少年達が停滞しても、祭りは進む-3
案内所のエアコンが、命を吹き込んでくれるかのようだった。
あの後は軽い地獄だった。
能舞台前の座席撤去や、運営テントの解体という重労働の連続だった。
酔っ払った町内会のおじさん達があぁせいこうせいと適当な指示をしてくれるせいで、余計な時間がかかってしまった。
「いやぁ、疲れたねぇ」
自称ネガティブ思考の陽気な交野さんも、流石に疲れていた。
「いつもこの時間は撤収に借り出されちゃうんだよ。あのジジイどもは自分達が呑む時間を確保するのに躍起だから」
もう飲んでるのにまだ飲むのか。
交野さんの愚痴を聞きながら、多江の残したメモを元に案内板の花火観覧席の拡張状況などの情報を更新した。
しかし、メモの最後の一文に『19時から』と書いてあったので慌てて戻した。
『何時から』って情報を最後に書かないでくれ。
「いやー、さっきのさがわさん? あの子も面白いねえ!」
ケタケタ笑いやがって。
「多江ですか? さかわですよ」
「あ、さかわさんかぁ。あらやだ下の名前で呼んでるの? 君の本命誰なの?」
「画面の中ですよ」
やっぱり多江はここに居たか。
多江が先程の無線を聞いたかが気掛かりだ。
「そっかぁ。でもさがわちゃんってさー、PCの画面からずずずっと出て来たみたいな子だよね! ああいう子好みだったりしないのん?」
「な、なんですかその擬音?」
多江が貞子だったら喜んで殺されるよ。
「素っ気なーい! ほんとは好みなくせにー!」
うるさいなぁこの人は。そうですよ。
裏口のドアが開かれてびくっと体が跳ねた。また昨日みたいな事件はごめんだ。
「つっきー頑張っとるけ? 甲冑姿の陸上部全員脳内乱交させて鋭気を養ったあたし達が来たからには安泰だぜぃ!」
多江かと瀬野川か。驚かせやがって。
ヲタバレをしたくないらしい瀬野川は多江の残念な宣言に乗らず、沈黙していた。
「瀬野川、この人依子先生の旦那だから」
「え? そうなの? イケる口なんですね! あ! 奈々様ストラップ!」
なんだイケる口って。
交野さんがこちら側だと分かった瞬間、一気に打ち解けていた。
「えーまじで? やっぱ先生ってエロいんですかぁ?」
馬鹿か瀬野川! 俺も興味あるけど!
「いやぁ、非モテとしては比較対象がいないからなんともねぇ」
普通に答えるなよ。
「花火の場所取りですか? 第一会場は仮設トイレ側に三十メートル拡張するんで今から行って待ってるといいですよ」
馬鹿な会話が交わされる中、多江は普通に接客を開始していた。多江、恐ろしい子!
多江の変わらない態度に、あの無線連絡は聞かれていないという確信は持てた。
でも、感慨に浸っていても仕方ない。
急いで瀬野川に仕事を説明して、自分も前に立たねば。