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セカンダリ・ロール  作者: アイオイ アクト
第三十三話 一年委員長と初めての(恥辱に満ちた)朝礼台
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一年委員長と初めての(恥辱に満ちた)朝礼台-8

 正門前に集まる生徒達に向かって、山丹先輩が深々と礼をした。

 遊びの時間が終わった瞬間だった。


 山丹先輩の背後に並ぶ俺達生徒自治委員達も、それに倣って頭を下げた。


「この生徒自治委員会の失態について、皆様に改めて謝罪します」


 背後から見ていて、なんとも言えない光景だった。

 拡声器で話す山丹先輩のすぐ横には笹井本かとり会長、その二人の背後には旗沼先輩と条辺先輩が立っていた。

 かつてはこの四名が同じ生徒自治委員会に所属していたとは思えない光景だった。


 過去の生徒自治委員会は笹井本リナ(現かとり)への傷害事件で崩壊、当時の二年と三年生の主要メンバーは恐れを成して活動に参加しなくなってしまった。


 つまり、事実上当時一年生の三名と毎回参加できない準会員だけで仕事を進めざるを得なかったのだ。

 その状況を打開すべく、依子先生は学年ごとにトップを作るという苦肉の策を編み出した。

 初代の一年委員長は山丹湊、初代副委員長は旗沼陸。

 そして、二代目一年委員長は俺という悪い冗談付きだ。


 普通であれば山丹先輩ではなく、旗沼先輩こそ適任なんだろう。

 だが、当時の旗沼先輩は笹井本会長氏のケアに自分の体の治療で手一杯だったんだろう。


 そしてもう一人、条辺塔子先輩。

 体が弱い山丹先輩と、腰が悪い旗沼先輩の足代わりになったのが条辺先輩だった。

 傍若無人な条辺先輩を嫌う人が少ないのは、条辺先輩が必死に自治会を支えたことを知っているからだ。


「我が校の女王陛下をお運びするぞ!」

「みんな、何!? 怖い! 怖いって!」


 突然スポーツ部員の女子達が山丹先輩に群がり、簡単に山丹先輩の小さな体を持ち上げてしまった。


「わ、私は留守番だから!」


 正門前に集まっている生徒達は不満な顔は浮かべていなかった。

 まぁ、先輩方に徒歩行軍を強要される一部の一年生が不満顔だったが。


「ふぅっ」

「うひぃ!」

「最初から、これを見込んでいたんですよね?」


 息を吹きかけてから言うな!

 というか、いつの間に隣にいるんだよこの会長氏は。

 山丹先輩達の威を借りるという最後に残していた切り札を見抜かれていたようだ。


「あなたがこの後を継ぐんですよぉ?」

「は、はぁ」


 本当に、なんで俺が委員長なんだろう。

 俺よりもずっと相応しい人材がいると思うんだが。


「おい」


 ドスの利いた声で瀬野川が食って掛かった。


「ウチのにちょっかいかけんな」

「あらあら、うふふ」


 その台詞は一部ファンに聞かれたら処されるだけでは済まないぞ。

 あのキャラが大好きな陽太郎が近くにいたらどうなっていたことか。

 もう一度言ってくださいと土下座して懇願されるぞ。


「瀬野川、敬語……ひっ」


 ちょっとした指摘で睨むなよ。


「前に立てない(おさ)なんて珍しい人に付き従ってるんですね、仁那ちゃんは」

「フン、仕事は分担するモンなんだよ。朝礼台に立つのはよたろーの仕事。コイツが前に立ってもクソの役にも立たねーの。でも委員長はコイツなんだよ。テメーが認めなくても関係ねーんだよ。でございますぅ!」


 なんて敬語だ。

 瀬野川の言葉は嬉しいけれど、喜びきれない。

 したり顔という表現は今の会長氏の顔のことをいうんだろう。


「ふふ、仁那ちゃんは残酷ですね。まるでつっきーが湊みたいになるのは無理っておっしゃっているようなものですよ?」

「何言ってんだバーカ。そもそもコイツはみなっちゃんじゃねぇんだよ。だからアタシやアイツらがいるんだよ。アンタみたいな一匹狼じゃねーんだよ。ですぅ」


 いつだか桐花に似たような説法をしたような気がするな。


 できないなら任せてしまえ。

 あれは俺自身に言い聞かせていたのかもしれない。


「か、会長! ひどいですよ!」


 ぜえはあと息を切らせた宜野が会長氏のバイクを押して来た。

 北門から正門まで大変だったろうに。


「ありがとうねぇ。乗って来ちゃえば良かったのに。オートマだし」

「原付免許しか持ってないって言ってるでしょう!」


 宜野はお硬いねぇ。

 会長氏がバイクによっこらさっという動きで乗っかり、エンジンをかけた。

 安定感あるんだな三輪バイクって。


「会長さーん乗っけて! チャリに二ケツしようとしたら依ちゃんにクソほど怒られた!」


 多江と会長氏はある程度打ち解けているんだろうか。

 しかし、忘れていた。

 自転車二人乗りって条例で禁止なんだよな。

 ロマンの欠片もないんだな。


「はい! お触りOKしていただければいくらでも!」

「じゃいいですぅ」


 多江がくるっと踵を返した。


「嘘ですよぉ! 眼鏡美少女に乗られる興奮を是非にも!」


 無遠慮な多江を少し咎めたい気もするけど、時間がない。


「おーいてめぇら聞け!」


 拡声器を持った依子先生が叫んだ。


「自転車には乗ってもいいが速度は出すな! 二人乗りは条例違反! やった瞬間二度轢いた上にバンパーの修理代請求すっからな! あっちの学校にうちの生徒のマナーの良さ見せてやれ!」


 無念なり杜太。

 まぁ、いずれどこかの私有地で楽しんでおくれ。


「いいかテメェら……ベッドの上でも紳士でいる奴こそ本当にモテる奴だってことを忘れんな。出発!」


 うわぁ、余計な一言。

 でも明らかに士気が上がってるよ。


「おーいBL委員長! 行かねーの?」


 何を言っていやがるのかね、クラスメイトさんは。


「いや、あれ演劇!」

「大丈夫だって! 例えガチでも今まで通り接するから」


 どこまでもいじられるパターンに入ったぞ。

 クラスの女子が結構な人数走り寄って来てるのはなんだ?


「ねぇねぇ安佐手君! 仁那から聞いたけどあれ本当なんだって!? 詳しく教えてくんない!?」

「は……? 瀬野川ァ!」


 瀬野川はシレっと依子先生の車に乗り込んでいるのが見えた。

 あんのボケェ!


 はぁ、将来政治家になってセクシャルマイノリティに優しい世界を目指そうかしら。

 コミュ障には無理か。

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