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セカンダリ・ロール  作者: アイオイ アクト
第四十話 少年と少女、苛烈なる現実に引き戻される
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少年と少女、苛烈なる現実に引き戻される-1

 痛い。

 小さな万力が俺の手首を掴んでいた。


「あの、仕事しにくいんだけど……?」


 どうしてこんな苦行を強いられるんだ。

 スマホで入力しようかしら。


 俺と桐花は大っぴらに正門から自転車に乗って帰ってきたことを依子先生に咎められ、小会議室へと放り込まれた。

 未作成らしい二日目の報告書の作成指令つきで。


 報告書のとりまとめは嗣乃の仕事だったが、尻拭いは委員長の仕事だ。

 依子先生の怒りは甘んじて受けるよりなかった。


 しかし、本来二人以上で作業に当たるべき報告書作りは難航していた。


「は、離してよ」

「うるさい」


 まぁ、怒っている理由なんて明白なんだけど。

 俺が嗣乃を抱きしめて、俺を選べみたいな言い方をしたからだ。


 もちろん桐花は言葉尻を捉えるようなことはしないが、気持ちの上では納得できないだろう。でも、仕事はして欲しい。


「そろそろ外行こうよ」

「うるさい」


 桐花も自分の中で葛藤しているのは分かる。

 本当は刺々しい態度なんて取りたくはないとは思う。


「手が止まってる」

「お、お前そもそも手すら動かしてないだろ」


 やっと手が離れた。

 仕事をしていないと指摘されるのは桐花の沽券に関わるんだろう。

 本当は俺も外になんて行きたくなんだが。

 だけど、二人きりという状況を変えなければ自分の下劣極まりない雄の部分が抑えきれなくなってしまいそうだった。

 でも、少しくらい仕返しても良いか。


 欲望のままに、桐花の顔へと手を伸ばした。


「……な、何?」


 何となく、桐花の耳に触れてみた。

 耳たぶがほぼない、かちっとした耳だった。


「えと……え……?」


 そのまま手を横にスライドさせ、眉間に触れてみた。

 日本人は眉間が少し凹んでいるが、桐花の眉間は鼻筋まで平坦だった。

 鼻に触れるとしっかりと筋が通っていて、鼻先まで骨があるかのように硬かった。


「あ、あうぇ?」


 唇はとても薄い。

 指で触れると、少しかさついていた。

 それをなんとか目立たせていたリップは少し落ちていた。


 この唇に自分の唇が重なったのか。

 現実感がない上に、罪の意識さえ覚えてしまう。

 両手で頬を押さえ込むと、ひんやりした感触が戻ってきた。


 おでこは顔の大きさに対して少しだけ広い気がする。

 顔が本当に小さい。

 顔の縦の長さが横とあまり変わらないからか、尚更小さく見えてしまう。

 瞳を改めて凝視すると、閉じられてしまった。

 まつげは黒っぽいけれど、触れると茶色いことが分かった。


 しかし、いつまでされるがままにしているんだ。


「怒らないの?」

「……どうして?」

「いや、えと、男に触らせるのは……」

「あなたなら、いい」


 女の子に『あなた』と呼ばれるのは心臓に悪いよ。

 桐花が少しだけ顔を動して、俺の唇に自分の唇を触れさせた。

 機嫌は直ってくれたかな。


『学園祭を、お楽しみの学生の皆様へ』


 だが、良い雰囲気は放送に阻まれてしまった。


「あ、外行こう」

「どうして?」


 どうして俺はこの雰囲気が途切れたことにほっとしているんだろう。


 今二人でこうしていることに、桐花は何の違和感も抱いていないと思う。

 なのに、桐花は我慢して付き合っているんじゃないかという疑問が浮かび上がってきてしまう。

 低い自己肯定感は今後桐花を傷つけることにもなりかねないんだ。

 本気で考え直さないと。


 だけど、自分への過小評価がこの関係を築き上げたのかもしれない。

 あぁ……また解決できない疑問が生じてしまった。

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