第二十四話 師匠、命を受ける
玉座の前に立ったまま、俺は深く息を吸い、書類を両手で受け取った。紙の重みとその内容が、単なる形式的な書類ではないことを告げている。王は静かに玉座に座り直し、視線を俺に向けたまま、ゆっくりと口を開く。
「アルト・レイヴァル、君にはこの国の北部領地にて発生している一連の騒動を調査し、可能であれば鎮圧してもらいたい」
その言葉に、胸の奥で瞬間的に緊張が走ると同時に、心の片隅で「やっぱり王都は長居する場所ではない」と感じる自分に気づく。
表向きには冷静に頭を下げ、忠誠を示す言葉を口に出すが、心の奥では静かな道場で剣を振る日常のほうがどれほど心地よいかを思い、早く帰りたいという思いが浮かぶ。
「承知しました、陛下。全力を尽くします」
口に出す言葉は完璧に礼儀正しく、王への敬意を示している。
しかし、心の中では――いや、身体全体がその思いを感じている――
「できれば穏やかな村の道場に戻りたい」と願っていた。
広間の重厚な空気、玉座の王の鋭い視線、侍従たちの整然とした動作……どれも目の前で素晴らしい光景ではあるが、やはり俺の心は静かな剣道場に戻ることを求めている。
王は微かに微笑み、書類に目を落とす。その動作だけで、王都で長年国を統べてきた者の落ち着きと判断力を感じる。
「君の任務は単なる調査ではない。北部領地で報告されている騒動の背後には、単なる盗賊や反乱分子ではなく、より複雑で強力な力が絡んでいる可能性が高い。我々の情報では、数年前からその兆候はあったが、ここ数ヶ月で明確に動きが活発化している」
その説明を聞きながら、俺は心の中で任務の範囲と難易度を整理する。弟子たちのことを思うと、無理に戦闘を任せるわけにもいかないし、自分一人でできる限りのことをやらねばならない。しかし同時に、心の片隅で「早くルミナ村に戻って落ち着きたい」という思いが強くなるのも確かだった。
「状況は慎重であるゆえ、君の判断に全幅の信頼を置く。必要であれば、我が王都の兵や補助を派遣することも可能だ」
その言葉に、俺は頭を下げつつも、内心では「王都の兵に頼らず、できるだけ早く片をつけて帰りたい」と考える。広間の静けさと王の視線が、ある意味で重圧となりつつも、自分の覚悟をより鮮明にさせる。
侍従が書類を広げ、具体的な情報や地図、領地の状況、現在の治安報告を次々に示す。俺は指先でページをめくりながら、頭の中で戦略を組み立て、必要な物資や準備を考え始める。王都の広間で、こうして情報を一度に与えられることで、任務の全体像が少しずつ立体的に見えてくるが、それでも心の片隅では、あの静かな道場で剣を振るい、弟子たちと共に過ごす日々の方がどれほど心地よいかを想像し、早く戻りたいという感情が微かに膨らむ。
「……なるほど、陛下。詳細は理解しました。状況次第で迅速に行動します」
口から出た言葉は表向き冷静で、王の信頼に応えるものだ。しかし、胸の奥では、北部領地での任務が無事に終わり次第、すぐに村に戻り、落ち着いた稽古の日常に戻りたいと考えていた。王都の重厚な広間で威厳に包まれながらも、心の中で村の風景や、道場での弟子たちの笑顔が鮮明に浮かぶ。
王はゆっくりと頷き、静かに言った。
「よろしい。君の判断に任せるが、十分に注意して行動せよ。北部領地では予想外の事態も起こりうる」
その言葉を聞き、俺は深く頭を下げる。内心では、早くこの城から出て、穏やかな村の道場に戻りたいという思いを抑えつつ、しかし表向きは全力で任務に臨む姿勢を保ったまま、書類を抱え込み、戦略を頭の中で再度整理する。
「……承知しました、陛下。慎重かつ迅速に行動します」
言葉に力を込めつつも、心の奥では、静かな道場での稽古を夢想し、早く戻る日を心の支えにする自分がいた。王都の空気の重みと、王の視線の鋭さが、同時に自分の覚悟を固めるとともに、早く村に帰りたいという願望を強める不思議な感覚の中、俺は玉座前で静かに息を整えた。
侍従が書類をまとめ、王の前から一歩下がる。俺はそれを受け取り、胸の中で作戦の優先順位と、北部領地への移動手段、必要な準備物を思い浮かべつつ、同時に「できれば一刻も早く穏やかな村の道場に戻りたい」という願望を心の片隅に抱えたまま、玉座の前で静かに立ち続ける。
外の光が大広間の窓から差し込み、石造りの床に長く影を落とす。王都の空気の重みと、任務の重大さ、そして心の奥で静かに膨らむ郷愁が同時に俺の胸に広がり、表向きは冷静、心の奥は穏やかな村への帰還を望む複雑な心境を抱えつつ、アルト・レイヴァルの新たな戦いの幕が、静かに、しかし確実に開かれたのだった。




