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セカンダリ・ロール  作者: アイオイ アクト
第十七話 少年に恋は理解できずとも
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少年に恋は理解できずとも-3

「何黙ってんだテメェ。もう一度言うぞ。なんで多江ととーたが遠出してるんだ? アンタ抜きで」

「え? せ、瀬野川の半身ってどれくらいいるんだよ?」


 ストレートな質問から話題をそらしたかったが、無理だよなぁ。


「んー? 半身ねぇ。多江以外はつぐと……じゃなくて。どうせオメーが関わってんだろ? さっさと吐けコラ」


 質問攻めはある程度覚悟してたが、おデートなんて言葉は使わないで欲しかった。


「いや、そりゃ、うっかり予定被らせて……よーと嗣乃と桐花でサイクリングに行く予定だからファンネルを貸した、というか」


 しどろもどろというのは今の俺のしゃべり方を言うんだろう。


「なにそれ? つっきーさぁ、つっきーがだよ? つっきーごときがよぅ、多江よりも優先する予定あっていいとでも思ってんの?」

「仁那ちゃん!」


 瀬野川の表情は冷静だった。

 多江が大事なら、愚にもつかないを質問する前にこのキモヲタを早めに屠っておくべきじゃなかったのか。


「え……と」

「あ? もごもごしゃべってんじゃねぇよ」


 当たり前だ。

 一番この状況に納得してないのは俺だぞ。

 思った相手の隣にはいられなくなり、珍しく新しいことに挑戦しようと意気込めば雨に阻まれた。


「……な、なんか、多江から相談されたのか?」

「されてねーのが問題なんだよ! てかなんでオメーがここにいるんだよ!」


 目を合わせずにイライラをぶちまける瀬野川なんて初めて見た。

 多江から何も相談されていないことに傷ついているんだろう。


「アタシまじでストレスでハゲそうなんだけど!? アンタが一緒ならまだしもとーたと遠出するってどういうことだよ!?」

「は、はいぃ?」


 おかしい。話の方向性がおかしいぞ。


「アンタと多江は何があったのよ!?」

「へ? そもそも何もないけど」

「ハァ!?」

「大きい声出さない」


 白馬の冷静な指摘に口をつぐんだ。

 瀬野川は制動装置役に白馬を残したんだろうな。


 混乱している瀬野川を冷静にさせる方法はあるだろうか。

 まぁ、冷や水を浴びせてみるしかなさそうだ。


「瀬野川」

「あによ!?」

「……これ以上惨めにさせないでよ」

「ハァ!? あ、あぁ……ごめん」


 急に瀬野川の怒りがしぼんだ。


「まぁ……分かってたけど」

「分かってたなら言わせんなよ」


 まずい。

 俺の方が感情をコントロールできなくなってきた。


「だ、だって、アンタが多江と一緒に行くってんならこんな心配にならないのに!」


 まるで多江のオカンだな。

 杜太には東京に着いてからのルートに列の並び方からすべて仕込んである。

 言われたこと以上のことをしない杜太の方がずっと安全だ。

 それにだ。


「……俺は多江の保護者じゃねえよ」

「んなこた分かってんの!」


 分かっているならなんでそんな話をしてんだよ。


「ま、まず何が知りたいんだよ?」

「オメーの知ってること全部」

「抽出条件がデカすぎる」

「多江ととーた」


 う、難しい。

 杜太の多江への気持ちは口止めされている訳ではないが、どうにも伝え辛い。


「も、もう少し狭めてくれ」

「とーたは多江のことどう思ってんの?」


 瀬野川の目に冷静さが戻っていた。


「……た、多分、瀬野川の思ってる通りだよ」

「ほぉう」


 惨めだ。自分でまいた種なんだけど。


「つっきーはそれで大丈夫なのかよ?」

「は? 俺?」


 気に障る返答だったのか、瀬野川が思い切り自分の鼻の穴に人差し指を突っ込んで弾いた。

 瀬野川の女子にあるまじきストレス行動だ。


「アタシがつっきーを心配すんのがおかしいかよ? アンタは大丈夫なのかって聞いてんのよ!」

「……大丈夫じゃねえよ」


 あら、本音が出てしまった。

 俺の理性が本音ではないと主張しているが、残念ながら本音だ。


「はぁ……多江は大丈夫なの?」

「はい?」

「だから、多江はアンタじゃなくても大丈夫なのかっての! 今のアンタと同じくらい多江が傷ついてるとかねーだろうな!? やることやった挙げ句に音楽性の違いでコンビ解消とかねーだろうな!?」


 音楽性の違いって何だ?


「要するに俺と多江が、その、どうこうなってからお別れなんて状態だと思ってるのか? それで、俺が多江を傷つけたかって話しだろ?」

「多江ちゃんが安佐手君を傷つけてないかってことも心配なんだよ」


 白馬さん優しい。一生付いていきたい。


「あ、安心しろよ。あいつは俺がそういう目で見てたこと自体、気付いてねえよ」


 どうしてこんな事実を口に出して言わなきゃいけないんだ。

 だけど、話せば話すほど自分の中のわだかまりが消えていく。


「はぁ? 多江が?」

「瀬野川の言う男女関係が友達関係の、その、なんてか、上位互換だっていうなら、そこまで進んだことないし、多江はそんなことを俺に求めてなんかなかったっての。俺は……ちょっとは求めてたけど」


 盛大にため息を吐く瀬野川が少し腹立たしい。


「はぁ、アンタから本音引き出す作業めんどくさ。わざわざアイツら遠くに行かせたのに帰ってきちまうだろ」


 瀬野川の視線は遠くを見ていた。


「ま、アンタのことは置いといて、多江の奴が悩んでたのはなんでよ? とーたと出掛ける程度でさ。アンタとしょっちゅう東京行ってんのに」


 例祭で狼狽しきった多江のことを言っているんだろう。


「男とも思ってない奴と遊びに行くのと、イケメンでしかも自分に向けて好き好きビーム撃ち込みまくってる奴との差だろ」


 あ、言っちゃった。杜太、すまん。


「マジか……いや、マジだよなぁ」


 瀬野川はちらっと俺の顔を見てから、再び目を逸らしてしまった。


「はーあ。アンタらのこと、勘違いしてたわ。多江はいい相手に巡り会えて羨ましかったんだけどなぁ」

「お、俺が?」

「アンタら趣味合うし、ヲタ隠す必要もないし、毎日飽きもせずにくっちゃべってってさ。そんなに気の合う相手いる? なんでよ?」


 何を言っているんだこいつは。

 そろそろ夢から覚ましてやろうか。


「そんな相手いねえよ」

「はぁ!?」

「そんな相手になれなかったからここにいるんだろ。俺は」


 なんだか変な台詞回しになってしまった。

 瀬野川の顔が般若のように引き歪んだ。


「んなこと分かっ……分かれっての!? ほんとに分かんねーし!」

「……仁那ちゃん」


 怒気をはらんだ白馬の声に、瀬野川がひるんだ。


「ご……ごめん」


 はーあ。

 瀬野川にはこんなに呼吸の合う相手がいるのに、なんで陽太郎なんかを。

 しかも、それを態度に全く出ていない。


 先程白馬が制してくれたのは助かると思う反面、申し訳なかった。

 白馬も今、似たような気分を味わっているはずだ。

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