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第四話 訓練

 人は慣れる生き物だ。環境の変化などに最初は戸惑うことがあっても、それが続けばやがて慣れていく。当たり前でなかったことを当たり前のように受け止めるようになる。

 一日が60時間、地球での30と何時間かの生活サイクルにも慣れてきた。以前は眠りが浅く、夜中に何度も目が覚めたりしたものだが、今ではこの世界の人と同じように眠り、目が覚めるようになった。

 ユーリアと夜を共にするようになってからさらにそうなった気がする。腕の中に彼女を抱いて眠ると、不思議と朝までぐっすりと眠れるのだ。とは言え、朝の目覚めの良さは変わらない。彼女を起こさないように起きだして、必要であれば雪かきをするのが最近の朝の日課だ。

 ハシゴを使って屋根の上に登り、スコップを使って手作業で雪をかく。途中から起きてきたシャーリエが手伝ってくれる。彼女の役割は俺が落とした雪を家の出入り口などを塞がないようにすることだ。

 火魔術や身体強化を使えば楽なのだろうが、火魔術は使えないことになっているし、身体強化を使っては体が鍛えられないということで、どちらも封印している。

 汗だくになって雪かきを終えるとテオドールを叩き起こして、朝の鍛錬に向かう。不承不承ながらもテオドールは付き合ってくれる。

 鍛錬はこれまでのような俺とシャーリエの模擬戦ではなく、テオドールを番号付きと仮定して、俺とシャーリエが連携して戦う形だ。

 これはテオドールから指摘されたことだが、俺とシャーリエはうまく連携が取れていない。というのも当然で、二人で連携を取って戦う練習などしてこなかったからだ。だがテオドールがいる今、彼を仮想敵として二人で戦う練習ができるようになった。

 俺の戦闘スタイルも少し変わった。右利きの俺だが、杖を左手で持つようにした。当然、肉弾戦と魔術を併用できるようにするためだ。まだ慣れていないが、言われてみれば合理的ではある。これまで模擬戦では魔術を封印していたので思いつかなかった。

 それから戦士スキルはないが短剣を腰に装備しておくことにした。相手は俺に戦士スキルがあるかどうか分からないのだから、装備していれば当然それに警戒するだろうし、これが重要なのだが、戦士スキルが無くても短剣で攻撃できないわけではない。また鞘にはテオドールと同じように杖も収納できるようにしてある。これだけでもぱっとした見た目が近接戦闘中心だと思わせる効果がある。

 テオドールの話では番号付きが派手に魔術を使ってくることはあまり無いとのことだった。これはテオドールがそうであるように、魔術抵抗スキルを持っていて当然という考えがあるためだろう。魔術が効きにくいのであれば、近接戦闘を中心にするのは当然のことだ。

 ヒットポイントなんて概念の無いこの世界では刃物で一度刺されたらそれで致命傷になりうるのだから。


「よし、それじゃかかってきな」


 刃を潰した長剣を構えたテオドールに、シャーリエと二人でかかる。多少の怪我は覚悟の上だ。それくらいでなければ訓練にならない。

 正面から突っ込んでいったシャーリエの盾がテオドールの剣を受け流すが、華麗に、とはいかない。シャーリエはその場で踏ん張ってなんとか体勢が崩れるのを防ぐが、そこにテオドールの二撃目が襲い掛かってくる。今度は正面から受け止める。

 その間に側面に回り込んだ俺がテオドールに肉薄し、その脇腹目掛けて拳を放つ。だがテオドールはひょいと体を動かしてそれを回避する。


「タイミングが遅い!」


 剣が俺を目掛けて振るわれる。体を投げ出すようにして避けて、距離を取って立ち上がる。その間にシャーリエはテオドールの攻撃を何度か受け止めていた。


「もっと踏み込め! 懐に入って来い!」


 テオドールはそう言うが、シャーリエは攻撃を受けるのが精一杯で、その踏み込む隙を見いだせないでいる。ならばその隙を作るのが俺の仕事だ。俺は再びテオドールに向けて躍りかかった。


