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第八話 激闘

 探知スキルは何も捉えていなかった。

 炎に包まれたというのに不思議と熱さは感じない。業火とも呼べる炎は俺の体を間違いなく包んでおり、衣服はあちこちから焦げ目が付き始めたが、俺は至って冷静さを保っていた。

 熱さは感じないとは言え、呼吸をするのはまずいだろう。焼けた空気が肺を焼くのを、魔術抵抗でどこまでレジストできるのかは分からない。

 俺は呼吸を止めたまま、水魔術で生み出した水で自分の体を包み込んで消火した。

 他の仲間は無事だ。

 というか、そもそも遺跡から先行して外に出たのは俺とテオドールだけだ。

 そして炎による攻撃は俺に対してだけ行われた。

 かと思っているとシャーリエが俺の前に飛び出して、飛んできた矢を盾で受ける。鈍い音を立てて矢は軌道が逸れて、遺跡の壁に突き刺さる。盾で受けてなおその威力だ。

 アレリア先生が杖を振りかざし、周囲の木々に火を放った。

 業火をものともせずに6つの人影が、燃え盛る木々の間から現れた。

 武器を構えた6人、言うまでもなくオイゲンの一行だ。


「やはり魔術による不意打ちはうまく行きませんな」

「へっ、やっぱりこうなると思ったぜ」


 テオドールが吐き捨てるように言う。

 アレリア先生がグレースと話をしている間に、テオドールとはこうなる可能性についても話をしていた。

 俺たちが気にかけたのはオイゲンの“今を逃せば日本に帰れるチャンスはもうないのですよ”という言葉だ。その言葉は暗に俺たちに心変わりのチャンスはもう無いのだと言っている。つまり彼らはここで俺たちを始末するつもりなのではないかということだ。


「なんで俺たちを狙うのか聞いてもいいか?」

「簡単なことですな。転移者が死ねば次の転移者が現れる間隔が早くなる。そういうデータがあるのですな」

「ああ、それで」


 番号付きが天球教会に恭順しない転移者を殺害しようとするのも、そういう命令を受けてのことだということだ。そうやって味方にならない転移者を殺害して、次の転移者が味方になることを期待するのだろう。

 俺たちは武器を構えて向かい合う。

 この展開を予想していた俺は、俺自身やユーリアたちのレベルを上げられるまで上げ、スキルポイントを全て魔術抵抗に割り振った。俺とユーリアは9まで上がったので、魔術による攻撃はかなり軽減できるはずだ。

 不安が残るのはレベルがあまり上がらなかったアレリア先生の魔術抵抗6と、魔術士レベルも上げなければならなかったシャーリエの魔術抵抗7という値だ。

 どちらも偽装をかけているので本当のスキルレベルが見破られる心配はないが、実際に魔術を受けないように気をつけなければならない。

 そういう意味ではオイゲン一行が最初に魔術で狙いをつけたのが俺でよかった。そうなるように仕向けたとは言え、おそらく転移者で、なおかつ弱そうな俺の方を狙ったのだろう。

 不幸中の幸いというやつだが、依然として状況は良くはない。

 オイゲンたちは6人、オイゲン自身は長剣を右手に、杖を左手に持つテオドールが本気の時と同じ戦闘スタイルと同じだ。残る5人のうち3人は近接武器を、1人は弩弓を持っていたがそれを投げ捨て短弓を手に、最後の1人がユーリアと同じような杖を手にしている。

 彼ら5人はオイゲンの奴隷だ。つまり転移者ではないのだろう。だからと言ってその戦闘力は未知数だ。スキルは偽装されていてはっきりしない。近接武器を持っているからと言って魔術を使ってこないとも限らない。

 俺とテオドールが前衛を努めなくてはならないが、シャーリエの立ち位置をどうするべきか。魔術による攻撃を受ける危険性を考えれば後ろに下がっていて欲しいところだが、近接武器しか持たないシャーリエを後ろに下げることは彼女に弱みがあることを相手に教えることにもなりかねない。

