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第二話 魔術士アレリア・アートマン

 彼女を美しい女性と形容するのは少し難しい。

 整った顔立ちに、すらりとした体型で、美しいと言えるのは間違いないのだが、その力強い瞳とショートカットの髪型のせいで“女性”というよりは線の細い男性に見えてしまうからだ。特に服装のせいもあるだろうが、胸部の膨らみが見つからないのが致命的だ。後は姿勢だろうか? 立ち姿があまりに堂々としていて、女性のそれというよりは、やはり線の細い男性に見える。

 彼女の年齢を想像するのは難しいが、20代の後半辺りだろうか。

 俺は自分の年齢に対する実感がまるでないが、着ているものや、財布の中身から推測するに中学生か高校生、13歳から18歳のどこかだとして、まあその後半のどこかに位置するのは間違いないだろう。

 彼女は母親をイメージするには若すぎ、姉をイメージするには年上すぎる。

 そう言えばイケメン中年が彼女のことを先生と呼んでいたが、俺からすればまさに学校の若い女教師くらいが彼女のイメージに相当するだろう。


 彼女は俺に執拗に触られた手が気になるのか、しばらく指をこすり合わせるようにしていたが、不意に顔を上げた。


「そうだ。忘れていた。自己紹介をしておこう。本来なら契約前に名乗るべきだったが、気が急いていたようだ。私はアレリア・アートマン。アルゼキア王国の魔術学会に所属する魔術士だ。よく言われるから自分から言っておくが、ちょっと変わり者だ。おい、ウィンフィールド君、なぜ笑った」


 イケメン中年がぷっと吹き出したのを見て、自己紹介の途中だったアレリアさんは(まなじり)を吊り上げた。


「これは失礼。いえ、冒険者と旅路を共にする学会の魔術士が“ちょっと”変わり者を自称するのは謙虚に過ぎないかと思いまして」


 しれっと真顔になったイケメン中年はそう言って頭を下げつつも、ちらりと流し目をアレリアさんに向ける。

 その仕草にアレリアさんは毒気を抜かれたようだった。

 くっそ、イケメンは何しても得だな。俺がそんな失礼をしたらしばらくガチ説教をされる気がする。


「まあ、そうだな。学会の魔術士としては私は“かなり”変わり者だ。大抵は自分の工房にこもって一歩も外には出ようとしない連中だからな。まったく学会の本分をなんだと考えているのか。スキルにしか興味のない俗物どもめ。まあ、それはどうでもいいことだ。学会の魔術士というのはちょっと人より優遇されていてな。その分、金もある。少なくとも君を生活に困らせるようなことはないだろう。屋敷には部屋も余っているし、使用人もいる」


 さも当然のことであるかのようにアレリアさんはそう言った。

 現代の日本人としては使用人という言葉はなんとも実感に乏しいが、要は自分の生活を手伝わせるために人を雇うくらいお金があることの象徴だと言えるだろう。

 アレリアさんがこの世界でどれくらいの金持ちなのかは分からないが、俺を拾ってくれた彼女が女神のように思えてくる。相変わらずあんまり女性だと思えない中性的な感じだが。


「安心しました。ありがとうございます」

「礼はいいよ。お互いに承諾して成立した契約だ。私たちは対等の関係だ」


 それはつまり俺が助けられた分だけ、きっちり実験動物になってもらうぞ、ということだろう。やっぱり女神じゃなかった。


「おい、フィル、この部屋何にもねーぞ」


 イケメン中年に声をかけてきたのは大剣を持った人だった。見れば他の人たちも部屋の探索をやめて集まってきている。俺から微妙に距離があるのはまだ警戒対象だからなのかもしれない。


「記録じゃ開いてない扉だったから、なんかお宝が見つかるかと思ってたが、レベル1の小僧一人たー割りに合わねーな。で、どうなんだ? そいつ本当に“人間”か?」


 あ、なんかよく分からないけど、間違いなく警戒されてますね。これは。

 しかし人間かどうかとは、どういうことだろうか?

 人間のように見える人間でないものが存在するということだろうか?

 それとも単に普通じゃないから警戒しているのだろうか?

