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blanket  作者: 璢音
第三章:戦い
30/139

温水と傷

今回でやっと予定していた子を出す事が出来ました!


ではではお楽しみください。

 紙に書いてある場所をもう一度確認する。


“○○町にある市営プールにて武器が発動するのを確認”


どうやら依頼はその市営プールから来たらしい。


ノエル「市営プール?」


 紙を覗き込んだノエルさんが疑問を洩らす。


ノエル「今の時期にプールに入る子が武器所持者って事?」


月華「まだ時期的にプールは早い気がするんだけど……?」


緋威翔「きっと温水プールなんでしょう。温水プールなら季節関係無く入れますから」


ノエル「それにしてもそこまでしてプールに入るなんて……よっぽど泳ぐのが好きなのね」


 それだったらどうして武器が出来てしまったんだろう。


 そう考えながら、私達は市営プールへと向かった。到着してまず見えたのは、プールが中にあるらしい建物と、その隣の焼却施設だった。


(……なんで焼却施設?)


緋威翔「さて、入りましょうか」


  自動ドアを通ると、目の前には受付があった。料金はチケット制になっているのか、受付の横には券売機がある。そして受付の奥はガラス張りになっており、先にあるプールが見えるようになっていた。


緋威翔「依頼を受けた者ですが」


 緋威翔さんが代表して受付にいる人に話しかける。


受付嬢「孤中様、鏡様、安代様ですね」


緋威翔「そうです」


受付嬢「では、こちらのエレベーターから三階に上がりましてすぐにございます会議室へどうぞ」


 どうやら話はそこでするらしい。私達は早速、エレベーターで三階に上がった。

 チン、という音と共にドアが開く。硝子張りになった窓からは、プール全体が見渡せるようになっていた。

 通路に出て直ぐ左側にあるドアの上に会議室と書いたプレートがある。私達は、一呼吸置いて、会議室のドアノブをゆっくりと回した。


「カチャン」


 何処にでもあるような、普通の会議室。机は四角になるように、椅子はその四角の外側に、入口向かって左の奥には巨大なスクリーンもある。学校の会議室と似ていて、何故か安心感を覚えた。

 並べられた椅子の一つに、人が座っている。私達が来たのを確認すると、椅子を勧めてくれた。お言葉に甘え、三人並んで席につく。


?「君たちが依頼受けてくれた子だね」


 私達の親くらいの年齢の、男の人だ。黒い髪は短くさっぱりしている。眼鏡のフレームは銀。灰色のスーツに身を包んでいる。この人が、依頼主の嘉吉さんだ。


月華「はい、そうです。……では早速話に入らさせて頂きます」


嘉吉「あぁ、進めてくれたまえ」


月華「この依頼で標的(ターゲット)となる人の特徴を教えてください」


嘉吉「あの子はここの常連さんだからね、詳しく言えるよ。まず、性別は女。身長は160位、髪をポニーテールにしているよ。雰囲気は……そうだね、大人しそうな感じだ」


緋威翔「今日も来ていますか?」


嘉吉「来たら連絡が来るようにはしているよ」


ノエル「じゃあ連絡を待つしかないわね」


月華「武器は一体何だったんですか?」


 武器化をした、という報告が来た位だから、誰かがそれを見ていたのだろう。だとしたら――。


嘉吉「武器か……急に凄い水飛沫が上がり、水飛沫が晴れた後その中心に居た子が驚いて立ちすくしていたという情報しかないからなぁ。だが、プールに居たくらいだ、泳ぐ時に身につけているもので間違いないよ。後の所持品は全てロッカーにある筈だからね」


 確かに、泳ぐ為に必要な物以外を持ち込んだ可能性は極めて低い。

 状況を聞く限りでは、その子は作為的にこの場所で武器化を行ったのではなく、偶然にここで武器化をしてしまっている。

 だとすれば、泳ぐ際に身につけているもの又は持ち込む物で間違いない。浮き輪か、或いは水着か、はたまたロッカーのカギか……?


