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blanket  作者: 璢音
第三章:戦い
33/139

道(レール)

 二人の熱いバトルを見た私達は、穂乃香さんのお父さんの計らいで、穂乃香さんの家に泊まらせてもらうことになった。


 明日は、車で一緒に乗せてってくれるらしい。


 1日の疲れをお風呂で癒し、穂乃香さんの部屋に布団を敷かせてもらい、寝ることになった。


 緋威翔さんは男子なので、隣の空き部屋で寝泊まりする事になっている。


ノエル「明日までに練習時間って無いわよね、辛いんじゃない?」


穂乃香「うん……一応お風呂でイメトレとかはしてきたけど、正直不安だなぁ」


 薄めの布団にくるまるノエルさんと私は、穂乃香さんのパジャマを借りている。ノエルさんはピンクに白のドット、私は黄色と白のボーダー。ちなみに、穂乃香さんは白地に水色でハートがプリントされているパジャマだ。


穂乃香「……ふふっ」


 不安だと言っていた穂乃香さんが、私達を見て笑みを溢した。ノエルさんが何よ、と聞くと、穂乃香さんはただただ笑って答える。


穂乃香「私に、お姉ちゃんとか妹とかが出来たみたいで、なんだか嬉しいの」


 多分、ノエルさんがお姉ちゃんで私は妹というポジションだろう。


ノエル「そう言われてみればそうね。その場合、三つ子かしら?」


 ノエルさんも笑って答える。いつもツンツンしているノエルさんにしては珍しい反応だ。


「随分楽しそうですね。こっちは1人で少し寂しいですよ」


 壁の向こうから、緋威翔さんの声がする。


ノエル「じゃあこっち来る?」


緋威翔「冗談ですよ、流石に女性ばかりの所に1人でいるのは辛いです。プールで嫌という程それが分かりましたから」


ノエル「モテ男は大変ね!」


穂乃香「そういうノエルちゃんも、男性の視線を集めてたけどね」


ノエル「えっ、そうなの?」


 確かに、ノエルさん目当てにこちらをじろじろ見ている男性は多かった。ただ、爪でおじさんを引っ掻いた辺りからはさっぱりだが。


穂乃香「さてと!話もこれくらいにして、もう寝よっか。明日は早くから行って、開館と同時にプールに入りたいから」


ノエル「明日、起こして頂戴ね。私半分猫だから、朝は弱いの。起きてても布団にくるまってる筈だから」


月華「了解しました」


 穂乃香さんが電気を消し、一同は眠りに落ちた。


――朝。


 誰かはカーテンを開くと同時に太陽の光が注がれる。私は眩しくて目が覚めた。


月華「お、おはようございます。えっと……」


 眩しくて、カーテンを開いた人物がシルエットしか見えない。


足元から確認していって、頭の上を見てみると、帽子のようなものが見えた。


 あれ?


月華「緋威翔……さん?」


 徐々に目が慣れ、姿が明らかになっていく。目の前に居たのは、紛れもなく緋威翔さんだった。


 私に名前を呼ばれ、振り向く緋威翔さん。私に手を伸ばし、おはようございます。と挨拶をする。


 私はその手を躊躇なく握り返して――


「………!」


 でもおかしいな。二人の姿がない。一体どこに?それに、何で緋威翔さんがここに?