 その答えはフィリップさんの返答ですぐに分かった。


「確かに魔族は婉曲した手口を好むけれど、レベル1を装うなんて聞いたことがないよ。ワン君、彼は悪気があるわけじゃないんだ。気を悪くしないでくれ」

「いえ、大丈夫です。というか、魔族ってなんですか?」


 本当に気にしていないのでイケメン中年の謝罪を軽く受け流して聞き返す。

 魔族というと、悪魔の親戚みたいなものだろうか? あるいは魔王がいるとしてその眷属の総称だろうか?

 その疑問にすぐに答えてくれたのはアレリアさんだった。


「魔族というのは知性を持つ魔物のことだ。とは言っても魔物のことも知らないようだな。魔物というのは魔界に住む生き物の総称だ。魔界というのは俗称で、正しい呼び名は存在しない。我々人類はまだ魔界を深くは探索できていないから、具体的にどういう場所かは分かっていないんだ。とにかくこの世界には人類の生存には適さないが、魔物が生存するには適した領域があり、便宜的にそこを魔界と呼んでいる。そこに住まう知性ある生物のことを魔族と言う」


 あ、これ、先生だ!

 なぜイケメン中年がアレリアさんを先生と呼んでいるのか理解した。もちろん彼女が研究者であるという側面もあるのだろうが、圧倒的にこちらが原因だろう。


「そして魔族には人間と非常に似た姿を持つものもいれば、姿を変える魔術を使うものもいる。彼らは時に人間を装い町に入り込んで破壊工作を行うこともある。とは言っても見分けるのはそう難しくない。手段は二つある。一つはまずステータス。見るべきはスキルだ。ほとんどの魔族は“吸魔”というスキルを持っている。どういうスキルかは分かっていないが、人類は吸魔を習得できない。吸魔を持っているならそいつは魔族だ。そして君のスキルに吸魔は無い。だがこの方法は完璧ではない。稀にではあるが吸魔のスキルを持たない魔族もいるからだ。だがもう一つの手段で確実に分かる。ゴードンくん、私が出しても君は疑うだろう。君の分を提供したまえ」

「まあ、そうだわな。わーったよ。先生」


 そう言って大剣の男はローブの内側に下げていた背嚢を下ろすと、その中から黒に近い灰色の塊を出してきた。そしてそれをひとつまみ、親指ほどの大きさをむしり取ると俺に向かって放り投げてきたので、慌ててキャッチする。

 その仕草はいかにも俺のそばには寄りたくないと言った様子だ。


「食え」

「えっ?」

「心配することはない。ただの携帯糧食だ。小麦粉と乾燥果実を練って焼いたものだ。味は保証しないがね」

「なぜ食べ物を?」

「何故なら魔族は人類の食料を受け付けないからだ。口に入れることはできるが、胃のほうが拒否する。つまり嘔吐するということだ。それを食べて君が嘔吐しなければ、君が魔族ではないと証明されて、ゴードンくんたちは安心できる」


 俺は手のひらの上にある灰色の塊をじっと見つめた。

 石ほどには硬くないが、パンほど柔らかくもない。これは消しゴムくらいの固さではないだろうか? ちょうど大きさもそれくらいだし。

 そんな想像をしたせいか、なにか嫌な予感がした。

 ひょっとしてこれを食べたら吐いてしまうのでは?

 自分が魔族ではないと断言できるが、この世界の食べ物を自分の体が受け付けるかどうかは分からない。それ以前に、食べ物に見えないんだけど、これ。


「早く食えや」


 俺の躊躇(ちゅうちょ)が分かったのか、大剣さんが威圧してくる。

 剣こそ抜いていないが、彼がその気になれば俺は殴られるだけであの世行きだろう。レベル差とかそういう問題ではなく、鍛えあげられた彼の肉体を見れば分かる。

 俺は覚悟を決めて、えいやと携帯糧食を口に入れた。

 むぐ、と口の中にその味が広がる。

 味が、ん?

