漏洩
敵側の会議とかのシーン、私は好きです。
「シリウス、その束は一体何なんだ?それに何の価値がある?」
アレスにしてみればこんなのただの紙束にしか見えないんだろう。でもこれは僕にとっては宝の地図みたいなものなのさ。
先程借りてきたばかりのこの資料を手に空中散歩を楽しんでいる僕らが向かっている先はホーム。あの二人が無事なら今はそこにいると思う。
最近危ないシーンばかり見てきたから心配だよ。捕らえられでもしたら大変だからね。
「まぁ見てみれば分かるでしょ。」
「…ふん。」
天気は良好。星も一つ二つ出てきた。
藍色と青とエメラルドグリーンのグラデーションの空。僕はこの時間が一番好きだ。
それに漆黒の空に散りばめられたような星も捨てがたいけど、今の空にちらちらと輝く星の方が綺麗だ。
足元に広がる森ではフクロウが目覚め動きだしていたり、木の影でこそこそと小動物が動いたりしていた。散歩がてら降り立ってみると、僕を避けるように逃げて行った。
警戒心が強いのはいいことだけれど、こちらとしては少し辛い。
森を滑るように進むと今度は目の前に川が現れる。
川はよく澄んでおり、手を入れてみるとひんやりとしていて気持ちが良かった。それと同時に水が流れる音が耳に心地よく響く。
「寄り道している場合じゃないだろう。」
アレスに急かされたから仕方なく‘‘城’’に戻る。
帰ると入口のすぐ側に琴春と宏満がいて、おかえりなさいと頭を下げてくれた。大変だったでしょ。と労いの言葉を掛けるとま、まぁ…と苦い返事をする。
聞けば緋威翔にまんまとやられたらしい。
「私はちゃんと戦いましたぁ〜。でもあの人強かったんですぅ〜。」
「そうだろうね。彼は彼の鏡だから。」
「まさかそれって…」
宏満が何かを言いかけたところで遮る。余計な詮索は無用だよ?宏満。
「花菜美って子はどうだった?」
緑のカーペットの道を二人と一神を連れて歩く。聞きたいことは沢山あるけれどそれに時間を費やすことはしたくない。
折角こんなに面白いものを手に入れてきたんだからね。
そうこうしている内にいつも会議をする広間にやってきた。大きなテーブルとそれを囲むように椅子、椅子、椅子…その数=仲間の数だ。
「シリウス様、お部屋には戻らないんですか〜?」
琴春の問いに軽く頷いた後、僕は仲間達を呼んでくるように指示を出した。
琴春はゆっくりと皆の名前を呼びながら歩き出し、宏満はここぞとばかりに走って行った。
まったく元気なものだ。さすがに呆れる。
数分経つとわらわらと仲間が集まってきた。各自が自分の席に座る音が目立つ。
僕は所謂お誕生日席から集まる様子を眺めている。
おしとやかに座るもの、乱暴に座るもの、座ることに躊躇をするもの……こういったところにも個性が現れるから見ていて飽きない。
だいたいの人数が集まってくると、今度は居ないやつの話をしだすものが現れる。心配するもの、罵るもの。僕は特に何も言わないけど、仲間の悪口を言うのはいけないなぁ。
やがてひとつふたつと空席が少なくなってきた。人数が多くなった分場が賑やかになっている。
「あれ?リスィと新人さんは?いないねぇ?何々?駆け落ちとか??」
「新人は今日は来ないよ。残念だったね。」
パーゴスは事情があって出席出来ないのは前持って知っているから問題ない。だけどリスィは……まったく、また気が乗らないとか言って部屋にいるのか?
「誰かリスィ呼んできて。」
僕が言うと一斉にガタガタと椅子を動かして立ち上がる。いや、一人でいいんだよ一人で。指名でもしないとだめか。仕方が無い。
「麒麟、行ってきて。」
「はぁい」
気の抜けた返事を残してふらふらと彼はここを後にした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
シリウス様はわかってるねぇ。
自分が呼びに行ってもリスィは来ないって分かってるから俺を使った。
個人個人の性格や思考を武器の力を借りずに見抜くあたり、流石だよ。
だから俺は貴方に仕えるんだ。
まぁ、研究するためのスポンサーってのもあるんだけどさぁ。
とりあえずリスィの部屋まで来たけど、さぁてどうしようかねぇ。
「………どうしたの、麒麟。」
おっと、いきなり本人のおでましか。
「あのお方が呼んでこいってさぁ。」
「あぁ…そうだったね。今行くよ。」
心ここに在らず。
視線の先を見るにアレが原因か。
ここまで引きずるってことはやっぱりリスィは。
「変な詮索しないでくれる?いくら麒麟と言えど…幽閉するよ?」
「おぉ、怖い怖い。」
なんだかんだ言って俺達は仲がいい。
お互い一人で生きてきたからかな。何と無く価値観が似ているというか。
もっとも、俺とリスィでは決定的に違う所があるんだけどサ。
「ところで議題は?」
ゆっくりとはいえ着実に会議の場へ足を進めながら雑談タイムね。
「さぁ?何か書類みたいの抱えてご帰還されたけど、知らないな。」
「そう。どうでもいいような内容だったら途中で退室させてもらうよ。」
「何ともキミらしいね。でも今回は俺もそうさせてもらうよ。なんせ武器を奪われちゃってね。さすがにどうにかしないとな訳さ。」
それを聞いたリスィがこちらをチラ見してから微かに笑う。ダメだなぁ、麒麟はって感じに。俺もてへぺろ的な表情で返した。
「いくら麒麟でもあんまりそうやってるともたないよ。」
確かにそうだ。俺の武器はリスクがありすぎる。リターンも少ない。
なら何故そんなものを使うのか。
他の選択肢がないから?
