ゆかりちゃんが病気になっちゃった 3
(うぅ……好意で言ってくれているから断れない)
真坂が何をしているのか気が気でない。
「陽菜ならうまく断れるのかな……。私は……敏腕キャリアウーマンになれそうもないわ……!!」
ゆかりが心配している内に真坂がガラス容器を割ってしまった音が聞こえてきたので意味なく体が震えてしまっていた。
真坂がビールジョッキに、ゆかりの父親の日本酒に卵を大量に入れて持ってきた。
「はい! 風邪といったらこれ! 卵酒!!」
作り方もわかってなさそうな真坂は名前だけでそういうものだと思い込んでいる節がある。完全に間違えじゃないけど、砂糖が入ってないし、火を通してない。
「アイアムミセイネ――――――ン!! しかも生!?」
やはり最初から天然な真坂にゆかりはノドを痛めているにも関わらず、ツッコまずにはいられない。
「じゃあスタミナをつけるためにすりおろしにんにく山盛り~!!」
「せめて火を通して!! お腹壊すから!!」
宣言通りすりおろしニンニクをそのまま皿に盛って渡される。部屋中に強烈な匂いが残るし勘弁して欲しかった。
「うーん、じゃあアレしかないか……」
真坂が台所から長ネギを持ってきた。
「えっ、何そのネギ。それで何をすると……?」
予想はつくが、ゆかりはさすがに真坂でもそんな方法を信じてないよねと祈る。
「ゆかりちゃん、よつんばいになって」
昔の民間療法が今にも伝わっているとはいえ、ゆかりは真坂がそれを信じているとは思っていなかった。ゆかりの表情が更に青ざめていった。
そんな方法で熱は下がらないと真坂にどうにか理解してもらったゆかりは冷却シートを用意してもらった。
「うーん」
もう体力が尽きかけているゆかりは枕元にまだニンニク丸ごと二個置いてあったが、もうどける気力も出ない。
「熱下がってないね~、むしろ上がってる? おかしいなあ」
あんたのせいだよとゆかりは言いたいが、もう同しようもない状態なので何を言えなかった。
「真坂……お願いだから……おとなしく……」
ゆかりが体力気力を振り絞って真坂に何をしないように訴えかける。
「でも熱は風邪と戦っている証拠だよね! がんばれがんばれ~、ゆかりちゃん」
真坂が励ましの言葉をかける。
(このポジティブさ……見習いたい……わね……)
寝床で意識を失いかけているゆかりは、真坂でも見習いたい部分があるのかと思いながら眠りにおちかけていった。
真坂的に好意でやろうとしていることなのでゆかりはもうされるがままを選択する。
「じゃあゆかりちゃんが気持ちよく眠れるように子守唄を歌うね~」
ゆかりの気持ちは(もー、すきにして~)だ。
「ゆかりちゃん~ねむれぇ~」
真坂の歌声は二十二世紀の猫型ロボットの漫画に出てくるガキ大将並にひどかった。
(相変わらずヘタ……)
「十二時間くらい~ねむれぇ~」
(あ……でも……)
音程は外れているものの、真坂の子守唄でウトウトと眠りの世界に誘われていった。
(前よりちょっとは……聴けるようになってる……かな……)
「あっ、寝ちゃった」
ゆかりが眠っていることに真坂が気付く。
「あははっ、眼鏡をかけたまま寝ちゃって……私って催眠術の才能があるのかな! ……なんて」
ゆかりが眠ってしまったことで、真坂は気のせいだろうけど、ゆかりの表情が穏やかになっている感じを見て安心した。