ノエル「泳ぐ時に持っていくものならやっぱ浮き輪よね」


緋威翔「でも、仮にその人がかなり泳げる人だった場合、わざわざ泳ぐのに邪魔になる浮き輪を持ち込む必要はないですよ」


 言われてみればそうだ。その子はこの市営プールの常連だと言っていた。プールに通いつめる子が泳げない筈がない。


「コンコン」


 不意にドアをノックする音が響く。すると先程までの室内の雰囲気が一転し、はりつめた空気が支配する。


嘉吉「どうやら来たようだ」


 入室してきた女性から話を聞いた嘉吉さんが焦りの表情を浮かべ私達に言う。


ノエル「幾ら武器所持者でもそう簡単に武器化しないから、安心しなさいよ嘉吉さん。その子が偶然力を解放したのを聞くと尚更ね」


緋威翔「では、僕達もプールへ入りましょうか」


月華「え?」

ノエル「えっ?」


緋威翔「前回は、余り人気のない屋上だったのでそのまま行きましたが、今回は市営プールです。一般のお客さんもいますから」


ノエル「だからって急に言われても水着なんか持ってないわよ?」


嘉吉「それなら問題ない。下にある売店で水着を販売しているからね。君達には無料で提供するよ」


 ……それはいいのだけれど。二人の前で水着姿を披露するのには気が引ける。だが、今更引き返す事は出来ないので仕方ない。


 すぐさま私達は会議室を飛び出し、エレベーターで一階へ向かった。


 先程の受付の横を進み、売店へ向かう。そこで各自水着をもらい、更に奥にある更衣室へと向かった。


ノエル「あぁあ…こんな事になるなら前もって言って欲しかったわ……」


 何だかノエルさんの表情が暗い。心なしか、具合が悪そうにも見える。


月華「……大丈夫ですか?」


 心配して声を掛けると、ノエルさんは首を振って答えた。


ノエル「あんまり大丈夫じゃないわ。だって猫なんですもの……」


 猫は水があまり好きではない。その事だろうか。


月華「まさか……」


ノエル「そうよ、私は泳げないの」


 きっぱりと言い捨てるノエルさんに私も告げる。


月華「私も……泳ぎは苦手なんです」


 二人揃って金槌とは思ってもみなかったので急に不安になる。


 更衣室に着き、水着に(恥ずかしいので水着に関しては詳しく言わない)着替えプールへ向かう。


 平日だからか人は少ない方だとは思うが、それにしても人数が多い。流れるプールに身を任せる者、ウォータースライダーに乗る者、25mプールでひたすら泳ぐ者、浅い子供用プールで遊ぶ子供、それを見守る親、別途用意されたサウナや温泉に行く者……様々だ。


 水を浴び、いざプールへ足を入れる。温水プールな為水は生暖かい。


 流れるプールの入口付近で緋威翔さんが待っていたのを確認した私達は、緋威翔さんの元へ向かった。


緋威翔「さて、ここからは別れて武器所持者を探しましょうか」


ノエル「私は水に入りたくないのだけれど」


緋威翔「じゃあ、ノエルさんはサウナと温泉をあたってください」


月華「じゃあ私はウォータースライダーと25mプールを見てきます」


緋威翔「では流れるプールは僕ですね」


 それぞれの担当場所に分かれ、武器所持者を探す。

 まず私はウォータースライダーに向かったが、そこには男子が集まっており、女子の姿はあまりない。一人一人見て確認するが、それらしき人は居なかった。


 続けて、25mプールへ向かう。だが、外から眺めているだけでは人が交差する為確認しづらいので仕方なく25mプールへ入った。


(皆泳ぐのが上手いなぁ……)