 それに前衛4人に対して、俺とテオドールだけで持ちこたえられるかという疑問もあった。

 一方で、逃げる、という選択肢もある。逃げきれるかどうかは別として、だが。


「オイゲンの相手はオレがする。お前とソフィーで3人どうにかできるか?」


 テオドールはやる気満々のようだ。逃げるつもりはこれっぽっちもないらしい。


「分かった。やるしかないな」

「マルク様はわたしがお守りします」

「無理はするんじゃないぞ」

「はい!」


 こうして転移者同士の戦いの火蓋は切って落とされた。


 最初に動いたのはテオドールだった。左手で持った杖をオイゲンに向けると、オイゲンの周囲の地面が土の槍となって隆起し、彼が立っていた空間を刺し貫く。

 しかしその時にはオイゲンは地面を蹴って前に飛び出しており、同時に飛び出していたテオドールと剣を切り結ぶ。

 そのオイゲンに加勢しようと動き出した3人の足元を俺は一斉に陥没させる。足を取られたのは1人だけだ。後の2人はテオドールに向かっていく。

 その2人目掛けて俺とシャーリエは一緒に飛び出した。長剣と盾を持った男と、斧を手にした男、盾持ちをシャーリエに任せ、俺は斧を持った男に向かう。そんな俺を目掛けて水の塊が飛んでくる。


「カタリナ!」


 叫ぶのと同時に水の塊は空中で静止する。ユーリアが敵の水魔術士の生み出した水に干渉しているのだ。しかしその押し合いは水の塊がじりじりとこちらに向けて動いていることから、ユーリアには分が悪いようだった。

 魔術士10水9のユーリアが押し負けるということは、相手は水スキルも10に達しているに違いない。やはりこの相手に油断はならない。

 一方で、振り上げられた斧が俺に向かって振り下ろされる。その速度は斧の重さを感じさせない。しかしそれでもレオノーラの苛烈な剣撃には遠く及ばない。避けられると確信を持つ。俺は体を捻って前に踏み込みながら斧の攻撃を避けた。

 さらに一歩踏み込んで男の腹部を目掛けて全力の拳を突き出そうとする。しかしそれと同時に地面が揺れて、踏み込みがうまく行かない。男の斧が地面を打った衝撃が地面を揺らしたのだ。

 それでもなんとか拳を男に打ち当てて、雷魔術を放つ。

 ビクッと男の体が一瞬痙攣したが、気絶させるには至らない。やはり魔術抵抗スキルが高い!

 それどころか右手を斧の柄から離して、俺目掛けて振るう。しゃがんで回避したところに、驚くべきことに左手一本で持った斧が振るわれた。

 咄嗟に地面を隆起させて斧を受け止める。しかしそれを易々と突き破って斧は振り切られた。

 危ないところだった。自分の足元も含めて隆起させていなければ直撃を食らっていた。

 空中に放り出された俺は、水の塊を生み出して、斧の男の頭部を包み込む。男がもがいて水を振り払おうとすると、水の制御は著しく乱れ、霧散して周囲に飛び散った。

 同時に俺は狙いを男の足元に切り替え、地面を陥没させる。深く、可能な限り深くだ。男の姿が穴の中に消える。

 ――まず1人。

 息を付いている暇はない。

 シャーリエを見ると、彼女は盾を持った男と、槍を持った男を同時に相手にしていた。断続的に炎の魔術が敵を襲っているところを見るにアレリア先生が援護をしているらしい。それでもシャーリエは防戦一方だ。

 俺も援護に入らなければ!

