とある青年の記憶-2-
前世編を書いているとついつい本編から脱線してしまう。
(月華が前世の夢を見ていた時、同じく夢を見ていた人物が居た。)
……最近よく眠れていないと思ってはいたがこのような体験は初めてだ。
まるで映画を見ているような感覚。
しかしあまりにもそれはリアルだった。
視点だけでなく思考も直接伝わってくる……。
何故か夢の中の主人公が、他人の気がしなかった。
こうなったら最後まで見てみよう。
明日起床したらすぐに書き留めておいて、色々調べてみるとしよう。
◆・◇・◆・◇・◆・◇・◆・◇・◆・◇・◆・◇・◆
静まり返ったこの場所で佇むのは、その時代人外と恐れられた“死神”達。彼らは決して恐れられるような者ではない。彼らは決められた運命に従い魂を回収しているだけなのだから。それに、元は人間だったのだ。
まだ時間が残されているにも関わらず、自らの手で命を絶った者・・・それが死神である。
彼らは自らの運命を嘆く事も、今の状況を悲しむ事もない。ただ空っぽになった何かを欲して、今日も働くのだ。自らの持つ懐中時計が正確な時間を示すまで。
死神(俺達)の一日は極めて単純なものだ。
まず、眠りから目覚めるのが大体……そうだな、人間の時間でいう夜という時間か。
或いは夕方と呼ばれる時間に目覚めることもある。その時間にヒュプノス様に起こされ、仕事の内容を知らされる。
その仕事内容を確認した後は、現場へ行き仕事を完遂し、帰還するだけだ。帰還した後はまた眠りにつく。
我々死神には、欲というものが殆どない。だから食事をとることもない。
眠りは欲というよりも、リセットのようなものだ。俺達が眠りたいと思うことはない。
死神は俺以外にも沢山居る。
だから起きた時には周りに棺のような物がいくつかあって、その中に仲間が寝ている。ヒュプノス様に起こされるのは、仕事がある者のみだ。
今日はどうやら俺と、それ以外に二人が起こされているらしい。背後で微かな物音がしたかと思うと、目の前に二人の死神が現れる。
一人ははストレートの黒髪を長く伸ばし、それを後ろで結んでいる。目は黒。身長は俺より小さく性別は女で歳は16〜18といった所か。
もう一人は、癖のない白髪で肩よりやや上の長さがあり、目も色素が薄く感じる。肌の色もだ。どうやらアルビノらしい。こちらは性別が男で、身長は俺より少し小さい位だ。
女性の方は見習いのミフィで、男性の方は先日俺の契約者となったばかりのシャンヌ。そして俺の名はルイスだ。
名前は生前のものだと聞いたが、俺たちはあまり覚えていない。それに、俺に至っては他の死神と少し境遇が違うらしい。
……というのも、元から死神になる事が決まっていた一族だったらしいのだ。それ故に、こちらの世界ではタナトス様の「息子」として存在している。俺の兄姉妹も同じだ。
俺の家族は兄・姉・妹、そしてタナトス様が創り上げたルアン・ルルリア・ルフティ……等の「ル」から始まる名前で統一されており、生前の父であるルッツがタナトス様の命により妻を娶り、産まれたとのことだ。
ルッツは今こちらの世界で指揮官になっており、情報管理や任務遂行の報告を受けているらしい。俺が元息子だからかたまに俺の近くに来ては色々話をしていく。
最近では、現世で自ら命を断つ者が減ったので死神の数もそれに伴って減っているという話を聞いた。特に興味がある訳ではないが、耳に残っている。
俺の頭の中にあるほぼ全ての情報は、こちらの世界に来てからタナトス様やヒュプノス様、そしてルッツに教えられた事が殆ど。それ以外の情報は、現世に仕事に行く際に入手するくらいか。
そんな事を考えていると、ローブの裾を引っ張られる感覚に襲われた。振り返るとそこには兄と姉が立っている。
「仕事に行くのか。頑張れよ。」
「ルイスは真面目さんだから、心配しなくて大丈夫だよ。ルキルス兄」
そう言って姉は兄の肩をぽんぽんと叩き、満面の笑みを見せる。兄はそれに対し少し困ったような顔をしてから、話を続けた。
