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blanket  作者: 璢音
再び戦いへ
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大忙しの厨房

「牛乳こっちにください!」

「人員が足りないっ、防衛班・掃除班・買出し班に緊急要請願います!」


さっき真琴くんが静さん特製の炒飯を持って行ったら、驚く事が起きた。

あれほど暴れていたあの女の子が急に大人しくなったの。


私達が来る前から料理を食べていたと思うんだけれど、まだまだ足りなかったみたい。

小柄な体型のどこにこの料理達が入って行くのか全く分からなかった。


「月華さん、そちらはどうですか?」


今私達はショートケーキを作っている最中。

緋威翔さんにスポンジを任せて、私は生クリームでホイップを作っていた。


材料を入れてからずっとかき混ぜているんだけど、中々ホイップになってくれない…。


「月華さん、大丈夫ですか?やはり僕が生クリームの泡だてをやった方が良かったですね。気が利かずすみません。」

「いえいえ!そんな事ないです!」


緋威翔さんが気にすることはない。

これくらいの事が出来ない私が悪いんだから。


横から聞こえるテンポの良いカシャカシャという音がする。

それはセイラさんが生クリームを混ぜてホイップにしている音。セイラさんに出来るなら私にも出来るはず。これ以上気を遣わせない為にも頑張らなくちゃ。


「セイラさん。」

「月華ちゃん、苦戦してるみたいね。」

「うん。中々泡立たなくて。」


私がそう相談すると、セイラさんがハンドミキサーを使うのを勧めてくれた。

けれど、それを使うのは何だか負けな気がして、私は泡立て器で作る方を選ぶ。


「空気を含ませつつ速く混ぜるの。あと氷水を用意して……」


こうよ、と言いながらセイラさんが手本を見せてくれる。


「こ、こうかなぁ…?」


見様見真似でやってみる。

数分経つと変化が起きた。…いける!


「そうそう。御上手!」


更に数分格闘すると、ボウルの中にホイップが出来上がった。

出来上がったホイップを泡立て器ですくう。泡立て器の間からはみ出たクリームは落ちないで泡立て器についていた。


「で、できました!」


緋威翔さんに報告をしにいく。

彼はオーブンの前に居た。


オーブンの中にはケーキ型が入っている。どうやらスポンジを焼いているところみたい。


微かにいい匂いもしてくる。

うーん、美味しそう。


「お疲れ様です。こちらが焼き終わったらデコレーションして完成ですね。」


私が作ったホイップを冷蔵庫にしまい、代わりに苺のパックを取り出す。

真っ赤な色の苺からは甘酸っぱい匂いがした。


緋威翔さんはその苺を流しに持って行き、丁寧に洗う。


私は手を洗い、緋威翔さんが洗った苺を受け取りその苺のヘタを取り始める。

ヘタをとった後は適度な大きさにスライスしたり、とっておいたりした。


すぐ近くで二人で作業しているなんて、なんだか不思議な感じ。

調理実習みたいなんて考えてしまい、自然と笑みが出た。


その時だった。


忙しそうにしていたおかず班のメンバーであるカインさんがこちらにやってきたのは。


「ターゲットが、甘いものを食べたいと…」

「えぇ!?まだ完成していないのに…!」


要望が通らないと分かったら、どうなってしまうんだろう。

せっかく大人しくなったのにまた暴れ出してしまう?そんなの、駄目だよ…!


でもショートケーキはスポンジが出来てないし、セイラさんもまだガトーショコラを作っている途中。

とても出せるような状態じゃない。


「ど、どうしよう…!」

「はいはいお待たせー。今すぐ食べられそうな物を買ってきたよ!って皆どうしたの?」


千佳ちゃんが買い物から帰って来たようだ。

慌てている私達を見て、首を傾げている。


セイラさんが千佳ちゃんに事情を話すと、千佳ちゃんはえっへんと胸を張り、言う。


「だったら私が買ってきたクッキーとかを食べて貰ってる間に完成させて!」


持ってきたばかりの買い物袋の中から、クッキーの袋を取り出して厨房を出て行く。


一瞬しか見られなかったけれど、あの袋は普通のクッキーの袋より量が入っている…所謂お買い得品だと思う。


それなら少し、時間が稼げるかもしれない。


千佳ちゃんが置いて行った買い物袋を回収して中身を確認すると、即席麺などの時間をあまりかけずに出せるものが多く入っていた。


こうなる事を予測していたのかな。


他には…と袋を持っていくついでに底の方にあるものも確認する。


お餅、スナック菓子、ホットケーキミックス…ホットケーキミックス?

