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セカンダリ・ロール  作者: アイオイ アクト
第十五話 少年達が停滞しても、祭りは進む
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少年達が停滞しても、祭りは進む-1

『ええっと、聞こえるかな?』


 旗沼先輩の顔が画面に映った。

 ノートパソコンに内蔵されているカメラを使うのは初めてだ。


「は、はい。聞こえます。明日の件ですか?」


 この人丸々してるけどイケメンだよなぁ。

 しかも最近は少しずつ体重が減っているのか、シュッとしてきた。


『こんな遅い時間に相談してごめんね』

「ええと、なんでまた俺……僕なんですか?」


 画面の向こうで旗沼先輩がくすくすと笑った。


『業務を把握しているのは君だって山丹さんが太鼓判を押すからね』


 はにかむ笑顔が絵になる兄さんだな。

 俺がやったら気味悪がられることを平気でやってのける。


「話を進めさせてもらうよ。今日の事故についてはやはり看過できなくて、交野先生に報告する上で改善策を練る必要があるんだ。まず人員配置についてだけど、山丹さんは二名のフォローを担当していたんだ。中国語のサポートで私立の留学生の方と、英語サポートの向井さんの二人なんだけど」


 中国語って北京語とか広東語とかいろいろ種類があったような。

 それは気にしても仕方ないか。


「ここからは私情をはさむど、いいかな?」


 旗沼先輩の声が突然フランクになった。


「まず、向井さんにはあの後謝罪しておいたんだけど、湊は対人恐怖症を克服したいという私情で仕事割りを決めてしまったんだよ。外国人は特に苦手で」

「は、はぁ」


 なるほど。

 苦手克服のために桐花を頼ったのか。


「本来、海外からの取材は大人の通訳ボランティアさんが担当するんだ。だけど、その取材班の方が向井さんに是非案内して欲しいっていうから、それを湊が許可してしまったところに今回の原因があるんだ。当初は男性二人女性一人だったから、向井さんもそんなに恐れてはいなかったらしいんだよ。僕としては誰も責められないと思うんだけど……どうかな?」


 それは同意できる。

 どう考えても、今後絶対に起きない類の事故だ。

 桐花自身は恐怖を感じたというよりも、とっさに逃げてしまうという失礼な行為をしてしまったことに落ち込んでいた。


「桐花はともかく、山丹先輩は大丈夫なんですか?」


 旗沼先輩が少し考え込む様子を見せた。


「うん、大丈夫じゃない……とは言いたくないんだけどね。体が弱いのは知っての通りなんだけど、メンタルもかなり弱いんだ。以前におも、仕事が終わった瞬間に気が抜けてああなったことは何度かあるんだ。害は無いから看過して欲しいんだけど」


 桐花は思い切りタックルを食らっていたけど。

 しかし、山丹先輩は知れば知るほどすごい人だ。


「よく委員長やれますね……本当にメンタル弱いんですか?」

「弱いからこそ抜かりなく仕事をするんだよ。その点は僕も同じだし、失礼を承知で言うと、安佐手君も向井さんも同じだよね?」


 あまり意識はしていないがそうかもしれない。

 周りをよく見てしっかり準備をするのは桐花に学んだ。


「それで、やはり配置転換をやはりしないといけないと思うんだけど……」


 やっぱりか。

 でも、それについては反対だ。


「いえ、必要ないと思います」


 我ながら良い感じに台詞を言えた。

 画面の向こうで旗沼先輩が笑みを浮かべた。


「……その言い訳を一緒に考えてもらえるかな? 合理的にね」


 格好良い感じに言ったつもりなのに弾かれた!

『イケメン返し』とでも名付けようかしら。


「理由……ですか」


 む、自然に出た台詞だけど、ちょっと格好良いかも。

 しかし、これはいかん。

 くだらないことを考えているのは集中力が落ちている証拠だ。

 無意識からのシグナルを逃すな。


「この私語は日当が出ているからね。ボランティアさんより僕達の方が責任が重いんだよ。再発防止策は示さないと」


 うぅむ、プレッシャーがでかいな。

 再発防止策か。企業の不祥事会見でしか聞いたことがない言葉だ。

 俺が考えた解決策をそのまま言ってしまって良いのか迷うが、仕方ない。


「えと、申し訳ないんですけど、山丹先輩に被ってもらうしかないと思います。ルールを破ってお客さんの要望に応えてしまったので」


 うんうん、と旗沼先輩が首を縦に何度か振った。


「そうだね。率直で助かるよ」


 言葉に反して旗沼先輩の表情は複雑だった。

 条辺先輩は良く分からないが、旗沼先輩と山丹先輩は同級生や友人に止まらない関係にはありそうだ。

 でも、甘くするつもりはないらしい。


 旗沼先輩は例のお嬢様私立に彼女がいるという話もあるのが気になるけれど。

 ハーレムエンドでも目指しているとしたら俺の趣味に合わないな。


「ちょっと交野先生に相談してみるよ。あ、もちろん君の意見だとは言わないから」

「あ、いえ、言っても大丈夫です。渋るなら僕も説得に参加します」


 安易に悪者を演じられるキャラクターというのも、俺のようなブサメンの存在価値の一つだ。

 なんて、脳内で格好付けてみたいお年頃。


「場合によってはそうさせてもらうよ。ありがとう」


 話はまとまったが、欠席裁判に関わってしまった気分だった。


「あの、こんなこと、本人がいない所で話していいんですか? 仕事割の担当者はそもそも山丹先輩とよーですし。よーならここに呼んで来れますけど」

「うん。湊は一応僕に担当者を譲るのも改善提案に付け加えるからね。瀞井君は抜けた君のサポートをしてくれた上にポスター撮影まで貢献してもらえているし。そして安佐手君は……」

「僕? 僕については何も言わなくていいです!」


 面と向かって暇そうな人みたいなことを言われたくないんだよぉ。


「え? う、うん。そういうことならこれからも頼りにさせてもらうね。今回のケースについては向井さんは被害者だからペナルティはないし、安佐手君が一人で解決してくれたって交野さんが高く評価してたよ」

「そ、そうですか」


 評価すべきはその後も仕事を続けた桐花だと思うんだけどなぁ。


「では、そろそろ寝ようか。午前中にまた話をしないといけないかもしれないけど。後輩を頼ってしまう駄目な先輩で申し訳ないよ」

「あ、いえ、そんなことはないです……失礼します」


 はぁ。お金が発生する仕事って大変だ。

 バイトしているクラスメイトはどうやってそのプレッシャーと戦っているんだろう。

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