二人の約束
短編です
高校卒業の日、私と幼馴染は、小さな約束をした。
十年後、お互いがどう過ごしていようと、子供のころからよく遊んでいた、この公園の桜の木の前でまた会おう、と。まだ寒さの残る三月の中旬、私たちはそう約束をして、別れたんだ。
私は大学に進学して、資格を取ったけど、取った資格や勉強した内容とはあまり関係ない会社に就職した。資格はあくまで履歴書を埋めるためのもの、という暗黙の了解が学校内に漂っていたし、私もそれでよいと思っていた。
かたや、SNS上では、彼女の華々しい生活が目についた。
彼女は、高校卒業と同時に単身アメリカに突撃した。英語の成績、私より低かったくせに、将来は向こうで生活するんだ、と言って、本当に行ってしまった。私だって、もう少し英語の成績が良ければアメリカに行って勉強してみたいと思っていた。彼女のように、まったく喋れもしない、文法もめちゃくちゃのまま、海外に飛び込む勇気はなかった。
でも彼女は、持ち前の人懐っこさで、何とか向こうで生活が続けられているようだった。愚痴みたいなつぶやきでさえも少しだけ妬ましいような気持が湧いて、SNSを拓く頻度は減って行った。
卒業してすぐの頃はメッセージアプリで頻繁にやり取りをして、海外の生活について根掘り葉掘り聞いていたけど、だんだん鼻につくような気がして、なんとなく私の方から連絡するのも億劫になって行った。
伴って彼女も私も大学の卒論や就職などでなんだかんだと忙しくなっていって、社会人の今では、まったく連絡を取らなくなってしまった。
でも、なんとなく、あの日の約束だけは忘れられなくて、毎年あの日が来るとあの約束を思い出していた。
カレンダーを確認して、一応、確認のためだから、と言い聞かせて、あの公園へ足を運んだ。
まだ蕾の桜の木の下に彼女は居なかった。いや、なんとなくわかっていた。どうせ来ないだろうなって。
高校を卒業して、私も変わった。学生の頃は、それなりに夢もあったし、なんとなく楽しい未来が来ることを想像するだけでワクワクとしていたのに、仕事に忙殺される私は、休みの日にどこかに出かけるくらいなら、引きこもって録画したドラマを観て一日をつぶすような生活が続いていた。社会人になってお金を稼いで、自分から彼女に会いにアメリカに行ってやろうなんて、思っていた時もあったなぁ。
きっと彼女も、まったく違う文化に触れて変わってしまったんだろう。あんな子供の口約束を未だに覚えているなんて、あり得ない。十年もたって、変わらない人なんて、きっといないはずだ。
寒さに震えてもう帰ろうかと視線をずらすと、人気の少ない公園のベンチの下に、小さなぬいぐるみが落ちていた。子供向けアニメのキャラクターのぬいぐるみ。でも周囲に子供の姿は無い。
「砂とかついちゃってる・・・」
と拾い上げると、後ろから声がした。
「あ、そのぬいぐるみ」
振り返ると、幼馴染がいた。
「あ・・・」
「・・・拾ってくれたんだ。相変わらず優しいね」
幼馴染はあの頃と変わらない顔で笑った。
「おーい!あったよ~!!」
幼馴染がどこかに手を振ると、少し離れた場所から、小さな女の子が走ってきた。私の持っているぬいぐるみを見ると、泣きはらした顔で満面の笑みを見せてくれた。
「このお姉ちゃんが拾ってくれたんだよ」
「お姉ちゃん、ありがとう」
「見つかって良かったね」
女の子はぬいぐるみを持って、母親の元に駆けて行った。
「・・・・久しぶり」
「久しぶり!」
「相変わらず、優しいね」
「そっちこそ、変わらないね、人助け」
「今日の約束さ、時間決めてなかったの思い出してさ、慌てて来たら、あの子が泣いてたからさ・・・」
「思った。時間、決めてないじゃんって」
「馬鹿だね~私達」
「じゃぁ、次の時は、時間も決めとこう」
「ん、そうしよう」
あの頃と変わらない、他愛ない時間。
——きっと次も変わらない——
変わる時間の中の変わらない一瞬




