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第十九話 師匠、感心する

フィリアの「始め!」という声が空き地に響いた瞬間、ダリウスは迷いのない動きで地面を強く蹴り、そのまま一直線にこちらへと踏み込んできたのだが、その速度はさすがに傭兵団長と呼ばれるだけあってかなり速く、普通の兵士なら最初の一歩だけで距離を詰められてしまうだろうと思えるほど鋭い踏み込みだった。


ダリウスはその勢いのまま剣を横に薙ぎ払うように振るってきたが、その動きには無駄がなく、単純な力任せの攻撃ではなく相手の反応を見ながら次の動きを変えるつもりなのだろうということが、長年剣を見てきた俺にはすぐに分かった。


俺はその斬撃を自分の剣で軽く受け流しながら、一歩だけ後ろへ下がる。

金属がぶつかる音が響く。


「……やっぱり速いな」


俺がそう言うと、ダリウスはすぐに距離を詰めながら答えた。


「そりゃそうですよ。師匠に教わってから、もう何年戦場にいると思ってるんですか」


言葉を言い終える前に、ダリウスの剣が今度は下から跳ね上がるように振り上げられる。

俺はそれを剣で受け止めながら横へ身体をずらす。


ガキン、と重い音が鳴った。

その瞬間、ダリウスはすぐに剣を引いて次の動きへ移る。


普通なら一度ぶつかった剣は少し動きが止まるものだが、ダリウスの剣はまるで水の流れのように次の動きへ繋がっていくため、その動きには明らかに実戦で磨かれた癖が見えた。


空き地の端ではガルドが腕を組みながらその様子を見ている。


「お、いい動きしてるじゃねえか」


フィリアも興味深そうに言う。


「さすが傭兵団長ですね」


その間にも、ダリウスの剣は止まらない。

横。突き。下段。

まるで連続する波のように攻撃が続く。

しかし。


俺はそのすべてを剣で受けたり、身体を少し動かすだけで避けたりしながら、ほとんど同じ場所から動かずにその攻撃をいなしていた。


ダリウスの額に少し汗が浮かぶ。


「……本当に」


ダリウスが小さく呟く。


「昔と変わらないですね」


俺は軽く答える。


「お前はだいぶ強くなったがな」


その言葉を聞いたダリウスは一瞬だけ笑った。


「そりゃそうですよ。強くならないと死にますから」


そう言った直後、ダリウスは一度大きく後ろへ跳んで距離を取った。

そして深く息を吐く。


「やっぱり普通にやっても無理か」


ガルドが笑う。


「当たり前だろ。俺も二回やって二回負けた」


ダリウスは苦笑する。


「ですよね」


しかし次の瞬間、ダリウスの目が少し鋭くなった。


「でも、まだ終わりじゃないですよ」


そう言うと、ダリウスは剣をゆっくり構え直す。

その構えはさっきまでとは少し違っていた。

身体を少し低く落とし、剣先をわずかに下げる。

その姿を見た瞬間、俺は思わず小さく笑った。


「懐かしい構えだな」


ダリウスも笑う。


「覚えてますか?昔、師匠に何百回も叩き直された構えですよ」


確かに覚えている。

まだこいつらが子供だった頃、ダリウスはよくこの構えを練習していた。

バランスを取るのが難しく、何度も転んでいたのを思い出す。

フィリアが少し身を乗り出す。


「その構えは?」


ガルドが言う。


「ダリウスの得意技だ」


ダリウスはゆっくり言う。


「傭兵団長になってから、これで何人も倒しました」


そして。

ダリウスの姿が一気に前へ飛び出した。

さっきよりもさらに速い踏み込みだった。

一歩。二歩。一瞬で距離を詰める。


そして――


剣が一直線に突き出された。空気を裂く鋭い突きだった。

俺はその突きを見ながら、ほんの少しだけ剣を動かした。

キン、と軽い音が鳴る。

しかし、ダリウスの剣は俺の横をかすめて空を切っていた。


「……!」


ダリウスの目が驚きで見開かれる。

俺はそのまま剣の腹でダリウスの肩を軽く叩いた。

コツン、と音がした。


「一本だな」


ダリウスはしばらく固まっていたが、そのあと大きく息を吐いて笑った。


「はは……やっぱり無理か」


ガルドが大声で笑う。


「だから言っただろ!」


フィリアも笑っている。


「でもいい勝負でしたよ」


ダリウスは剣を下ろしながら頭をかいた。


「いやー…悔しいですね」


そしてもう一度俺を見る。

その目には悔しさよりも、どこか嬉しそうな色が浮かんでいた。


「でも」


ダリウスは言う。


「久しぶりに師匠と戦えてよかったです」


俺は肩をすくめる。


「そうか」


その時だった。

遠くから誰かの声が聞こえてきた。


「あ、師匠ー!」


聞き覚えのある声だった。

俺は思わずそちらを見る。

ガルドも言う。


「……また誰か来たぞ」


フィリアが苦笑する。


「今日は賑やかですね」


そして。

その声の主がこちらへ走ってくる姿が見えた。

その人物を見た瞬間、フィリアが小さく呟いた。


「……あ、次はあの人ですか」


空き地に、新しい気配が近づいてきていた。

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