 味があんまり無いな。

 美味しいとはお世辞にも言えないが、生理的に嫌悪を感じるようなものでもない。

 一応食べ物と認識できる。

 だがその固さは如何ともし難い。

 そのまま飲み込むにはちょっと大きいので、俺は仕方なくそれを噛んだ。

 消しゴムほどの固さのそれは、ぎゅっと歯に力を込めるとボロッと崩れた。するとふわっと果実の味がした。ほんのちょっと、ほんのちょっとだけだが、無いよりはずっといい。

 問題は口の中の水分が全部この携帯糧食に吸われてしまうことだ。これでは飲み込めない。


「み、水を……」


 ありがたいことにイケメン中年が水の入った革袋を差し出してくれたので、俺はそこから水分を補給して携帯糧食を飲み込んだ。なんというか、質の悪いカロリーメイトでも食べたみたいな気分だ。もちろんフルーツ味の。

 俺は口を拭い革袋をイメケン中年に返すと一同を見回した。

 疑惑は晴れた、というわけでもないようだ。そりゃそうか、食べた直後に吐くということもないのだろう。どんな毒物だよって話である。


「えっと、どれくらいで吐くものなんですかね?」

「個体差があるけれど、何時間も我慢できるようなものでもないね。とは言えじっと待っているわけにもいかないな。ゴードンくん、この部屋には本当に何もないんだね?」

「あぁ、ユーリアも太鼓判だ。この足元の魔法陣以外はただの空き部屋だぜ。ここは」

「ふむ、ああ、ちょっと待ってくれ。記録しておく」


 そう言ってアレリアさんは肩掛け鞄から木製の板と紙の束を取り出した。

 横からそっと覗き見ると、書き付けてある文字は日本語で、俺は頭がクラクラした。日本語で話をしているのだから、当然筆記も日本語になるだろう。しかし実際に使われている文字が日本語と同じ平仮名、片仮名、漢字というのは予想していなかった。

 これじゃほぼ日本だ。まだゲームのほうが世界の設定に凝っているだろう。

 覗きこまれていることに気づいたのかアレリアさんが顔を上げた。俺の顔にある驚きを見て、彼女は察したようだ。


「ワン君、読めるんだな?」

「あ、はい。俺の記憶にある日本の文字と同じです」

「もしかして書けるのかい?」

「ええ、まあ、それなりには」


 俺は記憶を探ってみたが、文字を忘れているということはないようだ。読めるように書ける自信があった。

 ちょっと書いてみろとペン、というか、なんだこれ? 黒い炭の塊のようなものを渡されたので、俺はアレリア先生が手に持つ木版の上の紙、あ、これも普通の紙じゃない。とにかくその紙の上に“ちょっと”と書いた。


「ふむ、ますます興味深いな。共通語スキルを持っているわけでもないのに、共通語を扱えるのか。あ、いや、レベル1だからか。スキルを獲得する機会がないんだな。ちょうどいい。これを読めば君の助けになるだろう」


 アレリアさんは俺のボケを完全にスルーして一人納得すると、俺にカバンから取り出した紙の束を押し付け、彼らと言葉を交わしながら、この部屋の状況を確認して、記録し始めた。

 悲しいから俺も無かったことにしておこう。


 さて、とりあえずアレリア先生から渡された紙束を読もう。

 実際に手に取ってみると、これが俺の知っている紙とは全然違うものであることが分かる。

 手触りは荒く、やや硬い。厚みもあるようだ。

 紙束とは言ったが、それほど枚数はないだろう。というか、一番の上の紙を良く見ると、端に33と書かれていた。一枚めくると32、ページ数だ。

 アレリア先生が几帳面というべきか、それとも一枚一枚バラバラの紙束なのだから当然のことなのか。とにかく読む順番は分かった。

 1ページ目から読み始めることにする。


 そこはアレリア先生がこの調査に出発した経緯から始まり、実際に出発してからの記録が、大量の考察とともに綴られていた。

 すごく簡単にまとめてしまうなら、魔物が急に増えた調査を国から命令されてきたということになるだろう。

 実際にアレリア先生が指名されるに至る経緯も、学会に対する大量の愚痴とともに書かれていたが、まあ呆れ返るようなものだった。これに比べたら日本の政治家はまだマシなほうだよ。きっと。少なくとも会議に代理人を立てて、誰一人出席しなかったなんて話は聞いたことがない。

 で、ほぼ行きあたりばったりな調査旅行だったものの、原因と思しきエーテルの暴走と、その発生源であろう遺跡に到達、探索していくうちにこの部屋に辿り着き、それまで暴走していたエーテルが魔法陣の上に収束したかと思うと、俺が現れた、ということのようだ。

 いや、本当に簡単にまとめてしまったけれど、結構な長さだった。具体的に言うと小説の一章分くらいの分量はあったのではないだろうか? 学会編と探索編で二章構成でも行けそうだ。ただ前半は愚痴が多く、後半は考察が多いので、かなりの部分を読み飛ばしてしまった。少なくとも誰かに朗読して聞かせられるような内容ではない。

 ところでエーテルってのはなんだろうか?

