最終話 前へ
「本当に連れて行くのか?」
「俺の我が侭だけどね。誘拐スキル持ちっぽいといえばぽいだろ?」
俺は意識を失ったユーリアを馬上に担ぎ上げ、自らも馬に跨った。先の戦闘でレベルはまたひとつ上がり、手に入れたスキルポイントで騎乗スキルを2まで習得した。
アレリア先生やシャーリエもレベルを上げられるようになっていた。どうやら俺の奴隷になると、レベルアップの権限まで俺に委譲されるらしい。そこでアレリア先生のレベルをひとつ上げ、彼女にも騎乗スキルを2まで習得させた。ついでに本人たっての希望で魔術士スキルも6に上げておいた。やはり魔術士にとって、魔術士のスキルレベルというのは大事なもののようだ。
「すぐに魔術士10まで上げられそうだな」
「本気で魔術士ばかり上げるつもりなのか?」
「もちろんワン君の許可があれば、だが。レベル11に到達できる可能性を私が見逃すとでも思っているのか? それにそのレベルだって偽装で隠せるのだろう? 何の問題もあるまい」
アレリア先生は本当にブレないな。
最初は俺に魔術士10にしろとうるさかったが、騎乗スキルの必要性を訴えてその提案を退けた。それに何が起こるか分からない現状、スキルポイントには余裕を持たせておきたい。今後レベルが上ってもすぐに何かに割り振るつもりはなかった。
先の戦闘と一言で終わらせたが、その内容もそれほど大したものではない。抑えて使っていた雷系統の魔術をある程度出力を上げて全員に放っただけの話だ。その後は気絶するまで雷撃を食らわせ続けた。体力が目に見えるので死なないように加減ができるのがありがたい。
その後は彼らの荷物からロープを拝借して、全員をきっちり縛り上げ、布で猿轡を噛ませて放置してある。まあスキル無しの拘束だから、彼らならしばらくすれば抜けられるだろう。馬だって二頭残していくし、死ぬようなことはないだろう。いくら裏切られ、刺されたと言っても、彼らに死んで欲しいというほど憎んでいるわけじゃない。
「ユーリアが目を覚ました時、どうするつもりなんだ?」
自らも馬上の人となり、シャーリエを引っ張りあげたアレリア先生が当然の疑問を口にする。
「分からない。でもあの“父親”のところには残していけない。例えユーリアが望んだのだとしても、だ」
「恨まれるかもしれないぞ」
「分かってる。これは俺の我が侭なんだ。彼女には親離れが必要なんじゃないかと思うんでね。まあなのでそこは悪党らしく、無理やり誘拐するというわけ」
「好きだから誘拐したじゃいけないのかね?」
「俺の元の世界ではそういうのは犯罪なんだ」
「この世界でもおんなじだよ」
アレリア先生が笑い、俺も釣られて笑った。
「それにしても“雷系統”と来たか」
「やっぱり未知のスキルなのか?」
フィリップたちの誰も雷系統の魔術に対処できていなかった。ユーリアから雷は魔法だと聞いていたのでひょっとしたらとは思っていたが、やはり俺だけが習得できるタイプのスキルなのだろうか。
「カミナリとは、神が鳴るとも書くことができる。少なくとも人間の手に負えるものではない、と、思われている」
「アリューシャは電気って知ってる?」
「でんき?」
「そうだな。例えば冬に毛織物を着ている時、金属に触れようとして痛みを感じたことは?」
「あのバチッと鳴るやつか」
「そうそう、それを物凄くスケールを大きくしたのが雷だ。同じ現象なんだよ」
「冗談だろう?」
「冗談なものか。手を出して」
アレリア先生が恐る恐る伸ばした手に、最弱まで弱めた電気を流す。
「なんだかピリピリするな」
「ん、なんか間違ったっぽいな。えっと、こうかな?」
流すのではなく、貯めて近づける。すると杖の先がアリューシャに触れる瞬間に、バチッと電気が流れた。
「っ、これか。確かに冬によくなるやつと似ているな」
「これが電気というエネルギーで、この大きさを調整して攻撃に使ったんだ」
「なるほど。よく分からんが、その知識があることが系統習得の条件だったようだな。どちらにせよ、現在知られているどの系統よりも攻撃に特化しているのは間違いない」