「全然ダメだな」


 しばらく模擬戦を続けたが、結局俺たちは何度かテオドールに有効打を入れたに留まった。逆に俺たちはボコボコである。治癒魔術で怪我を癒している間にテオドールのダメ出しを聞く。


「オスカー、なぜ魔術を使わなかった?」

「あんたには効果が薄いだろ? それにソフィーが近くて巻き添えにするかも知れなかったし」

「精度を上げろ。オレの足場を崩せるだけで結果は全然違っていた。それからソフィーは攻撃を受けることだけじゃなくて攻撃することも考えろ」


 それからそれぞれの問題点を改善するべく、俺は魔術の精度を上げる練習を、シャーリエはテオドールを相手に攻撃を受けながら攻撃を仕掛ける練習をすることになった。

 具体的には地面に印を付けて、離れた位置からその印の位置を掘り下げる練習だ。10メートルほど離れた位置から1メートル四方ほどの穴を作るのであれば、印の位置を含めて魔術を発動させることができる。しかしシャーリエを巻き添えにしないということであれば、それを30センチ四方まで大きさを縮めなければならない。

 これが思うようにうまく行かず、俺は穴を作ったり埋めたりをしばらく続けなければならなかった。

 しばらく練習を続けた後に、朝食のために家に戻ることにする。

 いつものように俺がユーリアを、シャーリエがアレリア先生を起こし、朝食の準備を始める。

 パンとスープの簡単な食事をとった後は全員で冒険者ギルドに顔を出して、どんな仕事があるか確認する。と、言ってもこの時期は公的なものも私的なものも、雪かきの仕事がほとんどだ。俺たちももう慣れたもので適当に仕事を受けて、それをこなす。

 力仕事の割には報酬は少なめだが、生活費が出て余裕くらいはある。それにアレリア先生が火魔術を表立って使えるので、火事の恐れが無い場所では炎で雪を溶かして、雪解け水を俺とユーリアで乾燥させてしまうという手が使える。直接雪を乾燥させられないかと試してみたこともあるが、どうやら氷魔術扱いになるらしく、うまくいかなかった。

 太陽が顔を覗かせるまで仕事を続けて、冒険者ギルドに報告に行って、今日の仕事はおしまいだ。後は自由時間ということでテオドールは報酬を手に飲みに行ってしまい、アレリア先生もそれに付いていく。どうやら飲み仲間になってしまったようだ。テオドールから聞ける話に興味があるということもあるのだろう。

 俺とシャーリエは夕方の鍛錬の時間だ。最近はユーリアも付いてくるようになった。もっとも彼女が鍛錬に参加するというわけではなく、何をするでもなしに俺たちの鍛錬を眺めているだけなのだが。

 テオドールのいない夕方の鍛錬は以前と同じシャーリエとの組手が中心だ。だが以前と違うのは俺が魔術を多少なりとも使うようになったことだろう。シャーリエの足場を崩したり、あるいは水を生み出して牽制に使ったりする。

 最初の頃は魔術による攻撃に慣れていないシャーリエが足をもつれさせたり、水の塊を回避しきれなかったりして、俺に有利だったが、最近はシャーリエも対応を学んできていい勝負になっている。どちらにせよ接近されたら俺の負けなのは相変わらずだが。

 太陽が天球に隠れる少し前まで鍛錬を繰り返して、それから夕食の買い物をして家に帰る。テオドールとアレリア先生はまだ飲んでいるのか不在なのもいつも通りだ。

 やがて夕食の準備が終わる頃になると、匂いを嗅ぎつけたように二人は帰ってくる。テオドールのほうは赤ら顔で、アレリア先生は平然とした顔なのもいつも通りだと言える。しかし平然としているのは見た目だけでアレリア先生もそれなりに酔ってはいるようだった。


「今日は面白い人物と会ったぞ」


 夕食の席でアレリア先生が酒場でのことを話しだす。


「あっ、それはオレが話そうと思ってたのによ」

「テオドール君の知己の話なのだから、最初くらいしか私は口を挟めないだろう」

「なんで酔うと君付けになるんだよ、この人」

「あー、それはむしろ素が出てるんだと思う」

「どんな人と会ったと思う?」

「さあ、テオドールの知り合いなんだろう?」


 テオドールは結構長い間ブラムストンブルクにいたというから知り合いは沢山いるだろう。それゆえに名前を変えられないという話でもあった。しかしアレリア先生に面白いと言わしめる人物というと、普通の相手ではないだろう。


