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blanket  作者: 璢音
再び戦いへ
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人気者故の悩み

 運ばれてきたケーキを味わいつつ、彼女の話を聞く。

 彼女はルルディ・コルツィの一員だが、どうも三人の中であまり人気がない事や、自分の性格を偽ってアイドル活動をしている事に段々と疲れと不満を感じているらしい。

 今のようにこうして同年代の人と遊びにいったりすることはおろか、関わることさえも稀で年相応の生活を送りたいと思うようになったのだとか。


 それに加えて最近現れたという過激なエリファン達にも手を焼いているという。


 ライブが終わった直後出待ちをしていたり、エリさんに必要以上のものを送ってきたりする他、チカさんには脅迫文などが届いたこともあるとか。誰かに襲われたりした事例はないものの、不安な気持ちは増していくばかりだと話す。


「それから、あの人達と対立する貴方達を見てエリの代わりにどうしても謝りたくて。ごめんなさい。」

「それは別に気にしてないよ。あいつらが悪いんだし。」

「エリもエリで私と同じような悩みを抱えているようで・・・それも最近、酷くなっていっている気がするんです。教えてください。彼女を助けるには・・・友人として、どうすればいいのでしょう。」

「傍にいて、支えてあげることだと思います。純真に貴方達を想うファンのように。親身になって相談に乗る事もいいと思います。話せば、少しは楽になるはずです。」

「私達はエリさんに近づく事は簡単ではありません。チカさんなら、エリさんの気持ちも理解できますし、話す事も出来ます。」


 私や、美麩さんがチカさんにそう伝えると、チカさんはゆっくりと言葉を咀嚼して飲み込んだ。

 頭の中でその言葉を吟味しているように見える。


「そう・・・そうですね。そうしてみます!有難うございます。」


 チカさんはケーキは既に食べ終わっていた。


 私達の意見は参考になっただろうか。なっていると嬉しいな。なんて思いつつ、彼女の顔を見る。彼女は笑顔だった。


「またどこかで会えたら、その時はまたお願いしますね。これ、よかったら是非貰ってください。」


 彼女はそう言って何かを差し出してきた。

 良く見るとそれはチケットとCDで、初回限定版というシールが貼ってある。


 ファンからしてみれば、これはとても価値の高いものなんじゃないだろうか。今日初めて彼女たちの歌をしっかりと聴いた私達が貰ってもいいものなのかな?


「CDは自分用に買ったやつなんですけど、また買えばいいので気にしないでください。チケットの方は時間が合ったらでいいので・・・じゃあ、これで。」


 自身の分のケーキ代にしては多く置かれたお金に、申し訳なさから声が漏れる。


「あの、多いです。」

「気にしないでください。相談料ですよ。」


 またどこかで会いましょうと言い残して彼女はこの場を去って行った。去り際の彼女はいい笑顔をしており、迷いが晴れ少しは疲れも癒されたのではないかと感じた。

 彼女が去ってから、私達は暫くケーキを食べながら彼女について話した。


「彼女、あのまま悩みを抱えていたら武器持ちになっていたかもしれないですね。解消できて良かったです。」

「だね。やっぱアイドルって光が強い分闇も深いのかもね。」

「ちょっと心配だなぁ。」

「きっと大丈夫ですよ。」


 皆が憧れるアイドル。その地位に、その美貌に、そのかわいらしさに、その歌声に。憧れる人が多いからこそ悩みも多くなるのではないだろうか。もっと人に喜んでもらうために。ファンを悲しませないように。時に自分を犠牲にしてさえもそのキャラクターを守り通す。気軽に相談できる人だって身近にいるとは限らない。ましてや、年齢が近い人となればなおさらだ。きっと大丈夫とは言ったものの、やはり少し心配ではある。


 そんな時、紫綺さんが時計を目にして慌てた声を出した。


「うわっ、もう20時半!外真っ暗だよ。遅くまで引き止めちゃってごめんね。責任もって俺が三人とも送っていくよ。」

「そんな、申し訳ないですよ。」


 お店の中にあった時計を確認すると、確かに20時半過ぎをさしている。

 外は暗くなっているのは間違いないだろう。


「俺も寮帰りだし、そこまで遠くないから大丈夫。」


 紫綺さんが帰宅する時間が遅くなるからと送りを断ったけれど、心配だからと言って引き下がってくれなかった。申し訳なさを感じながらも好意に甘える事にした。

 会計を済ませ、お店を出る。このショッピングモールが閉まるのは21時なので、中にいる人もかなり少なくなってきている。中には仕事帰りに寄っているのか、今からお店に入る人もいたが。


 幸い、三人とも寮へ帰るメンバーだった為途中で女子一人で夜道を歩くという事態にはならない。紫綺さんも寮に戻るらしいから、帰り道は途中まで・・・というより殆ど一緒だ。


「私さ、思うんだけどね。」


 夜道を皆で歩いている間にふと千佳ちゃんが言った。


 自分と同じ名前を持ったアイドルの悩みを聞いて何か思うところがあったのだろうか。その表情は僅かに沈んで見える。元気づけようにも沈んでいる理由が分からずその後に続く言葉を待った。