「確かにそうだな」
炎で攻撃するにせよ、雷ほどの速さは無いだろう。一瞬で相手に到達し、しかも相手を麻痺させる。
難点は金属物に引き寄せられるために狙った位置に着弾させるのが難しい点で、ジェイドがやったように金属製の武器を投擲されるとそちらに着弾してしまう。だがそんな芸当を狙ってできるものなどそうはいないだろう。ジェイドのあれだって、雷を逸らすためというよりは、魔術を食らっても杖だけは、という狙いだったはずだ。
「威力を調整すれば、殺さずに無力化できるのがありがたいよ」
「殺傷力では火や水には劣るようだが、その効果は絶大だな。なあ、私も習得できないか?」
「無理っぽいな」
スマホを見たが、アレリア先生の魔術士の枝に雷はない。別に体感するのが習得条件というわけではないようだ。となると、やはり電気に関する知識ということになるのだろう。
「細かいことはおいおい説明するよ」
「約束だぞ!」
そんな他愛も無いことを話していると、
「それで私達はどこに向かうのでしょうか?」
アレリア先生に抱きかかえられるように馬に乗ったシャーリエが当然の疑問を口にした。
「予定通り大陸を超えるのでしょうか?」
俺とアレリア先生は顔を見合わせた。正直その話題を避けていた部分がある。
「ハストレインに向かうのは無しだ」
フィリップたちが提案してきたルートだ。魅力的に思えた提案だったが、フィリップたちが報告したり、追ってくる可能性がある。
「案外、それでも大丈夫だと私は思うがね」
「どうして?」
「追手がかかるのは間違いないとして、彼らは名前が変わっている私たちを発見できるかな?」
「フィリップたちが報告するんじゃないか?」
「誰も信じやしないさ。天球教会の信者であれば尚更のことだ。ステータスは神に与えられた絶対の理なのだぞ。それが偽装されるなど絶対にあってはならんことだ」
つまり追手が探すのは俺たちの人相などではなく、ステータスだ。名前やスキル、そう言ったものからアレリア先生を探そうとする。少なくとも彼らがアレリア・アートマンを探す以上、その行動が実を結ぶことはないだろう。
「じゃあアルゼキアから離れさえすれば案外安全なのかな」
「油断は禁物だが、そういう考えで私はいいと思う」
「なら向かってみたい場所がある」
「ほう、この世界に疎い君が行ってみたい場所とは、私も興味があるな」
「オーテルロー公国というところなんだが、アリューシャは知ってるか?」
「アルゼキアから西にある王政の国家の一部だな。アルゼキア王国と比べたら規模は小さいが、他の国に攻められて負けたことがない鉄壁の国だ。兎人の貴族が治めているから、人種は兎人が中心だな。なるほど。もしかしたらそういうことか?」
「ユーリアが育った国なんだ」
以前にユーリアから話だけは聞いていた。
彼女が育ち、母親が流行病に倒れた国。彼女にとっては故郷にあたる。そこには彼女の過去がある。そして彼女の母親の足跡もあるだろう。ひょっとしたら彼女の本当の父親に繋がる手がかりがなにか残っているかもしれない。
「それでいいかな」
「我々の主人は君だ。君の決定に私たちは従うよ」
「じゃあ、出発だ」
こうして俺たちはアルゼキアを後にした。
この一連の出来事で一番多くのものを失ったのは言うまでもなくアレリア・アートマンだ。彼女は名前を失い、身分を失い、財産を失い、自らの身柄すら奪われた。
しかしアリューシャと名を変えても彼女は彼女のままだ。リンダと名を変えたシャーリエもまた、俺の奴隷という身分になりながらも、アリューシャへの敬愛を失っていないようだ。
どうやら人にはどうあっても変わらない部分というものがあるようだ。では記憶を失っても変わっていない部分というのが俺にもあるのだろうか?
今はまだ分からないが、前に進むうちに何かが分かるかもしれない。今はただ思うがままに進もう。
前へ。
これにて第一章は閉幕です。
幕間としてキャラクターのスキル一覧などを投稿します。
第二章は書き上がりましたら投稿開始したいと思っています。
感想評価など頂けたら狂喜乱舞します。