これなら急いで焼けば間に合うかも!


慌てて冷蔵庫に向かい、卵や牛乳を取り出す。


「ホットケーキを作るんですね、手分けして量を確保しましょう。」


運のいいことに、厨房にはいくつものフライパンやガスコンロがある。手分けして作れば一度に何枚も焼く事が可能。


「ショートケーキはあとはトッピングだけです。残りは任せてください。」

「はい!私はホットケーキを作ってきます!」


緋威翔さんにショートケーキを任せて、私は隣の料理スペースを確保した。

ボウルやフライパン返しなど、必要な道具を掻き集め、計量にうつる。


「その作業、私たちも手伝います。」


その声と同時にまた厨房の扉が開く。


声の主達は何の迷いもなくこちらにやってきて、すぐに作業を始めた。


「氷椏さん、幟杏ちゃん、霧雨さん…!」


防衛班だった三人はあの子が大人しくなった事を受け、紫綺さんと栞さんに後を任せてきたみたい。


「向こうの指揮は政宗さんがとってます。なので心配は無用です。」


口を動かすよりも先に手が動いてる。

氷椏さんの腕の中でホットケーキの素が着々と出来上がっている。


「あ〜ん、殻が入っちゃったぁ!…ま、いっか。気にしない気にしないっ。」

「バレたら知らないわよ。」


三人の助っ人はこの大忙しの厨房で輝いて見えた。

なんて心強いの…!


三人に負けぬよう、必死に腕を動かす。


「俺たちが運ぶからじゃんじゃん作って置いてくれよ!あ!霧雨ちゃんのは俺担当ーー」

「馬鹿な事言ってないで働いて頂戴。」

「あぁ、霧雨ちゃぁん!」


あっちでケインさんと霧雨さんがやりとりする中反対側からは軽快な鼻歌と共に仄かな甘い香りがしてくる。


「よっと!焼くんは任せとき!」


フライパン返しを片手にフライパンを豪快に振り、ホットケーキをひっくり返しているのはアルバートさんだ。


「どんどん持ってきてええよ?全部ひっくり返したるわぁ!」


次々運ばれるホットケーキの素をフライパンに入れて熱してはひっくり返す。


アルバートさんがひっくり返したホットケーキは絶妙な焼き加減だ。


普段からひっくり返したりしてるのかな?

たこ焼きとかたい焼きとかお好み焼きとか作るの得意そう。似合うなぁ。


っていけない!人のこと見る前に自分の仕事をしなきゃ。


慌ててホットケーキの素を入れようとすると掬ったおたまから素が溢れ出て調理台に落ちてしまった。少量ならまだ良かったものの、私を困らせたいのか予想以上に素が流れて行ってしまう。

その出来事で冷静さを失った私はパニックになりあちらこちらに布巾を探しに向かった。

けれど探し物は一向に見つからず焦りが募る募る。


最終的に前が見えなくなった私は助けを求めて近くにいた人にダイブする事となった。


「ん!?」

「助けてくださいぃーっ!」


目の前に居たのが誰だったのかは分からない。けれどその人は異常事態に素早く気づき、作業を一時停止して受け止めてくれた。


ぼふっ。

そんな効果音がなったような気がする。


私は一瞬の衝撃で冷静さを取り戻した。


恐る恐る顔をあげる。


「大丈夫?何があったの?」


まるでお母さんみたいなセリフが飛んできて、余計に言葉が詰まった。


「ま……まき…さん。」


目の前には微笑んだ真希さんがいた。

抱くように体を支えられているのに気づき、慌てて離れる。


真希さんはゆっくりと近付いてくるとスッと手を出しーー頭を撫でた。


「何だか政ちゃんみたいだね。月華ちゃんは。」


懐かしそうに、思い出を愛おしそうに思い出しているであろう彼の視線は私に向いているものの、その更に奥にいる幻影ーー政宗さんを見ているように感じた。


「で、何があったの?布巾ならここにあるよ。」


さっきの表情とは変わり、カラッとした笑顔を見せて布巾を差し出している。


……引っかかる。

あの表情は一体何を示してるんだろう。

忘れられない記憶、大切な過去?

武器に繋がる何か……?