「武器を持ってる人って、一人で何事も抱え過ぎだと思うんだ。」

「うん?」

「それは自らの意思なのか、それとも環境が良くないのかは分からないけれど、もしそういう人と今後会うような機会があればまたこうして話を聞いてあげたいなって。」


 話す事で楽になり、アドバイスを貰う事でその後に活かせる。武器発動手前の人にしてみればこうして経験者に話し相談することが一番いい方法なのではないかと彼女はそう考えているらしい。

 自らの経験を振り返っているのだろう。足を止めて眼をゆっくりと閉じ、過去の記憶をさかのぼってみている。


 私も言葉を受けて考えてみる。

 確かに私の周りには相談をすることが出来る人は中々いなかった。友人に話すにしては重い話をするのは嫌だし、何より迷惑をかけたくない。でもその思いが裏目に出てしまっているのかもしれない。そんなの分からないけれど、でもそうだ。


「そうですね。力になれるのなら私もなりたいです。」

「俺も。」

「わ、私も!」

「ひー!」


 私達の話に反応したらしき冷が、鞄の中からひょっこりと体の一部を出してひらひらと躍らせている。そこで私はハッと息を飲んだ。もし、私が武器を発動させていなければ冷は生まれてこなかったんだと気づいたからだ。


 たまたま私の武器がああいう能力だったからかもしれないけれど、私は武器所持者になったことを後悔したことはない。冷という大切な家族が増えたのだから。

 一般的には武器は危ないものだと思われている。けれど、実際はそうではない。私はその事を証明したい・・・。武器は、所持者を護るもの。人を傷つける為の道具なんかじゃない!


「武器の使い方をもっと学んで、良い使い方・・・例えば人を楽しませるような事が出来たら、きっと武器への考えが少し良くなると思うんだけどな。」

「紫綺くんが小説を書けばいいんだよ!」

「そんな事したら本当になっちゃうから出来ないよ。」

「千佳さんが動物の写真とかを撮るのはどうでしょう?」

「いやぁ私は基本的に好きになった人とか物とかしか撮らないからなぁ。能力は使わない事も出来るから普通の写真も撮れるけどね?」


 あ、あれ?もしかして千佳ちゃんの方が能力を使いこなしているのかな。


「皆で協力し合えばきっと出来ますよ。頑張りましょう!」


 それぞれの武器の長所を活かして、人々を楽しませる。難しい事も皆で一緒にやればきっと叶うはず。


 色々な可能性を検討しつつ会話を続けていると、女子寮の前に着いた。

 紫綺さんはまた明日とこちらに手を振って、街灯が光る夜道に消えていく。紫綺さんを見送った私達は寮に入り自室へと帰宅した。



 自分の部屋に戻ってから今日一日の事を振り返る。


 テレビを付ければ今日会ったチカさんを含むルルディ・コルツィが笑顔で歌を歌を披露している。本当にトップアイドルに会ったんだなぁなんてふわふわとした頭で考えてしまう。


 明日の授業は何だっけかなぁ。確か実践は少しの間お休みして座学がメインになっていた筈だから、明日もそうかな。なるべく早く武器を使いこなせるようになりたいところだけど、そう上手くはいかないね。


 冷の能力は生物化であって、他の人に比べて能力が解明されていない点が多い。普通の武器の基本能力は巨大化・自在化などだけど冷の場合は違う。今までの冷を見ている限り能力は飛翔や感受といったものなのだと思う。記憶は蓄積されるみたいだし、目はないのにちゃんと見えてるみたいだからやっぱり毛布とは言いづらいかな。私の大切な家族。そう家族。

 だから全然怖くなんてない。

 クラスメイトの皆は冷と仲良くしてくれるし、いい子なのを知っているけど他の人にもそれを知っててほしいな。いつもこそこそと鞄の中に忍ばせたりするのが、冷に申し訳なくて。あの狭い空間に閉じ込められて話す事も、私達と同じものを見たりすることも許されなくて。

 自由を奪ってしまっているのが、どうしても・・・。


 明日の支度をし、お風呂に入り湯船に浸かって冷について考える。思考は止まる事を知らない。

 冷の事をもっと知りたい、もっと知ってほしい。その為にはどうすればいいんだろう?

 お湯の温度を少し熱めにしていたからか、体が火照り意識がぼんやりとするまでにそこまで時間は掛からなかった。

 上せてしまってはいけないと早めにお風呂を出る。


「ひ~?」


 寝間着に着替え髪を乾かしていると、私がお風呂から出た事に気が付いた冷がこちらにやってくる。

 体で器用にコップを持っており、飲むように勧めてくる。私は有難うと一言冷に礼を言いコップを受け取った。ひんやりとしたグラスが、ぼーっとしていた思考をクリアにしていく。コップの中身はお水だった。スーッと体に浸透していくのが分かる。


 髪を乾かし終わってベッドに入る。冷はいつものように普通の毛布のように被さった。


「おやすみ、冷。明日も早いから、もし私が起きなかったら起こしてね。」


 冷は元気よく返事をしたので、私は安心して眠りに落ちた。

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