちゃんと響いてるから……な!」


 嘲笑しながらフォローって器用ですね、瀬野川さん。


「あ……ご、ごめんなさい」


 俺や桐花のように内向的な人間にありがちなミスだ。

 自分の知識が役に立つと思うと、周りを見ずに突っ走ってしまう。


 きっと桐花はこの種の靴に思い当たって、そこからは俺と瀬野川の会話なんてろくに耳に入っていなかったんだろう。

 まぁ、桐花に気を遣っても仕方がない。

 ちゃんと瀬野川に選ばせよう。


「で、どっちを選ぶんだよ? さっきのサンダルか、そのベアなんとかか」


 瀬野川が試着したシューズをドンと目の前に置いてやった。

 見た目よりは軽いが、俺のスニーカーより重たい。女子って大変だな。


「……え? ちょっと桐花、これほんとにつっきー?」

「多分……?」


 ひどい。俺だって決める時は決めるのに。


 選択肢は二つ。

 ベアフットを選んで互いの身長というコンプレックスをまだ誤魔化し合うか、気に入ったサンダルを選んで身長差という引け目をすべて受け入れるか。


 瀬野川が店員を呼び止めた。

 そして、姿見の前で自分の出で立ちを確認した。


「うーん。意識高い系ジョギング女みたいでいいかも」


 いいのかよ。

 結局、瀬野川が選んだのは桐花が持ってきたベアフットだかいうランニングシューズだった。


「それ、ずっと履き続けてあいつに会うのかよ?」


 不満に任せて言葉をぶつけてしまった。


「ちょ、桐花! これつっきーと違う!」

「多分違わないから、安心して」


 一応人間だから『これ』って言わないでいただきたい。

 あと桐花もノリノリで返答しないで。


「……ごめん。今はせっかく桐花が選んでくれたから、こっちにしたいの」


 なんだよもう。

 瀬野川は自分が選んでもらった経験があまりないのかもしれない。

 俺も含め、皆瀬野川の目利きに依存している。

 桐花は案の定、喜んで良いのか悪いのか分からないという顔をしていた。


「えっへっへ! つぐに言ったらどうなるかね? 桐花に靴選んでもらっちゃったって」

「面倒なことになるからやめろよ……それより」


 瀬野川は俺の言葉を遮るように携帯を取り出した。


「あ、つぐー? 今終わった。早かったっしょ? だって桐花に選んでもらったんだもーん!」

『てめーふざけんな! そこ動くんじゃねーぞ!』


 声でけぇ。普通に聞こえたぞ。


「もう話すことはないってか?」


 まだ話は終わってないぞ。

 白馬の気持ちはどうなるんだよ。


「ふぎぇ!」


 桐花に両手で顔を挟まれ、ぐいっと首を瀬野川と反対方向へ向けられた。


「そんな顔しないで」


 桐花に小声で指摘されてしまった。


 羅刹のような顔を嗣乃はもう既にこちらへ向かってきていた。

 陽太郎と白馬に左右の腕を押さえられながら。


「つぐぅ! ほぉーれ!」

「え!? なにそのうすっぺたいの? 桐花! あたしにも!」

「嗣乃、声が大きい!」

「いーの! はい、よーとつっきもカマン!」


 陽太郎にたしなめられても声がでかいままなのは、なんらかのアピールなんだろう。


 いつの間にか、白馬が瀬野川の前に立っていた。

 確かに邪魔者は退散すべき場面だった。


 でも、俺はこの光景を素直に喜んで良いのか分からなかった。

 本当だったら、もっと早く訪れた光景なのかもしれない。

 俺が余計なことをしなければ。


「いでっ!」


 また桐花に首をひん曲げられた。

 そうだな。今の俺に二人を見届ける権利はないよな。

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