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blanket  作者: 璢音
第三章:戦い
31/139

傷に染みる海水(なみだ)

今回は穂乃香ちゃんの、過去にあったエピソードの話です。


【↓↓編集後記↓↓】


↑変換ミスで海老ソードって打ちそうになった(´ω`)


危ない危ない。


後、最初この回を書いた時、4500文字ピッタリだったんだけど、誤字脱字訂正したらズレちゃった。ちょっとショック。


では気をとりなおして……

本編をお楽しみ下さい。

 私は、有名な水泳選手が多くいる多義家の1人娘。私の父も、母も、水泳が大好きで、水泳に人生を掛けてた。


 私の父は、幼い頃から水泳を習い、みるみる上達。やがて専門のコーチをつけ特訓。その結果、今では水泳界に名を残す人にまで成長していった。


 私の母は、私と同じように水泳一家に生まれた。だけど、母に才能は無かったみたいで、中学、高校では水泳部のマネージャー、大学を出て水泳のコーチへの道を歩んだ。


 私の両親は、水泳で結ばれたと言っても過言じゃない。だって最初は選手とコーチの関係だったのだから。父は母の美貌、熱意、情熱に。母は父の才能に惚れ込み交際を開始。そこからめでたくゴールイン。そんな二人から生まれた私は、両親と同じレールを進む事になった。


 私は、幼稚園生で水泳のスクールに通いだした。当時は水が大好きで、泳ぐのも好きだった。年相応の事しかしなくて良かったから、主に水遊びと、深く潜る練習、浮く練習。たまに25mを目指して泳ぐくらいの事を求められ、私はそれに従った。

 小学生になり、水泳スクールのレベルが上がった。……と同時に私の技術も上がった。普通の泳ぎ……ばた足や平泳ぎだけじゃなく、クロールやバタフライも教えてもらって、出来るようになった。私が事あるごとに父母に報告しに行くと、自分の事みたいに喜んでくれた。

 最初はそれが嬉しかった。でも、段々と私が実力を伸ばし始めると、応援していた母は、まるでコーチのように、父はそれをただ眺めるように……自分に重ねて。


 ただ単に泳ぎたかっただけなのに。ただ泳ぐのが好きだっただけなのに。どうして。


 母はいつしか、タイムを縮める事しか考えなくなっていった。父は泳ぐのを止めてしまった。自分よりも素質がある、と責任と期待を押し付けて。


 楽しかったプールも、ただ遊ぶだけじゃ駄目で。私には25mプールでの辛い思い出しかない。


 タイムウォッチ片手に叫ぶ母。タイムを縮めろとしきりに言う。私は正直うんざりしていた。タイムを縮める事が、私の目標じゃないんだから。私はただ、泳ぎたいだけ。プロのスイマーになる気もない。


 それを伝えると、母は容赦なく私を叩いた。


「貴女は多義家の人間なのよ!水泳以外に道はないの」


 選択肢を与えない、一つに限れたレールを母は私の目の前にしいた。


私はそれを拒否する事が出来ず、ただズルズルと母の言いなりになっていく。


 もっと早く、もっと速く。

コンマ一秒でも縮め……!

そうしないと、また……


 段々と増えていく傷が、全てを物語る。


 ある日、母は私を海に連れていった。たまには息抜きにと、父も誘い海へ向かう。だが、そこで妙な違和感に襲われる。息抜きの割には荷物が、少ないのだ。

 砂浜に置く椅子も、シートも、クーラーボックスも、何一つない。浮き輪さえも見当たらない。


 海に着き痛感する。「息抜き」の別の意味を。


 普段限られたエリアで泳ぐ私に、海というエリアの限られない場所を与えたのだ。母の右手には、あのストップウォッチが握られている。


嫌な予感。


 隣には、準備満タンの父がいる。だが、その目は濁っており、光は見えない。母に付き合わされた、といっているような目だ。


「さぁ、泳いでらっしゃい」


「でっ、でも……!」


「なるべく体は軽くしなさい。……これも邪魔ね」


 そう言って、母は私の頭にあるゴーグルを奪った。


「!?」


「仕方ないわね。私が先に行くから、ついてきなさい」


 母は右手に持ったタイムウォッチを砂浜に投げ捨て、驚く私を無視し、ゴーグルを持ったまま海へ向かっていく。


「ちょ、ちょっと待って…!」


 海には塩分が含まれている。ゴーグルをしないという事は、海の水が目に掛かるという事だ。勿論、その場合は染みるだろう。体に出来た、傷にも。痛みが生まれることくらい、簡単に想像出来る。