「仕事…頑張りすぎるなよ。」
「分っています、兄上。」
少し心配しすぎののではないかと考えながら、兄を安心させるようにゆっくりと言う。
そういえばこの二人はこちらの世界にいる死神の中で特殊な役割を担っている。兄と姉は俺達が行動できない時間……朝にも行動が出来、尚且つ俺達とは違って人間のように欲があり、感情があり、記憶がある。俺達が覚えていない生前を二人は覚えているらしい。更に二人が眠りにつくのは夜。つまり俺達とは入れ違いになる。きっと今日はたまたま眠りにつこうと帰還した際にたまたま俺を見つけたのだろう。
「……………か。」
兄と姉と会話していた事をハッと思い出す。考え始めると止まらないのは俺の悪い癖だな。兄は俺が考え事をしている間、何かを喋っていたようだが全く何を言っていたのか分らない、もとい聞いていなかった。
「ルイスは集中力が高いものね。私も見習いたいわ」
話を聞いていなかった事を知っているのか、姉はクスクスと笑いながらそう零した。
手で口を抑え笑う姿は上品に見えるかもしれないが性格上、上品というのとは少し変わっている気がする。
「さてと。話を聞いてくれないみたいだし俺たちは寝るか。おやすみ、ルイス。またな。」
「おやすみ〜。」
「おやすみなさい。兄上、姉上。」
会釈をし二人を見送り、ミフィとシャンヌの方へ向き直る。するとミフィとシャンヌは跪き、地面に目を向けていた。いつの間にそんな体勢になったのかは知らないが。
「な、何をしているんだ?」
つい気になって聞いてしまう。
「私たちは、貴方様と共に。」
「僕達は、ルイス様に従います。」
返ってきたのは、畏まった言葉。いつの間にか俺とは位が違うのだと二人は知ってしまったらしい。
しかし俺は、このような機械的な返事は聞きたくなかった。
「なら言おう。俺の位は気にしなくてもいい。友達のように…接してくれ。頼む。」
「……仰せのままに。」
するとフッとリミッターが外れたように、二人の声色が変わる。きっと、生前の人格だろう。
「えっと……ルイス、と呼んでいいの…?」
「あぁ、そう呼んでくれ。」
「………。」
ミフィは明るく喋るようになったが、シャンヌは喋らなくなってしまった。指を弄びながら、下を向いている。
人と関わるのが苦手だったのだろう。
「無理に喋ろうとしなくて構わない。シャンヌはシャンヌらしくあってくれ。」
シャンヌは返事の代わりに小さく頷いた。
「では、今日の仕事を確認するぞ。」
「はい。」
死神たちは、担当の場所がそれぞれ決まっている。俺たちの担当は、セミリア・ファル王国の住民たちだ。
「セミリア・ファル王国、マルシェ区に住む27歳の男性、アクス=ナジャ。死因は持病の悪化。同じくマルシェ区に住む13歳の女性、ヤン。死因は事故。ナイム区に住む65歳女性ニーニャ=クエスティラ。死因は衰弱………。」
淡々と述べているつもりだが、正直言葉に詰まる。この者達は俺達と違い、運命に従い命を全うした者。
運命に抗い死神になった二人、そして最初から死神になると決まっていた俺からすれば、少し羨ましく思ってしまう。先程述べた者に待っているのは安息。心地よい眠り。人によってはそうはいかない者もいるかもしれないが。
「相変わらず、セミリア・ファル王国は亡くなる人が少ないのね。それに、その殆どの人が天へ召されるわ。セミリア・ファル王国はきっと、平和な国なのね。」
「あの国は確か、王に代わり女王が国を統治していた筈だ。きっと賢く心穏やかな女王が治めているからこそなのだろうな。」
王国では大体、王が国を治めているが男というのは野心が強く、国を大きくすることに重点をおく場合が多い。また、女性の場合は着飾ることにこだわり、民から納められたお金で贅沢し、その結果国のお金を浪費している場合がある。そんな中、セミリア・ファル王国の女王ミラ、その娘イアは国に平和をもたらす為日々努力している。
