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セカンダリ・ロール  作者: アイオイ アクト
第三十三話 一年委員長と初めての(恥辱に満ちた)朝礼台
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一年委員長と初めての(恥辱に満ちた)朝礼台-5

 格好良く宜野に宣言したところで、激しい尿意に気付いてしまった。

 とにかく自治会室を出ると、多江達が走り寄ってきていた。


「おーいつっきー! 緊急事態って何?」


 多江の脳天気な声は癒やしだなぁ。


「ミラクルやべーよ。山丹先輩に聞いてくれ。トイレ行ってくるから」

「ほーい。心ゆくまでブリブリしてら」

「茶化すような状況じゃねえからな! あと小だよ!」

「つっきーこわーい!」

「だから茶化すな! 必要な材料が届かねぇかもしれないんだぞ!」


 トゲのある言い方をしてしまった。


「ちょーいと待ちな、つっきーさん」

「……なんだよ?」


 多江はなんというか、読みづらい表情をしていた。

 だが、すぐにいたずらっぽい笑顔へと変わった。

 心臓に悪いレベルで可愛い笑顔だ。


「……祭りなんだから楽しもーぜ」

「へ……?」


 当たり前なことを……いや、そうか。

 そのたかが祭のためにぶっ倒れた俺には必要な忠告だ。


「つっきー、なんか怒ってる?」

「な、なんで?」

「うんこ我慢してる程度でそんな怖い顔にはならんかなぁ?」

「うんこじゃねぇって!」


 高校生になって少しは大人っぽくなったんだろうか。

 そろそろ声も低くなってくれると嬉しいんだが。


「お? きりきりもトイレ?」

「うおっ!?」


 背後でドアが開く音が聞こえたかと思ったら、腕を思い切り掴まれた。

 失禁するかと思ったぞ。


「な、なんだよ?」

「良くないこと考えてる!」


 なんという信用の無さ。


「あははー! きりきりさすがぁ! つっきーが一人でうろつく時は良からぬことを考える時だからねぇ」


 え?

 俺そんな癖あるの?


「な、なんかあっても俺が頭下げるくらいはいいだろ?」

「良くない!」


 なんでだよ。

 こちとら委員長様だぞ。

 威厳がないのは認めるけど。


「状況を考えろよ。会長はこの件についてどうするかって返事あったか?」

「……ない」

「ならこっちでやるしかないだろ!」


 会長氏に代案なんて用意するつもりはない。

 携帯がチャットの着信を伝えた。

 会長氏からだ。

 まるでこっちの動きを全て読み切っているかのようだ。


『はろーだーりん! もろもろごめーんね!』


 煽ってくれるなぁ。

 こちらの予算がもうないのは知っているくせに。


「安佐手君! まさか全部の責任を負う気ですか!?」


 なんだよ宜野まで。

 陽太郎も一緒に出てきたのかよ。

 連れションならお断りだ。


「こ、ここにいる全員で取るに決まってんだろうが! そっちの会長が負わないなら仕方ないだろ!」

「つっき、その言葉に二言はないね?」


 何その台詞、俺も言ってみたい。

 いや、馬鹿なことを考えてないで返事をしろ。


「ねぇよ!」


 三言四言ありまくりだけど。


「宜野は大丈夫? 場合によっては評判に関わるけど」

「え? はい、構いません!」


 陽太郎の質問にはきはきと答える宜野が腹立たしく感じてしまう。

 会長氏の部下とはいえ、当事者じゃないんだが。


「こんな大失態俺一人で謝罪しても誰も納得しねーだろ。全員で頭下げないとおさまらねぇだろ!」

「宜野、気をつけて。つっきは最後の最後に裏切って全部自分で背負う気でいるから」


 結構格好良く言ったつもりなのに読まれてるぅ!


