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第二十話 師匠、魔剣士と戦う

「師匠ー!」


空き地の外から聞こえてきたその声は、さっきまでの静かな空気を一気に破るようにはっきりと響いたのだが、その声にはどこか焦りと期待が混ざっているようにも聞こえたため、思わず俺だけでなく、ガルドやダリウス、そしてフィリアまでもが同時にそちらの方へ視線を向けた。


少し離れた通りの方を見ると、こちらへ向かって走ってくる一人の人物の姿が見え、その長い髪が風を切るように揺れているのが遠目にも分かったのだが、その走り方には迷いがなく、まっすぐこの空き地を目指していることがはっきりと伝わってきた。


その姿を見たフィリアが小さく息をつく。


「……ミレイナですね」


その言葉を聞いたガルドが腕を組んだまま言う。


「来るとは思ってたが、やっぱり来たか」


ダリウスも苦笑しながら頷く。


「噂が広まるの早すぎません?」


俺は頭を軽くかきながら言う。


「俺は静かに王都に来たつもりなんだがな」


フィリアが肩をすくめる。


「八傑の人たちが何人も動いてますからね…むしろこれだけで済んでるのが不思議なくらいですよ」


そんなことを話している間にも、その人物――ミレイナはかなりの速さで空き地へ近づいてきており、普通の人間なら少し走っただけでも息が乱れる距離をほとんど呼吸も乱さずに走ってきているあたり、やはり王国でも有名な魔剣士部隊の隊長という立場は伊達ではないのだろうと改めて感じさせられた。


やがてミレイナは空き地の入口のところで足を止める。

そして周囲を一度ゆっくり見回した。

踏み荒らされた草。剣が叩きつけられた跡。

そして俺たちの姿。

その視線が最後に俺へ向いた瞬間、ミレイナの目が大きく見開かれた。


「……やっぱり」


小さく呟く。

そして次の瞬間。


「師匠!」


そう言いながらこちらへ歩いてくる。


ミレイナ・アルシェル。


長い銀色の髪を後ろで軽く束ね、すらりとした体格をしている女性で、見た目だけなら細くて華奢にも見えるのだが、その動きには無駄が一切なく、ただ立っているだけでも普通の剣士とは違う独特の緊張感を漂わせていた。

腰には細身の剣が下げられている。

普通の剣よりも少し細く、そして柄の部分には小さな魔石が埋め込まれていた。

ガルドが言う。


「相変わらず速えな」


ミレイナはガルドの方を見る。


「あ、ガルド」


少し驚いたように言う。


「ガルドもいるんですね」


次にダリウスを見る。


「ダリウスまで」


そして最後にフィリアを見る。


「フィリアも」


フィリアは笑いながら軽く手を振る。


「どうも」


ミレイナは少し呆れたような顔をした。


「なんですか…これ。八傑がこんなところに何人も集まってるなんて」


ダリウスが笑う。


「偶然だ」


ガルドが言う。


「たまたまだ」


フィリアが言う。


「多分」


ミレイナは軽くため息をついた。


「絶対違いますよね」


そのあともう一度俺の方を見る。

その視線には、どこか懐かしさのようなものが混ざっていた。


「本当に師匠なんですね……久しぶりです」


俺は軽く頷く。


「ああ。久しぶりだな」


ミレイナの表情が少し柔らかくなる。


「王都に来たって聞いて、すぐに来ましたよ。今ちょうど任務中だったんですけど」


ダリウスが笑う。


「隊長がそれやって大丈夫なんですか」


ミレイナは平然と言う。


「副隊長に任せました」


ガルドが笑う。


「さすがだな」


そのときミレイナの視線が地面へ向いた。

踏み荒らされた草。剣の跡。深い足跡。

明らかにここで戦いがあったことが分かる。

ミレイナがゆっくり言う。


「……もしかして、戦ったんですか?」


ガルドが親指で自分を指す。


「俺」


ダリウスが言う。


「俺も」


ミレイナは少し驚いた顔をする。


「本当ですか」


フィリアが楽しそうに言う。


「二人とも負けました」


ガルドが言う。


「余計なこと言うな」


ダリウスも苦笑する。

ミレイナは少し黙ったあと、小さく笑った。


「……そうですか」


そして俺を見る。

その目が少しだけ鋭くなる。


「なら」


ミレイナはゆっくりと腰の剣に手をかけた。

柄に埋め込まれた魔石が光を反射する。


「私もいいですか?」


ガルドが大声で笑う。


「やっぱり言った!」


ダリウスも笑う。


「絶対そうなると思った」


フィリアが楽しそうに手を上げる。


「では、第三試合ですね」


俺は思わずため息をついた。


「今日は本当に忙しいな」


ミレイナは剣をゆっくり抜く。

細身の剣が静かに鞘から滑り出る。

そして刃が空気に触れた瞬間――

その剣の周囲に、うっすらと青い光が揺れた。

ダリウスが目を細める。


「魔力を纏ってるな」


ガルドが腕を組みながら言う。


「最初から本気か」


ミレイナは小さく笑う。


「だって」


剣を構える。


「相手は師匠ですから」


その構えは、昔俺が教えた基本の型を元にしながらも、そこに魔剣士としての動きが加えられており、以前よりもさらに洗練されたものになっていることがすぐに分かった。

空き地に風が吹く。草が揺れる。

ガルドとダリウスが少し後ろへ下がる。

フィリアがゆっくり手を上げる。

その顔はとても楽しそうだった。


「では…第三試合」


少し間を置く。

そして。


「始め!」


その瞬間。

ミレイナの姿が消えた。

正確にはあまりにも速く踏み込んだせいで一瞬そう見えただけだった。

青い光をまとった剣が、次の瞬間にはもう俺の目の前まで迫っていた。

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