 そう思って駆け出そうとした俺の足を、ぎゅっと何者かに掴まれる。

 それは穴に落ちたはずの斧の男の手だった。よく見ればその左手に握られた斧が地面に突き刺さって男の体を支えている。かと思った瞬間、俺の体は穴の中に引きずり込まれた。

 俺が掘った穴に俺自身が落とされる。その深さは自分でも計り知れない。落下死させるつもりで掘った穴だ。自分だって落ちれば無事では済まない。

 咄嗟に穴を壁面から塞ぎ、高さだけは抑えた。しかし背中から落ちた衝撃で息が止まる。体術スキルの恩恵で受け身を取らなければ後頭部を打っていたかもしれない。それでも背中の骨がいかれたようだ。


「げほっ……」


 自分に治癒魔術を使いながら深い穴の上を見上げると、斧の男が穴を這い出そうとしている姿が見えた。

 行かせるわけにはいかない。テオドールにせよ、シャーリエにせよ、今の相手で精一杯のはずだ。そしてなにより恐ろしいのは男がユーリアたち後衛陣に襲いかかることだった。


「このっ!」


 テオドールの魔術を見よう見まねで、穴の壁面を土の槍にして男を串刺しにしようとするが、土の槍は男の肌を傷つけた辺りでぼろぼろと脆い土に戻ってしまう。スキルレベルの高い水魔術でさえ振り払われたのだ。俺の土魔術では男の魔術抵抗スキルを突破できない。

 そんな俺の鼻先に男の血の雫が一滴落ちてきた。

 肌を傷つける程度だが、確かに傷は与えている。そうだ。雷魔術にせよ、一瞬の硬直を与えることはできていたではないか。

 俺は杖を振り上げ、男に目掛けて全力の雷魔術を放つ。穴の中を雷光が走り、男の体に直撃する。しかしそれでも男は一瞬硬直しただけで、再び穴から這い上がろうとする。

 ならばこれならどうだ!

 俺は残りの魔力をすべて使い切る気で、穴の範囲を広げた。半径2メートルほどだった穴は、半径20メートルほどにまで広がり、男の体は中空に放り出される。

 ズキリ――、と、頭痛が走る。

 吸魔を使おうとして、男が落下しながら斧を構えるのが目の端に止まった。そうだ。男の位置は俺のほぼ直上で、落下する男は当然俺のいる位置に落ちてくる。

 痛みの走る体に鞭を打って、その場を飛び退く。直後に俺のいた位置に男の斧が振り落とされる。鈍い破砕音とともに、俺が即席で作り出した深い縦穴の途中の床が打ち抜かれる。

 当然そこに深い穴があることは男も分かっていたのだろう。男自身は穴を穿った衝撃を利用してその縁に着地していた。

 俺は地面を転がりながら、吸魔を使い、失った魔力を充填する。背骨は完治したはずだ。だが痛みは引かない。俺は歯を食いしばりながら起き上がる。脂汗が浮かんでくるのが自分でも分かった。

 それでも口の端に笑みが浮かぶのを止められない。

 土魔術を使えない相手に対して、穴は有効だ。とてつもなく有効だ。

 俺は大きな方の穴の縁に駆け寄ると、地面を隆起させて穴から飛び出した。それと同時に穴を埋める。

 魔力は使い果たしたが、吸魔で即座に補充する。

 おそらく斧の男を圧死させることはできなかったに違いない。男の周りで土は止まっているだろうから。

 それでも生き埋めになったことに変わりはない。

 男を救い出すためには土魔術士が穴を掘る必要があるだろう。

 そう思った瞬間、男の埋まった辺りの地面が大きく陥没した。土魔術だ。

 戦場を見渡すと、杖を向けていたのはオイゲンだった。その相手をしていたはずのテオドールは、体にいくつも矢を受けて、それでもオイゲンに斬りかかっている。しかしその体には矢傷だけではなく、オイゲンの剣を受けたのだろう傷も無数に走っている。

