休日二日目【月華編Ⅴ】
大事な言葉を伝え忘れて、そのままになっている月華。彼女はそれに気付いていない。
そんな月華は、璢娘主催のパーティーへ招待され、パーティー会場である城に向かう。
トントン、となる扉に近づくと共に速まる鼓動。静まれと言っても全く効かない。徐々に、徐々に速くなっていく。
「月華さん、迎えに来ましたよ」
声が聞こえただけで心臓が何処かに飛んでいきそうになる。私は軽く返事をしてからドアをあけた。
「わざわざ有り難うございます」
緋威翔さんの隣を歩くの、何度目だろう。あの日も、あの時も。彼が隣にいるだけで安心する。
「璢夷さん達って寮に住んでないんですか?」
「いいえ。普段は寮に住んでますよ。ただ、ちょっと問題があって……」
「も、問題?聞いても大丈夫ですか?」
暗い夜道に街灯が灯り、オレンジ色の光が私達を照らす。夜だからか人通りは少なく、今この道を歩いているのは私達だけだ。
「璢夷さん達は、父親が誰だか分からないんです」
「えっ……」
「それで家には母親が一人で住んでいます。そんな母親を支える為に、ちょくちょく家に行っているんだそうですよ」
それで家に――、1人で家にいる親を心配して……。
「そうなんですか……」
二人はその後、パーティーについて話した。きっと、暗い話題を避けるためだろう。
「パーティーって……仮装するだけなんですか?」
「いいえ。ダンス等もするみたいですよ?音楽隊も呼んであるみたいですし」
「何だかお伽噺みたいですね」
「そうですね。そうすると配役は――」
「璢娘さんが女王様、璢胡ちゃんがお姫様、璢夷さんが王子様。」
「だとしたら月華さんはお姫様で、僕は召使いでしょうか」
「緋威翔さんには王子様の方が似合いますよ」
すると緋威翔さんは驚いたような顔をして、その後少し顔を赤らめるとすぐにそっぽを向いた。余りにも珍しい反応だったので、私も驚き、そして緋威翔さんと同じような行動をとった。
「……そ、その配役だとそもそも舞踏会に行く必要ないじゃないですか」
珍しく緋威翔さんが吃っているのを聞いて、更にその内容を頭で考えると、私はこう言わざるを得なかった。
「えっ?」
「王子と姫が一緒に舞踏会に行くなんて、可笑しい話でしょう?それとも、駆け落ちでもしたんでしょうか?」
「――ッ!」
冗談とは分かっていても、正直恥ずかしい。こんな言葉をこの近距離で、しかもはにかみながら言われるなんて。
「緋威翔さん、からかうのは止めてください!」
慌てて言うと、緋威翔さんはとんでもないといった様子で言った。
「からかってなんていませんよ」
「………。」
「気分を害してしまいましたか?すみません。」
「いえっ、別にそんな」
どこまでも優しすぎて、ついその言葉に甘えたくなる。だけど……。
「……本当に、そんなシチュエーションだったら……」
どんなに嬉しかっただろう。私がお姫様で、彼が王子様。そんな事になったらそのお姫様は絶対幸せだと思う。
世界の殆どの女子が望む、その立場。もしそれになれたなら。
「顔、赤いですよ?熱でもあるんじゃないですか?」
「そういう緋威翔さんも、ほんのり赤いですよ?」
クスクス笑いながら、少し反撃してみる。普段ニコニコしている緋威翔さんとは少し違うこの状況を、もう少し楽しみたい。『お城』に着くまでというタイムリミットがあるとしても。
「そ、そうですか?……あ、本当だ。顔が少し熱いです」
緋威翔さんは、自分の手で頬に軽く触れそう言う。
「まぁそうなるのも仕方ないですね。女性と、しかも二人きりで夜道を歩いている訳ですから」
1人の『女性』として認識されている事に、少し喜びを感じた。私はただの『友達』止まりでない事を証明出来るのだから。どうして私はそれを証明したいのかは分からない。だけど、心の何処かでそれを望んでいる。
「私も、緊張してます。あまりこういう場面は……ないので。」
さりげなく車道側を歩いてくれている彼の顔をじっ、と見つめ笑顔を見せる。自然と笑顔が零れたのだ。
「緊張する事は無いですよ」
私より背の高い彼が、私の頭を軽く2回叩いた。ぽふぽふという慣れない感覚に動揺しながら、私は彼が緊張を解そうとしているのだと気付く。
「そろそろ璢夷君の家に着きますからね」
「はい」
タイムリミットまで、あと少し。それを感じて少し胸が痛む。璢夷さんの家に着いたら……。
そんな思いも虚しく、その後数分で私達は璢夷さんの家の隣にある城へ到着した。
「いらっしゃい。緋威翔さん、月華ちゃん」
