生まれ変わり
今回は暗めの話を含みます。残酷な描写はしないようにしていますが、そういった内容を含むという事を承知の上、お読みください。
生まれ変わりというものを信じるのならば、私はほぼ間違いなくイア姫の生まれ変わりだと思う。
夢に出てきた彼らもまた、生まれ変わってこの場所に、惹かれ合うように集まったんだと思う。
夢の中は過去と繋がっていて、イア姫の話を断片的に聞くことが出来るのかもしれない。
生まれた時からあった能力でないのは確かだから、後天的な能力になる訳で。もしかしたらこれも、冷の能力なのかも。
夢を前世とつなぐ能力?
対象範囲は関わった人たち?
それとも、前世で関わりのあった人を引き寄せる能力?
他の人が同じような歴史軸の夢を見るのもそのせい?
分からない事が多すぎて、手のつけどころもなくてただただ持て余している。
これは皆に相談するべきだよね。
前にアルバートさんや真里亜さん、セイラさん、緋威翔さんには話した気がするけれど、その他の人に夢について聞いてみるのもいいかも。もし、仮定が正しければ他の人も同じように前世の事を見ているはずだから。
シリウスさんが私に対してイア姫の――前世の事を話したのも、気付かせるため?
それをするメリットは今のところ分からないけど理由はあるはず。もしまた出会う事があったら、問い詰めなきゃ。聞きたいことは山ほどあるもん。
「資料を集める事は得意でも、纏めるのはちょっと。」
そう。集める事には集中出来るけれど、いざ纏めるとなると頭がパンクしそうになって、今まで溜めていた情報が真っ白になるの。
だから脳内で考えるのは極力控えて、データにするかメモ書きを書いたりしないとね。
「あと40分の内に仕上げないといけませんし。」
時間は長くあるようで短いから、出来ることから早めに取り組んでいかないとあとあと困るし。
「月華さんは今どんな感じです?」
必死に考えを纏めている最中で――。
「集中しているみたいです。そっとしておいてあげましょう。」
「そ、そうですねっ。あんなに集中出来るなんて凄いと思います。」
「もしかしたらどんなレイアウトにするか考えているのかもです。私も考えなくちゃ駄目ですね。うーん、音符を使うのは決定として。」
ってあれ?今普通に話しかけられてた?
どどどどうしよう。無視したみたいになっちゃった!
慌てて周りを見ても、自分達の作業に戻ってしまったみたいで、6時限目が始まってすぐと変わらない配置でみんなが居た。私ってば完全に話題に乗り遅れてしまったみたい。
レポートを書き進めているらしき緋威翔さんの用紙をチラ見すると、流れるような綺麗な文字でびっしりになっていた。膨大な情報の中から絞ってこの一枚にまとめるのは難しいのかも。
私はそんなに多くの情報を集めていないから、隙間ができてしまいそうだけど。
時間もないので、紙に書くことをまとめる作業に入る。
女王様であるミラ様が行ってきた事、その中でイア姫が引き継いだもの。
元老院の仕組みやどんな人がいたのか、などなど・・・。
こうやって書き出してみると案外埋まってくるもので、ある程度まとめてから用紙に書けばほら。目立つ空白もなく仕上がった。後は見やすくなるように色をつけたり挿絵を入れたりすれば完成っと。
「女性はイラストがお上手で羨ましいです。」
「俺らの中にだっているだろ、イラスト描くの得意なやつ。」
そんな事を言いながらもイラストを描いているらしきカインさんとそれを見ながら笑うケインさん。
その周りにはセイラさんもいる。何とも微笑ましい光景に口元が緩む。あんな風に会話しながら宿題とかが出来るなら、宿題でさえも楽しめてしまいそう。兄弟のいない私からしたらとても羨ましい。
「もう完成したんですか?」
「あっ、はい!緋威翔さんや栞さんのおかげです。ありがとうございました!」
二人にお礼をと立ってそう言うと、緋威翔さんは笑いながらそれは良かったといい、栞さんはそうとだけ言って元の作業に戻っていった。
提出物が完成した事もあり余裕のできた私は、何をして過ごそうかと考えながら図書室をぶらついた。
図書室はあの図書館よりも冊数は少ないものの色んな種類の本が綺麗に棚にしまってある。
ジャンル毎に棚が分かれているけれど、課題が課題の事もあり生徒は一定の棚の近くに集結している。
敢えてみんなから離れたところにある本棚に向かうと、そこは絵本のしまってある棚のようだった。
色とりどりで可愛らしい表紙を眺める。いくつか手に取って中身も数枚めくってみたりもした。
その中で気になったのは“おおきなつばさ”という絵本。
これってもしかして、夢に出てきた緋威翔さんみたいな人と何か関係が?
