図書館で二人は
久々に投稿。だいぶ前からちょいちょい書き足していたらいつの間にか8000字以上に。私の一話分にしては長いです。
セミリア・ファル王国にある、古い図書館。その中には昔イアという王女やその母である女王様が読んでいたと言われる本や、昔の国・環境についてなどが書かれた歴史ある本が保管されている。今では一般市民が読むような小説や、絵本等も充実し人々から昔と変わらぬ人気を得ている。
そんな図書館で借りたこの一冊の本は他のどの歴史書よりも詳しく、正しい。
それは私が過去に母親から聞いた話のそのままの内容だったからだ。
今残っている本はどれもこれも誇張や差し替えが行われており正しい情報を引き出すのに時間がかかってしまう。そんな中で正しい情報を残せたという事はあの王女にはそれなりの力があったということだろう。
私は自宅で歴史書を紐解きながら、記憶を頭の中に巡らせていた。
あの時はこうだった……という追憶をしていたのではなく、情報の一致をはかっていた。
最近見る不思議な夢はどうも母から聞いた話のような独特な真実味を帯びており、あれがただの夢だったとは信じ難い。試しに歴史書を見てみれば、私が夢の中で演じていた……いや、なっていたというべきか。
その人物の名が歴史書に記されていたのだ。
私が夢でその人物になっていたということは私はその人物と何らかの関わりがあったのか、それとも前世などで自分自身がその人だったのか……考えても答えは見つからないが、考える事が楽しくてついつい意識を集中させてしまう。
「リスィ」
部屋の外から私を呼ぶ声がする。
あの件で何か分かったことがあったのだろうか。いや、それなら私ではなくあの人に伝えるはずだ。
私に何かを話に来たとすれば別の件……そうだな、あの男の話だろう。
「何か用でも?」
ドアを開けながら問うと目の前の人物はやけに楽しげな表情でその場に立っていた。
何も持たず、また何を伝えにきた様子でもなくただそこに立っていた。
「もう一度問う。何か用でも?」
「あぁ、用があって…というか面白い事があってな。お前とその件について話そうと思って来たわけだがどうやら不機嫌らしいな。」
「貴方のせいだ。」
「おぉ、怖い怖い。」
そう言いながらずけずけと部屋に侵入してきたそいつは宏満だった。
確かこいつはあの人にコードネームを貰ってなかった筈だ。
「琴春はどうした?」
「あいつは今あの人に報告しにいってる。」
「そう。」
宏満は部屋全体を眺めてから、部屋の中心部分にあるソファーへと腰を下ろした。
他人の部屋だというのに何という態度だ。むかつく。
こんな奴が武器所持者なんて考えたくない。
「面白い事って、何?」
ソファーに座った宏満を見下ろして問う。
こいつの話し方は嫌いだ。重要な部分を中々言わない為、話が進むのが遅い。聞いているこっちがイライラしてくる。するとまたそれを話に出してくるので無限ループ。出来るだけ早く情報を聞き出しこの家から追い出したいところだ。
「俺と琴春が行った場所に、気になる奴がいてさ。」
「気になる奴?恋愛相談は受け付けてないよ。」
「そうイライラするなって。…で、とある建物を色々見て回ってたらさ、お前の探していたあいつもいたぜ。多分あいつだと思う。だってお前とーーー」
「その話は良い。“お前の探していたあいつも”って事は気になった人は別の人って事でしょ。…誰?」
「それが名前は分らねぇんだよ。けど、内に秘めたる負の感情がめちゃくちゃに高くてさ。」
負の感情が高い…つまり武器所有者か、或いはこれから発動するかもしれないという事か。しかし、こいつが負の感情をキャッチ出来るとは思えないな。
その宏満にも分かるという事は、複数武器を持っているという事もあり得る。
話を聞く価値はありそうだ。
「その負の感情が高いという方はどんな人?」
「あー…」
明らかに言葉を濁した宏満。まさかこいつ、覚えていないのか…?
