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セカンダリ・ロール  作者: アイオイ アクト
第八話 『クリスティニア』が『桐花』でいるために
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『クリスティニア』が『桐花』でいるために-6

 結局、要望書の仕分けが終わって家にたどり着いたのは夜の七時前だった。

 一人で自転車を漕ぐ暗い夜道は、それまで高揚していた俺の気持ちを下げるには十分だった。

 頭の中を蝕んでいたのは白馬への申し訳なさと、向井桐花からの重すぎる感謝だった。


 だから現実は嫌なんだ。

 こういう山場みたいな展開はせめて日に一度くらいにしてくれ。

 なんで同じ日に一気に襲って来るんだ。


 白馬の件についての言い訳ならいくらでも浮かぶ。

 今のタイミングで白馬が瀬野川に思いを打ち明けたら、結局うまくいかないかもしれない。白馬は俺に感謝すらしていたじゃないか。

 でも、気持ちは全く晴れなかった。


「……なんで多江から逃げちゃったんだよぉ……」


 夕食後、真っ暗な自分の部屋の中で一人呟く。

 俺が多江から逃げなければ、白馬は余分な事実に心を揺さぶられずに済んだんだ。


 一体俺は誰を頼れば良いんだ。

 陽太郎と嗣乃に相談できないのがこんなに辛いとは思わなかった。


 今この無茶苦茶に点と線が絡む輪……いや、陽太郎を中心に整然とした星状の放射状の図に関わり合いがないのは誰だろう。

 俺と向井桐花だけだ。

 向井桐花はまだ付き合いが浅いので除外するしかあるまい。

 そうなると、俺には誰にも頼る相手が居ないってことになる。

 でも、誰か居たところで頼るという選択はしないだろう。


「うえぇ……どうすりゃいいんだよ……うおっ!」


 携帯が鳴った。


『至急ヘルプ求む。とーくん促成栽培』


 多江からだった。

 促成栽培というのは新たにネトゲを始めた新入りのキャラクターをハイレベルなキャラクターで護衛しつつ、一気にレベルアップさせることだ。


 護衛が多ければ多いほど経験値をたくさんくれる強い敵がいる場所へ行き、一気に経験値を貯めさせることができる。

 しかし杜太、その距離の詰め方は間違っている気がするぞ。生身で近づけよ。


 立ち上がって部屋の灯りを点けた。

 張り詰めていた気分が少しだけ緩んだ。

 わざわざ暗い場所で暗いことを考えていたら落ちる一方なんだな。


 向井桐花の件だってそうだ。もう一度考え直してみないと。

 人にこれ程深く感謝されたことなんてない。

 俺みたいな奴でも人の役に立つことはあるんだな。

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