任務開始
任務へ向かうチームが決まった事で、私達に仕事が割り振られた。先生からチームのリーダーに紙を手渡されている。これに行き先が書かれているらしい。全チームに紙を渡している事から、どうやらチーム毎に行き先が違うようだ。
璢夷「……イギリス?」
聖夜「うわ、何この国。知らない」
反応を見ると外国へ任務に向かうチームもいるみたいだった。
私達の班は、カインさんがリーダーなので、任務の詳細はカインさんから聞く形になる。カインさんは先生から紙を受けとると、私達の居る机まで来てから四つ折りになっている紙を広げた。
そこには大きな字で“日本”と書かれていた。私達の今回の任務はここ、日本らしい。
セイラ「この情報以外分からないの?」
ケイン「みたいだな」
緋威翔「情報が少なすぎますね……」
確かに、範囲が広すぎるのもあるし、私達はまだ実戦不足。例え目の前に標的が居たとしても、武器をこの目で確認するまで分からないと思う。
先生「一同、静粛にっ!」
いきなり先生が大声で叫んだ。皆のざわつきよりもかなり大きな声なので、先生の方が煩いじゃないかとも思ったが、今から重要な話をしそうだったので耐えた。
先生「今からチームに一つ、この機械を渡す」
先生の手には、携帯のようなものが乗っていた。あれにどんな機能があるのだろうか?
先生「これは、ある一定値以上の負の感情を感知すると、その感情を持った人の場所を映し出す事が出来る機械だ。勿論、マップもちゃんとついているぞ」
つまり、追跡型の機械という事だね。と私は納得し、それと同時に「一定値以上」の言葉が気になってしまった。
私が考え事をしている間にチームのリーダーが追跡機を受けとる。そして、先生の一言「任務開始」にて、殆どの皆は教室を後にした。外国班は外国に行かなければならないからだ。
一方私達日本班は、その追跡型機械を囲み、話し合いをし始める。
カイン「さて、どうしましょうか」
ケイン「取り敢えず、レーダーには今の所何も映ってないな」
携帯の画面には、マップだけが映し出されており、その他はうんともすんとも反応を示さなかった。
セイラ「でもここに暴走している人が居るんだよね?」
緋威翔「えぇ、そうだと思います。反応を示さないのは武器の所持者の感情が安定しているからでしょう」
今、もし武器の所持者が負の感情を何かしらの形で抱え込んでいるとしたらこの追跡型機械に反応があるはず。……とすれば、大いに納得出来る。
感情が安定しているならば、それはそれで平和で良いのだけれど……。
先生「実際今回マークしているのは、この前とある学校で起きた事件に関わった子だからな。それ以外は今は反応しない」
日本は、お国柄故に武器の所持者が沢山居るとこの前ニュースでやっていた。全国に網をはっているならば、反応しないのはおかしい。今の先生の一言でこの機械には武器の所持者データを入れないと反応しない事が分かった。
月華「反応が出るまで私たちは何をすればいいでしょうか?」
先生「待機だな、多分。」
先生も意外だったらしく、おかしいな……とでもいうように首を捻っている。暴走しているというならもう武器化は行っている筈なのに反応がないとは……驚きだ。
カイン「でもこの現象には何らかの原因があるんですよね?」
先生「そうだな、反応しないということは、武器化したまま安定しているということだ。丁度お前たちのようにな」
私たちは自分で制御をおこなえるようになっている為、武器は暴走しない。その原理でいえば、恐らくこの武器所持者もちゃんと武器を制御しているのだろう。
月華「所持者がこのまま安定を続ければ、私たちは何もしなくて済むんですか?」
先生「そうとはいかない。その所持者がどんな武器・能力なのかというデータを完璧にこちらが把握していないといけないからな。お前たちも入学当初にどんな武器なのかを書いてもらったりしただろう?」
そういえばここへ入学が決まった時、よくわからない紙を書かされたっけ。あれに確か武器のデータとかの欄もあったような……。それで学校は暴走してもちゃんと対応出来るようになっているんだ。成程。
その時、不意に携帯のバイブ音が鳴った。
カイン「まさか!?」
先生「そのまさかみたいだな」
とうとう起きてしまった……!武器の暴走が。一体何が原因で暴走してしまったのかは知らないが、相当な理由があることはわかる。私たちも同じ、武器所持者だからだ。
セイラ「場所は?」
カイン「私が案内しましょう、ついてきてください」
先生「気をつけろよ。相手はどんな武器なのか、どんな能力を持っているのかわからないからな?」
全員「はい!」
カインさんが先頭に立ち、私たちはカインさんについていく。学校を抜け、最寄の駅まで走った。
カイン「……移動手段が少なすぎますね……」
私たちの中には移動型の武器所持者がいない(といってもどのチームにも移動型の武器所持者は居ないが)もし移動型の武器を所持している人が居れば、もっと早く暴走を止められる。