「その内顔を合わせる事になるだろうがまぁ、話しておいてやるよ。」
今の言葉にカチンときた自分がいた。
瞬間的に武器を構え、威嚇する。
「別に私は貴方達の味方という訳ではない。…忘れたのか?」
部屋に残る、自分の声。
宏満は動揺し、小刻みに震えている。
冷や汗であろう雫が一筋、額近くから流れた。
「ちょ、ちょっと待てって!今のはーー」
「なら最後に問う。ちゃんとした言葉で回答してくれるね?……それはどんな人だった?」
小刻みな震えがやや大きくなり、顔が青ざめているのが分かる。口ではデカイ事を言っておきながら、この程度か。
「××で×××××××いて、武器は恐らく××。×がおり、×は××××……でした。」
「へぇ、ちゃんとした言葉遣いも出来るんだ。偉い偉い。じゃあもう帰って。また何かあったら知らせる事。いいね?」
「………はい。」
宏満はその言葉を聞いてすぐさま逃げ出そうとしたが、上手く立てずに体勢を崩した。そのままハイハイでもするように引きずりながら進んで行く。それを私は何もせずにただ眺めていた。実に滑稽だ。自分の愚かさ故に醜態を見せる結果となる。こいつもこれで学んだはず。
入口近くになり、やっと立てるようになったのか、ドアをあけ一目散に逃げ出していった。
それを見送ってから宏満が座っていたソファに座る。ぼっふりと体を預け、考える。
内に秘めたる負の力が高いその人と、近いうちに会うと言っていた。それはどういう意味だ?
相手はこちらの事を知らないはずなのに。…いや、知っているのか?
「ふぅ……」
溜息が零れる。
気分を整える為にソファから離れ本棚に行き一冊の本を取り出し、意味もなくただただとページを捲る。
タイトルは緋色のテディベア。こうすると不思議と気分が落ち着くのだ。ふと気になったページで捲るのをやめる。丁度開いたページで何かを占うという本があるが、まさにそんな感じだ。
開いたページをじっくりと眺める。挿絵があるページだった。そこに描かれていたのは、緋色のテディベアと、紺色のテディベアだった。
◆ ・ ◇ ・ ◆ ・ ◇ ・ ◆ ・ ◇ ・ ◆ ・ ◇ ・ ◆ ・◇ ・ ◆ ・ ◇
「あっ宏満〜。丁度今あの…ってどうしたの、そんな青褪めて。」
基地へ戻るなり琴春が聞いてきた。それもそのはずだ。俺はたった今、足をガクガクと震わせドアを何とか開けたばかりだったからだ。俺は言葉を吐き強がりながら、琴春に答えた。
「ちょっと気分が優れないだけだ。うるせぇな、で、何だよ。伝える事があったんだろ?」
「あ、うん。あの子が来てるよ。」
俺が強がろうがどうでもいいという様に琴春は会話を続け、同時に基地の一角を指す。
そこには琴春に借りたのであろうゴシック調のドレスを身に纏った女がいた。
「さっきあの子をあの人のとこに連れて行ったらね、あの人ってばすぐにコードネームを付けたの。まだ何も分かっていない状態で。それほどあの子は凄いのね。」
あの人がコードネームを?
まだ能力すら知らないあいつに?