以前一度女王に会った事がある。魔力が高いと噂されていたが、それは本当のようだ。死期が訪れないと見ることが出来ない俺に対し、話しかけて来たのだから。確かあの時は女王に仕えていた騎士の寿命が尽きそうな時だった。やけに印象に残っている。
「あら、貴方は…?姿は見えるのに、実体がそこに存在していないわ。それにその鎌は……貴方は死神かしら?」
「ご機嫌麗しゅう、女王ミラ。」
「挨拶はいいわ。普通に話してちょうだい。それと、話を聞かせてくださる?一体誰が眠りにつくのですか。」
まだ死神だと言っていないにも関わらず、断言していた。嘘をつく理由もない。俺は騎士を迎えに来たと告げた。
女王ミラは、そう。と言いつつ俯き、その騎士の功績を語りだす。女王に仕える者など沢山いるというのに、女王ミラは泣きそうになりながら語る。その姿に何も感情が浮かばないのが不思議なほど、心打たれるであろう内容だった。もし、聞いているのが自分ではなく一般国民であったなら、この騎士を知らない人であってもこの者の為に涙を流した事だろう。
「一つ、お願いしてもいいかしら。」
「任務遂行が困難になること以外なら構わない。」
今回はこの騎士アデルが最後の任務だからだ。それに任務完了予定時刻までまだ少し時間がある。
「なら、アデルが永遠の眠りにつく前に、少し彼とお話がしたいの。」
「了解した。…が、こんな真夜中に女王がアデルの部屋へ行くというのは、些か問題があるように思うのだが?」
「それもそうね…なら、魔法を使って誰にも気付かれないように行こうかしら。それなら問題ないわね。」
女王ミラはそう言い、指で魔法陣を空に描いた。恐らくステルスの類だろう。見たところ女王より高い魔力の持ち主は居ない。気付かれる事はまずない。
人の目に映らなくなった女王はしずしずと部屋を後にした。騎士の元へ向かったようだ。俺は騎士と女王が話している間、何処で何をしていようか考えた。しかしいい案が浮かばなかった。
…と、思い出を振り返っているとミフィが声を掛けてくる。
「ルイス。私、気になる事があるの。」
「何だ?」
話すのを少し躊躇したように見えたが、一度息をゆっくりと吐いてから決意したように話出した。
「ルイスの鎌は、タナトス様と同じ鎌よね。」
「そうだ。」
「シャンヌくんは、翼よね。」
シャンヌは無言で頷く。
「なら私は……?この鎌、何だが形状が普通の鎌とは違うようなの。」
確かに言われてみればそうだった。
鎌の持ち手部分は同じような太さ・長さだったが、刃の部分が明らかに違う。
鎌は三日月型にカーブをしていたが、ミフィの鎌らしきものはそうではなく、棒の部分から飛び出した刃の部分はまっすぐで、二本目があった。
二本の突起は平行に並ぶ。
そして棒の端には宝石を使ったハートの装飾が施されていた。
明らかに鎌ではない何か。
そもそも武器にすら、見えない。
それは俺には鍵のように見えた。
「鍵…か?」
「それと、私…翼がないの。」
死神なら誰でも持っている翼。
個々で多少色こそ違うものの、同じような灰色の翼を持っている。いや、備えているというべきか。常に背にあるはずなのだ。
俺の場合は特殊かつ例外で‘‘翼”に特化した者…シャンヌとペアを組んでいる。
シャンヌは‘‘不可視の翼’’と呼ばれる翼で、他の翼と色が違う。透明に近い白の翼だ。
死神の息子として他の死神と差別化をはかるためにこのように翼を採用していたり、跳躍能力を上げたりしているのだという。
要は灰色の翼が無くとも飛ぶことが出来る死神は、タナトス様の恩恵を受けているという風に見分けがつくということだ。つまりそれは血縁などを示唆する。
実際俺はシャンヌがいなくとも跳躍能力でかなり高い所まで飛ぶことができる。だが滞空は出来ない。
滞空をする為にシャンヌと組むことになったと言っても嘘にはならないな。
ミフィにも翼がないとなると、彼女にもいずれ専属の翼がつくことになるのだろう。
「翼に関しては心配するな。じきに翼とペアを組む事になる。」
「そう?」
