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第八話 スキルアップ

 若きオーク、ゴーダのスキルポイントには余りが存在していた。このことを俺は以前から予想だけはしていた。ルーを奴隷にしたときにも同様にスキルポイントに余りがあったからだ。

 思うに人族と魔族ではスキルポイントの割り振られ方に違いがあるのではないだろうか?

 人族はレベルアップの際に余っているスキルポイントが無くなるまで自動で割り振りが行われる。しかし一方でその割り振り先はランダムで自分の思うように割り振ることはできない。

 魔族の方はまだ詳しいことは分からない。だが魔物を含め、魔族のスキル構成は人族のそれのように雑多ではない。彼らは彼らの得意とする分野のスキルしか習得していない。人族のように余計なスキルを山のように習得しているというのは見たことがなかった。そのことから推測するに、魔族は熟練したスキルにのみスキルポイントが割り振られるのではないだろうか。


「それでどうするンだ?」

「ゴーダ、お前は斧を使うんでいいんだよな」

「斧くらいしかまともに扱ったことがないンだ」


 なら他の武器でもいいだろうが、斧に代わる武器が用意できる状況とも思えない。

 俺はゴーダの戦士スキルを7まで上げる。それに体術と回避も7までだ。スキルポイントにはまだ余裕がある。斧スキルも7まであげた。


「簡単な呪いなら使えるようにしておく」


 俺はゴーダの体に触れ魔力を流しこむ。

 これでゴーダのスキルツリーに魔術士の項目が生まれる。

 魔術士を5、身体強化を5、水を3、治癒魔術を3まで習得させる。

 スキルポイントはいくらか残ったが、今はきっちり使い切ることで悩むよりも時間が惜しい。


「さっき俺が流し込んだ力を自分の体に循環するようにイメージするんだ。肉体の強化と自分への治癒魔術は使える」


 発動具が無くとも自分の体に対する魔術は使うことができる。発動具はあくまで体の外に魔術を発動させるための補助具だからだ。


「なんだこれ。急にすごく強くなったような感じがする」

「感じじゃない。実際に強くなっているんだ。広場に行くぞ。他の連中にも同じことをしなきゃいけない」


 村の広場に行くとエルフの青年はきちんと自分の仕事をこなしてくれたようで、武器――とは言っても農具だが――を手にした村人たちが集まっていた。彼らはすでに軍隊が迫っていることを知らされているようで、今すぐにでも戦いに飛び出して行きたくて仕方がないという様子だ。

 それもそうだろう。村を守らなければならないのに、村の中にいては意味が無い。だが彼らをむざむざ死なせるわけにはいかない。


「聞け!」


 俺は声を張り上げた。


「俺は旅の呪い師だ! お前たちに力を与えにやってきた!」


 そう言って杖を振り上げ、頭上に巨大な火の玉を生む。村人たちの間からどよめきが起こる。

 こういうのは最初が肝心だ。まずは俺が本物の魔術士であることを示し、彼らを恭順させなければならない。


「すでにゴーダには力を与えた! そのことを疑うものはいるか?」


 村人たちは顔を見合わせる。俺が魔術を使えるということは理解しただろうが、力を与えに来たというところまで信じるのは難しいようだ。

 こういうときに魔族に鑑定でステータスを見る力があれば、と思うが、ないものねだりしても仕方がない。


「なら今のゴーダを倒してみろ。何人がかりでも構わないぞ。もちろん素手で、だ。できるな、ゴーダ」

「ああ、今なら誰にも負ける気はしねぇだ」


 半信半疑の様子ながら4人のオークが武器を捨てて前に出てきた。


「心配するな。怪我なら俺が治癒してやる。ゴーダ、手加減してやれよ」

「よし、分かった」


 4人のオークはゴーダを囲むように回りこんで、距離を縮める。ゴーダの後方に回り込んだオークがゴーダに掴みかかろうとするが、ゴーダはそれをするりと躱し、その背中を突き飛ばして別のオークにぶつける。2人のオークが左右から同時にゴーダに躍りかかるが、それも回避スキル7を習得したゴーダからすれば緩慢な動きに感じたことだろう。片方の拳を回避し、もう片方の拳を受け止めて、そのまま腕を掴み投げ飛ばす。投げ飛ばされたオークはもう1人を巻き込んで地面に倒れる。


「参った。あんたの言うことを信じる」


 ほんの数滴の間のできごとだったが、ゴーダが強くなったことの証明には十分だったようだ。俺は体力の減っていたオークたちに治癒魔術をかけてやる。


「時間が無い。さっさとやるぞ!」


 俺は号令をかけ、村人たちを一列に並ばせると次々に契約を結んでいった。村人たちの希望を聞きながら、手早くスキルを習得させていく。基本的にはゴーダのように戦士、武器、体術、回避、余裕があれば魔術士に身体強化と水に治癒と習得させる。

 そして小一時間ほどで平均スキル7ほどの魔族の戦士たちが生まれた。実戦経験こそ無いものの、スキル7というのは驚異的な数字だ。ゴーダの件からもスキルの補正を受けられるのは間違いないので、やってくるのが平均的な人族の軍隊が数百人であるならば善戦できると思う。

 じゃあ、これで後はよろしく、と立ち去りたいところだったが、ここまで関わった以上は俺だけ逃げるというわけにもいくまい。もうその覚悟は決まっていた。

 俺と30人の戦士は村を出て、軍隊がやってくるという方に向かって進んだ。一時間もかからないうちに平原で俺たちは会敵する。

 アンデモンド公国軍の歩兵がおよそ二百人前後というところだろうか。森の中を進んでいた一団の数もそれぞれがこれくらいの数だったから、これがアンデモンド公国軍の一個小隊、あるいは中隊と言ったひとまとまりの数なのだろう。幸いにして騎兵の姿は見えない。残りの心配事は魔術士がどれくらいいるかだ。流石に目についた全員のステータスを確認していくわけにもいかない。

 俺たちが彼らを目視したように彼らも俺たちを目視したようで、兵隊の歩みが止まる。

 さて、どうなる?

