表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
混血魔(キメラ)の恋する聖職者  作者: 久保田マイ
1章 ファースト・インプレッション
10/14

9節 収拾は翌日に




 元帥卿――現在バチカンに赴いているために長期不在中なのだが――を長とし、5人の大司教とそれぞれの下に属する神父(エクソシスト)、そのさらに下まで数に入れるのであれば助祭(エクソシスト見習い)や教団関係者、候補生たちによって構成されるエクソシスト集団、それが、“クオレヴィア教団(ディ・テンプル)”である。

 そこは、表の顔のクオレヴィア「教会」の部分を取り除いてしまえば、最早カラクリ屋敷だ。

 15世紀に、一退魔師団の“白き心臓”が、“クオレヴィア教団”としての(かたち)をここランヘルに築いてからこのかた、内外部の増改築を秘密裏に繰り返してきた結果である。

 分裂や戦乱、激動を経てきたイタリア(この国)歴史(ヒストリ)のようにややこしい。一般には開放されていない通路があちこちを巡り、そこを通ってでなければたどり着けない場所がいくつもある。

 大広間(エクソシスト詰所)蔵書館(ライブラリー)中庭(訓練場)カタコンベ(武器精錬場)地下大聖堂(儀式場)……。


 翌朝。

 アレクが向かったのは、そんな中の一つ。別塔の上階。

 上階に向かっているのに何故か一度階段を下り、それから上りきった先にある、アルバス大司教の執務室であった。


「いっっっっけぇええええええっ!! テイクオ」

「ンなことだろうと思ったぜ」

「フぅどわああああああああっ!?」


 突如現れ出た侵入者――アレクに驚愕するあまり、アルバス大司教の手から滑り落ちる。

 送信機(プロポ)が。

 すると途端に、開かれた窓の外へとその身を躍らせていた機体(、、)は、操縦手を失くし、下手なスローモーションのように真っ逆さまに墜落し(おち)ていく。


「あ゛あーーーーっ!?」

「だーれが『職務中』だって?」


 アレクは、外の扉にあった張り紙を投げつけた。握り潰された紙面には、デカデカと躍動する大司教直筆の文字。



 超超超重要で緊急の職務中!

 入ったら神の鉄槌が下るよ(≧∇≦)b



「ノ、ノックぐらいせぬか! 第一、扉番に助祭をやっていたはずだが!?」

「どいてくれたぞ」

「また泣かしたのか」

「『そこをどけ』って目で訴えただけだ」

「お主の場合、それは『ガンを飛ばした』というんじゃよ」

「見解の相違だな」

助祭(アノ子)カワイソウ……」

「その元凶に哀れまれたくもねぇだろうさ。大体、いい年した大司教(おとな)がラジコンヘリで遊んでンじゃねぇよ!」

「息抜きだって歴とした職務じゃわい!」

「歴としたサボりだろうが。見てるこっちが恥ずかしい」

「お主に恥じられるいわれはないわ! 見てるのは読者だけで十分!」

「少年の心とやらをこじらせたジジイの末路見せられたところでな……」

「何を言う! こんなお茶目な儂のレア姿は、最終話までもうお預けかもしれぬというに!!」

「わわっ! 何だい!?」


 そうしている間に、下の中庭に不時着したのだろう、ラジコンヘリの巻き添えに遭ったらしい声が聞こえてくる。

 「悪魔の襲撃!?」などと、毎度のズレた慌てっぷりをするその人物を、アレクは窓から乗り出して見下ろす。


「あー、エイデン。悪いな。それ? いらねぇよ、やる。じゃあな」

「ああっ!? 儂のメタトロン19号が……っ!」


 その試作数に至るまでの根性と集中力は買うが、まったくもってただの無駄遣いである。

 背後から聞こえる大司教の文句は完全無視。アレクは送信機を下に放り投げて渡すと、窓を施錠して室内へと向き直った。

 アルバス大司教は、古めかしい光沢を帯びた執務デスクの椅子に腰を下ろしていた。

 が、年甲斐もなくいじけたポーズをとるのは頼むから止めてほしい。


「……で、何の用だ。不肖の弟子よ」

「テメェが呼んだんだろうが。我が師よ(マエストロ)