「月華ちゃん?」

「おーい?どした鏡ー?」

「びっくりして放心状態なのかも。」


もしかして、政宗さんがーー


「月華さん?」

「は、はいっ!?」


自分の名を呼ぶ声が聞こえたので慌てて返事をした。

考え込むと止まらない癖は直さないといけないなぁ。


「ま、真希さん。ありがとうございます!布巾を探していたんです。」


一礼して布巾を受け取り、その場から逃げるようにもといた調理台まで戻った。


零れ落ちたホットケーキの素を拭き取り、布巾を洗う。

洗っている時に先程の件を思い出してしまい、布巾を洗う力が無意識に強くなる。


「みんな〜ホットケーキ追加お願い!」

「今持って行くわよ。ほら、さっさと働きなさいよ。」

「はいっ、ただいまー!」


厨房内、慌ただしいのはまだ続いていたようで至る所でパンケーキを焼いているのが見える。

男性陣が焼くのを担当して、女性陣が盛り付けと運ぶのをやるという形に変更したみたいだった。


私も盛り付けをと思い、アルバートさんが焼いたパンケーキにメープルシロップやチョコソースなどをかけていくなど手伝いをした。


隣の班では生クリームを添えたり、バニラアイスを添えたりしてるみたいだ。


どれも美味しそうだなぁ、と思わず腕が伸びそうになるのを必死に我慢してひたすら盛り付けをする。

波線、星、チェック、花、スマイル、ハート…あらゆる形を描いていく。

何描くたびに誰かの顔が浮かんできた。

頭の中の皆は笑顔でパンケーキを食べている。


この件が解決したら、皆で甘いものとかを食べたいな。


新たに出来上がったパンケーキを持ち、彼女の元へ向かう。


「もー、作りやすいからってパンケーキばっかりは飽きちゃうよぉ〜。違うの食べたい!」


そうは言いつつも運んだパンケーキはすぐに平らげられていく。


「もう少ししたらショートケーキやガトーショコラが出来るので、もうちょっと待ってください。」


私がそう言うと、彼女はにっこりと笑った。


「ショートケーキ!いいねいいね。私大好きなんだ〜。」

「それは良かったです。」


暴れていたのが嘘のよう。

普通に会話も出来てる。

もうちょっと頑張れば、何かきっかけが掴めるかもしれない。


「ねぇ。」


唐突に話しかけられ、更にはじっと目を見られている。

気に障るようなことしちゃったのかな?

だとしたらどうしよう。


「名前、教えて。今これを作ってくれてる人達の。勿論、あなたも。」

「そういう事なら任せてください。私は鏡 月華。」

「月華ちゃんね。」


それから次々と入れ替わりでこちらに来てもらい、一人一人を紹介していく。


「…静。」

「静くんね。さっきの炒飯美味しかったよ!ところで、蟹玉はまだ?」

「ほらよ。もう少しゆっくり味わって食べろよな。こっちの腕の数と作る速さは決まってんだからよ。」

「えー、あつあつの内に食べなきゃ駄目だよ。」




「さっきから厨房からいい匂いがするのはあなたが作ってるやつ?」

「そうかどうかはわからんが、今コック・オーヴァンというものを作っている。」

「聞いた事ないなぁ。なんだろー。でもこの匂いからしてワインと鳥肉を使ってるよね?」

「あぁ。戻ってきたコックが監督になってくれているし、アルコール分は飛ばすから安心してくれ。」

「どこ料理?」

「フランスだったはずだ。」



「ガトーショコラ美味しいっ。甘さも丁度いいし。」

「良かったわ、お口に合ったみたいで。心配していたのよ。」

「ケーキ屋さん開けるんじゃないの?」

「ふふ、それも楽しそうね。もしそうなったら買いにきてくださる?」

「もっちろん!」



一人一人と話して行くうちに感じが柔らかくなってきているのがよく分かる。


私も彼女と話す事になって、緋威翔さんと一緒にショートケーキを持って席へ向かった。


「さっきはありがと。紹介してくれて。」

「どういたしまして。あ、お待たせしてたショートケーキです。どうぞ。」

「そっちの美男子は?」

「緋威翔さん。一緒にこのケーキを作った人なの。」

「へぇ。仲が良いんだね。羨ましいなぁ。」


そんな事言われて自然と笑みが零れる。


もっと仲良くなりたいなんて、言えないな。

恥ずかしいもん。


「まだお腹が空いているんですか?」

「まぁ、凄くって程じゃないけど。まだまだ食べられるよっ。」

「体調は、大丈夫ですか?」

「大丈夫もなにも、いつもこうだから。」


健康面、確かに不安かも。

さっきから甘いものばかり食べていたし。

食べさせたのは私たちだけど。

もっと体に良さそうなものにしないと。

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