慌てて母を追いかけて行くのだが、母はそのゴーグルを掛け、海へ入っていってしまった。


「さぁ、行きなさい。ママを追いかけるんだ。」


 後ろにいる父が私を駆り立てる。仕方なく私も海へと入った。


足が浸かると共に染みる海水。痛みに顔を歪めても、誰も助けてくれはしない……。


決心して泳ぎ始める私を、父が追跡する。


「万が一の事があるといけないから、僕も同行させてもらうよ」


 母は既に小さくなっていた。私が入るか悩んでいる間に距離を広めたようだ。

 私は今までの事を思いだし、最善の泳ぎ方で間をつめていく。だが、狭まった間はすぐに広がっていった。


(何で?母に泳ぎの才能は……)


 母はやがてクルリと旋回し、こちらへ泳いできた。流石に沖合に出るのは危険と判断したのだろう。


 私から離れた場所を通りすぎていく母を追い、私も旋回する。


 ただ旋回したのでは大幅に時間が掛かる。そう判断した私は……


「お父さん、ごめんね」


「!」


 父は何をするのか気付いたのか、両手を前に出してきた。私はそれを壁にしてくるりと一回転し、更にその手を蹴って前に進み出た。


 それにより、大幅なタイムコストが減り、勢いを増した私は先程よりも早く泳ぐ事が出来た。


 母も流石に疲れて来たのか、泳ぐのが遅くなっているようだ。みるみる距離が狭まっていく。


 そして、かなり近くまで来ると、母は急に泳ぐのを止めた。そして足で体の位置を保ちながら、手をゴーグルへと伸ばす。そのゴーグルを取った母はまた、そのゴーグルを手に持ちながら泳ぎ始めた。


 ただ、さっきよりも水深は浅く、母には楽な深さまで来ていた為、腕だけを平泳ぎのようにして軽く泳ぐくらいだったが、私にはまだ深く、ちゃんと泳いでいないといけなかった。


「お母さん!ゴーグル返して……!」


 既に目には海水が掛かっている。海水が染みて体のあちこちが痛い。それを母も知っている筈だ。


「やっと追い付いた!ゴーグル返……」


「チャポン」


 嫌な音と共に、ゴーグルは母の手の内から消えた。母はそれを見ずに悠々と砂浜へ向かっていく。母は既に底に足がついており、歩いているようだった。


 一方の私は、慌てて母がゴーグルを落とした場所を探し始める。

 母は知らないかもしれないが、あれは……あのゴーグルは、私が小学生の時に父がくれた物。他の水泳の道具は一式母が揃えたものだが、ただ一つ、ゴーグルだけは父が用意した物だったのだ。