「心配なら直接タナトス様に聞くといい。」
「そんな事出来ないわ。」
「なら、俺が聞いてこよう。」
ミフィとシャンヌを待機させ、自分はタナトス様の元へ向かった。
「タナトス様。」
大きな黒い扉の前でその姿を発見する。
いつもは部屋にいるのに今日はどうしたのだろうか。
「何だ?……ルイスか。どうした、何かあったのか?」
優しく話しているつもりだろうが、その姿と威厳をもった低い声のせいでそうには聴こえない。だがもう慣れた。
「翼がない部下がいるもので。本人が疑問に思っているようでしたので、代わりに。」
「そうか、ミフィの事だな。実のところあの娘は良く分からん。翼がないのは…運命、としか言いようがないな。それにあの鎌…いや、鍵というべきだな。」
「えぇ、その件も気になります。」
「あの鍵はいずれ、必要になるのだろう。それこそあの娘が死神となる為に。」
「それはどういう…?」
「時がくれば分かる。今はあのままでいいのだ。」
答えを上手くはぐらかされた気がするが、タナトス様が言うのだからそれが答えになるのだろう。
戻ってから早速その事をミフィに話したが反応は薄かった。呑み込もうとして喉につかえているのだろうか。その気持ちはまぁ、分からなくはない。
「タナトス様はそういう風に仰った。ならそれが答えなのね。今考えても仕方が無いと。」
「そうだな。いずれ分かる日が来るのだろう。」
話はそこで終わり、任務に移った。
マルシェ区にある整えられた街並みの中、死神が二人に翼が一人。流石に真夜中だからか人通りはない。
静かに、静かに眠っている者が大半だ。
「これだけ静かだと現場に向かいやすいから助かるわね。」
「無駄な騒ぎもあまり起きないからな。」
ミフィが飛べない関係で歩いているのだが、ここの街は道が入り組んでいてわかりにくい面がある。途中で俺達の姿を見れる者が現れても隠れたりするのが容易に出来る。
「最初はアクスね。」
「あぁ。家はすぐ近くのはずだ。」
「ん…?あの人、こんな時間に何をしてるのかしら?」
ふと街に佇む人を発見し、ミフィが言う。
その人は特に何をする訳でもなく、ただ空を見上げていた。
「肉眼で天体観測でもしているのか?」
「ルイス、あの人様子がおかしいわ。」
痛みに襲われたのか、はたまた何か込み上げるものがあったのか、身体に手を当てるのが見える。あの辺りは心臓のはずだが一体どうしたのだろう?
「…ルィス、えまーじぇんしー。」
「ーーーッ!?」
普段喋ることのないシャンヌのエマージェンシーコール。緊急事態…だと?
何が起きているのか定かではないが、目の前には一般市民がいたはずだ。避難させなければ。
そう思い目の前を見るが先ほどの人が忽然と姿を消していた。
どういう事なんだ?
目を離したのはエマージェンシーコールの際周囲を見渡した時のみ…
!?
殺気を感じ跳躍する。
同時に凄まじい音と共に煉瓦道が破壊されていく。欠片が爆風と共に四方に飛び散った。
敵襲か?
空を見ればミフィを抱えて飛ぶシャンヌの姿がある。
「一体今何が…」
ミフィが唖然としている中、民家を守るためにシールドを広範囲に拡大し発動させる。
このままでは定めを捻じ曲げられかねない。
「道に立っていた奴の可能性が高い。気を抜くな。」
死神は普通の人間からの攻撃でダメージを受ける事は殆ど無いが、そうでない者からのダメージは受ける。例に挙げるならば、悪魔などだ。後は魂を欲する化物などだな。
「ルイス、私はどうすれば…。」
「シャンヌ、ミフィを任せた。」
ミフィはまだ死神になってから日が浅く、翼もない。実戦経験もまだ少ない。ここはミフィをシャンヌに任せ、俺一人でいくべきだろう。
地面に着地し相手を探す。
建物の陰から何かが飛び出してきたのが見えた。あいつか?
「っ、変なのに巻き込まれた…最悪だ。」
?
違うな、こんな見た目では無かったはずだ。
こいつは普通の人間に見える。だが何故展開しているシールドエリアの中に普通の人間が?