 随時、治癒魔術を使っているのだろう。傷口は塞がっているが、オイゲンには余裕があるように見受けられる。

 一方でシャーリエも追い込まれていた。まだ致命傷を負ってはいないが、あちこちから血を流している。

 彼女も治癒魔術が使えるはずだが、その余裕がないのだろう。

 剣士と槍使いの攻撃を必死に動きまわり、盾で受け流して、なんとか凌いでいる。

 彼女の素早さなら逃げるのは容易いはずだが、そうすればユーリアとアレリア先生が危険になることを分かっているのだろう。

 俺は燃え盛る森の中をちょこまかと動きまわる弓使いに狙いを定めて、その周辺を一挙に陥没させる。弓使いは咄嗟に木の上に飛び上がろうとしたみたいだが、その木ごと地面の下に消えていく。

 吸魔で魔力を回復させると同時に、生まれた穴を埋没させる。

 再び弓使いのいた辺りの地面が陥没する。オイゲンの土魔術だ。

 一方で斧使いが穴から這い上がってくるが、再び大きめの穴を開けて落としてから埋める。

 失った魔力は随時吸魔で回復させていく。

 さらに敵の魔術士を狙う。足元に開いた半径5メートルほどの穴に為す術もなく魔術士は穴に落ち、その穴は土砂によって埋められる。


「なんだ、その魔力量は!」


 魔術士を救うために土魔術を発動させつつ、オイゲンが声を上げた。

 だが答えてやる義理など無い。オイゲンが開けた穴を何度でも土砂で埋める。


「ソフィー、下がれ!」


 俺の“命令”を受けてシャーリエが後ろに飛び退いた。その瞬間を狙って、剣士と槍使いの足元に穴を作る。2人は咄嗟にシャーリエを追いかけるように跳んだ。正しい判断だ。シャーリエの足元まで陥没させるわけにはいかないのだから。

 しかし土魔術の精度を高めてきたのは伊達ではない。その一歩手前まで、いや、その足先までを陥没させることはできる。

 そして2人の跳んだ先には盾を構えたシャーリエがいる。


「たぁっ!」


 シャーリエは盾の一振りで2人を弾き飛ばした。いくら体格のいい戦士2人でも、足が地に付いていない状態では、身体強化したシャーリエのシールドバッシュを受け止めきれない。

 2人が穴に落ちたのを確認して、俺はすぐに穴を埋める。

 次の瞬間、シャーリエの足元ごと地面が陥没する。

 しかしシャーリエの反応の方が速かった。さらに後ろに飛び下がったシャーリエは、すぐさまその穴を開けた相手であるオイゲンに向かって駆け出す。

 シャーリエが攻撃に加わったことでもはやオイゲンには仲間を救うために穴を掘る余裕すら無くなった。それとも魔力が尽きたのかもしれない。

 それを確認すると、俺もテオドールの援護に入った。

 テオドールを相手に優勢を保っていたオイゲンは流石というか、テオドールと密着するように戦っており、魔術をかける隙を見せない。オイゲンの足元を狙って地面を陥没させてみたりするが、うまく回避されてしまう。テオドールとシャーリエを同時に相手にしてなお、俺の行動まで視野に入っているのだろう。

 だがそれはなんてことない問題だ。

 俺はオイゲンの背後に回りこみ、その背中に向けて雷魔術を打った。俺の雷スキルではオイゲン相手には一瞬の硬直を与えるのが精一杯だ。だがそれで十分だった。その一瞬の隙を見逃すテオドールではない。

 テオドールの長剣が深々とオイゲンの胸の中央に突き刺さる。

 オイゲンはかっと目を見開き、自らの胸を貫いた刃を見つめたかと思うと、長剣を取り落とした。


「おお、神よ。これで日本に帰れる……」


 それが転移者オイゲンの最後の言葉になった。

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異世界転移ものの新作を始めました。
ゲーム化した現代日本と、別のゲーム世界とを行き来できるようになった主人公が女の子とイチャイチャしたり、お仕事したり、冒険したり、イチャイチャする話です。
1話1000~2000文字の気軽に読める異世界ファンタジー作品となっております。
どうぞよろしくお願いいたします。

GAMELIZATION -ゲーマライゼーション- NPCの生存戦略
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