「……きか……!」


「バシッ」


月華「ひやぁっ!!」


 誰かに体を叩かれ、ハッと起き上がる。何故か心臓の鼓動が早く感じる。焦りと「?」が頭の中を駆け巡っていく。あれ?今……


ノエル「月華!起こすって言ってた人が一番遅いってどういう事よ!」


 目の前には、プンプンと頬を膨らませ真っ赤な顔をして怒っているノエルさんと、ノエルさんと私を温かく見守る穂乃香さんだった。


月華「あれ?私……」


穂乃香「月華ちゃんが一番ぐっすりだったね」


 穂乃香さんが付け足す。


ノエル「でもまだよ。あのモテ男がまだだわ」


 そう言い部屋を飛び出すノエルさん。慌てて私はノエルさんを追いかけた。


月華「待ってよぉ!」


 そうだ。あれが夢でも、緋威翔さんはもう起きている筈。そうしていつものように、私達の前に急に現れて「遅かったですね」って笑顔で――


「ガチャッ」


 ノエルさんが緋威翔さんのいる部屋のドアをゆっくりと開ける。私は興味本意でそのドアの隙間をちらりと覗き込んだ。


 部屋に用意された布団。その上に被さる掛け布団にくるまる彼がそこにいた。


……まだ寝ているらしい。


 でもその姿が、想像していたのと全く違って――、思ったより愛らしい姿で眠っていた彼に驚きながら、三人で部屋に侵入する。


ノエル「どうせなら早朝ドッキリでもしちゃいましょうか」


穂乃香「面白そう!」


 二人が盛り上がっている中、私は緋威翔さんをじっと見つめていた。完璧な寝顔。非は何処にも見当たらない。


暫く見つめていた私は急に現実に引き戻された。


ノエル「何モテ男の顔じーっと見つめてんのよ。まさか、惚れたの?」


月華「そ、そんな訳じゃ……!ただ綺麗な顔してるなって……」


ノエル「確かに、男にしとくには勿体ないわよね」


穂乃香「今時の女子が一番きゅんとくる感じだよね」


 二人が軽く馬鹿にしつつ、笑う。その手には、大きな風船が握られていた。……いつの間に。


 そしてもう一方の手には、針が……。二人は緋威翔さんの耳元に各自風船を持っていく。私はビックリして耳を塞いだ。


……きっと割るんだ!


