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blanket  作者: 璢音
再び戦いへ
117/139

重み

「大半の人はイメージが浮かぶだろうが、まずはこれを見てくれ。」


 差し出した分厚い本には、武器を持ち戦う人の姿が描かれている挿絵があった。

 敵陣へと剣を携え突き進む人、盾でその身を守る人、槍でその隙を突く人。後方には弓を持った人などもいる。ページを捲れば銃や戦車といった武器も現れ始めた。どの挿絵でも、必ず犠牲者も一緒に描かれている。


 私たちが直接現場を見ている訳ではないのに、想像してしまい背筋がゾッとした。

 死と隣り合わせの戦場。一体この人たちはどんな事を考え、思い戦っていたのだろうか。


 一つ気になった事がある。戦いをしているその場に、魔法を使う者の姿は見当たらなかったのだ。


「魔法を使う人、いなかった訳ではないよね?」

「前線には出てこなかっただけじゃない?」

「この地域では魔法は認知されていないのかもしれないな。」

「占い師らしき挿絵はありますね。」

「鍛冶屋なんかもそうっぽい描写があるね。ほらここの光。」

「他にも聖女として崇められている人が・・・奇跡を起こしたと記載されているのも、魔法を使ったから・・・?」


 様々な意見が交差し合う。どの意見も的を得ていて、それが事実ではないかと考えてしまう程だ。


「あ。これ気になる。鮮血の主だってさ。」


 クラスメイトの大半が武器について詳しく書かれている本を囲んでいる中、聖夜さんは一人違う本を見ていたようだ。彼が放つ言葉の一部分に、過剰に反応してしまう。

 慌てて聖夜さんの方を見ると、赤い表紙に金の装飾が施された豪華な本が威厳を放っていた。彼が見ていたのはどうやらこの本のようだ。


「鮮血の・・・主って大層な名前だよね。どんな人物なの?」

「普段は穏やかなのに一度変わればその身に延々と鮮血を浴び続ける恐怖の王、その王が従えるのは・・・ページが古びていてその先は読めないね。何だ、普段から戦闘狂って訳ではないのか。残念。」


 その一文を読んで興味を無くしてしまったのか、聖夜さんがため息をつきながらその本を手放した。そのタイミングを逃さずに近づいて、その本を受け取って眺める。

 彼が言う通り、とても古い本なのかところどころ読む事が出来ない。文字も今とは随分と違っていて、辛うじて意味が分かる程度だった。

 鮮血の主はどうやら強大な力を所有していたらしい。鮮血の主自身も刀剣を扱う事に優れていたようだが、真の怖さはそこではなかったそうだ。従えている者もまた、大きな力を持っており脅威となっていた事が記されている。

 小さな挿絵もある事にはあったのだが、ただただ赤いだけで何が描かれているのかまでは分からなかった。


「強大な力って言えばさ、あれだよな。アレ。えーっと何だっけか・・・神の鳥じゃなくて・・・。」

「二つ名のついた翼では?」

「そうそうそれ!大きな翼っていう絵本、確かあったよな。」

「図書室にも図書館にもある、有名な絵本だな。」

「二つ名?そんな大層なモンがついとるんか?」

「えぇ。基本的には翼の色がそのままついているはずですが、中には通り名がある翼もいます。例にあげるとするなら、不可視の翼、鮮血の翼、氷結の翼などですね。」


 鮮血の翼。その言葉が頭の中へ響くと同時に、ヒイトさんの事が浮かんだ。

 さっきから一つ一つの言葉に反応してしまうのは、きっとそれが原因だ。


「鮮血の翼、ですか。その名に聞き覚えがありますね。」

「この翼が王様の可能性もありますよ。」

「決して乾くことのない翼・・・怖い、です。」

「思い出しました、夢の中で僕がそう言われているからですね。」

「はっ!?緋威翔が?」


 私までその発言に驚き、持っていた本を落としてしまった。

 本は私が呆然としている間に他の人が受け取ってくれたようで、足に当たったりはしていない。


 緋威翔さんは、あの翼さんとの繋がりがあるようだ。私とイア姫が繋がっているように・・・。


 動揺したのは私だけではなかった。ケインさんを始め多くの人が驚いている。

 どう考えても、今の彼からは全く想像できない。凶悪な人物として記されている事自体が嘘ではないかと疑ってしまうほどには。


「緋威翔が鮮血の翼とか、想像が出来ないな。」


 周りがうんうんと頷いた。

 緋威翔さんは周りの反応を気にする事なく、いつも通りの表情で本に目を落としている。


「不可視の翼はその名の通り、見えない翼だ。大きな翼の話の元となった翼だとも言われているな。」


 璢夷さんの言葉に沙灑さんが頷く。どうやら彼もまた、不可視の翼に詳しいみたい。


「氷結の翼って、確か片方ずつじゃなかった?」

「・・・栞さんの仰る通りです。氷結のみ、片翼となっていますね。」

「なんでその翼だけ片方なんだろうな?」

「その情報は開示されていませんね。翼に関しては口頭で広まった噂じみたもの、そして翼を使役していた者、或は翼自身・翼の関係者が書き記したものがありますが、私達が確認できるのは前者だけですから。」