「って事は俺らより格上かよ…」
「そういう事になるね〜」
俺らが話している間その女は少しも身体を動かさずにこちらを見ていた。その視線が氷のように冷たくて思わず息をのむ。
「あの子、ここに来てから変わったね。あの人が何かしたのかなぁ。」
「かもな」
少なくともこんな奴じゃなかったと、過去を振り返る。ファーストコンタクトの際は、こんなにこいつを恐ろしいと思わなかった。むしろ、こんな奴簡単に倒せると思っていた。それがどうだ。今こうして俺らを見ているこいつに勝てる気は…しない。何か見透かされているような、妙な感覚さえする。
「で、こいつのコードネームは?」
「パーゴス・クリュスタッロスちゃん」
「は?」
通常のコードネームより長い。
一体何の意味があるってんだ。
「私の名前は、パーゴス・クリュスタッロス……意味は自分で調べて?」
不意に部屋の角にいたクリュスタッロスが静かに喋り出した。その声は冷たく、透き通っていた。高いとも低いとも言えない、思わず聞き惚れるような声。
「クリュスタッロス…」
「長いし覚えにくいだろうから、クリスタルでいい。」
「水晶っていう意味なのね。素敵な名前…。」
琴春がうっとりとした声で独り言のように呟く。
「じゃあ、クリスタルって呼ぶことにするか。」
「貴方たちは、宏満と琴春ね?」
「そう。琴ちゃんでも春ちゃんとでも呼んで?」
「じゃあ……琴ちゃん。」
人格は一応変えられてないらしいな。
さっきの視線は気のせいだったのか?
いや、気のせいではない。あれが本当のパーゴスだ。
今は友好的な態度を示しているが、油断ならない…。かといってこちらから関係を崩すのは好ましくないな。
「おぅ、宜しくな。クリスタル。」
「…宜しく。」
まるで感情を抱いていないかのようなその声色に、またも恐れを抱いたのは秘密だ。
◆ ・ ◇ ・ ◆ ・ ◇ ・ ◆ ・ ◇ ・ ◆ ・ ◇ ・ ◆ ・◇ ・ ◆ ・ ◇
「そう、この辺で会ったの。ゴシックロリータの女の子。」
図書館の近くまで来ると、とある道で花菜美さんが言う。
そこは人気が少なくひっそりとした場所だった。木々が伸び伸びと育ち大きな日陰を作っていたり、時折聞こえる鳥の羽ばたく音でカラスが多いと分かる。他の道は車の通りもあり、行き交う人もいる。なのに何故この道はこんなにも静かなのでしょう?
「そうですか、ここで…」
彼女と会ったんですね、という言葉は使わなかった。ですが充分それだけでも通じるはず。
「そう。特に何も話さずにすれ違っただけなんだけど、その服装が特徴的だったから覚えていた訳。」
「なるほど。」
何を目的に図書館付近を歩いていたのかはその情報では分からない。話を聞こうにもこれ以上の発展は見られない。なら、ここで本人に会えればいい。そう思った。
しかし、そう簡単に会えるはずはないとも理解している。ただ、ここにいれば、その人たちに会えるような、そんな感じがした。一種の勘が働いているらしい。
「緋威翔さん、どうしたの?」
色々考え事をしていたせいか、花菜美さんに不審に思われてしまったようだ。
「いえ、ここにいれば彼女に会えるかもしれないと…そんな無謀な事を考えていました。それだけです。」
「うーん、どうだろう。」
予想に反して、花菜美さんから無謀だというような意見は出なかった。むしろ、もしかしたら…というような顔をしている。もしかして花菜美さんは、彼女と会ったのが一度だけではないのかもしれない。
「会った時の時間は覚えていますか?」
花菜美さんにそう質問すると彼女は一度頷き、丁度このくらいの時間だったと答えた。
その時、視界の端に微かに黒が映り込む。
はっとしてその方向に目を向けると、ゴシックロリィタを身に纏った女性が視界に入る。