 俺の知るゲームではMP回復薬の名前だったが、この世界では空気中に存在する何かであるようだ。


「一度、外に出て状況を確かめる必要があるな」


 俺がエーテルについて考えているとアレリア先生がそう言った。


「ワン君、大体状況は掴めたかね?」

「えっと、質問しても、良さそうですね。エーテルってなんですか?」

「それは光の伝達物質だ」

「はい?」


 予想外の答えが返ってきて一瞬戸惑う。


「詳しい話は後で聞かせてやろう」


 アレリア先生の翠の目がキラキラ輝いてて眩しい。もう語りたくて語りたくて仕方がない人の目だ。


「今は一種のエネルギーを伝達する性質のある物質という認識で構わない。これは理解できる? できるね。よろしい」

「いや、結構いっぱいいっぱいなんですけど」

「君が現れて、この部屋のエーテルは正常に戻った。外も同様か確認する必要がある。もしエーテルの暴走が止まっているのであれば、魔物たちが戻ってくる可能性が高い。我々は速やかに撤収しなければならない。だがそうなると悪いが……」

「この遺跡や魔法陣について調べる時間が無いんですね」

「というより、調べたところで分かるわけもないのだがね。せめて魔法陣の見える範囲の模写だけでもしていければいいのだが」


 スマホの電源が無くなっているのが悔やまれる。カメラで撮れば一瞬で記録できるのに。

 もっともバッテリーが残っていたところでスマホでは半日程度しか持たないだろう。充電手段の無い今、スマホはただの文鎮代わりだ。


「いえ、まずは安全が第一です」


 工事現場の標識みたいなことを断言する。

 日本に戻りたいという気持ちはあるが、それほど切迫した感情ではない。おそらく記憶が無いのが原因だろう。正直、このまま日本に送り返されたとしてもどうしていいのか分からない。

 それよりはこの世界でまずは安全な生活を手に入れたい。

 食べるもの、寝るところ、差し当たってはその二つを確保する。色々考えるのはそれからだ。

 ここが危険地帯であることはなんとなく察している。それは彼らの装備を見てもそうだし、俺と出会った時の警戒ぶりからしてもそうだ。

 なによりアレリア先生の記録によるとここは魔界の中であるらしい。

 魔界というのがいったいどういう意味なのかは分からないが、少なくとも人類にとって危険なエリアにつく名称であることは疑いようもない。

 だからアレリア先生が町に戻るべきだと判断したなら、それに異論を挟むつもりはなかった。


「君は物分かりが良いな。多少はわがままを言ってもいいんだぞ? 君の境遇を考えると、もっと落ち着きをなくしてもいいものだ」

「それじゃ財布返してください」

「……また貸してくれるかい?」

「……もちろん、いいですよ」


 上目遣いのアレリア先生がなんか可愛くてつい了承してしまった。

 アレリア先生のローブの中からにゅっと財布が現れる。それを受け取ると、意外なほどほっとした。

 もはやこの財布にはなんの価値もないことは理解しているものの、財布があれば多少のことはなんとかなる感は、現代日本人なら分かってくれるのではないだろうか? 電源の入らないスマホもそうだが、無意味そうだが持っていようと思う。


「ゴードン君ももういいだろう? ワンくんにはなんの変調もないよ」

「確かにそうだ。疑って悪かった」


 大剣さんはそう言って、驚いたことに頭を下げた。


「頭を上げてください。疑うのは当然だったと思います」

「そう言ってくれるか。ワン、道中は俺たちがしっかり守るから、安心してくれ」


 大剣さんがそう言って拳を突き出してきたので、俺も拳で合わせておいた。多分、こういうことだと思う。

 なんというか、この大剣さんは良くも悪くも真っ直ぐな人なんだろう。猜疑心を隠すこともしないし、自分が間違っていたらそれを認められる。竹を割ったような性格っていうのはこういう人のことを指すんだろうな。