「学者様とかですか?」


 シャーリエが問う。確かにアレリア先生が興味を持ちそうな人選ではあるが、テオドールの知り合いに学者がいるものだろうか? 道化師とか旅芸人のほうが知り合いにいそうである。


「はずれだ」


 アレリア先生は一同を見渡して答えが出そうにないことを確認すると、おもむろに答えを口にした。


「盗賊ギルドの構成員だよ。盗賊ギルドだ。いやぁ、中々話を聞ける相手ではないからな。面白かった」

「この人、なんでも喋らせようとするから、向こうは困り果ててたぞ」


 テオドールはあきれ果てたように、いや、心底あきれ果てた様子で肩を竦めた。


「というか、あんた、盗賊ギルドに知り合いがいるのか」

「ああ、前に仕事がらみでな。勘違いするなよ。盗賊ギルドつっても犯罪者集団じゃないぞ。盗賊スキル持ちの互助組織みてーなもんだし」

「だが犯罪紛いのことは得意分野じゃないか」


 アレリア先生はそう言ってカラカラと笑う。


「オスカーにも分かりやすく言うと、スパイ組織みてーなもんだ。国の依頼を受けて他国の内情を探ったりするし、戦地で斥候の役割を果たしたりもする。一方で、国内の盗賊スキル持ちを管理して犯罪に走らせないようにしたり、また犯罪の捜査にも携わる」

「警察みたいなもんか。衛兵とは違うんだな」

「どちらかと言えば自警団に近いだろうな。犯罪が起きたら犯人を見つけ出して、ウチの仕業じゃありませんって証明しなきゃならんわけだ」

「ところが最近ブラムストンブルクでは強盗が横行しているらしい」


 何故か面白そうにアレリア先生はそう言う。


「主に狙われているのは商人だ。現金もだが、商品を持ち去られてそれが流通しているらしい」

「それなら商品の流れを追えば犯人はすぐに分かるんじゃないか?」

「それがブツは闇市場で取引されているらしくてな。痕跡が追えないらしい」

「闇市場って、それこそ盗賊ギルドが管理してそうなもんなのに」

「それは大きな誤解ってもんだ。さっきも言ったが盗賊ギルドは犯罪には手を出さない。闇市場はブラムストンブルクの貧困街にあって、実質的にそれを管理しているのは貧困街の自警団さ。ギャングやマフィアと呼べるほどのものでもない」

「衛兵は動かないのか?」

「今のところ国を揺るがすというほどでもないからな。必死になってんのは盗賊ギルドだけみたいだ」

「大変なんだな」


 他人事なのでそんな感想しか出てこない。アレリア先生が面白がっているのも、所詮は他人事だからだろう。ブラムストンブルクの国内の事情だし、俺たちが積極的に関わるような話でもない。

 そう思っていたのだが、


「そうだ。そんなわけで盗賊ギルドは猫の手も借りたい状態だ。だがそれをあまり(おおやけ)にはしたくないらしい。となると冒険者ギルドに依頼はできない。自分たちの抱えたトラブルを吹聴して回るようなもんだからな。こいつは直接依頼だ」

「引き受けたのか?」

「いや、まだだ。だが明日盗賊ギルドに顔を出すことにはなった。話くらいは聞いてみないとな」


 そうして俺たちはブラムストンブルクでようやく雪かき以外の仕事を見つけたというわけだ。

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異世界転移ものの新作を始めました。
ゲーム化した現代日本と、別のゲーム世界とを行き来できるようになった主人公が女の子とイチャイチャしたり、お仕事したり、冒険したり、イチャイチャする話です。
1話1000~2000文字の気軽に読める異世界ファンタジー作品となっております。
どうぞよろしくお願いいたします。

GAMELIZATION -ゲーマライゼーション- NPCの生存戦略
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