パァンという鋭い音が、部屋中に響き渡る。仕掛人も同時に体をビクつかせた。


だが、肝心の緋威翔さんは、全く変化しない。それどころか、二人がビックリしている間に普通に目を覚ましたのである。


緋威翔「……んー……よく寝た……」


 ゆっくりと体を起こし、伸びをする。軽く欠伸をし、少し目を擦ると、私達の方を向いて言う。


緋威翔「皆さんおはようございます……一体揃って何を?」


ノエル「失敗みたいね」


穂乃香「早朝ビックリをやろうとして、失敗しちゃった!」


 穂乃香さんが笑って言うと、下から声が聞こえてきた。


父「ご飯出来たぞー」


穂乃香「はぁい!さ、皆。下にいこう!」


 各自必要な事を済ませ、リビングにあるソファーの前に集まる。


 目の前に出されるトーストとハムエッグ、サラダは定番の朝ごはんだ。


ノエル「とうとう大会当日ね」


穂乃香「気合い入れて頑張るんー!」


 皆でわいわい食事をして、また各々で支度を済ませた後、穂乃香さんのお父さんの案内で車に乗り、市営プールへ向かう。


 開館五分前に到着した私達は、既に市営プール前に出来ていた列に並んだ。


 大会という事もあり、人が多い。入口等には、大会があるという事が分かるよう、看板や飾りがついている。


 五分後。警備員の人が中へ案内を始めた。私達の前に並んだ人達が、みるみる内に前に進んでいく。私達もそれに続き、中へ入った。


 後は昨日と同じように、更衣室で着替え、25mプールのプールサイドで待ち合わせをする。


 六人が集まると、穂乃香さんのお父さんが今日の日程について説明してくれた。どうやら大会は、10時からでまだ時間がある為、各自練習したり遊んだりしていいらしい。


穂乃香「じゃあ、私は練習するから、三人は遊んでおいで。あ、ここの上には食事処とかもあるよ?」




 せっかくだが、私達はあくまで穂乃香さんを応援する者。その人を置いて遊ぶ等できる筈がない。


 私達は近くで練習を見守る事にした。タイムウォッチを片手に、タイムをはかっていく。


 だが、中々良いタイムが出ない。遠くで見守るお父さんは心配そうな顔を。お母さんはほらみなさいという表情で私達を見つめていた。


 穂乃香さんは、それに負けず何度も同じ距離を泳いでいく。


 ちなみに、穂乃香さんが出るのは50m自由型。自由型だけに、どの型で泳ぐのかが鍵になる。


 穂乃香さんはどうやら、最初の25mをバタフライで、後の25mをクロールで泳ぎきるようだ。


 暫くして、ホイッスルが鳴り響いた。時計を確認してみると、9時55分を示している。どうやら選手が各自移動をするようだ。

 穂乃香さんが出るのは一番最初の為、直ぐに25mプールのスタート地点に並ぶ。3番と書いてある場所に立つ穂乃香さんは、酷く緊張した顔をしている。こういう場は慣れているとの事だが、こういう状況は慣れていない。緊張するのも当然だ。


 私は、穂乃香さんに手を振った。彼女は私が手を振ったのに気が付き、手を振り返す。その顔は笑っていた。

これで緊張が少しでも解けるといいのだが。


 審判の人が、旗を片手に、ホイッスルを口にくわえる。


 選手が一斉に準備の体制に入る。穂乃香さんも、ゴーグルをはめ、飛び込む姿勢に入る。


「よーい……」


「ピィイイイ!」


 鋭いホイッスルの音と共に、選手が一斉に飛び込む。


 すると、観客から一斉に応援する声が上がりはじめた。その応援によると、穂乃香さんのお母さんがライバルと言っていた原さんは、隣の4番を泳いでいるらしい。


 先頭は4番の原さん。その後をつけるように穂乃香さんが追う。そして、穂乃香さんと同じくらいの位置に1番の場所を泳ぐ誰かがついていた。


 原さんは穂乃香さんと同じバタフライを、1番の人はクロールをしている。


【†穂乃香side†】


 冷たいけれど温かい、水の感じ。泳ぎなれたプール。だけど、いつもと違う。妙に高まる緊張感に支配されて、自分の泳ぎが出来ていない。


 原さんに数mの差をつけられているのも、そのせいだ。


 だけど、そんな事考えている暇もない。泳ぎに集中しなくては。


月華「穂乃香さん!頑張って!」


ノエル「穂乃香ちゃん!貴女、お母さんに認めてもらうんでしょ!頑張んなさい!」


緋威翔「穂乃香さん、貴女なら大丈夫。落ち着いて、冷静に…!」


 皆が、応援してくれてる。私は一人じゃない。

 お父さんも、お母さんも奥にいる。自分の勇姿を見て貰わなきゃ。


 頑張らなきゃ。


【†月華side†】


 徐々に差は縮まっている。このままいけば、追い越せる…!


 25m、切り返し地点。原さんが綺麗に一回転して進んでいく。トップは変わってない。


 その次に、穂乃香さんがターンをしようと25m地点にやってきた。しかし。ターンに若干手間取り、1番を泳ぐ人に抜かされてしまった。


このままじゃ……!


【†穂乃香side†】


 ターンで体勢を崩し、タイムロスをしてしまったが、何とかもちこたえてクロールへ移った。


 クロールは、お母さんに一番指導された泳ぎ方。私とお母さんを繋ぐ、型。

 それを選んだのは、私はお母さんに感謝もしているという事を示すため。

 私がこんなに上達したのも、厳しく指導してくれた、お母さんのお陰。やり方は好きじゃないけれど、実力は私より上の筈。


 クロールで、段々と差が縮まっていく。でも、追い付かない。後少しで、原さんが50mについてしまう……!


でも、どうしても負けられない……!


【†月華side†】


 急に、穂乃香さんの動きが早くなる。想いに比例して。


今の穂乃香さんは、ただ従っていた時と違う。彼女は彼女のやり方で、己を、原さんを越えようとしているんだ。


 段々と距離が狭まる。後少し……!