否、選択肢はある。
仮初めの武器を使うことの意味。それは。
「……なんだ、あの子来てないのか。」
おっと、会議場所に戻ってきてしまった。回想はやめにしよう。
「席についてね、リスィ。今日は退屈させないからさ。」
「だといいけど。」
リスィは如何にも面倒というようにダラリと座ると、足と腕を組み殻に篭る体形になる。これは聞く気がないな。
「さて、集まったところだし始めるよ。議題は……まぁ、これを見てほしい。」
シリウスが書類をテーブルに置いた。
見えるのは表紙ではなく、中の紙。
あるページを開いたままで置いてある。
何々…
名前:孤中緋威翔
武器:トランプ
能力:トランプを自在に操る。カードは投擲などにも使用。マジックで周囲から注目を集めるなど他にも能力があるようだ。
ほう、武器所持者と武器のステータス、能力などが書かれているのか。これは興味深い。
「こ、これは…」
リスィもガードを解き、書類に目を向けている。その食い入るような目からして真剣そのものだ。
「あの学校から入手してきた。各自目を通すように。質問があれば受け付けるよ。」
ここでスッと手を真っ先に挙げたのはリスィだ。
「質問。この書類は誰かが直筆で書いたものだよね。誰が書いたのか分かる?」
「仲間が書いたんだろうね。字を見るに女子かな。緋威翔に関しては琴春と宏満、そして君がよく知ってるよね?写真もついてるしデータも細かいけど、何か間違っていることでもある?」
「…ない。だからこそ気になった。」
データの正確性が高い…か。
癖や好物まで書いてあるあたり、中々観察力が高いんじゃないの?
こういう子、是非助手として欲しいね。
「はーい質問〜」
「琴春、何?」
「シリウス様がこれを私達に見せるって事は、私達に何かをしてほしいって事ですよね〜。単刀直入にいいます、シリウス様の意向を教えてください〜。」
まぁ、見せてはい終わりじゃないよね。
シリウスがしてほしいことかぁ。大体予想がつくけど一応聞いておこう。
「更なるデータ収集、勧誘、それとこちらが攻めればいつでも勝てるようにしておいて欲しいね。」
「シリウス様の力があれば余裕っすよ。」
「宏満、僕がいなくても勝てなきゃ意味がないの。君達一人一人が強くなってくれないと。」
俺たちの目的の為に彼らと戦って力を付けるってことね。うん。いいんじゃない?彼らに恨みはないけど、放っておいたら危ないしね。
勢力として考えれば、国が指揮するあの学校と俺たちと、それから他には過激派とかね。今後の成長を考えると一番厄介かな。
「あとこれを機に、スパイを送ろうと思う。誰か行きたい人は?」
ここぞとばかりにぶっこんでくるねぇ。流石に一人で乗り込むには無理があるんじゃないの?
「それ、自分がいくよ。気になる事が増えたから。封印能力持ってるし。ただし条件がある。」
リスィ、お前何を考えてるんだい…?
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
この場にいる者の能力からして、自分が適任だと思った。変幻能力はないけど封印能力があるから。何かヘマしてもなんとかなるし。
それに、ここまで来たんだ。自分を脅かす者の側に。
一人は緋威翔、そしてもう一人はこの美麩っていう女の人。この人は危険だ。もしかしたら能力が効かないかもしれない。
「条件って何かな?」
「条件は……」
自分はあの本のお陰で、いや、あの本のせいでハンドルネームが割と有名になっている。ボロが出るとしたら間違いなくそこと、容姿だ。
自分は緋威翔に似ている。
それは仕方のないこと。だから、変幻能力で姿を変えてもらいたい。
「そうだな、顔だけ変えて貰えれば十分か。服装は自分で何とか出来るし。」
「なんだそんな事か。いいよ。任せて。」
「出来ればどこにでもいるような、目立たない見た目にしてくれると助かる。」
この作戦に参加するのは自分の為だ。
残念ながら君達と馴れ合うつもりはあまりない。ここに来て麒麟みたいな面白い奴にも会えたしそれなりに感謝はしているけど、それとこれとはまた別だから。
シリウス、きっと君はそれすらも分かっているんだろう?
これからも自分の能力を使える状態にしておきたい……いや、シリウス自身に能力を掛けるのを阻止したいのなら、自由に動くのを許可して。
そうすれば自分は君の味方のままさ。




