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第二十三話 師匠、王と会う

大広間の扉を押し開けると、そこに広がる空間は想像していた以上に重厚で、威厳と静寂が入り混じった、まるで時間が緩やかに流れるような空気に満ちていた。

高くそびえる天井から吊るされた巨大なシャンデリアの光が石造りの床に反射し、淡く温かい光の輪を作っている。

その光は大理石の壁や彫刻が施された柱に柔らかく当たり、視界の隅々まで淡い輝きを届けるとともに、広間全体に静謐さと荘厳さをもたらしていた。微かに揺れるタペストリーが、かすかな風に合わせて動き、遠くの窓から差し込む光と混ざり合うことで、まるでこの広間だけが現実世界から切り離された空間のように感じられ、俺の胸に軽い緊張感が走る。


「其方がアルト・レイヴァル……か」


玉座に座る王は、低く落ち着いた声で名前を呼んだ。声の重みは空間全体に満ち渡り、石造りの床や高い天井に反響して、広間全体を震わせるかのように響いた。その声に、自然と背筋が伸び、胸の奥の緊張が一段と増す。俺はゆっくりと頭を下げ、礼をする。


「陛下」


王は深く頷き、視線を俺に向けたまま、玉座に座る姿勢ひとつで威厳と落ち着き、そして判断力を示す。威圧的ではなく、しかし揺るぎない存在感があり、自然と礼を重んじる心が身を引き締める。俺は目を逸らさず、玉座の前に立つ。


「噂は聞いておる……君が八傑の師匠であると」


その言葉に、胸の奥で微かな誇らしさと、同時に緊張が混ざった感覚を覚える。

師として育て上げた者たちの評判が、王の耳にも届いているのだという事実が、俺の心に静かだが確かな満足感を与えた。だが、決して驕る気持ちはなく、あくまで静かに、剣術師としての立場を意識しながら頭を下げる。


「……ありがとうございます。陛下。しかし、私はあくまで剣術師にすぎません。弟子たちの成果は、全て彼ら自身の努力の賜物です」


王はゆっくりと微笑み、両手を組んでこちらを見据えた。


「謙虚だな、アルトよ。しかし、その謙虚さこそ真の剣士の証である」


その言葉に、俺は胸の奥で静かに頷き、深く息を吸い込む。

玉座の上の王の姿は、噂で聞いた威厳や力強さとは異なり、深い知性と洞察力を備えた存在感を放ち、俺の胸に自然と緊張と覚悟を同時に刻み込んだ。


「さて、アルト。君をここに呼んだのは、ただ噂を確認するためではない」


王はゆっくりと視線を動かし、玉座の下に控える侍従に目で合図を送ると、改めて俺に向き直した。


「君には、我が国の未来に関わる重要な任務を託したい」


その言葉を耳にした瞬間、胸の奥で何かが跳ねるのを感じた。

任務……それは弟子たちのことを含め、王都や王国全体に影響を及ぼす重大な意味を持つに違いないという直感が、全身の神経を研ぎ澄ませる。俺は肩の力を一度抜き、深く息を吸い、覚悟を固めながら頭を下げる。


「承知しました、陛下。全力を尽くします」


その瞬間、口から出た言葉は礼儀正しく、王に対して完全に忠誠と覚悟を示していた。

のだが、心の奥底では――


(え?は?初対面の人にいきなり任務とかこの王終わってんだろ…早くルミナに帰りたいのに…)


大広間の重厚な空気と玉座の王の視線、侍従の存在、全てが悪い意味ではなく、むしろ威厳に満ちていて感心すべき光景ではあるのだが、しかし、静かに落ち着いた自分の道場で、剣の稽古に集中しているあの穏やかな時間に戻りたいという願望が、抑えきれずに心の端で囁くのを感じる。


王は満足そうに微笑み、玉座に座ったままゆっくりと身を起こした。

その動き一つで、王都の威厳と静けさ、そして王の落ち着きが、広間全体に伝わる。

俺は視線を逸らさずに、玉座の上の王から目を外さず、胸の中で決意を新たにする一方で、心の片隅では一刻も早くルミナ村に戻り、静かに剣を振るいたいという気持ちがくすぶっていた。


「よろしい。君の剣の腕と、弟子たちを育て上げた経験は、我が国にとって大きな力になるはずだ。私は君に全面的に信頼を置く」


その言葉に、俺の胸の奥で静かな熱が芽生えると同時に、頭の中では師匠としての誇りと、早く帰りたいという現実的な感覚が交錯する。ここでの一歩は、単なる王都訪問ではなく、これから始まる新たな任務、国の未来、そして弟子たちとの繋がりを確かめる重要な瞬間であることを全身で理解しながらも、やはり心の奥底では、自分の静かな道場に戻りたいという思いが消えることはなかった。


大広間の静寂の中、侍従が書類を持って近づき、王の指示で俺に手渡す。その重みと、紙に記された文字が意味する使命を考えながら、俺は剣を軽く握り直す。心の中で、弟子たちの顔、ルミナ村の道場での日々、そしてこれまでの修練の時間を思い返す。全てが、今この瞬間のためにあったのだと感じると同時に、早く穏やかな日常に戻りたいという気持ちも強くなる。


「あぁ…早く帰りたい」


俺は小さく呟き、肩の力をさらに抜き、覚悟を整える。王都での新しい物語が、静かに、しかし確実に動き始めたのを、全身で感じながら、俺は玉座の前に立ち続けた。表向きは冷静に任務を受け入れているが、心の奥では、早く村に帰って剣を振るう日々を思い描き、微かに安堵のため息をつきたくなる自分がいた。

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