ううん。緋威翔さん以外にもいる。現に聖夜さんの非武装の武器は翼だし、翼の生えた女の人だって見かけたばかり。これは読んでおいた方がいい気がする。
そんな直感を信じつつ、半分はただ単に興味が湧いたからという理由で私はその本を開いた。
表紙には何かぼやけたものを大切そうに抱えている男の人が描かれている。その背中には半分透き通った白い翼が生えていた。
「大きな翼・・・一体どんな話なんだろう?」
ページを一枚捲る。
“むかしむかしこのせかいには、とりさんのようなはねのはえたひとがいました”
“そのひとはあかちゃんのころからはねがはえていました”
“はねのはえたひとはおおきくなったらつよいちからをもつといわれており、たいせつにされました”
表紙のときより幼く見えるその男の子の絵が大きく描いてある。どうやら主人公はこの男の子らしい。
1ページ目は生まれたばかりの絵で、幸せそうにほほ笑むお母さんに抱かれた赤ちゃんがいた。
赤ちゃんの背中には既に小さな白い翼が生えている。
お母さんを囲むのは、幸せそうな笑顔を見せ男の子とお母さんに贈り物をしにきたらしき人たち。
誕生を祝っているようで、持っているプレゼントは人により違った。
見ているだけで幸せが伝わってくるような温かい色使いに、可愛らしいフォントで書かれた文字は小さい頃にお母さんに読んでもらっていた絵本を思い出させる。
“はねのはえたおとこのこはすくすくとそだち、りっぱなはねをもつおとこのひとになりました”
写真を何枚も並べたような構図で、その子に起きたいろいろな事がダイジェストで描かれている。
その殆どは母親・父親との思い出で、時々友人と一緒にいるものもあった。
“かれはおとなになると、いろいろなひとのおてがみをはこぶしごとをはじめました”
“はこぶのがすごくはやかったので、ゆうびんやさんはにぎわいました”
“おてがみはそのくにだけでなく、となりのくにやとおくのくにへもはこびました”
“てがみをはこんだくにに、たいせつなひともできました”
“かれはいいました。『みんなのえがおがじぶんのちからになる』と”
翼を持っているということは、聖夜さんやあの女の人のように空を飛べるのだろう。
この物語に出てきた町の感じからして、移動手段はまだ馬だったようで、空を飛ぶものといえば鳥とこの人たちのような翼の生えた人だけだったようだ。
そうなれば普通に人が歩いて運ぶよりも、空を飛んで運ぶ方が早いに決まっている。
“そんなあるひ、かなしいできごとがおこりました”
“かれのいたくにが、ほかのくにとけんかをしてしまったのです”
今まで明るく優しい色使いだったのが急変して、一気に暗くそして文字は力強くなった。
直接的な表現はないものの、黒や赤の入り乱れるこのページは子供にとっては怖いと感じるものだと思う。かくいう私も、いきなり変わった絵柄や色使いに驚き、その先を読むのが怖くなる。
でも、これは子供に読ませる絵本。きっと最後はハッピーエンドのはず。だから先を読まなくちゃ。
こんな展開のまま読まずにしまうのは、後で後悔するだろうから。
覚悟をして次のページへ進む。
“おうさまがいいました。『せんそうをやめたいので、となりのくににこれをとどけてほしい』と。わたされたのはおてがみといろとりどりのくだものでした”
“かれはそれをひきうけました。これをきっかけになかなおりをしてもらえるとおもったからです”
“かれはいそいでそのてがみをとどけました。みずうみをこえて、やまをこえて・・・たたかうひとたちのうえをとんで、やりをよけて・・・ついにとなりのくにのおうさまへあうことができました”
湖を越え、山を越えと進むにつれて主人公の表情に疲れと焦りが浮かんでくるのがわかる。
戦争をしている人たちの表情はとても苦しそうな顔で、突如現れたこの男の人を兵器だと思い槍を投げつけたり弓矢で狙ったりしていた。
力が落ちていたその男の人は徐々に低空飛行になっていっていたため、スレスレのところで槍などを躱す描写がされている。
そこまでして彼は戦争を止めようとしていたということだと思う。
自分だったらここまでしてあげられるのだろうか?身を粉にしてまで戦争を止めることが出来るのか?
きっと私なら諦めてしまうだろう。たった一人の力では変えることはできないと。
“となりのくにのおうさまはてがみをすぐによみ、へんじをかくからとへやにもどっていきました。かれはそのあいだ、となりのくにのおしろでじかんをすごすことになりました”
“よわっていたかれをみておうさまはきのどくにおもい、めしつかいにごはんやおふろをよういさせ、てあつくもてなしました”
ページには色々な料理を目の前にしている主人公が描かれている。
その目からは確実に力が失われていっていた。豪華な食事を前にしていても、全然嬉しそうじゃない。
それもそうだよね。外では戦争が行われているんだもの。そんな中食べる食事はきっと美味しくなんてない。
“しかしまってもまってもおうさまはてがみをくれませんでした”
ん?雲行きが怪しくなってきた・・・?
どうして王様は返事を渡してあげないんだろう。渡せばすぐに届けてくれるのに。
もしかしてこの人の体調を気にしているから、すぐに動くのは良くないと思ってるのかな。
でもこうしている間にも戦争は行われている訳で。って待って。
戦争をやめるって宣言すればいいんじゃないの?わざわざ手紙を書く必要は・・・ないんじゃ?