「お前は一体何者だ?」
近くへ行き、問う。警戒はしておくべきだ。
さっきの奴の仲間の可能性も否定出来ない。
「あっ、えっ?逆に誰?俺は…ってやば。気付かれた。」
火の玉らしきものが接近してきたので俺と彼が数歩ずつ反対の方向に後退する。
爆撃を躱した後にまた近づき話を再開させた。
どうやら訳ありのようだな。
「俺の名前はフィジー。…見て驚かれないといいんだけど…。」
そう言ってフィジーは自身の背中を見る。
そこに鮮やかな藤色の翼が広がっていった。
翼だったのか、だからこのエリアに入ることが出来たと。
「翼を見ても驚かないって事は君も翼?俺、あいつに狙われてるみたいでさ。参っちゃうよ。」
「そうだったのか。俺の名前はルイス。死神だ。」
「し、死神?俺今日で死ぬのか…そっか。」
「違う。迎えにいく途中で敵襲にあっただけだ。お前は対象ではない。」
新たに来た攻撃を躱しつつ、質問をする。
「敵に心当たりはあるのか?」
「ないね。」
「翼となると軍に所属していたりするのか?」
「いや、一般に紛れてるフリーの翼だよ。」
「ならちょうどいい。仲間になってくれないか?」
「君の翼になれって事?」
「違う。翼のないミフィの相棒になってやってほしい。」
「ミフィ?」
「シャンヌ!」
シャンヌを呼ぶとすぐにミフィを抱えたままこちらにやってくる。
「へぇ、君も死神なの?」
「えぇ、でも鎌も翼もないし、まだ見習いなの。」
「分かった、君の翼になるよ。手を出して。」
素直にミフィは手をフィジーの方に伸ばす。フィジーはその手をやんわりと握った。
「契約、成立。」
双方の間に藤色の光が現れる。
ゆっくりとフィジーの姿が消え、光がミフィの周りをゆらゆらと揺れながらまわる。
しばらくすると光は大きくなり徐々にミフィの背中に翼を生成していく。藤色の光の輪郭はまだぼやけているが、それが翼だということはわかった。
「…ルィス。」
シャンヌに注意を促される。
俺はシャンヌを翼形態にしつつ、辺りを見回した。
上空に紅き翼をした人のようなものが見える。何かを振りかぶりこちらへと投擲してきたようだ。
ミフィとフィジーは動ける状態ではない。
ここは攻撃を弾くしかないか…。
二人の前に立ち、遥か上空を見上げる。
「シャンヌ、いくぞ。」
手に意識を集中させる。淡い光とともに現れゆく武器の形。それは死神を名乗るに相応しいものだ。
投擲されたものがハイスピードでこちらに迫る。焦らず、確実に弾く為に神経を集中させた。目を閉じ、感覚を頼りに待機する。
「今だ。」
一気に鎌に力を込め振るう。
鈍い音と共に投擲物が舞った。
あれは……カード?
ミフィとフィジーの契約がほぼ完了している。ならばすぐに奴の側までいかなければ。
それで第二波は防げるはずだ。
シャンヌに声を掛け一気に飛翔する。
風圧が掛かるがそんなものは気にしない。
ジェット機のように勢い良くあがったからか、辺りに風が発生した。
さて、奴はどこにいる?