「ん?」

「『大事な要件があるから、明日司教執務室へ来い』て伝言頼んだ(、、、、、)だろうが」

「あーー!」

 そこでようやく、不貞腐れていた大司教が顔を上げる。

「ということは、無事オペラに会ったんじゃな!」

 しまったと、アレクが己の失言に気がついたところでもう遅い。

「……てか、どういうつもりだ。隠れ家(俺の家)の場所、教えやがったな?」

「グッ☆」

「…………その立てた親指ひん曲げてやろうか。その顔もやめろ。糞腹が立つ」

「いや~、良かった良かった。無事にお主の所まで行き着けたか、気がかりだったのでな」

「その内の1ミリでもいいから、俺も気がかりに思えよ」

「お主なら大丈夫だと信じていたんだもんっ!」

「何が『もんっ』だ。可愛いと思ってンのか」

「まあ、冗談はさておき――」


 ふと、大司教の目が、軽薄めいたそれから、穏やかな、けれど静かな憐情を帯びたものへと変わる。あたかも、聖人が道化師(ピエロ)の仮面を不意に外したかのような。


「――儂とて、お主に悪意や敵意を抱くような者に口を割ったりはせぬよ。十二分に承知しておるでな、お主のこれまでのこと(、、、、、、、)は」

 毎度毎度、この変貌ぶり(真剣になりよう)は卑怯である。アレクは二の句を継ぐのを思わず躊躇った。

「安心しなさい。オペラ(あの子)は危険ではない」

「……混血()に対して、随分信頼し(しっ)た口ぶりをするんだな」

「言っただろう。世話をした、と」

「……世話?」

半吸血鬼(ちちおや)人魚(ははおや)も早くに亡くし……まだ幼かった彼女を、人間のハンターや悪魔からかくまったのだよ。旧友に預けるまでの、少しの間ではあったがな……」


 失血死一歩手前で行き倒れていた死に損ない(、、、、、)のみならず、混血魔(キメラ)の子供までこの老人は拾って来ていたのかと、教団の掟すら恐れぬそのお人好しさ(豪胆さ)を前に何とも言えず、結局アレクはいつものように顔をしかめた。


「ともかく、ひとまず危険ではない(そういうことだ)から、恋人や伴侶として」

「ああ゛?」

「とまではいかないにしても、仲良くしてやってくれぬかの? それは、暫くはお主の血を諦めぬかもしれぬが……」

「何で俺が――」

「限りのない広き空へ飛び立つ翼も、海の底を自由に泳ぐ尾も持ちながら、あの子の知る世界はまだまだ狭い。人と魔その両者でありながら、しかしそのどちらの世界にも在りきれぬ。そして、分かち合う者の少ないその世界は……実に寂しい。酷く孤独なものなのだよ」

「……」

「覚えはあるだろう。幼き頃から特殊であった(人とは違った)お主なら」

「…………さあな。もう忘れた」

「それに、お主らは案外共通点が多いと思うぞ?」

「どこが?」

「色々、だ。お主が気付いておらぬだけで」

「……で――」


 少しだけ湿っぽくなったその空気に居心地の悪さを覚え、アレクは気まずそうに頭を掻きながら、俄かに話題を変えた。


「――用件てのはそれか? それとも、あの女を寄越すただの口実だったのか?」

「いいや」

 アレクの予想に反して、アルバス大司教はそれをすぐに否定した。

「用件というのは、それはまた別の話だ。すっかり言うのが遅くなってしまった」

「……?」

「実は、連絡が入ってな」

「どこから?」

「その……(サン・)コスマ・ダミアノ記念病院から」

「!? おい、まさか――」

「ああ。ティボルドが……」

「テメェそれ何で先に言わねぇんだよ!?」









「……人の話を最後まで聞かぬか、この不肖の弟子が」


 アルバス大司教が文句を呟いてみせたところで、アレクは血相を変えてとうに執務室を出て行った後であった。



【クオレヴィア教団の組織体制について】

元帥卿(長期不在中。現在はバチカンにいる)>>大司教5名>>神父(=エクソシスト)>>助祭(=エクソシスト見習い)、以下教団関係者・エクソシスト候補生etc


大体こんな感じになってます。

表立っての役職名なので、本当はエクソシストのアレクも、表向きでは「アレクシス神父」となります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