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第三話 師匠、弟子と再会

王都の大通りの真ん中で、俺とエリオットはしばらくの間お互いの顔を見ていた。

何年ぶりだろうか。いや、何十年ぶりと言った方が正しいかもしれない。道場を出てからのこいつの姿を直接見るのは、それくらい久しぶりだった。

目の前に立っている男は、昔の少年の面影をわずかに残してはいるものの、全体の雰囲気はすっかり大人のそれになっていた。細身の体格に長い外套を羽織り、整えられた髪と丸眼鏡の奥の冷静そうな目つきは、いかにも学者か研究者のような印象を与える。

昔のエリオットはもう少し落ち着きのない子どもだった気がするが、どうやら立場が人を変えるらしい。


「久しぶりだな」


俺がそう言うと、エリオットは一瞬だけ固まったように見えた。

次の瞬間、慌てた様子で姿勢を正し、深く頭を下げる。


「お、お久しぶりです、師匠」


その動きはあまりにも急だったので、近くを歩いていた人たちが思わず足を止めた。

王都の大通りの真ん中で、外套を着た大人の男が深々と頭を下げているのだから、無理もない。


「そんなに堅苦しくしなくていい」


俺は苦笑しながら言う。


「昔と同じでいいだろ」

「いえ、そういうわけにはいきません」


エリオットは顔を上げたが、どこか緊張している様子だった。

横を見ると、レオンが小さく息をついている。

どうやらこの光景には慣れているらしい。


「しかし……」


エリオットは俺をまじまじと見た。

その視線は、まるで信じられないものを見るかのようだった。


「本当に師匠なんですね」

「なんだそれは」

「いえ、レオンから話は聞いていましたが……まさか本当に王都へいらっしゃるとは思っていなかったもので」


王都の通りは相変わらず騒がしかったが、俺たちの周りだけ少し妙な空気になっている気がした。

通りがかりの人たちが、ちらちらとこちらを見ている。

まあ、そりゃそうか。

王国騎士団長と、王立学院の教官が道端で立ち話をしていれば、目立たないわけがない。


「それで」


俺は肩をすくめる。


「エリオット、お前は今何してるんだ?」


昔の記憶では、こいつは剣の理屈を考えるのが好きなやつだった。稽古の合間にも、やたらと動きの理論を考えていたのを覚えている。

エリオットは少し照れくさそうに眼鏡を直した。


「王立学院で教官をしています」

「へえ」


俺は思わず感心した。

王立学院といえば、王国の中でもかなり格式の高い教育機関だ。騎士や魔術師の候補生が通う場所で、そこに関わるにはそれなりの実力と実績が必要なはずだ。


「お前が教官か」

「まだ未熟ですが」


エリオットはそう言いながらも、どこか誇らしそうに見えた。

昔から努力家だったやつだし、そういう場所にいるのも納得ではある。

その時だった。


「エリオット先生?」


後ろから声がした。

振り向くと、若い男がこちらへ駆け寄ってきている。制服らしき服を着ているところを見ると、どうやら学院の学生らしい。


「こんなところで何を……」


男はそこまで言って、俺の方を見た。

そして首をかしげる。


「その方は?」


エリオットは一瞬だけ黙った。

それから、ゆっくりと俺の方を振り返る。

その表情には、少しだけ誇らしそうな色が浮かんでいた。


「私の師匠です」

「……え?」


学生は目を瞬かせる。


「師匠って……剣のですか?」

「そうです」


エリオットは迷いなく言った。


「私が今こうして剣を教えているのは、すべてこの方に教わったからです」


学生は俺とエリオットを交互に見た。

どうやら頭の中で状況を整理しようとしているらしい。

俺は思わず苦笑した。


「そんな大げさなもんじゃない」

「ただ昔、ちょっと剣を教えてただけだ」


しかしエリオットは首を振った。


「いいえ」


その言葉には、はっきりとした確信が込められていた。


「私たちは皆、師匠に育てられました」


その声を聞きながら、俺は少しだけ懐かしい気持ちになる。

昔、道場に集まっていた八人の子どもたちの姿が、ふと頭の中に浮かんだからだ。

エリオットは少し嬉しそうな表情のまま、こちらを見ていた。


「もしよろしければ、学院へいらっしゃいませんか」

「学院?」

「王立学院です」


エリオットは少し身を乗り出すようにして続ける。


「ぜひ師匠に見ていただきたいものがあります。今、学院では剣術の講義も受け持っていまして、学生たちの稽古の様子も……」


そこまで聞いたところで、俺は横にいるレオンの方をちらりと見た。

王都に来たばかりで、俺にはまだここでの予定というものがよく分かっていない。勝手にどこかへ行っていいものなのかも、正直なところ判断がつかなかった。


「レオン」

「はい」

「こういうのって勝手に動いて大丈夫なのか?」


俺がそう聞くと、レオンは少しだけ考えるように視線を上げ、それから落ち着いた声で答えた。


「問題ありません」

「王との謁見は十日後です」


その言葉を聞いて、俺は思わず眉を上げる。


「まだそんなに先なのか」

「はい」


レオンは静かに続ける。


「それまでは特に決まった予定はありませんので、師匠のご自由になさっていただいて構いません」


どうやら、本当に時間はあるらしい。

俺は少しだけ考えた。

王立学院なんて場所は、昔ちらっと見たことがある程度で、正直なところあまり縁のある場所じゃない。ただ、久しぶりに会った弟子がわざわざ誘ってくれているのに、断るのも少し気が引ける。

それに、エリオットが今どんなことをしているのかも、少しだけ興味はあった。


「まあ……」


俺は肩をすくめる。


「十日もあるなら、少しくらい寄ってみてもいいか」


その言葉を聞いた瞬間、エリオットの表情がぱっと明るくなった。


「本当ですか、師匠」

「ただし少しだけだ」


俺は念を押すように言う。


「人の多い場所はあまり好きじゃないんだ」

「承知しています」


エリオットはすぐに頷いた。

その様子を横で見ていたレオンが、小さく笑っている。

どうやら王都に着いたばかりだというのに、俺の予定はさっそく決まり始めているらしい。

こうして俺は――


王立学院へ向かうことになった。

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