花菜美さんの方を伺うと驚いた表情をしていた。まさかあの人が探していた人なのだろうか?慌てて確認しに向かう。僕が少し跡を追っているのを見て、花菜美さんがそれについてくる。女性はこちらに見向きもせずに木々の影に溶け込み道を進んでゆく。
「花菜美さん、あの人ですか?」
「分からない。顔を見れば分かるんだけど。」
なるべく小さな声で話していたつもりだったのだが、花菜美さんがこちらに話しかけた瞬間に女性が振り返った。
「何か……用ですか?」
冷たい、機械的で感情がまるっきり込められていない声。でも何故かこの声を聞いたのが始めてではないように感じる。
「…違う。」
隣にいた花菜美さんが呟く。
「私が見た人と違う。」
◆ ・ ◇ ・ ◆ ・ ◇ ・ ◆ ・ ◇ ・ ◆ ・ ◇ ・ ◆ ・◇ ・ ◆ ・ ◇
目の前にいる女性は銀色に輝く髪がゆるく巻かれており、ゴシックロリィタを着ている。首にキラリと光るのはネックレス。透き通った水色をしたその宝石はおそらくアクアマリンだろう。誕生石だろうか。
ウエストは引き締まっていて、脚は細い。紫の瞳は虚ろで感情が欠如しているように感じた。
私が見た人と、違った。
そもそも髪の長さが違う。いや、そんなものはウィッグで幾らでも誤魔化せるかもしれない。けど、なにより違ったのは、声に込められた感情だった。
以前私がここで女性とすれ違った時、彼女は誰かに連絡をしていた。語尾が妙に伸びていたのが特徴的で、今でも覚えている。なのに今目の前にいる女性は、言葉に感情が込められていないのが簡単に分かる。
何か用?という言葉の中には、怒りも焦りも驚きも感じられない。ただ言葉が流れただけ。
「人違いでしたか…すみません。実はとある女性を探していまして。」
緋威翔さんが謝罪と同時に女性に説明をした。女性は無表情のまま、淡々と言葉を紡ぐ。
「そう。…きっとゴシックロリータを着た女性を探しているのね。」
「…その通り、です。」
何故か緊張感が走る。
緋威翔サンも慎重に言葉を選んでいるように感じた。
「…琴ちゃんに会いたいんでしょう。」
「琴…ちゃん?」
名前なんて知らないから、ついつい聞き返してしまう。
目の前にいるこの女の人が私達の事を知っている筈がない。なのに、その言葉には確信が込められていた。
いや、今は人違いでも構わない。情報が欲しい。
情報が無ければ、彼は私と一緒に居てくれないのだから。
「その琴ちゃんって人はどこにいるの?」
女性は後ろで手を組みくるりと一回転してから答えた。
「琴ちゃんなら、今頃図書館にいるわ。じゃあ、さようなら。」
一瞬ちらりと私達のいる場所から遥か向こうを見(たように見え)て、彼女は満足げに足取り軽く去って行った。私達は質問することも、引き止めることも出来ずにただその行き先を見ている。
やがて森に彼女が消えて行くのを見届けると、ハッと現実に戻ってきたように緋威翔サンがこちらに顔を向けた。
「行きましょう。」
◆ ・ ◇ ・ ◆ ・ ◇ ・ ◆ ・ ◇ ・ ◆ ・ ◇ ・ ◆ ・◇ ・ ◆ ・ ◇
図書館に入るといつものように和やかな空気が流れていた。授業で使う本を借りにきたのだろうか、学生が多く感じる。そんな中僕たちは特に本を探す様子を見せず館内を彷徨った。
情報と一致する少女を探して。
図書館は、王家の建物をそのまま使っていることもあり、かなり広い。
ジャンル毎にエリアは区切られているもののどのエリアにいるのかは分からないため、花菜美さんを二手に別れて探した方が良さそうだ。彼女にそう意見すると一瞬嫌そうな顔をしながらも承諾してくれた。
彼女には、琴さんという人を見つけたら連絡して欲しいと言って無線機を渡してある。これで連絡がつくはずだ。
花菜美さんは少女漫画及び恋愛小説のあるエリアから探索してもらい、僕は文学系のエリアから探索を進めた。