「とにかくその、ちょっと便所だけ行かせてくれよ!」


 全員を振り切ってトイレへと急ぐ。

 あの会長氏には一言文句を言ってやらないと気が済まない。


 トイレの個室を占拠し、会長氏のチャット画面を開いて通話ボタンを押した。

 チャットが飛んできたということは授業中ではないと思うんだが。


 桐花を騙して緊急事態を作り出した理由はなんだ。


『あらぁ、ダーリンどうしたの?』


 カチンと来るな。

 非モテを弄びやがって。


「し、資材の運搬の件ですよ!」

『えー? 一緒に学園祭回ろうなんてベタなお誘い! もちろんオーケーですよぉ』


 何を説明口調で言っているんだ。

 でも、突っ込んだら負けだ。


「なんで桐花に適当なこと抜かしたんですか?」

『えーそうだよねぇ。ダン部のパウンドケーキは外せないよねぇ。頑張って並ぶからぁ、後ろからだっこする感じで支えてねぇ』

「こっちは困ってるんですよ!」

『えー? お化け屋敷はちょっと怖いかなぁ。手を離さないでくださいねぇ』


 いちいち会話をぐちゃぐちゃにしやがって。

 いや、抑えろ。


「わざわざうちの人間招いて資材見せておきながら、運べないってなんなんですか!」

『トッティ誰と話してるの!? おんぶしてくれたっていう背が高いイケメン君!?』


 情報が錯綜しているな。


『違いますぅ! 私のダーはつっきー君って言ってぇ、どっちかといえば可愛い系なんですよ』


 キモがついてる方の可愛いですら言われたことがねえよ。

 いや、むしろ滅茶苦茶美人な先輩が弄んでくださっているんだから感謝しないといけないかもしれないな。

 うん、いつもの卑屈な俺が戻ってきた。

 良い傾向だ。


「会長さん、そちらから資材運んでくれる気はないんですね?」

『えー? 無い無い! 他の人との予定なんて無いから!』


 やはり無いか。


「分かりました」

『えへへぇ。みんなで協力していい学園祭にしようとしてるんだよねぇ。やっぱりつっきー素敵。大好き! 愛してる!』

「うるさいですよ」


 心にもないことを言われているが、俺の顔はきっと真っ赤だろう。


「資材は捨てずにおいてください」

『え? 私今あなたに捨てられたら生きていけないー! 私は絶対捨てないのに!』


 回答を会話の中に混ぜてるつもりなのかこの人。

 そんなに上手くないぞ。


「頼みましたよ」

『うん。もう準備万端だから! あ、うち夜は親いないからね!』


 背後から『えぇー!』という声が上がる中、通話を切ってやった。


 数分前に、一つだけ手段を一つ思いついた。

 それをチャットで急いで送りつけて個室を出た。

 戻る前に、顔を洗ってしまいたかった。


「あ、安佐手君! 今のもしかして会長ですか? なんか嫌なこと言われました!?」

「うおえ!? び、びっくりさせんなよ!」


 個室の外にいたのは宜野だった。


「だ、大丈夫ですか? 顔が真っ赤ですけど?」

「う、うるさい! チャット見ろ!」

「え……じ、人海戦術!?」


 慌てて携帯を取り出した宜野が、驚きの声を上げた。


 クソみたいな案だってことくらい承知の上だ。

 うちの生徒達をあっちの学校へ向かわせて資材を運ばせるんだよ。


「た、短時間でよく考えましたね」

「うるせぇ! これで分かっただろ! 俺一人の首じゃ無理だし、徒歩で往復十キロの荷物運びなんてやってくれる奴はそんなにいねえよ!」


 物を思いつくなんて瞬発力だ。

 最近分かったことだが、常に何かを考えていないとその瞬発力のバネは全く大きく跳ねてくれない。

 そんなことを宜野に説明しても理解してもらえないだろうが。


「た、確かにこの高校なら人海戦術も取れますね……どのくらいを見込んでますか?」

「正直どれだけ必要かなんて想像も付かねえよ。野球部とサッカー部とダンス部はやってくれるだろうけど」


 宜野が顎に手を当てて考え込んでいる内に、顔に水をぶっかけた。


「ぶはぁ! 数だけの問題じゃないからな。男子なら女子校の空気吸えるとでも言えば悪ノリで付いて来てくれる奴もいるだろうけど」

「ええと、それでしたら演劇部も協力できると思いますけど……そ、そうだ! 僕も思いつきました! 二時間ほどで形にできると思います!」

「か、形?」


 なんだ形って。

 全校生徒に頭下げて手を貸してくれっていうことに形も何も無いだろう。


「とにかく演劇部へ行きましょう!」


 演劇部? 何いってんのこいつ?

 こいつからする主人公臭がひどすぎて鼻が曲がりそうだ。

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