 イルカみたいに泳ぐ人や、豪快に泳ぐ人。色んな人がいるが、中でも魚のように、軽く、早く泳ぐ1人の人に目がいく。


25mを泳ぎきり、一旦水から出てくる所を確認すると、その人が女性だという事が分かった。


 更に、髪はポニーテールにしている。さっき嘉吉さんがいっていた子と一致している。私は確認の為その子に近付いた。


月華「あのぉ……」


 その子は振り向き、自分の事かと聞くように指先を自分へ向けた。私はそれを見て頷く。


?「何か用ですか?」


月華「お話したい事があるんですけど……」


 そう言った後でハッ、と気付く。いきなり話しかけて来た人に警戒心を抱く人が多いことに。言ってしまった事は変えられないので、何とか話題を作ろうと必死に言葉を探す。


月華「あっ、あのっ!どうやったらあんなに上手く泳げるんですかっ!?」


 急な態度の変化に驚いているようだったが、その子は話を続けてくれた。


?「ねぇ、キミ、名前は?私は多義(たぎ) 穂乃香(ほのか)っていうの」


月華「あっ、えっと、私は鏡 月華っていいます!」


 慌てて自己紹介をする私に、彼女……多義さんは笑ってみせた。


穂乃香「そんなに固くならないで。月華ちゃんは私と同じくらいの歳なんだから。私の事も、穂乃香って呼んで」


 穂乃香さんは、柔らかな、優しい声で私に言った。その途端、緊張がほどけていったのが分かった。


月華「穂乃香…さん」


穂乃香「で、泳ぎのコツだったよね。えっとぉ……そうだなぁ、泳いでる自分をイメージする事かな」


月華「泳いでる、イメージ……」


 私が浮かべるイメージは、何故か人間の私ではなく、人魚姫のような半身魚が泳ぐイメージだった。優雅に、かつ緩やかに……。


穂乃香「そうだよ~。溺れるとか、そういう想像はしちゃ駄目。水が怖くなったらお仕舞いだから」


月華「水が、怖く……」


 今の時点で、私は水に対し余りいいイメージはない。そう思ってみれば、水が怖いという思いも何となく分かった。でも、穂乃香さんの言う通り、泳げる想像をしてみると、水はとても魅力的なものに感じる。


月華「穂乃香さんは、水を怖く感じた事はないの……?」


 以前、武器化した時の反動で、水が怖くなったりしなかったのだろうか。


穂乃香「この前、水に入ろうとしたら、急に激しい水飛沫が上がってね、ちょっと怖くなっちゃったんだけど、もう今は平気。それより……」


月華「その水飛沫、原因は分かっているの?」


穂乃香「あ、いや…分かってないんだけど…」


月華「それについても話したいと思っていたんだ……ちょっと、来てもらってもいい?」


 急に私の態度が変わり、驚く穂乃香さん。私は彼女を気にしながら一目の無い場所まで誘導した。


穂乃香「月華ちゃんは、あの水飛沫の原因を知っているの?」


月華「うん。あれは、非武装の武器の力が解放されたからなんだよ」


穂乃香「非武装の武器って……unarmed armの事?」


月華「そうだよ」


 非武装の武器について、知っているなら話が早いと思い、私はありとあらゆる情報を穂乃香さんへ伝えた。


穂乃香「ねぇ、一つ聞いて良い?」


 首を傾げる穂乃香さんの、髪の上に乗っているゴーグルが光を反射して輝く。


穂乃香「私の武器って、何なの?」


月華「!?」


 自覚症状が……ない?

 今まで関わった武器所持者は全員、どの道具が武器になったのかを知っていた。


 しかし、今目の前にいる穂乃香さんは自分の武器を知らない……?


月華「分からない……穂乃香さんの、大切な物か、思いでのある物。または……」


 私からは、それしか言えない。穂乃香さんの事をよく知らないから。せめて、これが武器を見つけるヒントになればいいのだけど……。


穂乃香「……そうだなぁ…うーん…水着、とかかなぁ」


 困った顔をしながら、穂乃香さんが候補をあげていく。


穂乃香「あ、このヘアゴムとか…?」


月華「武器は、負の感情が溜まると出来るの。何か、悩みとかがあれば、それが原因だと思う」


 すると、穂乃香さんが閃いたような顔をした。


穂乃香「それなら多分……この水泳についてだと思う」


 穂乃香さんが、少し寂しそうな顔をしながら指で腕をなぞる。そこには、数々の傷跡が残されていた――。


 よくみれば、それは腕だけに留まらず、足や首、更には顔にまである。この傷は、一体どこで――。


月華「無理そうなら、言わなくてもいいけれど……その、胸につかえている悩みの話を聞かせてくれないかな…?」


 今、負の感情が表に出ていない事から、暴走する可能性は低いと言える。ならば、武器を作ってしまった原因を取り除く事が先決だ。

 彼女は私に対し、明るく振る舞っているが、武器を作ってしまった以上、その心には深い闇が存在する。その闇に光を届けなくてはいけない。


穂乃香「……っ……月華ちゃん、会ったばかりの貴女にこんな話……していいの……?」


月華「勿論だよ。私はその為に――穂乃香さんの為に来たのだから」


穂乃香「有り難う……」


 先ほどの違う穂乃香さんの表情、言葉を聞き、私は確信した。彼女の深い闇の原因は、怒りではなく、悲しみだという事を。

※ちなみに、私は泳げません

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