だが武器所持者もどんな武器が生まれ、どんな能力を持っているのかは自身の目で確認するまでは分からないのだ。つまり、今武器の形状や能力を分かっているのは過去に一度以上自分の武器を見ている証拠になる。
カイン「近くなって来ましたね」
電車の中で追跡型機械の画面を見つめながら、カインさんが呟いた。急行に乗っている為か、景色が流れるのが兎に角早い。住宅も、木々も、車もサッと過ぎてゆく。
月華「……これ、何所へ向ってるんですか?」
カイン「終点まで、ですよ」
それから暫くして、終点というアナウンスが入った。とうとうクラスメイト以外の武器所持者とご対面だ。一体どんな人が待ち構えているのだろうか。できれば、話し合いで決着をつけ、平和的に任務を終わらせたいと願った。でもそれは、私がまだ甘いのかもしれない。もし、話し合いで解決しない場合は、実力行使……悲しいけど、致し方ない。
終点に着き、私たちは一斉に駅へ降りた。都会の雰囲気とマッチした人の流れが私たちを離そうとしてくる。人の流れに流されないように必至に抵抗するが、私だけどんどん皆から離れていく。
カイン「月華さん!」
ケイン「大丈夫か!?」
緋威翔「月華さんだけ行動させるのはまずいですね。彼女は守りに徹したタイプですから……。」
そんな声が聞こえたと思ったら、私のすぐ横にいつの間にか緋威翔さんが現れていた。どうやら人ごみをかき分け私のところに来てくれたらしい。そこまでしてくれるのはありがたいが、同時に申し訳なくなった。
月華「すみません!」
緋威翔「これであの時と同じ状況ですね。二手に分かれて行動すれば早く見つかるでしょう。……ただ、こちらにはあの機械がありませんが」
月華「そうですね……」
重要な機械はリーダーであるカインさんが持っている為、二手で探すのであれば、私たちは機械無しで探さねばならない。
緋威翔「……まぁ、気長に探すとしましょう。派手に暴れていれば、こちらでも状況は掴めるでしょうし」
私たちは取り敢えず、前に事件が起きた学校へ向かう事にした。そこに居る可能性が一番高いと思ったからだ。
目の前に広がる校舎。私たちの居る学校と違い、“普通”の学校だと思うと、なんだか羨ましい。だが、ここでも武器化が起こってしまっていると知れば話は別だ。
緋威翔「……」
緋威翔さんも同じような事を考えているのだろうか。心なしか、表情が暗い。空を見上げ、太陽光が眩しいのか、手で遠くを見るような姿勢をとっている。少したつと彼は頷いた。
緋威翔「居ました」
それはあまりに唐突な言葉だった。彼は空を眺めていたのではないらしい。どうやら屋上にぽつんといる(といっても、私には確認できないが)人影を見ていたようだ。
緋威翔「さぁ、急いで屋上に行きましょう!」
レーダーを持ったカインさん達よりも先に見つけるなんて思っていなかった私は心底焦った。まだ心の準備ができていない。いざ戦うとなったら私は……そうも考えてはいられない。私は緋威翔さんと共に校舎内へ向い、階段を駆け上がった。
ガランとした屋上に、ぽつんと立っている1人の少年の姿があった。歳は私達と同じ位だ。少年は、この屋上から下を見下ろすような形で立っていた。まだ私達が居ることに気が付いてないらしい。
緋威翔「……少し様子を見ましょうか」
見たところ、暴走している感じはしない。むしろ、落ち着いている。
男の子としては少し長めの黒髪で、身長は私より少し大きい位、首にはヘッドフォンをぶら下げており、パーカーを着ている。何とも現代の子らしい姿だ。
あんな大人しそうな子が暴走を……。
少年「…………」
少年が振り返り、私達の居る方向を見た。私達が居ることに気が付いたのだろうか?
少年「其処に居るの……誰?」
ゆっくりと話す少年。まるで怯えているかの様な震えた声で問う。私は隠れていた事等忘れ、少年の前に出た。
月華「鏡月華。驚かせてしまったなら、ごめんなさい。でも……」
少年「……あっちに行って。今は人に会いたくないんだ……」
緋威翔「……それは出来ませんね」
少年「!?」
緋威翔「君は、僕達と同じ武器を所持している。君が武器を制御出来るなら、簡単に事は済むのですが……」
月華「暴走してしまうなら、私達が止めなければならないんです」
少年は黙って俯いている。過去を振り返るようなその姿に、私は違和感を覚えた。
……この子……。
少年「暴走って、さっきのアレの事かな?」
少年の目が、変わった。
今回の標的は、Manaryさんの考えて下さった「ヘッドフォン」を武器とする男の子です。
Manaryさん、考えて下さり有り難う御座いました。
アイデアの方はまだまだ募集しておりますので、良かったら私の活動報告に書いてある注意事項を見てから、応募を行って下さい。
スレにコメでもメッセでも大丈夫ですので!
では、次回をお楽しみに。




