「やっぱり生中が最高っすよね」
お題:くだらない光景 必須要素:大阪 制限時間:30分
日本で一番高い駅はどこか、というなぞなぞがある。
マジレスするなら野辺山駅、小海線、長野県にあって標高1300メートルちょいくらいだったように思うが、これはなぞなぞだからして。
答えは東京駅。
何故なら東京行きを皆「のぼり」というからだ。
「ふざけんな、って話ですよ」
後輩は飲み干した生ビールの中ジョッキをどん、と置いた。
壊れやしないか。安そうなテーブルだ。少しひやりとする。
「東京が何だ! 偉そうに! ふざけんな! 何様だ!!」
「本社様だよ」
愚痴もループに入ってきたので、自然こちらの相槌も素っ気なくなる。
あー、枝豆が旨いなー。茹で加減塩加減が絶妙。
あー、もうなくなっちゃうなー。
あー。
「……先輩、物欲しそうに指舐めてるくらいなら、おかわり頼めばいいじゃないですか」
後輩が、妙に素面に戻って促した。
いや違うんだこれは。そんなつもりはなくて。単に指に移った塩分が……しゃぶしゃぶ。
「すみませーん。生中ふたつと枝豆追加で」
ため息をついてから、後輩は追加の注文をした。
ほーら、やっぱり。
実はそれほど酔ってない。
こいつはいつもそうだ。
「大阪にでも引っ越そうかなー」
また突拍子もないことを言う。
「なんで大阪」
「いや、東京と戦うならやっぱり大阪でしょ」
知らんがな。
それとも、何でやねん?
生まれも育ちも関東平野の自分には、大阪風の相槌は思い浮かばない。
「……もし俺が実行に移したら、先輩、ついて来てくれます?」
「無理」
後輩は軽くため息をついた。
「さっきの話だけど」
居酒屋を出て、夜風に頬を冷やしながら。
「大阪暮らしは無理だけど、本社に反旗を翻そうって言うだけなら、協力しないでもない」
「マジすか」
「まあ、あたしも腹に据えかねてるし。いくつか案はある」
あと。
それから。
大阪なんかじゃなくて、この近辺でなら、一緒に住んでもいい。
という言葉は飲み込んだ。
いかん、ちょっと酔ってる。
東京駅に居座り続けたら。
くだらない光景。
冒頭の前振りと最後のオチ、対応してこそなんだけど、オチの方が分量というかパンチが足りなくて、つまりは落ちてない。
何だか話全体が酔っ払ってるみたいなふわふわ感。
やりとり自体は嫌いじゃないけど。
一応、先輩の性別はラスト前までぼかしたつもり。