本棚に綺麗にしまってある本のタイトルが目に入りつい手を伸ばしたくなりながらも、琴さんという人を探す。そこまで混んでいない今日ならそんなに時間は掛からずに見つかりそうだが、中々連絡がない。
もしかして帰ってしまったのだろうか?そんな事を思い探索を進めていると、いつの間にか小説のエリアを通り過ぎ、恋愛小説のエリアに来てしまっていた。これでは花菜美さんと二手に別れている意味がない。
そう思った瞬間に目に入ったのは、恋愛小説のエリアから去ろうとするゴシックロリィタを着た少女だった。その少女の後ろには本を手にとった男性の姿も見える。どうやら本を借りるために受付へいくようだ。
一体花菜美さんはどこにいってしまったのかと溜息をつきながら早足で受付へと向かう。
手ぶらでは不審に思われると思い、通り過ぎる本棚の一番端にあった本を手にとった。
受付の前にくると、予想通り二人は本を手に並んでいた。
何やら会話をしている。盗み聞きはあまり良くは無いが、男性の声が大きく耳を澄まさなくても聞こえてしまう。これは仕方のないことだ、と自分に言い聞かせ、内容を追う。
「なんでこの本を借りなきゃいけねぇんだよ。」
イライラしているのか刺々しい口調で不満を漏らす男性。そして彼に彼女が語りかける。
「だってリスィが執筆した本だよ〜?内容が気になるじゃ〜ん。」
リスィ、誰かの名前なのだろうか。聞いたことのない名前だ。
男性の持つ本のタイトルが気になり本に視線を落とす。するとその手には「緋色のテディベア」が握られていた。確かあの小説の作者は緋桜という名前だった筈。以前その本を借りたことがあったので記憶に残っている。すると、緋桜というのはペンネームでリスィというのが本名なのかもしれない。
「おい、琴春。そういやパーゴスはどうしたんだ?」
「あぁ、クリスタルちゃんなら先に帰ったんだよ〜?」
「何か用事でもあったのか…?」
「この小説をぱらぱら捲ってたら急に帰るって言い出したの〜。ほら、内容が気になってきたでしょ〜?」
「んー、まぁ、少しはな。それよりよ、琴春は不満に思わないのか?」
「何が〜?」
司書に緋色のテディベアを渡しながら男性が尋ねる。“こはる”という女性は何について尋ねられているにか今一わからないようで首を傾げているがどうもわざとらしい。男性を焦らしているようにも見える。
結果男性は痺れをきらしたように話し始めた。
「パーゴ…クリスタルの昇進についてだよ。あの一瞬でだぜ?俺たちはまだコードネームすら…。」
「宏満しーっ!」
まずい、気づかれたのだろうか。ここで無駄に反応してはいけない。
僕は何事も無かったかのように本へと視線を逸らした。そして今更気が付く。
本のタイトルが“愛しき君へ”というものだということに。せめてタイトルを見てから持ってくる本を決めれば良かったと後悔したがもう遅い。今この状態でこの場を離れてしまってはまた見失う可能性もある。
しかし花菜美さんはどうしようか。無線機で連絡しようにもこんなに人目がある場所で使うのはいくら小型のものとはいえ不審だ。いや、でも仕方ない。顔を確認してもらわねばいけないのだから。
僕は無線機のスイッチを入れ、本を借りようという言葉のみを発信したあとすぐにスイッチを消した。
すると先ほど僕が通った恋愛小説エリア近くから花菜美さんが何冊かの本を持ちこちらへやってきた。
彼女によると、ついタイトルが気になって読んでしまっていたのだという。
「この本とっても内容が深くて…」
タイトルは「月と星と君と」だった。感想はまた後程聞くとして本題に入る。
「花菜美さん。緋色のテディベアって本を知ってますか?」
「うん、知ってる。えっ、もしかしてその本この図書館に置いているの?」
「そのようです。」
そういいながら、前にいる「こはる」という人の手に視線を移す。すると花菜美さんもそれにつられて「こはるさん」の方を向いた。
