過保護少年と脱走少女-2
祭り囃子と蝉の声は相性が良いな。
何をポエミーなことを考えているんだ俺は。
詩人化もまた中二病諸症状の一つなのかもしれない。
そんな中二病全開の俺の現状を簡単に表現すると、全く動けなかった。
フロンクロス家の縁側から、動く気が起きなかった。
床には俺の形の汗溜まりができてしまいそうだが、後で拭くから勘弁していただきたい。
広い居間では、男女十数名が死んだように寝ていた。一応ふすまで分けられているとはいえ、無防備なもんだ。
強いエアコンと人混みが苦手な俺には少し辛い空間だった。
「うお?」
金髪のブルドーザーに、数メートル位置を動かされた。
相変わらず力強いな。
風が通る特等席まで動かしてくれたらしい。
桐花も俺から少し離れた隣に倒れ込んだ。
「ちっ、先客がいたか」
嗣乃の声だ。
「桐花ー! 抱っこー!」
嗣乃がそのまま桐花の上に倒れ込んだ。
「えへへー!」
「あ、暑いよ!」
嗣乃の遠慮のなさは無茶苦茶だな。
「なんだ、みんな考えてることは一緒か」
そういえば、もう一人エアコンが苦手な奴がいた。
陽太郎も縁側の魅力に引き寄せられたらしい。
「嗣乃、困らせない」
口を尖らせた嗣乃が桐花を解放した。
「羨ましいって正直に言えばいいのに! よー、膝まくら」
「しないってば」
陽太郎も俺達にならって寝転がった。
不満顔の嗣乃が匍匐前進で陽太郎に這い寄ると、そのまま肩に噛みついた。
「痛った! なんでいつも噛み付くんだよ!」
「ストレス」
嗣乃は触れ合いを拒否されると噛みつくので注意が必要だ。
「桐花も気をつけろよ。こいつ噛むから」
ちょっと驚いた顔をして見ていた桐花だが、何を思ったか嗣乃へと這い寄って二の腕にかぷっと噛み付いた。
桐花も人肌恋しいと思うんだろうか。
「そんな噛み方じゃチューしてるみたいだよぉ?」
煽らない方が良いと思うんだが。桐花の咬合力は絶対恐ろしいぞ。
「お、お水取ってくる!」
桐花は相変わらず色っぽいワードに弱い。
突然立ち上がって、水のペットボトルを四本持って戻ってきた。
「ぶはぁ……縁側っていいなぁ」
ペットボトルの水すら美味く感じてしまう。
「年寄りくさいよ」
うるせぇ。
陽太郎の感受性が心配になってしまう。こんな素晴らしい場所なのに。
桐花は心なしか得意げだった。
その顔を見ていると顔がほころびそうになるが、気持ち悪がられそうだから我慢だ。
「ありがとー! うはー水うめぇ! こんどさ、ここでガリガリくん食おうよ! 絶対美味いよ!」
嗣乃が大げさに喜ぶ。
良い提案だ。桐花さえ良ければ実行しない手はない。
「嗣乃、声が大きい。みんな寝てるんだから」
俺も忘れていた。
縁側に小さな日本庭園という心休まる雰囲気に飲まれていた。
他の連中に遠慮がある訳じゃないんだが、陽太郎と嗣乃はやはり特別だ。
でも、不思議なのは桐花の存在だ。
居てくれないと寂しく感じるくらい、俺達の中に溶け込んでいた。
もっと早く出会えていたらという思いに駆られてしまう。
それこそ、俺達がまだ小さかった頃だったら。
「なーんか昔からこうしてたみたい」
嗣乃も同じ気分でいたのか。
物心がついたばかりの頃、三家族は揃って県営住宅に住んでいた。
住んでいる階こそ違ったが、三人でいない時なんてほぼ無かったと思う。
一人が転べば、必ず二人も巻き添えになっていた。
一人がインフルエンザにかかろうものなら全員に感染った。
そんな三人のハナタレ小僧が馬鹿な遊びに興じていた時も、桐花はたった一人でこの縁側で涼んでいたんだろうか。
そして、あの神社の隅っこで一人涼んでいたりしたんだろうか。
気がつけば、桐花の上半身は床に付いていた。
ペットボトルを手に持ったまま寝息を立てる桐花の手から、ペットボトルを引き抜いてキャップを締めた。
「あたし口付けようとしてたのに」
「やめろ変態」
相変わらず気持ち悪い。
嗣乃がもぞもぞと移動していた。
桐花を救出したくても、眠気が勝ってしまう。
「な、何?」
「ちょっとだけお願い。あたし縁側で金髪の美少女膝枕したいって人類共通の夢を叶えたいの!」
「び、美少女じゃない」
「主観的評価は受け付けませーん。はい、乗っけて」
桐花が戸惑いつつも頭のおかしいことを言う嗣乃に従った。
嗣乃の膝に頭を置くと、すぐに両目を閉じてしまった。
「えへへ。またこういうことしようね、四人で」
嗣乃は欲求を満たしたいという気持もあるんだろうが、今回ばかりは桐花が蚊帳の外にならないようにしているんだろう。
寂しがり屋の嗣乃らしい配慮だ。
「向井、すぐ馴染んじゃったね」
「ん? うん」
陽太郎も同じ感想を抱いたようだ。
こんなに早く馴染めるんだったら、もう少し早く会えても良かったのに。