じゃ、じゃあ、この王様が返事を渡さないのは。
渡す気がない――もとい、戦争をやめるつもりがないから?そ、そんなことないよね。
“いつになってもへんじをくれないので、かれはおうさまにいいます。『へんじはまだですか?』と。するとおうさまは、『いまへんじをわたしたら、きみはまたとんでいってしまうだろう。そんなぼろぼろのからだで、つばさでとぶのはいけない。しっかりとやすんでからにしなさい』と”
“かれはそれをきいてこれではいけないとおもい、たべものをすこしもらってたべはじめました”
ページを捲る手が止まる。なんだか嫌な予感がして――。
恐る恐るページを捲って驚く。こういった嫌な予感ほど的中してしまうものだ。
“たべものをくちにしたとたん、かれはとてもくるしくなりました”
ひとくち齧ったのは大きくて真っ赤な林檎らしき果物で、主人公の腕からポロリと落ちていく。
力が抜ける瞬間・林檎が落ちる瞬間を止めて切り取ったようなそんな絵だった。
“かれのたべたくだものには、どくがはいっていたのです”
ぽつんと書かれたその一文。その一文はやけにあっさりしていたのにも関わらず、大きなおもりのように私に圧し掛かる。まるで私も同じ果物を食べてしまったような錯覚に陥った。苦しい、息ができない、悲しい、何で・・・何でこんなことに?
彼が一体何をしたっていうの?なんで王様はそんなことを・・・。
その後は、絵を見る余裕はなかった。戦争を止めようとして亡くなった彼に感情移入してしまって言葉など出てこないし、早く読み終わってしまいたいという気持ちに駆られていたから。
絵本のはずなのに、こんなに重い内容だなんて。この本は読み聞かせに向いてない。そんなことを考えて意識を逸らしながら、続きの文だけをさらっていく。
彼は結局、そのまま助かることはなかった。
彼は死後大きな光の翼となって彼らを平和へと導く。自らの命と引き換えに。
戦争は彼の死によって終わりを告げたとなっている
彼は両国で英雄となり、そして天国へ行ったあとに悪人を裁く正義の翼として生まれ変わる。そんな彼は物語にされこうして語り継がれているとのことだった。この物語は英雄化された理由を描いているものであり、子供に読み聞かせるのは英雄となった後のお話の方らしい。続編があるみたいだった。
最後がバッドエンドでないのには安心したけれど、主人公が助からなかったことに納得はできなかった。
毒を盛られた姫、自らを犠牲にし人を救った王子、愛する人と結ばれる為に自身を犠牲にした姫。似たような話はいくつかあるけれど、それとはまたちょっと違う気がする。
読み終わった後、少し落ち着いてきたのを見計らって絵を見返す。
亡くなった後のシーンでは題名の通りに大きな光の翼となり、時に雲のように描写されていた。
人に何かを伝えるときは人型をとっているけれど、その時も生前より大きな翼を携えている。
毒で殺されたのに、恨みを持ち復讐をするといったことは全くなかった。
苦しんだのも毒を盛られた後のその一瞬だけ。涙を流すこともなくそのまま息を引き取っていた。
彼は一体何を思っただろう。人々の笑顔が力になるといっていた彼は・・・。
彼が死んだのは、もしかしたら毒のせいでなく人の笑顔が見られなくなってしまったからなのかもしれない。
「大きな翼か。」
「・・・っ!」
絵本を読む事に集中していた私は、誰かが近づいてきたことに全く気が付かなかった。
それと同時に本を知っているような口ぶりに、思わず反応してしまう。
このやり場のない気持ちを理解してくれるような気がして。
「大丈夫か?今にも泣きそうな顔をしているが。他の人に見られても心配されるぞ。」
そう話しかけてくれたのは璢夷さんだった。
暗い気持ちに支配されていた私に救いの手を差し伸べてくれたその姿を見て、思わず涙腺が弱まる。
「・・・っ、璢夷・・・さんっ!彼――彼はっ!!」
止めようにも止まらない。
最初はぽたり・・・ぽたりくらいだったのに、徐々に間隔が狭まっていく。
ダムが崩壊したように一気に溢れ出し、零れ落ちる。
「その先は言うな。きっと彼が悲しむ。これで良かったんだ、きっと。最善のルートではなかったが・・・。ほら、涙を拭け。もうすぐ授業が終わる――」
私の泣く声を掻き消すかのように、授業の終了を告げる鐘が鳴り響いた。
彼がもし、イア姫のように生まれ変わっているなら・・・今度こそ、幸せな人生を過ごしてほしい。
悲しみのない世界で、大切な人と共に、毎日笑顔で過ごしてほしい。そんなことを願った。
さて、ここで質問です。
大きな翼という絵本の主人公が毒を盛られて亡くなってしまいましたが、彼に毒を盛ったのは一体誰だと思いますか?
隣の国の王様?それとも――・・・・?




