少年に恋は理解できずとも-1
引きこもりには梅雨なんて、エアコンの温度をどう設定するか悩ます程度のものでしかなかった。
二重ガラスの向こうで雨が降ってはいるが、部屋を出なければ関係なかった。
しかし、俺は今日初めて雨を呪った。
どうして今日に限って雨が降るんだ。
昨晩から降り始めた雨は今でこそぱらぱら程度だが、今日は大雨注意報が発令されていた。それこそ、東京のイベントへと出発した多江と杜太が少し心配になるほどだ。
桐花発案の自転車の旅は、昨日早々に桐花自身から中止を申し渡されてしまった。
まぁ、良いか。
このまま布団の中でランゴリアーズに体を食われて時間の藻屑と消えて行っても、大して問題ない人生だ。
しかし、我が家の階下は嗣乃が騒がしく動き回っていた。
年を追うごとに、雨は外出への抑止力になってくれなくなるものだ。
俺達はもう高校生だ。
先日の祭りのバイト代で多少の金もあるから、屋根のある場所で遊べてしまう。
だが、今日の俺は! ベッドから! 絶対に! 動かない!
ドアが開く音がした。
忍び込んでいるつもりか?
頭に腕が回された。
え? ヘッドロックはちょっと悪質過ぎやしないか嗣乃さん?
しかし力の入れ方が中途半端だ。
「何野郎の後頭部に乳押し付けてんだよつぐ……」
あれ? 嗣乃さん目の前にいらっしゃる……?
今の腕と後頭部の感触って。
バタバタと走り去る金髪が見えた。
「この馬鹿!!」
「あだぁ!?」
嗣乃の鉄拳が頬骨と鼻の間に食い込んでいた。
理不尽なんてレベルではなかった。
「あ、ごめん! きれいに入っちゃった!」
なんで? なんでこんな仕打ちを受けなきゃならんの?
嗣乃が考えたいたずらで嗣乃に制裁されるっておかしくないか?
なんだか俺の人生の縮図を見ているような事態だな。
 




