ヘッドフォン
目の色が変わった少年は、こちらを見据えあるものを外した。それは彼のトレードマークのヘッドフォンだ。きっとあれが武器なのだろう。攻撃してきそうだったのでこちらも冷を待機させ相手の出方を待つ。だが、彼は攻撃してこなかった。一歩前へ進み、自らの記憶を語り始めたのである。
少年「俺は、この大切なヘッドフォンを壊された。これが俺にとってどんな物かを知っている奴にわざとな」
大切な物を壊された……それが、彼が武器を作り出してしまった理由なんだ……。
少年「君たちは、悲しみでその武器を作り上げたのだろう?でも、俺は違う。悲しみだけでなく、怒りも混ざっているんだ。ほら見ろよ。俺のこの変わりようを」
確かに、武器が発動した直後に彼は変わった。話し方も、性格も。元がどんな子だったのか分らない程に。彼の負のエネルギーは「悲しみ」だけでなく「怒り」もある。「悲しみ」が大切なものを武器化したように、その「怒り」が彼を変えてしまったのだろう。
緋威翔「少なくとも僕は」
緋威翔さんは少年をじっと見つめながら真剣な表情で話し始める。その声色は重く、暗い。過去に何があったのかというのも関係しているのだろうが、いつもの緋威翔さんとは明らかに違っていた。
緋威翔「悲しみだけで武器が生まれた訳じゃありませんよ。僕には悲しみの他に、“迷い”や“憎しみ”といった黒い感情も入っているでしょう」
少年を見ていた目はいつの間にか地面を見ていた。黒い感情という比喩のもとに何か心に重りをもっているようなそんな感じがした。屋上に流れる空気も重く、空にも淀んだ雲が現れ始める。湿っぽい風が吹き、埃のような匂いがあたりを包んだ。これは雨が降りそうだ。
先程まで強がっていた少年は、緋威翔さんの気迫に押され少したじろぐ。
少年「……」
手に持ったヘッドフォンが、手の震えと共に僅かに揺れる。少年はそれをまた、頭に付け直した。壊れている為、音は流れないというのに。
少年「聞こえるのは雑音だけさ。でも、こいつのお陰で何も聞かずに済む。うざい奴らの会話も、両親の説教も」
心を閉ざした少年は、曇り空を見上げ、ぽつりと言葉を紡いだ。
少年「もう、友達も両親も何もかも要らねぇんだよ」
吐き捨てた言葉は、降り始めた雨の音でかき消された。
少年「味わってみるか?俺と同じ雑音を」
緋威翔「良いでしょう、共有により君の心の闇に少しでも光が射すのなら」
月華「私達は君を救う為に来たんです、君の苦しみは私達の苦しみ、全て吐き出して楽になって……!」
私達に出来る事、それは彼の思いを聞き少しでも楽にしてあげる事。私は私の仕事を全うする。
少年「“雑音”」
少年の声と共に、私達の頭の中にザーという音が流れ込む。そんな中で私は彼の過去を垣間見る事になる。
はてさて、カイン組は何処へ行った(゜Д゜≡゜Д゜)?
まぁそれは後に明かします。
次の話はヘッドフォン君の過去、彼が武器を作ってしまった理由の話です。