月華「穂乃香さん!」


ノエル「穂乃香ちゃん!」


緋威翔「穂乃香さん!」


父、母「穂乃香!!!」


 皆の想いが一つになって、穂乃香さんを後押しする。


その瞬間、穂乃香さんが原さんを抜いた。そして、見事に50mを……泳ぎきった!


その結果は勿論……約束していた座、1位だった。思わず私は喜びの声を上げる。


月華「穂乃香さーん!おっ、おめでとぉーっ」


 それに答えるように、手を振る穂乃香さんが見えた。


試合が終わり、プールを上がってきた穂乃香さんに、一斉に駆け寄る。


 口々に、お祝いの言葉を述べる私達の顔は、喜びに満ちていた。


母「穂乃香……」


 お母さんが、穂乃香さんを抱きしめ涙を流している。私達はそれを見守るように、側によった。


母「お母さんね、小さい頃に敷かれたレールを、そのまま歩んできたの。本当は、私も泳ぎたかった。だけど才能がないって言われたから……」


 ボロボロと大粒の涙を流す穂乃香さんのお母さんを、穂乃香さんが抱きしめ返した。


母「それで、才能のある貴女に嫉妬して、意地悪するなんてーーごめんなさいね、許してちょうだい…!」


 強気だった母の、弱み。それを知った穂乃香さんは、笑顔で「有難う」と洩らす。


穂乃香「有難う、お母さん。私がここまで成長出来たのは、お母さんのお陰だから……」


 穂乃香さんも、我慢していた涙が頬を伝っていく。


穂乃香「それに、お母さんの本音、やっと聞けた。お母さんもレールに縛られていたんだね。お疲れ様」


 しなだれかかる穂乃香さんを受け止めるお母さん。更にお父さんが二人を抱きしめ言う。


父「二人共、不器用だけど水泳が大好きなんだよ。仲直り、出来たね」


 笑顔で、うん!と答える穂乃香さんの顔は輝いて見えた。プールの水と涙を振り撒いて、その一粒一粒に光がさし、キラキラと……


ノエル「感動ね。」


緋威翔「えぇ」


月華「良かった…」


 私達も、ほっと一安心して三人を眺める。その時だった。穂乃香さんのゴーグルが一瞬揺れたかと思うと、プールの水が舞い上がり、雨となって辺り一面に降ったのである。


細かな水の粒子一つ一つが、穂乃香さんから流れる水と同じように、キラキラと輝く。


まるで、ダイアモンドダストのように。


綺麗すぎて、言葉も出ない。


穂乃香「これって……」


母「昇華…?」


 私達は頷いた。


月華「もう、大丈夫。武器は昇華しましたから。」


ノエル「じゃあ、私達は帰らないとね。」


緋威翔「名残惜しいですが、仕方ないですね」


 私達が去ろうとすると、三人は私達に頭を下げた。


父「有難う。また多義家に遊びにおいで」


母「歓迎するわ」


穂乃香「短い間だったけど、有難う!また、会えるよね?」


 私は勿論!と返し、手を振って三人と別れた。


……良かった。親子の仲も直ったみたいだし。


武器も昇華して。


緋威翔「さてと、学校に戻りましょうか」


 皆が、待っている。

皆が、助けを求めている。私達はそんな人達を助けないと。


沢山いる中の一人を助けたくらいでのんびりしてはいられない。


月華「早く帰って報告して、次の依頼に行かなきゃ!」


ノエル「貴女らしいわ」


緋威翔「そうですね」


 二人がくすくす笑う。私は恥ずかしくて照れ笑いをして誤魔化した。


市営プールを出る際に、振り向く。


「また、絶対に会えるから。」そう呟く。


ノエル「ほらー、早く次の依頼行くんでしょ?」


月華「うんっ」


 私は二人を追うように、走り出した。


次の依頼ではどんな人が待っているのかなぁ……?

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