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セカンダリ・ロール  作者: アイオイ アクト
第十七話 少年に恋は理解できずとも
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少年に恋は理解できずとも-5

 結局、瀬野川は泣く泣く白馬に従った。

 瀬野川は異常なほど白馬に従順だ。

 どうして白馬と良い関係になろうとしないんだか。


 お化け屋敷は期間限定の安普請とは思えないほど、良い雰囲気を放っていた。


「瀬野川、グループ入場だから陣形決めなよ」


 陽太郎に促されるままに、瀬野川は俺達を好きな位置に並べた。

 先頭に陽太郎と俺、中央に瀬野川と白馬、そして殿(しんがり)には嗣乃と桐花という陣形のようだ。


「め、メンバー足りなすぎ! アタシの左右にあと二人欲しいのに!」


 無茶を言うな。

 最後に瀬野川は白馬の背中に回り、白馬のジーンズに通ったベルトをがっちり掴んだ。


「ちょっと! 歩きにくいよ!」

「だってなっちが一人で待ってろとか言うから! 責任取ってよ!」

「仁那、うるさい!」


 嗣乃の声も十分うるさい。


「桐花ぁ、恐かったらだっこしてあげるからねぇ」

「や、やだ!」


 嫌がってはいるが、桐花が一番信頼しているのは嗣乃だ。

 その証拠に、桐花は嗣乃の手を離そうとしなかった。


「よー、他人のフリしようぜ」

「うん。せっかく先頭なんだし、最悪ダッシュで逃げよう」

「いいよ別に。あんたらなんていらねーし。あたしは桐花といれば幸せだしぃ」


 桐花さん、嗣乃の手を握りながらも怯えてるね。

 でも助けるのはちょっと無理かな。


「六名様、お進みください」


 笑いをこらえる係員さんに促され、中に入った。

 恥ずかしい。

 背後のドアが、わざとらしいくらいに大きな音を立てて閉まった。


「ギャーーー!」

「仁那ちゃん! ちょっと引っ張らないで! 転ぶよ!」


 入って一秒で耳が痛くなった。


「廃病院パターンかな?」


 陽太郎の言うとおり、最初のエリアは病室だった。


「ちょっと生臭い匂いの演出入れてるよね」


 嗣乃も冷静に評した。


「れ、冷静過ぎるんだよテメーら! なんかありそうだったら言えよ! 絶対言えよ!?」

「仁那ちゃん、ちゃんと歩かないなら離してよ!」

「やだ! これ以上なっちに裏切られたら死んでやる!」


 お化け屋敷の外観は良かったのに、思った以上にクオリティが低かった。


「瀬野川、コンプレッサーの音がするよ」


 陽太郎が冷静に伝えた。


「え!? どこで!?」

「タイミングまでは分からないよ。うわっ!」


 先頭の陽太郎と俺がエアブロワーの洗礼を受けた。なんだこの安い演出は。


「瀬野川、なんか来るよ」


 カチャンカチャン。

 安いおもちゃのような音がした。


「うひぃ! 何!? 何!? ギャーーー!!」

「ひっ!」


 お、桐花も少しびっくりしたらしい。


「仁那ちゃん、耳が痛いって。お茶を運ぶからくり人形だよ」


 なんで廃病院にからくり人形。演出担当は何を考えていやがるんだ。



「アアーーー! ギャァーーー!」


 しかも、そこから先は生身の人間のゾンビ攻撃だった。


「ごほっ! ごほっ! うひぃ……!」

「に、仁那ちゃん、大丈夫?」

「もう……無理」


 鋼の喉を誇る瀬野川は限界を迎えていた。

 白馬の耳も限界を迎えていそうだ。


 美少女にこれだけ叫ばれて、ゾンビチームの皆様はさぞかし自信を得ただろうに。


「うお! 瀬野川、この先床が柔らかいから気をつけろよ」


 はぁ、ネタバレをしているみたいで心が痛むな。


「へ? どこ!? どこから!? うわっ!」

「うわ、に、仁那ちゃん放して!」

「仁那! 放して!」


 振り返ると、瀬野川の転倒に嗣乃と白馬が巻き込まれていた。


「い、イヤァーーー!」

「あだだだ! 仁那! あたしの! あたしの髪の毛!」


 嗣乃の髪が顔にかかって驚いたらしい。

 瀬野川自身が手塩にかけて育てた黒髪を恐れるとは。


「瀬野川、一度後ろに引っ張るから」

「無理ぃ!!」


 その程度も嫌ってなんなの。


「桐花、瀬野川を引っ張ってくれ。よーは嗣乃を頼む」


 そして俺は瀬野川の下敷きになった白馬を引っ張り出した。


「はぁ、ありがとう、安佐手君」


 瀬野川は抵抗を止めていなかった。


「やだ! 戻りたくない!」

「ご、五十センチだけだから!」


 抵抗する瀬野川を桐花が羽交い締めにして引っ張った。


「靴脱げたーー!」

「うっ!」


 瀬野川の大声に、桐花が苦悶顔を浮かべた。

 靴はすぐ桐花が見つけたが、ソールが前後に割れて剥がれ落ちていた。


「早く履かせて! こんなところ素足じゃ無理!」

「は、履けない。ソールが」

「仁那ちゃん、靴はあきらめてちゃんと立ってよ。肩貸すから」


 桐花は瀬野川のスニーカーを携帯のライトで照らしながら、じっと見ていた。


「どうした?」


 桐花が差し出した瀬野川の靴は、ソールが薄くなるまで削り込まれていた。

 なんて細工をしているんだ。

 本当に、瀬野川が分からなくなってきた。

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