快晴なお陰で見晴らしはいい。
標的をすぐに視界に入れることが出来た。
回転しつつ接近する。これでもし近くから投擲されても弾くことが出来るだろう。
だが敵は投擲ではなく突進をしてきた。
俺とは逆回転でこちらに向かってくる。
激しくぶつかり合う双方の力は相殺され、二人は空を舞った。
「貴方も邪魔だ。消さなくては。」
近くで見るとよく分かる。
黒き髪の先、そして紅き翼はまるで鮮血を浴びたかのよう。
片方の瞳は黒く、もう片方は銀…なのだが、普通の瞳ではない。
何よりもお面のように微動だにしないその表情と冷酷な言葉が違和感を覚えさせる。
「何故お前はフィジーを狙うんだ?」
「貴方には関係のない事です。」
駄目だ、話が通じない。
「関係があるのは後ろの…貴方です。」
そう言って彼は俺の翼を指差す。
シャンヌの事を指しているのか。
シャンヌは何も言葉を発しなかった。
いや、発せなかったのかもしれない。
「黙っているなんて酷いですよ。そんなに僕とは話したくないんですか。なら仕方ありませんね。」
指パッチンと共に指先に現れる火の玉。
やはり奴が犯人のようだ。
狙いは……翼か。フィジーとシャンヌを狙っている。
「燃えて灰になってしまえばいい。そうすれば、僕は静かに眠れる。」
言っている意味が分からなかったが殺意は伝わってくる。シャンヌは俺の相棒、フィジーはミフィの相棒となった。
二人は無くてはならない存在だ。失うわけにはいかない。
「さっきから良く分からないんだけど、どうして翼が翼を攻撃する訳?」
フィジーの声と共にミフィがこちらにやってきた。その背には見事な藤色の翼がある。どうやら手続きが終わったらしい。
「おや、さっきの紫君ではありませんか。答えは簡単です。忌み嫌っているからです。」
「あぁ、そういう事。」
「この世界の人々も嫌いですが、翼という存在自体を無かったことにしたい程嫌いです。」
先程までの冷静さの中にちらつく怒りの炎。そこまで人々や翼を嫌う…呪う理由は何なのか。
「どうしてそんなにも嫌うの?こんなに素敵なのに…!」
「素敵?何処がですか!この色も、この形も、僕にとっては苦痛でしかない!何度切り落とそうとしたことか…!」
「確かに居心地は良くなかったかも。でもこうして翼だからこその出逢いだってある。そうやって悲観しているからその機会を逃してるんじゃないの?」
「説教を受ける気はありませんよ。」
フィジーの言葉を跳ね除けるように炎の壁を展開してくる。
「貴方と僕は違うんですから。」
その壁を突き破り突っ込んでくる…だと!?
「きやぁああっ!」
「ぐぁあっ!」
炎を纏ったその体がミフィに激突する。
身体の軽いミフィは簡単に吹っ飛ばされた。
炎はフィジーに移り、勢いを増して行く。
「フィジー!」
このままでは翼が焼け落ちミフィが転落する。翼となっているフィジーの命も危ない!
「っ、くそっ!」
急降下し近くの水源を探す。
運良く川を見つけたのでフィジーとミフィを探し、抱えて川にダイブした。
身体を包む冷たい水の感覚と共にフィジーに燃え移っていた炎が消える。
「ぷはぁっ。」
水辺に顔を出す。
辺りに人の気配はなかった。
すぐに周りを探して見たが、彼は姿を消していた。
その後、任務を済ませ報告しにいく途中である噂を耳にする。
‘‘鮮血の翼’’。
各地方で無差別殺人を繰り返している殺人翼で被害はとてつもなく大きく、神出鬼没なせいで対策を練ることが出来ない。
目撃者尚且つ生還者は極めて少なく、見た目として分かっているのは血のように赤い翼のみ。
俺たちが会ったのは間違いなくそいつだろう。気をつけなくては……。
◆・◇・◆・◇・◆・◇・◆・◇・◆・◇・◆・◇
ゆっくりと目を開く。
まだ手に残る重さと冷たさ。あれは一体いつの夢なのだろう。
それに死神は存在していたというのか?
時計を見れば、まだ登校する時間までかなり余裕がある事が分かった。
ノートを開き、ボールペンで文字を書いていく。
死神ルイスとその相棒シャンヌ。
ルイスが主な視点となっているせいか、俺の容姿と似ていた気がする。
シャンヌは白髪かつあまり喋らない事から沙灑の可能性が高い。
そして死神見習いのミフィ。これは間違いなく美麩だろう。
相棒フィジーは藤色という事から紫綺だと推測する。
なら鮮血の翼は……考えたくはないが、緋威翔だろうか。いや、容姿が似ているからといって知り合いに当てはめていくのにも限界があるし失礼だな。
自分の脳が分かりやすいように勝手に当てはめている可能性もある。
時代はセミリア・ファル王国の女王がいた…頃か?それともイア姫が女王に即位した後か?
まだ分からない事だらけだな、今度歴史書でも開いてみるか。
…という訳で、今回は璢夷視点でした。
前世の前つまり生前の話がある死神組はややこしさMAXですね_:(´ཀ`」 ∠):_
名前はかなり元キャラと似ているので、璢夷が推測する前に分かった人も多いのでは?
次回は本編の予定。駄菓子菓子予定は未定なりŧ‹"ŧ‹"(*´ч ` *)ŧ‹"ŧ‹"