入口では璢胡ちゃんがお出迎えしてくれた。パーティーの仮装についての説明も兼ねてだろう。
「まず、城に入ったら兄さんの指示に従って、姉さんの部屋へ向かって。そうしたら1人ずつ部屋に呼ばれるから、その部屋で服を貰うの。その後、女子は私の部屋、男子は兄さんの部屋で着替えて、一階の広間まで戻ってきて」
一通り話を聞いて、私達は城に入る。仮装パーティー用に作られた城だけあって、最初は部屋に区切られている。
部屋の前には璢夷さんが立っていた。
「左から璢娘、俺、璢胡の部屋だ。今は政宗が璢娘の部屋にいるから、政宗が出てきたら月華から先に璢娘の部屋に入ってくれ。」
言い終わるか終わらないかの間に、璢娘さんの部屋から政宗さんが出てきた。
その表情からして、普段着ないような物を渡されたのだろう。真っ赤な顔のまま璢胡ちゃんの部屋に入って行った。
「次は鏡だぞ」
トントンと肩を軽く叩く璢夷さん。その目が何か深いものを意味しているような気がしてならない。
不安を感じながら、ドアノブをゆっくりと回す。カチャリという音と共に、璢娘さんの部屋の全貌が明らかになる。全体がピンクで占められており、所々にはフリルがついている。何とも女子らしい部屋だ。
璢娘さんは奥にある机の所におり、私に背を向けている。その姿は一心不乱に何かを縫っているようなのだが……。ミシンのダダダダという音、そして時々溢れる笑い声。こんな部屋だからこそなんとかなっているが、この部屋がもし暗かったら相当不気味だ。
「あのぅ、璢娘さん?」
私が話し掛けると、やっとの事で私の方を向いた。
「あぁ、月華ちゃん!ちょっと待ってね~」
ガサガサと近くにあるクローゼットを漁る璢娘さん。私はその璢娘さんよりも、クローゼットの中身が気になって仕方ない。だって中に入っているのは――……。
ナースに警官、制服にとあるキャラクターの衣装、ドレス、魔女の服等々……、やはり『コスプレ』に相応しい衣装ばかりだ。
「わ、私もその中にある衣装を着るんですか?」
「勿論そうだよ~、あ、あったぁっ」
そう言ってクローゼットから取り出したのは、純白の煌めくドレスだった。
「ふぇえ……」
思わず見とれてしまう。お伽噺の主人公になったような感じがして、嬉しくなる。……それと、ナースとかを着なくて済んで良かったって思う。
「はい!あ、オプションもね!」
冠や靴も一式貸してもらった。どれも真っ白である。
「わざわざ有り難うございます」
「どーいたしましてっ!じゃあ璢胡の部屋で着替えて来てねっ」
「はーいっ」
今日一番の難関をクリアした事で気持ちが軽くなった私は、ルンルン気分で部屋を出た。
部屋を出てすぐに緋威翔さんが見える。私が出てきた事に気付いた緋威翔さんは、私の服を見て一言。
「ウェディングドレスみたいですね」
「!!」
確かに言われてみればそうだ。真っ白なドレス、ヴェール……。結婚式に着るようなものばかりだ。オプションには何故か花束まで用意されてたのを思い出す。(まぁ、必要ないと思って持ってこなかったけれど)
「まともな服で良かったな」
ドレスを見た璢夷さんが呟く。その顔は青に近い。
「僕はどんな服になるのやら」
「真希は天使、真琴は悪魔っぽい角付きローブだったぞ。」
「紫綺君や輝生さんは?」
「紫綺は確か黒のタキシードだったな。輝生はまだ来ていない。」
「そうですか……。」
真希さんが天使、真琴さんが悪魔?紫綺さんは黒のタキシード……。全く一貫性がない。
「……まぁ、どうにかなるでしょう。では行ってきます」
覚悟を決めたらしい緋威翔さんは、ドアノブをゆっくりと回して璢娘さんの部屋に入っていった。
「さぁ、鏡は璢胡の部屋へ」
「はい」
私は璢胡ちゃんの部屋へ続くドアノブを回した。
璢胡ちゃんの部屋は、璢娘さんの部屋とは対照的で、コーディネート的には全体が寒色で占められている。何とも中性的な部屋である。
部屋には、私達より先に来た女性で溢れていた。それぞれが璢娘さんに仕立てられた服を着ている最中だ。
「あ、月華ちゃん」
「セイラさんっ」
その時私の目には、一人の女神が見えていた。いや、実際は修道女の服を着た一人の女性なのだが、その見た目があまりに綺麗なので、そう思ってしまったのである。
「月華ちゃんはどんな服になったの?」
「私はウェディングドレスみたいです。」
「月華ちゃんのウェディングドレス姿早く見たいなぁ」
そう言われたのが嬉しくて、私は急いでそのドレスを着た。
「ど、どうかな……?」
