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セカンダリ・ロール  作者: アイオイ アクト
第二十三話 ヘソ曲がりとカップル未満と翻弄される少年と
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ヘソ曲がりとカップル未満と翻弄される少年と-2

 条辺先輩が問題児と言われた理由の一端は見えてきた。

 入学してから条辺先輩はどこの部にも所属することなく、体育館の裏で一人ダンスに打ち込んでいたそうだ。


 だが、運が良いのか悪いのか、当時ダンス部がなくて途方に暮れていた笹井本先輩に見つかってしまったらしい。


 笹井本先輩は条辺先輩と違い、上昇志向の塊だった。

 海外へ打って出るつもりなのか普通科ではなく、国際科という未知の領域の住民だ。


 その笹井本先輩は他の部に所属しつつ、条辺先輩の横で勝手に練習するしかなかったらしい。

 ここまで聞くと、サクセスストーリーのプロローグみたいな話だ。

 でも残念無念、条辺先輩は生徒自治委員会に所属している。

 つまり条辺先輩が何かをきっかけにやる気を出して全国大会に出場して、優勝。

 最高の愛の告白、そしてハッピーエンドに涙的な話は無かったということだ。


「四月も後半に入ったら、勝手練習は続けられなくなってね」

「帰宅部狩りですか?」

「うん。あの二人を見つけた湊……山丹さんが説得しようとしていたんだけど、知っての通り、当時の山丹さんは話し下手でね」


 信じられない。

 山丹先輩がそこまでコミュ障だったとは。


「旗沼先輩は山丹先輩に協力しなかったんですか?」

「その頃は怪我をして柔道部を辞めた直後だったんだ。情けないことに歩くのもままならなくてね」


 旗沼先輩も色々とあったんだな。

 多分、落ち込んでいて他人を気にしている余裕はなかったんだろう。


「失礼ですけど……怪我ってどんな?」

「失礼ですけど、なんて付けなくてもいいよ。柔道をずっとやっていたんだけど、腰を悪くしてね」


 優しい笑顔で挫折を語るなんて。

 本当に人と話せば話すほど、俺の中学時代の内容の薄さを痛感してしまう。


「趣味で続けようと思っていんだけど、医者から悪化しないようにってダイエット命令が出ちゃってね。ああ、僕の話なんてしてごめん」

「あ、いえ」


 もう少し聞きたかったけど、仕方ない。


「そうそう、その後が面白いんだ。湊も二人の練習に少しだけ参加していたらしいんだよ。体力が続く限りね」

「え? 踊ってたんですか?」

「条辺さんに動画を見せてもらったけど、なかなか様にはなっていたよ。器用貧乏を地で行く湊らしくて」


 山丹先輩は条辺先輩を何らかの部活か委員会に入れようと必死だったんだろう。

 きっと、まず仲良くなることから始めようとしたんだ。


「それから湊は二人のために突破口を探したんだ。それで、既に創部済みで休眠状態にある部活を再始動するルールがないことに気付いて、休部リストにあったダンス部に一番近い創作ダンス部を復活させたんだ。ルールの穴を突くやり方は安佐手君と一緒だね」

「え? は、はぁ」


 俺はそんなにアウトローな評価を得ていたのか。


「あの、ルールって、設立人数とかのですか?」

「そう。しかも顧問無しの教頭承認を受けていたんだ。それでやっと二人を納得させられると思ったんだよ。もうこの裏ワザは使えないからね」


 なるほど、さすが山丹先輩だ。


「ただ、湊が持って帰ってきた入部届は一枚だけだったんだよ」

「え?」


 熱い展開だから、うまくいく未来を想像してしまっていた。

 条辺先輩は自治会にいるのを忘れていた。


「条辺さんは提出しなかったんだよ。しかも放課後になると行方を眩ますようになってね」


 旗沼先輩が鼻だけで小さく溜息を吐いた。

 大変だったんだろう。


「笹井本君はそれから結構頑張ったんだよ。学校側に十名集めろという指令を受けて。でも、それを一ヶ月もしないで達成しちゃったんだ」


 ヘタレだけどスペック高いなぁ、笹井本部長氏は。


「それって、全部条辺先輩のためですよね?」

「そういうことになるね」


 『不純な動機』という言葉の意味がぴったりだ。


「彼の目的は、条辺さんとダンスをすることに変わっていたんだよ」


 格好悪いけど、格好良いな。

 俺もアニヲタや漫画ヲタの端くれだからか、笹井本先輩の豪快な空回りには少し憧れてしまう。

 でも、そんなことをしたら天の邪鬼な条辺先輩はますます寄り付かなくなるのが分からなかったんだろうか。

 条辺先輩の言っていた『約束を破った』というのはこれのことかもしれないな。

 二人だけで踊り続けようなんて具合の約束をしていそうだ。


 条辺先輩も罪な人だ。

 そこまでレールを敷いてもらったなら、乗ってしまえば良いのにと思ってしまうけど。


「その後は最後の帰宅部だった条辺さんを狩るために、僕達は全員奔走したんだよ。湊だけは本人に接触できてたんだけどね。ただ、条辺さんがどこで何をしているかは全く教えてくれなかったんだよ。おかげで湊は孤立しちゃってね」


 なるほどなあ。

 あの気まぐれな条辺先輩を捕まえるなんて、絶対無理だ。


「その頃、先生方は条辺さんのことを『例のまるで駄目な子』って呼んでいたんだよ。部活動に入らないわ、ショートホームルームが終わった瞬間に逃げ帰るわ、奇数の時限は寝てるわで、話題には事欠かなかったよ」

「な、なんでそんな人が自治委員会の仕事なんて率先してやってるんですか?」


 生徒自治委員会はスポーツ部から挫折した、部や委員会に入ることをためらうコミュ障が依子先生に引っ掛けられて突っ込まれる掃き溜めだ。

 条辺先輩みたいな問題児キャラがいてもおかしくはないんだが、幽霊委員になってもおかしくはなかった。


「それはね、ゴールデンウィーク直後に条辺さんが倒れた湊を抱えて自治会室に来たのが切っ掛けかな。一緒に踊っていたら倒れたって」


 俺と旗沼先輩の体が僅かに跳ねた。

 自治会室の重たいドアが開いた音が響いたからだ。

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