話題はあくまで緋色のテディベアについて。でも実際は、花菜美さんに「こはるさん」が例のゴシックロリィタを着た少女…琴さんなのかどうかをみてもらうための誘導。それはどうやら上手くいったようで、花菜美さんはこちらに視線を戻し、力強くゆっくりと頷いてみせた。「この人です」という口の動きを後に添えて。
そうと分かれば話が早い。この人達から情報を集めるだけだ。
人気のないところまでともにいければ実力行使であの日の真相を暴くのも手だ。しかし無用な争いは避けたいのであくまで最終手段だ。見ている限りこの「琴はる」という人物は温厚そうだし「ひろみつ」という人も乱暴な口調であるものの、すぐに手を出すようなタイプではないようだ。
さっきの会話からして、まだ上に誰かがいるらしい。…となれば、どこかに所属をしているということだろうか。
二人はどうやらこの図書館で本を借りるのは初めてのようだ。登録作業をしている。
この図書館は指紋認証型で、初回のみ登録が必要となる。名前と住所と年齢、そして指紋を登録すれば次回からは本を借りる際に受付にあるマークに本をかざした後、指紋認証を行えば本を借りることができる。
二人が初回入力をしている内に、名前を確認すると女性の方は琴春でこはる、男性の方は宏満と書いてひろみつと読む事が分かった。男性の名前の情報はなかったがさっきのゴシックロリィタを着た女性が言っていた通り、琴さんに間違いない。
住所などの登録を終えた二人がそれぞれ本をマークにかざしていく。ここでは何もできない。
これは二人を尾行することになりそうだ。
二人が丁度入り口方面へ向かうのを見ながら本をマークへかざす。ピコっという電子音が聞こえ、指紋認証を求められた。すぐさま指をかざして貸し出し登録を完了させる。
花菜美さんには先に行くと伝え、尾行を始めた。
二人は先程と同じように会話を続けている。時折意味の分からない単語が出てきたりしていたが、二人の間では通じているようだった。意味が分からなかった単語は忘れないように後程メモをとることにする。
前を歩く二人の背中を見ながら歩くのはあまり良くないので、借りた本のページを捲ったりしながら視線の先が分からないように工夫をしながら歩いた。ただ、こんな行動は今までにした事が無かったので、あの二人に気付かれていないかが気になって仕方が無い。接触がないところをみると、大丈夫そうなのだが。
数分が経過し、僕は花菜美さんと合流。花菜美さんは図書館から貰ったのであろう黄緑色の紙袋の中に本を数冊入れて持っていた。これから二人を尾行するというのに、荷物が重いのではないだろうか。
「本、重そうですね。持ちましょうか?」
問いかけてみるも、花菜美さんはビクッと体を震わせ顔を赤くしたかと思うと横に首を振るばかりだった。
本人に断られた以上しつこく聞くのはいけないと思い、この話は終えた。しかしその後の花菜美さんの視線が前にいる二人ではなく本などに集中しているのを見ていてもたってもいられなくなり、話を持ち出す。
「花菜美さん。疲れていたり本が読みたいようでしたら、無理についてくることはないですよ?」
すると今度は少し怒ったような表情をし、そそくさと手に持っていた本を紙袋にしまった。
どうやら意地でもついてくるようだ。
そんなに無理をしなくてもいいのに…と内心思いながら視線を二人に戻すと、二人は視界から消えていた。
…しまった。気を取られていた内に見失ってしまったようだ。しかし、ここで慌ててはいけない。
もしかしたら影に隠れて僕たちの今後の行動を見ているかもしれない。もし下手な行動をとれば、尾行してましたと目の前で打ち明けるようなものだ。
そう考えたまでは良かったが、伝えるのは少し遅かった。
「あれ?二人が居なくなっちゃった?」
その言葉はあの二人への宣戦布告の合図となった。
琴春、宏満VS緋威翔、花菜美??
次話の展開は未定。