「似合うね、月華さん」
セイラさんだけでなく、政宗さんにも褒められ私は更に嬉しくなってしまった。
そう言う政宗さんは、ナースの制服を着ている。
「かっ、可愛いーっ!」
「あ、有り難う月華さん……。」
一方のセイラさんは、和服を着ていた。いつもの雰囲気と違う二人をみてテンションが上がる。
これこそ仮装の醍醐味だと私は思う。
「さぁ、広間に行きましょう?」
「広間ってどうやって行くの……?」
「この部屋の奥の、あの扉を潜るのよ」
奥にぽつりと存在する扉。どうやらその奥に広間へ通じる道があるらしい。
城の構造上、何ともおかしな設計だが、これも璢娘さんが決めたとあれば、なんてことない。実にユーモアな発想だ。常識を覆す発想を出来るのは、きっと彼女しかいない。
扉を抜け通路を通り、広間へと向かう。
広間はお伽噺に出てくるお城の内装そのままである。黄色とも白とも言えない色の床と、壁。大きなシャンデリアに、金色の額のついた窓。
奥に設置された豪華な赤色の椅子も想像と一致するものである。
椅子のあるステージの横には楽団がおり、その服装や楽器も高価そうである。
私の後ろからは続々と人が集まってくる。
その一人一人の衣装がなんと大胆な事!私がウェディングドレスだった事で安心していたけれど、周りの人々は様々な衣装を着せられていた。
「おっ!月華ちゃんはウェディングドレスなんやぁっ」
「アルバートさんは……えっと?」
何とも言えない衣装で立っているアルバートさん。あれは……馬の被り物?
「馬や馬!!」
「あ、あぁ……っ、馬……ですね」
馬の被り物を外し、顔を覗かせるアルバートさん。その顔は、被り物を楽しんでいるように見えた。
「俺は引き立て役が好きなんや」
「そ、それなら良いんじゃないですか?」
周りを見回すと、妖精に吸血鬼に魔女に天使に悪魔、更には幽霊?も居る。
一体璢娘さんのコンセプトは何だったのでしょうか――。
衣装を着て広間に居る私は人が集まるまで特にすることもなく、周りを眺めている。
ふと目に入ったのは、豪華なディナーの並べられたテーブル。時間が時間だけにお腹の空いた私は、ふらふらとテーブルに吸い寄せられていった。
テーブルに並べられた一皿一皿を早く食べたいとばかりにじっ、と見つめる。目の前にあるのは、まるごと焼かれたらしいチキンだ。
(お、美味しそう…!)
手を伸ばせば届く距離。さぁ私、どうする!?食欲に身を任せ、恥をかくか、それとも食欲を抑え我慢するか。うーん、究極の選択だ。
「皆~お待たせーッ!」
私が食欲に負けそうになっていた矢先に、璢娘さんの声がホールに響く。私は声のした方向を見つめ、そのまま硬直した。
な ん だ あ の 服 は。
璢娘さんが着ていたのは、紛れもないロリータ。ピンク色のフリフリのものである。彼女のショートヘアにはヘッドドレスまでつけられている。細部までこだわっているからだろうか。
学校で会う時も、よくロリータ姿を見掛けるが、今日のロリータは一味違う。なんというか……『フリル20%増』といったところだ。いつもよりフリルが多い!
そしてもうひとつ興味深いのは、璢娘さんの隣にいる美少女。これまた璢娘さんにそっくりな髪型をしている。その娘の着ている服は、ゴシックロリータだ。レースを存分にあしらった豪華なつくりで、上品かつ大胆なスタイルになっている。
璢娘さんと似た女の子といえば、璢胡ちゃんが即座に浮かぶが、璢胡ちゃんは舞台袖からひょっこりと顔を覗かせていたため、彼女ではない。では一体誰なのか、璢娘さんの親戚だろうか?
「ねぇ、見てみて~!この服可愛いでしょ?」
「か、可愛いよ」
璢娘さんの問いに対し、真琴さんが興奮した眼差しでかえした。
「でしょ~?あ、そうそう。璢胡ーあの子連れてきて。ファッションショーやるから」
はっ、はいっという返事をした璢胡ちゃんは、舞台袖に戻り、誰かを連れてこようとしている。しかし、一向に人が出てこない。
「ちょっとぉ~早くしてよ~」
「ご、ごめんない姉さん。でもこの人が中々……」
「もー!仕方ないなぁ!」
璢娘さん自らが舞台袖へ向かっていく。そして、そこから一人の人を連れ出して来た。私はそれを見て――言葉を失った。
さてここで問題です!
①ゴスロリ美少女とは誰でしょう?
②舞台袖から出てきたのは誰でしょう?
感想欄にてコメントください。
当たった人にはその人物からのコメントが届きます!(多分)
さぁ、れっつしんきんぐたーいむ!(笑)