「よし、いつまでもレベル1ってわけにもいかねーだろ。俺がビシバシ鍛えて、すぐに20くらいにしてやるよ」


 ひえっ! どんなスパルタなんすか。メチャクチャ怖い。

 しかしそんなゴードンさんにアレリア先生が待ったをかけた。


「待ちたまえ、ゴードン君。とりあえずワン君には魔術士の適性があるかどうかを確かめる。こればかりはレベルが低いうちの問題だ。分かるだろう?」

「あー、まあ、確かにそうだな。それにひょろっちぃから魔術士向きだな。だけど体も鍛えたほうがいいんだがなあ」

「あの、俺が魔術士になれるんですか?」


 聞き捨てならなかったので聞いてみる。


「魔術士と名乗れるかどうかは分からないが、魔術自体は誰にでも扱えるものだよ。ただスキルを獲得するのが少々難しいだけでね」

「まー、俺でも魔術士スキルはもってっからな。スキルレベルは1だけどな」

「マジすか!?」


 筋肉ダルマな感じの大剣さんが魔術を使えるというのは意外にも程がある。


「おおマジよ。火と水が使えんぞ。まあ、今は杖持ってきてねーからな」

「今度見せてください!」

「いいぜ! 野営地に戻ったら火起こしは任せときな!」

「おおー」


 パチパチと拍手はしておいたものの、なんか地味だ。

 火起こしって。攻撃魔法とかじゃないんですかね?

 それともスキルレベルが1だとそんなもんなんだろうか?


「アレリア先生は魔術士なんですか?」

「そうだね。というか、君まで先生って言うのか」

「おっと、つい。それで魔術士スキルのレベルはいくつなんですか?」

「私は5だな。火系統のスキルも4ある。まあ、そこは典型的な魔術学会の魔術士だな」

「レベルと比べるとスキルレベルはずいぶん上がりにくいんですね」

「そりゃそうだ。現在知られている中で最高が10だからね。この国だと8が最高だな。レベル11に達したという伝説もあるが、眉唾ものだな。まあ、君は知らないんだろうが、スキルレベルを上げるのはとにかく難しいんだ。特に上がれば上がるほど、上がりにくくなる傾向があるからね。私の魔術士5でも、他人からは羨まれるほどには高いし、ユーリア嬢に至っては、な」


 アレリア先生がちらりと杖を持ちフードを被った女性に目を向ける。


「あの魔術士さんですね」

「そうだ。彼女は魔術士スキル8だよ。水系統の8も持ってる。一番すごいのは魔力操作の7だな。世界中を探しても早々いないのではないかな? さらに彼女はまだレベルも低いから、さらに伸びるだろう。正直、冒険者にしておくのはもったいない逸材だよ」


 つまりいわゆる普通のレベルは上限こそ分からないが二桁当たり前で、スキルレベルの方は10が上限なのだろう。一国の最高が8なのだから、アレリア先生の5だって決して低くないし、魔術士さんの8はそれこそ国からスカウトが来ないのがおかしいくらいだ。


「魔術士を名乗るためには、魔術士のスキル3が必要だ。ここまで上がると実用的な魔術が使えるようになる。現実的な話をすると、アルゼキア王国では魔術士3あればそれだけで国から援助が出るようになる。その代わりに何かあった時に国からの要請を跳ね除けられなくなるがね。それでも生活には困らないくらいの援助は受けられる。そういうわけだから、君も魔術士スキルが得られるようにやってみるつもりだ。そんなところでいいかな? それじゃ出発しようか。まずは遺跡の外へ。天球が暗くなる前に野営地に戻ろう」


 つまり手っ取り早く俺が自立するには魔術士のスキルを3まで上げてしまうということになるのだろう。そうすれば例え仕事に就かなくとも生活の保障は国がしてくれるというわけだ。


「了解しました。付いていきます」


 こうして俺はまだ何一つ見知らぬ世界に足を踏み出すのだった。

次回は10月3日0時更新です。

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異世界転移ものの新作を始めました。
ゲーム化した現代日本と、別のゲーム世界とを行き来できるようになった主人公が女の子とイチャイチャしたり、お仕事したり、冒険したり、イチャイチャする話です。
1話1000~2000文字の気軽に読める異世界ファンタジー作品となっております。
どうぞよろしくお願いいたします。

異世界現代あっちこっち
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