 氷椏さんが他の本に目を通しながら呟いた。


「魔法を使う人がいたとはいえ、その情報は一部の上級層しか知らなかった。いや、その位でも知らない人もいたかもしれないな。そんな中、魔法を使える者達はその力を振るったのさ。」

「そりゃそうだろうね。翼とかに一般の人が勝てる訳ないし。」

「そうして魔法の存在、翼の存在を知る者が現れ始めた。力こそがこの世界を動かすものだと思い込んだ人達が挙って力を求め、魔法に挑んだ。習得しようとする者、対抗する別の手段を考える者・・・。」

「翼の中には平和を求めるだっていた筈よ。その力を狙う人が現れたということは。」


 その言葉にハッとする。頭に浮かんだのは、おおきなつばさの内容だ。

 無理に翼を捕まえ力を奪ったり、使役したりする人が現れたり、その力を恐れた人達に毒殺されてしまったり・・・他にも同じようなケースが起きていたのかもしれない。


「力を持つ翼の価値は相当上がっただろうね。力として、そして権力の象徴として。欲しがる人は多そうだ。」

「すみません先生。一つ聞いても宜しいですか?力を持っていた筈の翼が王様にならなったのは何故なのです?」

「何故だろうな。その力を他の人に隠していたか、使役されていたからじゃないか?」


 先生にセイラさんが質問をするも、先生にもどうやら分からないらしかった。

 すると、スッと横に居た人の手が上がる。その動作と同時にジャラリと鎖の動く音がした。


「・・・その質問には、僕が答えましょう。翼には契約者がいる者とフリーの者がいるんです。」

「それを知ってるって事は、夢での事は本当なんだね。だとしたら僕もやっぱりそうなのか。」


 手を挙げたのは、言うまでもなく緋威翔さんだ。意見に賛同し困ったように笑ったのは、紫綺さんだった。二人は他の人に比べて翼に対しての知識があるようで・・・さっきの氷椏さんの言葉からして、二人は夢の中、つまりは前世で翼だった可能性が高い。


「フリーでいる事は可能ですが、そうすると力がやや落ちる他、寿命もまた縮むんです。その身に力を溜め込んでいる分、体が壊れるのが早いんですよ。だから契約する必要がある。」

「そうそう。契約する理由は様々だけど、自分が認めた主に忠誠を誓うのが一般的かな。後は・・・別にそこまで言う必要はないか。」

「は・・・?何だよそれ。だとしたら俺は?だからなのか?いや、そんな筈は・・・。」

「静さん?顔色が悪いですよ?どうかされましたか?」

「輝生は保健室行って来い。本当に顔色が悪い。何か嫌な事を思い出したようだな。一回落ち着いてから戻ってくるといい。」

「じゃあ私が連れていくわね~。ほら、静ちゃん行きましょう。」


 璢娘さんに連れられて静さんが教室を後にしていく。その姿は今まで見た中で一番弱弱しかった。あまりの変化に頭が追い付かず、ただただ心配になる。

 皆して、何かを抱えている。

 私も、彼も、彼女も。もしかしたら、先生も・・・。


「話がだいぶ逸れたな・・・。俺が言いたかったのはな、今は大魔法のおかげで刃物や一般の毒薬などに人を殺す能力はない。だが非武装の武器から生成されたものや、非武装の武器自体には魔法の効果が及んでいないんだ。お前たちは、簡単に人を殺せる力を持っているんだ。」


 しん、と静まり返った教室に、ごくりという音が響く。

 知ってはいたけれど、そこまで深刻に考えた事はない。私も彼らも。


「だから、命の重みを知っていてほしい。昔は今よりも命は軽く扱われていた。先生はそれが間違っていると思ってる。今も昔も、重さは一緒だ。多少傷付ける事はあっても・・・間違っても、人を殺すような真似はしないでくれ。それがとんでもない悪者だとしても・・・目の前にいるのは、俺達と同じ、人なのだから。」

「そんな怖いこと言わないでよ先生。俺らがそんな事する筈が。」


 先生を安心させようと、心配そうな声で紫綺さんや真希さんが話掛ける。

 その姿を見ていた聖夜さんが呆れたように溜息を吐いて、言葉を紡いだ。


「無いとは言い切れないんじゃないの?よく物語にはある展開じゃないのかい?」


 淡々と、彼はそう言った。冗談で言っているようには聞こえない。


「そういうのは今言うことじゃないよね。俺達がするべき事は、この武器の力で困っている人達を助けること。」

「じゃあ、武器所持者が能力の制御が出来なくて暴走したら?大人しくさせる方が、壊すよりも大変なんだよ?」


 私は聖夜さんに反論しようとして、彼の顔を見つめる。目を見て、はっきりと言葉を掛けるつもりだったのだ。なのに。彼を見た途端にその言葉は喉の奥に吸い込まれていってしまった。


 彼の表情があまりにも冷たくて。

 海の底に沈んでいくかのような、底知れぬ怖さがそこにはあった。


 もしかして、彼は既に。

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