 普段会話しない父から、急に貰ったプレゼント。だからこそ、私はあれが大切だというのに……母はそれを、海底へと……。


 海に潜り、必死にゴーグルを探す。だが、波に拐われたのか何処にも見当たらない。


 海水が染みるのも気にせず、息継ぎもせずにただひたすらにゴーグルを探す。


あのゴーグルだけは、何としても――。










 ……気が付くと私は何故か砂浜にいた。どうやら私は海で気を失ったらしく、後ろにいた父が慌てて砂浜まで運んでくれたらしい。


 少し動いてみると、海水でぐっちょりと濡れた髪や体に、砂がまとわりついた。


「大丈夫か?」


 心配した父が語り掛ける。


「うん……大丈夫。…お母さんは?」


「海の家まで水を買いに行ったよ」


「……!!それよりゴーグル!ゴーグルは……」


 とうとう見つけられなかった。私は気を失ってしまった自分を責めた。


「私がもっと早く追い付かなかったから……!」


“もっと早く”が私を苦しめる……。


「穂乃香」


 父は、悲しみの余り泣きじゃくる私にそっと声を掛けてきた。


「あのゴーグル……そんなに大切にしてくれてたんだな」


 嬉しそうにも、悲しそうにも見える顔をした父は、その大きな手で私の頭を撫でていった。


「あのゴーグルなら、心配いらない」


「え……」


「穂乃香!気付たのね」


 母が海の家から戻ってきたようだ。手にはペットボトルが2つ握られている。どちらも水のようだ。


「息継ぎをしないなんて、貴女は死ぬ気なの?」


「………」


 確かに迂闊だった。ゴーグルを探すのに必死すぎて、息継ぎを忘れるなんて。


「それにあの泳ぎは――」


「それぐらいにしておいてあげてくれ」


 父が私を庇うように口を挟む。だが、母に牽制された。


「貴方は黙ってて」


「………」


 「ともかく。また家に帰ったら特訓よ!」


「……はい」


 私は逆らう事も出来ずに、母の言う通りにしていく。


 いつもと同じ。


 私は母の、人形でしかないのか。


 父に、申し訳ない――。


 あれから数年、私は毎日を同じように過ごした。休みさえあれば、練習特訓と忙しく、休む暇はない。


 あの日も、練習の為にこの市営プールを訪れた。


 通いなれたプール、母のいないこの空間でのんびりとタイムを気にせず泳げる時間に安らぎを覚え、なるべく暇な時間はここで過ごす事にしている。


 数年前に無くしたゴーグルの事は、未だに気にしていたけれど、あれからはただ特訓特訓で何も考えられなかった。学校も、スポーツ推薦で受かったし、何も気にする事はなかった。ただ、更衣室でゴーグルがないと再確認してしまうあの瞬間が何よりも辛い時間だった。


 その辛さを忘れるように、25mプールに入り、ゆったりと背泳ぎをする。その時だった。


「穂乃香は随分と泳ぎが上手くなったんだな……」


 いつも耳にする声を聞き、その方向を向くと、プールサイドに父が立っていた。


「お、お父さん…!」


「たまには僕も泳ごうと思ってね。それと……これ。遅くなったけど」


 父はそう言って、あの時と同じように、箱を差し出す。


 私はプールサイドに向かって泳ぎ、プールサイドにいる父から箱を受け取った。

 箱を開けてみると中身はゴーグルだった。私が好きな、青色のゴーグル。

 ふと前に無くしたゴーグルを思い出して、涙がこぼれそうになる。


「あ、ありがとう……」


「あれから海を探索したんだけどな、見つからなかったから、代わりに……代わりになるかどうかは分からないけれど。じゃあ、僕は流れるプールにでもいこうかな」


 少し光が射した父の顔は、とても嬉しそうに見えた。前に見た顔と全然違う。光を失っていた時と別人のようだ。

 父が居なくなり、箱を置いてきた上でゴーグルをつける。

 私が気にしていた事を、同じように気にしてくれていた父。


 頬に涙が流れるのを確認した私は、泣いているのに気付かれないよう、慌てて水中へ潜った。


 それでも涙は止まらず、ゴーグルの中にたまっていく。溜まった涙を流す為、一度プールから出て、プールサイドに座り、ゴーグルを取った。


 水面をみると、見事に鼻と目が赤い自分が映っている。


(あの日と同じ……!)


 急にあの日がフラッシュバックして、怖くなる。気を失う前の、あの悲しさと辛さ、息苦しさが戻ってくる。


(いや、あの日は過ぎたんだから……)


 私は気を紛らすように、水中へ入ろうとする。その瞬間だった。


 バシャアアンという凄い音と共に、水が吹き上げ、私の周りに壁を作ったのだ。

 私は何が起きているのか分からず、ただそこに立ち尽くす。


 プールの底に足をつき、ただその空間に立つ私を見て、周りが騒ぎ出す。


 水の壁が徐々に降り、やがてプールは普通の状態へ戻っていった。私はどうしていいのか分からずそのまま水に身を任せる。


 異変に気付いた父が慌てて駆け寄って来て、放心状態の私を抱えて、温泉へと向かった。


 体が温まると共に、私はハッと我にかえる。


「あれ?私……」


「気にしなくていいよ」


 父が慰めるように言った。何度も、何度も。私を納得させるように。


 今思えばあれが、武器を作ってしまった瞬間だったんだ…………。


……という事で!


今回は、アクア・エメラルディ様が考えてくれた、“ゴーグル”が武器です!


但し、エピソードはいじらせて貰いました!ちょっと問題があったもので……アクア・エメラルディ様、すみませんm(_ _)m


さて、穂乃香はこれからどうやって過去を乗り越えるのか!それに対し月華はどう対応するのか!


そして二人(ノエルと緋威翔)は何処で何をしてるのか!?


次回もお楽しみに!

(`・ω・´)bグッチ

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