 アンデモンド公国軍側はこちらの数が少ないものの、そのスキルが異様に高いことには気付いただろう。隣村を襲った時のような一方的な虐殺になることは決して無い。お気軽なピクニック気分で進軍してきていたのだとしたら、今頃俺たちのステータスを見て混乱しているはずだ。

 200人対30人。しかしそのスキル差を考えればどちらが勝つのかは想像は難しい。

 賢明な指揮官ならば一度退いて、援軍を引き連れてやってくるだろう。例えばの話だが、千人連れて来られたらいくら俺が全力で支援したとしても圧殺されるのは目に見えている。そこまで俺の魔力は持たない。

 しかしどうやらこの部隊の指揮官はそこまで賢明ではなかったようだ。アンデモンド公国軍はこちらに向けて歩を進めだした。


「いいか、絶対に孤立するなよ。常に仲間と一緒に戦うんだ」

「「「おうっ!」」」


 威勢のよい返事が返って来て、魔族の戦士たちが駆け出していく。俺自身は予備兵力扱いだ。軍の魔術士や、援軍、あるいは別働隊が現れた時に対処しなければならない。

 かくして村の防衛戦は始まった。

 予想していた通り、あっという間に魔族の戦士たちはアンデモンド公国軍に囲まれてしまう。しかし彼らは俺の言いつけを守り、孤立しないように仲間同士で固まってアンデモンド公国軍を相手に奮戦している。

 アンデモンド公国軍側に熟練した兵士はいないようで、彼らは次々と農具を武器にした魔族の戦士たちに切り伏せられていく。それはまさに屍山血河と言った様相で、一時間もしないうちにアンデモンド公国軍はその数を半数ほどにまで減らしていた。一方で魔族の戦士たちには怪我を負っている者もいるが死者はまだ出ていない。

 このまま押し勝てるというところで戦場に法螺貝の音が響き渡った。

 それと同時にアンデモンド公国軍の兵士たちは我先にと後退していく。魔族の戦士たちはそれを見送って、俺の下に戻ってくる。予め強く敵が撤退しても追うなと命令しておいたおかげだ。


「もう少しでみんなやれたってのに、どうして」

「不思議と足が止まっちまって」

「んだんだ」


 魔族の戦士たちは不思議そうに自分たちの身に起きたことを話し合っているが、それについて深く考えさせる時ではない。ある程度の深手を負った者に治癒魔術をかけてやり、俺たちは村へと戻った。

 村では俺たちの帰りを心配そうに待っていた村人たちに熱烈に歓迎された。特に誰一人欠けることなく戻ってきたことを村長に深く感謝される。


「本当になんとお礼を言っていいものか。しかしこの村にはお礼できるようなものが無く」


 この村でも同じような風習があるのか。

 いや、隣村なのだからなにも不思議なことではない。

 俺は村長の話を遮って本題に入った。


「お礼の話をしている時ではありません。今度こそすべての村人を避難させなければ」

「しかし軍隊は追い返してくださったのでしょう?」

「とんでもない。あれが全てならいいのでしょうが、あんなのはほんの一部です。逃げ帰った連中が本隊に報告をすれば今度はもっと大軍で攻めてくるでしょう」

「そんな、しかし村人は勝利に浮かれております。どんな敵が来ても負けることはないと思っているでしょう」

「そこは問題ありません。強硬に村に残ろうとしていたのはあの30人だけなのでしょう?」

「しかしゴーダの母親のように足の悪い者もいるのです」

「そんなのはゴーダに背負わせればいい。今の彼になら母親を背負って避難するくらい簡単なことです」

「しかしゴーダがうんと言うか」

「言わせます。とにかく今は村に残っている人々に食料などを持って集めさせてください」


 俺はそう村長に約束を取り付けてまだ戦いの勝利に浮かれる戦士たちの下へと向かった。都合のいいことに彼らは村の広場で、残っている村人たちを前に自分たちがどんな風に戦って勝ったかを語り聞かせているところだった。


「呪い師様!」


 俺の姿に気がついた村人がそんな風に俺のことを呼ぶ。


「呪い師様だ!」

「呪い師様に乾杯!」

「呪い師様のおかげだ!」


 村人は口々に俺のことを称賛するが、この後のことを考えると素直に喜ぶ気にはなれない。


「みんな、静かに俺の話を聞いてくれ」


 俺が言うと皆は押し黙って俺が何を言うのかと耳を澄ませた。


「今日の勝利は一時的なものだ。敵の数は多く、次はもっと沢山の数で攻めてくるだろう。いくら俺が協力したところでいつまでもこの村を守りきれるわけじゃない。だから皆には避難してもらう」

「そんな、それじゃ何のために力を与えてもらったんだ」

「そうだ。俺たちは戦える」

「今日だって誰も死ななかったんだ」

「黙れ!」


 一喝すると不満を口にしていた戦士たちの声が一斉に止む。


「これは命令だ。森に逃した村人と合流して北の村を目指す」


 そう忘れてはいけない。俺は契約した彼らの全権を持っており、彼らの意思とは別に命令をきかせることができるのだ。

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異世界転移ものの新作を始めました。
ゲーム化した現代日本と、別のゲーム世界とを行き来できるようになった主人公が女の子とイチャイチャしたり、お仕事したり、冒険したり、イチャイチャする話です。
1話1000~2000文字の気軽に読める異世界ファンタジー作品となっております。
どうぞよろしくお願いいたします。

異世界現代あっちこっち
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